第360話 2年生になっての初帰宅と報告
総合武術部のミーティングを終えて解散したあと、部員全員で勧誘活動の打ち上げと新入部員歓迎のため、学院生食堂に向かう。
全員で8名。少し所帯が大きくなって、皆で一緒に食事をするテーブルを確保するのもなかなか大変になりました。
広い学院生食堂のあちこちでは、同じように各課外部が歓迎会をしていたりする。
食事会もお開きとなり、俺は寮にいちど戻ってから早々に王都屋敷に帰ることにした。
女子4名と男子4名が賑やかにそれぞれの寮への道を行く。
「カシュはどこの寮だっけ?」
「第2男子寮です。ライさんたちは」
「ああ、僕とザックが第7で、ブルクは第4な」
「ライさんと部長は一緒なんですね」
「入学試験の時の魔法特技試験も同じグループで、クラスも一緒。腐れ縁ってやつ」
「ヴィオちゃんもそうだよね」
「それで3人揃って領主貴族のとこの息子、娘でさ。どういう訳なんだか」
「カロさん以外はみなさん貴族家って。さっきまで知らなくて吃驚しました」
「カロちゃんはザックの幼馴染で、大商会のお嬢さんだしな」
「でも貴族家とか、そういうのは関係ないよ。みんな平等にザックに扱かれる」
「はははは、言えてる」
「そのザカリー部長は、学院生食堂を出てから妙に静かですね」
「ああ、この先生、いちど寮に戻ってから、直ぐに屋敷に帰るんだよ」
「え、今晩ですか?」
「そうそう。それで先生は帰ったら、この10日間に起きたことをエステルさんに報告しなきゃいけないんだよ。そのためにいま、頭の中で話を整理してる筈」
「エステル様って、部長のご婚約者の」
「許嫁で婚約者だけど、まあ保護者とも言う」
「子どもの時から監視役だったって聞いたよね。ちゃんと報告しないと叱られるらしい」
「へぇー。さっきもヴィオ副部長から叱られてましたけど、大変なんですね、部長は」
静かにしてるのはライくん言う通りなんだけど、でも3人の会話は聞いていましたよ。
いろいろ大変なんですよ、俺の場合。
皆と別れ、部屋に戻って洗濯に出すものなんかを無限インベントリに突っ込んで、王都屋敷に走って帰った。
「おお、ザカリー様のお帰りだ」
「エステル嬢さまがお待ちですぞ、早う早う」
「ただいま、アルポさん、エルノさん。変わったことはなかった?」
「何もありませんぞ。平穏な日々でしたわい」
「まあ、退屈ぐらいで、良し、ということですの」
玄関ホールに入ると、俺が帰ったのに気が付いたクロウちゃんがエステルちゃんを呼びに行き、エディットちゃんとフォルくん、ユディちゃんも揃って4人と1羽で「お帰りなさい」と出迎えてくれた。
「ザックさま、ご飯は?」
「うん、食べて来たから大丈夫」
「それではシャワーを浴びましょ。お着替えとシャワーの支度と、それからお紅茶をお願いね」
3人がそれぞれ支度やらをしてくれている間、俺はエステルちゃんに伴われ、クロウちゃんを頭に乗せてラウンジでひと息つく。
クロウちゃんは、「ほら、ザックさまの頭の上からそろそろ降りなさい」と言われていたけど、近頃は昔みたいに頭の上に居ることも少ないから、たまにはいいよ。
「学院はどうでした?」
「うん、10日間、あ、今回は11日間か。まあいろいろあって大変だったなぁ」
「それはお疲れさまでした。あとでゆっくりお聞きしますからね」
「こっちはどう?」
「はい。特に何ごともなく。フォルくんとユディちゃんもだいぶ慣れましたし」
「そうか、それは良かった。アルポさんとエルノさんも、平穏な日々で、退屈ぐらいで良し、とか言ってたな」
「うふふ。あの人たちは、少しぐらい騒ぎがあった方が楽しいんでしょうけどね」
「まあ、僕の学院が始まって早々に、騒ぎが起こっても困るけどね」
「そうですね」
それからシャワーを浴びて着替え、今は俺の部屋でエステルちゃんとふたりだ。クロウちゃんは側で翼を畳んで丸くなっている。
さてこれから、恒例の学院生活報告をしなければならないですよ。
入学式への出席から始まってこの11日間、結構いろいろなことがあったな。
俺は出来事の順番を追って、ゆっくり洩らさず話して行く。万が一にでも辻褄の合わない話などをすると、直ぐに追求されますからね。
「まあまあ、それは大変でしたね。ご苦労さまでした。でも、おふたりも新入部員が入って良かったですね」
「うん、あのふたりは、たぶん今年の1年生の中で、魔法はツートップだね。それでソフィちゃんの方は、剣術もトップクラスだ。カシュくんの方はまだ分かんないけど」
「伯爵家のお嬢さんで、魔法と剣術と、それから入学試験は首席なんでしょ。凄い子ね」
「そうなんだけど。でもたぶん、家族からの愛情が足りてなくて、友だちも作れて来なかったんだよな」
「そうですか……」
「明るくて素直な子なんだけどね」
「ザックさまは、お父さんみたいな顔をしてますよ」
「え? ああ、クラスでもまだ仲の良い友だちが出来ないみたいでね、つい心配しちゃってさ」
「うふふ。こんどその子を屋敷にお招きしてくださいな。それから男子の方もね」
