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第350話 パーソナルトレーニング、そして新入部員

 オリエンテーション講義2日目は、3時限目にフィロメナ先生の剣術学中級(2)がある。

 これは昨年の1年時に剣術学初級を受講した2年生が、だいたいはそのまま進級して取る講義で、ヴィオちゃんとライくんがそれに該当する。あと、うちのクラスでは、総合戦技大会で選抜メンバーになったバルくんがいる。

 カロちゃんは講義選択の日程の関係で、ディルク先生の方だったね。


 それで昼休みの新入部員勧誘活動を終えて、3人で剣術訓練場へと向かいます。

 なお、今日も魔法侍女服の3人を見に来る女子グループや、バラバラと通りかかった振りをして眺めに来る男子の1年生はいたけど、テントの中で話を聞こうという強者つわものは現れなかった。



「それでザックは、どうしてわざわざこの講義を受講するんだ?」

「ん? 頼まれたものですから、はい」

「それって、講義を手伝えってことじゃないの?」

「おそらくは、そういうことになるかと、はい」


 練習着に着替えて訓練場に行くと、ヴィオちゃんたちを含めて12人ほどの2年生が集まっていた。

 皆さんが昨年言うところの、中級諦め組の方たちがおりますからね。ディルク先生の講義と分散しても、それなりの人数がいるんだよね。

 これが前世の世界だと俺は13番目の男となりそうだが、この世界では神様が違うのでそういうことはない。


 それにしても、なんでザックが来てるんだ的な目で見るのは、止めて貰えますかねぇ。


「おい、なんでザックが来てるんだ」

「あ、言っちゃいましたか、バル。そうなんですな、なんででしょう、はい」

「なあライ、ザックって、どこか壊れたか?」

「いや、この先生、いつもこんなものでしょ」

「あなたたち、つまんないこと言ってないで、フィロメナ先生が来たわよ」


 フィロメナ先生は集まった受講生たちを見回すと、俺の顔を見てニッコリ笑い手招きする。

 はいはい、そっち側ですね。行きますよ。



「みんな、漏れずに来てくれたようね。先生はとても嬉しいわ。今日は嬉しいついでに、もっと嬉しいお知らせがあります。このザックくんがなんと、今年の剣術学中級(2)を受講してくれることになりました。パチパチパチ」


 えーと、拍手をしてるの、先生だけですけど。あ、ライくんとバルくんがしてくれますか。ヴィオちゃんは、しませんよね。


「それで、この中でザックくんの剣術の腕を直に知っているのは、ごく一部の人だけだと思います。でも、今年のこの講義は、そんな彼の腕前を時々披露して貰いながら、講義を進めていこうと思っています。どう? いい講義になりそうよね。パチパチパチ」