「あっちはあっちで、悩みを抱えて入学して来てるしなぁ」
「騎士爵のご長男でしたっけ。騎士になれるようにするって、ザックさまが言っちゃったんでしょ。そしたら、そうしないと」
「まあ卒業まで4年もあるし、僕がいる間の3年間でね」
「ジェルさんとオネルちゃんに、鍛えて貰いましょうか」
「そうだなぁ、それもありかもだなー」
「あとは、剣術と魔法の先生のおふたりですか?」
「ああ、フィロメナ先生とジュディス先生ね。あのふたりもまだ若いのに、なんだか壁に阻まれてる感じでさ」
「わたしはちゃんとお話ししたことがまだないから、先生方のこと良く分かりませんけど、そのおふたりもそのうちお招きするんですよね」
「そう言っちゃったんだ。うちの者といちど、一緒に訓練とかしてみませんかってね」
「下級生から先生まで、大変ですね、ザックさま」
「ついね。性分なのかなぁ」
「そこがザックさまらしいところですよ。わたしのザックさまらしいとこ」
エステルちゃんは俺の顔を見ながら優しく微笑む。
「とにかく、お疲れさまでした。はい、わたしのお膝に頭を乗せて」
「うん」
俺はエステルちゃんの膝に頭を乗せ、彼女の甘い香りを嗅ぎながらそこに顔を埋める。
今夜は暫くこのままでいいかな。
翌朝の朝食の席は、これまた恒例のジェルさんたち皆から請われるままに、学院での出来事を報告する会になる。
信頼する配下が楽しみにしている話題を提供するのも、屋敷の主の務めですかな。
「今年の1年生で魔法のツートップを獲得したのねー。なかなかやるわねー、ザカリーさまも」
「去年も、ヴィオちゃんとライくんがツートップなんですよね。つまり2年続けて獲得って訳ですね」
「このザカリーさまのどこに、そんな人たらし能力があるのかしらねー」
おいおいライナさん、人たらし能力って何ですか。
「しかし、その伯爵家のお嬢さんは、剣術も良いのですよね。伯爵家のお姫さまが何ででしょうな」
「ジェルちゃんたら、そんなこと言ったらアビゲイルさまはどうすんの」
「まあ、我が子爵家は特殊だがな」
「そのお嬢さんて、ザックさまの話だと、お兄さまお姉さまがたくさんいらっしゃるのに、どなたからも構って貰えなくて、お友だちもいなくて、家庭教師の先生相手に剣術と魔法とお勉強ばかりだったんだそうですよ」
「それは……。寂しい子ども時代だったのだな。心が曲がっていないといいのだが」
「ソフィちゃんは、明るくて素直ないい子だよ」
「ザックさまったら、すっかりお父さん化しちゃってるんですぅ」
「ああ、やっぱり子爵さまの息子なのねー」
いや、うちの父さんの娘大好き状態とは違うから。
「そういう子って、大人とは接することが出来ても、同年代の子たちとの間に壁を作っちゃうこともあるんですよね」
「でも、ザカリーさまの部に入れば、貴族家の子たちばかりだし、みんなわりとざっくばらんだから、徐々に慣れて来るわよー。ね、ザカリーさま」
「うん、たぶん大丈夫だと思う。でも、だからどうしてもってことじゃなかったけど、1年生をもうひとり入れたかったんだよね」
「ああ、それが騎士爵の長男っていう男の子ですか」
「でも、剣術に問題がありそうなんですよね」
「騎士になれるようにするって、ザカリーさまが大見得切っちゃったんでしょー」
「そうなんだよなー、どうしたらいいと思う? ジェルさん」
「本当に向いてないのかどうなのか、実際に見てみないと分からないですが、ともかく、周囲からいったん切り離された今がチャンスでしょうな。ザカリーさまもそう思われたのでしょ?」
「まあ剣術は、努力次第ってとこもあるからね。問題は、本人がそういったトラウマや劣等感からいちど解放されて、あらためて剣術に打ち込む気になれるかってところだね」
「トラウマ??」
「長い間に、外からいろいろ言われ続けたり嫌な出来事を経験したりして、それが心の傷みたいになって、どうしても直ぐに否定的に反応してしまうって感じかな」
「なるほど」
「まあそのうち屋敷に来ることもあるだろうから、いちど見てあげてよ」
「ジェル姉さん、そういう子には優しくしてあげないとダメですよ」
「そうは言っても、仮にも将来、騎士になろうとするのなら、根性を出させてだな」
「だからジェルちゃんてば、そういう風に言われ続けて来て、その虎だか馬だかに出会っちゃったのよー」
「ああ、虎さんに噛み付かれて、お馬さんに蹴られちゃったんですかね」
えーと、ライナさんとエステルちゃん、虎と馬じゃないんですが。もっと心の問題というか。本人にとっては深刻というか。
でも気性の荒い虎と馬に囲まれて、噛み付かれたり蹴られたりで身動きが取れないのも、それはそれで嫌だよなー。
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本編余話の新作、「時空クロニクル余話 〜魔法少女のライナ」を短期連載予定で投稿しています。
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