「おい、ヤバいかも」

「ヤバい気がする」

「えー、なんだか大変そう」


 はい、そこの3人、今は拍手するか無視するかどちらかでしょ。そんな、やれやれという顔は周囲を不安に陥れますよ。

 て、フィロメナ先生、そんな風に講義を進めるって聞いてないんですけど。



「それじゃ、いつも通り素振りから始めます。では間隔を取って。素振り、始めっ」


「あの、フィロメナ先生」

「ん、なに?」

「僕が時々腕前を披露しながらって、どういうことですかね?」


「それは言葉通りよ。去年、あなたがいちど講義に来たときに言ったでしょ。初級の秋学期以降に、受講生の技量を見極めながら、試合稽古を始めて行くって」

「ああ、そんなこと言ってましたよね」


 確かに、俺がバルくんの剣術を見に初級の講義を見学に来たとき、そんなことを先生は言っておりましたなあ。


「それで、学院祭が終わったあとから試合稽古を取り入れ始めてるのだけど、本格的にはこの中級からって感じなのよ」

「なるほど、それで?」


「それでって、あなたに相手をして貰うつもりよ。それから試合稽古の見本なんかも見せたいわね。受講生の打ち込み稽古の相手も、もちろんやって貰うわよ」


 さいですか。ぼーっと受講生たちを見てるだけじゃダメなんですね。


「理解していただけたら、素振りよ」

「へーい」



「はいっ、素振りやめっ」


 昨年見学に来たときも感じたが、基礎は良く出来ているようだ。

 ヴィオちゃんやライくんなどは初心者から始めたとは言え、総合武術部でそれなりに鍛えられて来ているが、その他の者も中級諦め組に引っ張られて伸びたのかな。


「では次に、今日はいちおうオリエンテーション講義ということだから、まずはザックくんに見本を見せて貰うことにしようかしら。いいかな、ザックくん」


「ええ、いいですよ。それではいきなり試合稽古という訳にはいかないので、僕が打ち込みを受けるという感じで行きましょうかね」


 そうしてみんなの顔を見渡すと、中級諦め組は1年前のフィランダー先生のオリエンテーション講義で、足腰が立たないぐらい打ち込みをさせられたのを思い出したのか、一様にビクっとしている。

 あと、うちのクラスの3名は、必死に存在感を消そうとしているけど、それって無駄でしょ。


「いや、受講生の誰かにとも思ったのだけど、今日は初日なのでやめておいて、フィロメナ先生。先生が僕に打ち込んでください」

「あ、わたし?」


 そこで、チっとかするのはしましょうね。


「い、いいわよ。あの、お手柔らかに」


「それで、いつもは打込み稽古と言えば、2、3歩ぐらい踏み込んで打ち込んでいるかと思います。でも今日は見本ということなので、もう少し距離を取って貰って、走り込んでトップスピードに乗ってからの打ち込み、というのをやって見ましょう。特にフィロメナ先生は、踏み込みや移動速度が速い剣術なので、こういう打ち込みもあるんだ、というのが見ていただけると思います。いいですよね、先生」


 更にチっとか、止めましょうね。


「ええ、いいわ。もう何でも」

「では、まずは僕が先に1本、打ち込んでみましょう。先生、お願いします」

「あ、はい」


 そこで先生は俺の直ぐ前まで来て囁き声で「縮地とか、使わないわよね」と聞く。

 そんなの、学院生の前で見せる訳無いじゃないですか。

「そ、そうよね」と先生は離れて行った。


 俺は彼女から15メートルほど離れる。


「えー、そんなに距離を取るの?」

「行きますよ。受けてください」

「あ、はい」


 俺は無造作に木剣をだらりと下にして走り出し、一気にトップスピードに乗せる。

 そして、彼女との間合いの寸前からぐるりと木剣を回すように超高速で振り、間合いに入った瞬間に彼女の肩口に剣を止めた。

 暫しそのままのカタチでの殘心。

 フィロメナ先生はぺたんと女の子座りで、フィールドに座り込んでしまった。


「ふぉー」「ひゃー」という声が受講生の間から漏れる。


「そんなの、受けられる訳無いじゃないのよぉ」


 まあ今のは、うちのジェルさんでも受けられるかどうかって感じですけどね。

 教授なんだから、ベソは掻いちゃダメですよ。



「交替しますよ」

「はい」

「間隔は、自分がいいと思う距離でいいですからね」


 それからフィロメナ先生は、ふんふんと鼻息荒く気合いを入れて俺から離れ、やはり10メートル以上の距離を取る。

 そして「行きますっ」と大きな声を出し、かなりの速度で走り込んで来て上段から木剣を振った。

 俺はその剣を流しながら絡め取る。ガランと木剣が彼女の手から離れて転がった。


「直ぐに拾ってもういちど」

「はいっ」


 それから三度四度、五度六度と、何度も走り込んでからの打ち込みを繰返す。

 俺は時には見切って体を躱し、受けてはね返し、また絡めて木剣を転がしと、相手を続けた。


「よし、やめっ。これで終了です」

「ふぁーい」


 フィロメナ先生は、俺のもとにヨロヨロと歩いて来て座り込む。


「フィロメナ先生の敢闘に、みんな拍手を。さあ先生も立ち上がって」


 俺は先生の手を取って立ち上がらせる。そして彼女の頑張りを讃え、受講生たちから拍手が沸き起こった。

 さあこれで、今回のオリエンテーション講義は終了だね。


「ふぅー。どうかしら。これでザックくんの実力は、みんなも少しはわかったかしら。とにかく、今回の講義はこれで終了とします。それでは次回から、皆さんよろしくね」



 受講生たちを解散させて帰し、俺は剣術訓練場に残った。


「あれって、ちょっとした仕返し?」

「仕返しって、何のですか。先生に仕返しとかしませんよ」

「でもさ」

「今のは、パーソナルトレーニングです」

「あー」


「僕の初めの、あれって先生は受けられましたか?」

「とても無理。わたしがザックくんに殺されたの、2回目ね」

「まあそれはともかく、あのとき、僕は縮地は使っていませんよね」

「ええ、スピードに乗るのが凄く早かったけど、でもそうね」


「けれど、剣は受けられなかった」

「ああ、そうか。いくら縮地とかで早く接近出来ても、剣の鋭さがそれに伴っていなかったらダメってことか」

「それと間合いですね。あと、受けにおいては見切り」


「今日のあれは、だからわたしへの講義だった訳か」

「まあ、そんなに偉そうなものではないですけどね」

「ありがとう、ザックくん。わたし、もっと鍛錬して精進するわね」


「はい、頑張りましょう。それでは今回は、これで終了とします」

「ありがとうございました」




 フィロメナ先生と別れて剣術訓練場を後にし、1年生の専用教室棟の前の課外部出店村に戻る。

 総合武術部のキャノピーテントに入ると、部員たちが何やら話していた。

 どうも先ほどの剣術学中級(2)の様子を、ヴィオちゃんとライくんが他の3人に話していたようだ。


「あ、ザックくんお帰り、面白いことしてたみたいだね。あたしも見たかった」

「フィロメナ先生を、しごいちゃダメです、ザックさま」

「えー、しごいてなんかいないよ。ちょっと先生のトレーニングの一貫で」

「先生のトレーニング??」


 あ、フィロメナ先生のパーソナルトレーニングをしているのは、学院生は誰も知らないことでした。



「こんにちはー、こんにちはー」


 そのとき、テントの外から声がしたので振り向くと、ソフィちゃんがまた来ました。


「あら、ソフィさんじゃない、いらっしゃい。どうしたの? さあ入って」

「お茶でもどう?」

「お菓子は?」


「あ、ありがとうございます。でもそれより、ザカリー部長、これを」


 そう言いながら、彼女はバッグから紙を出して俺に差し出した。


「これって、入部申込書ではないですか。名前がちゃんと書いてある。1年A組、ソフィーナ・グスマン」

「はい。入部をお願いします。いちおう、ひと晩良く考えて決めました。わたし、総合部武術部に入部します」


「えーっ、ほんと? ちゃんと考えたのよね」

「はい、ちゃんと考えました」

「よし、わかりました。ソフィーナ・グスマン君の入部を歓迎します。これからよろしく、ソフィちゃん」


「わー、よろしく、です。ソフィちゃん」

「大歓迎だよ、ソフィちゃん」

「一緒に頑張りましょうね、ソフィちゃん」


「ライとブルクも、何か言えよ」

「歓迎するぜ、その、なんだ、ソフィちゃん」

「よろしく、だよ、ソフィちゃん」


 君たちは慣れてない女の子にホント弱いよな。

 まあそれはともかく、昨日の今日で良く決断してくれたね。大歓迎ですよ。

 これで総合武術部はひとり増えて7名となりました。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

よろしかったら、この物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

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本編余話の新作、「時空クロニクル余話 〜魔法少女のライナ」を短期連載予定で投稿しています。

リンクはこの下の方にありますので、そこからお飛びください。

ライナさんを密かに応援してくれている人も、そうでない人も、どうかお読みいただけますと幸いです。

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