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第349話 突然ですが、ソフィの入部テスト

「それじゃここに座って、ソフィーナさん」


 うちの部の話が聞きたいとやって来た初めての1年生、ソフィーナさんを椅子に座らせる。

 向かい合ってヴィオちゃんと俺が腰掛けた。


「はい、お紅茶をどうぞ」

「お菓子、あります。ザックさま、お薦めする、です」

「あ、すみません。お菓子なんかもあるんですね」


「ほら、あなたたち。みんなで周りに立っているとちょっと怖いから、もう少しビラを撒きなさい。ライくんたちも」

「はーい」


 テーブルを囲んで皆が立っているものだから、ヴィオちゃんから追い払われた。

 初めてのお客さん、じゃなくて新入生なので、一緒に話を聞きたかったのは分かるけど、確かに6人で相対されるとちょっと威圧感があるからね。



「ふう。ではあらためまして、わたしはヴィオレーヌ。こっちが部長の」

「ヴィオレーヌ・セリュジエさまと、それからザカリー・グリフィンさまですよね」

「うん、よくご存知ね。それから、あなたも学院に入ったのだから、様じゃなくて、さんとかでいいのよ」


「でも、さっきあちらの方が、ザックさまって」

「ああ、カロちゃんはザックくんの地元の子で、幼馴染だから、その言い方が抜けないだけ」

「そうですか。では、ヴィオレーヌさん、ザカリーさん、あらためてよろしくお願いします。ソフィーナです」


 なかなか礼儀正しそうな子だ。さすがグスマン伯爵家の娘さんだね。


「ソフィーナさんて、剣術を小さい頃からやってたよね」

「こら、部長。いきなり不躾でしょ」

「いえ、いいんです。ザカリーさん、わたしのことはソフィと呼んでください。それで、はい、ザカリーさんの言われた通り、6歳から剣術を習って来ています。やっぱり、わかるんですね」


「へぇー、6歳からか。それは凄いな。でも、どうしてうちの部に来たんだい? 剣術だったら学院最大の伝統ある総合剣術部があるし、ほらここの隣には、なんとかなんとか部もあるのに」

「強化剣術研究部でしょ。どうして、自分のお姉さまの課外部の名前を、ちゃんと言わないかなぁ」


「そうですね。アビゲイルさまの部もちょっと興味がありました。なんでも昨年の総合戦技大会で、アビゲイルさまのクラスが優勝されたと聞きましたし。それから、学院の総合剣術部は有名ですよね。でも」

「でも?」


「でも、学院創立以来と噂される、剣術学と魔法学の両方の特待生というザカリーさんにも、興味がありました」

「ふーん、そうなんだ」


 なかなか物怖じしなさそうな子だな。領主貴族家のお嬢様だけあって、はっきりと自分の思ったことを言うんだろうね。



「うちは、剣術だけの課外部じゃなくて、魔法も同時にやるのだけど、その辺はご存知なの?」

「はい。総合武術部って、変な名前だなって思いましたけど。クラスの子からこちらのビラを貰って読みました。剣術と魔法を柱にした総合的な闘い方だから、総合武術っていう名前なんですね」


「うん。それを理解して来ていただいたのなら、お話は早いわね。あなた、魔法の方はどうなのかしら」

「魔法も8歳になってからお勉強しています。なので、選択科目では剣術学中級と中等魔法学を受講するつもりです」


 ほうほう、そうですか。中級と中等をね。うちの学年には、昨年の俺以外にその両方を受講した者はいませんでしたな。


「魔法も自信があるのね」

「入学試験では、特技試験で魔法の方を選びました」

「そうなんだ。だからあなた、ザックくんに関心があるという訳なのね」

「はい」


「でもソフィーナさん。あなた、厳しい訓練とか大丈夫? いえ、わたしも伯爵家の娘だから人のことは言えないんだけど、この学院は貴族とか関係ないし、貴族の子が習っていた剣術や魔法のお稽古とは、ちょっと違うのよ。この部長って、見ての通り普段はぼーっとしてるけど、訓練になるとかなり厳しいし」


 見ての通りぼーっとしてるって、どういうことですかな。そう見えるのでありましょうか。



「ソフィーナさん」

「ソフィってお呼びください」

「んじゃ、ソフィさん。きみって、キ素力の循環て、ここで出来るかな」


「ちょ、ちょっと、部長」

「魔法を発動させなければ大丈夫だよ。それで、どう? いやだったり、出来なかったらいいよ」

「いえ、やれます。魔法の先生に準備動作を教わって、小さい時からやっていますから」


「そうか。ではお願いします」

「はい」


 それで彼女は立ち上がって、いま腰掛けていた椅子の後ろに立った。

 何が始まるのと、カロちゃんたちも集まって来る。


「それでは、やってみます」


 ソフィさんはそう言って両方の掌を自分の胸の前に出し、周囲からキ素を集めて取り込み全身に循環させる準備運動を開始した。

 見鬼の力で俺が見ていると、なかなかキレイで力強いキ素力が身体を巡り始めている。

 うん、質も良いね。四元素適性は火と水と風の3つもあるのか。ジュディス先生と同じぐらいのポテンシャルがありそうだ。


「うん、もういいよ。ありがとう」


 俺の声に、ソフィさんはほーっと息を吐き出し、両掌を下に降ろす。それと同時にキ素力が身体から抜け、空間へと還って行った。

 彼女の頬が上気したように少し赤くなって、やはり12歳の少女なんだなと思わせる。



「ど、どうでしたか?」

「うん、いい感じだと思うよ」

「いい感じって、部長。ソフィさんにいきなりやらせて、それだけ?」


「まあまあ、ヴィオちゃん。それでソフィさん。きみは自分の魔法適性は分かっているよね?」

「はい。8歳の時に魔法の先生に見ていただいて、火魔法の適性だと言われました。なので、火魔法を勉強して来ました」


 ふーん、8歳の時には、水と風は発動出来なかったのかな。おそらく土は試さなかったのだろうけど。

 一般に土魔法は適性者が少ないし、先生自身が出来ない場合が多いからね。


「なるほどね。よし、合格っ」

「合格って部長、まだソフィさんは、うちの部に入りたいとも言ってないじゃない」

「うん、だから、もしも入部したいのなら、仮入部じゃなくて正式入部でいいよってこと」

「え、はい、ありがとうございます」


 だって、たぶんアマラ様だと思うけど、この子は入部させなさいって言うもんだからさ。

 それに、剣術は身のこなしを見ていれば、ある程度は鍛えて来ているのが分かるし、魔法の潜在能力は今ので分かったしね。



「うーん。そうなのだそうよ、ソフィさん。1年生の間でウワサされている通りの変人でゴメンなさいね」

「いえ、これまで家では、わかってくれる味方があまりいなかったものだから……。ちょっと安心というか、ザカリーさんも想像した通りの方でした」


「そう。事情は良くわからないけど、もしもうちの部に入部したかったら、この入部申込みの紙にクラスとお名前を書いて持って来てね。他の部の話も聞いて、よーく考えてからでいいからね」


「はい、わかりました。ありがとうございます、ヴィオレーヌさん」

「ヴィオでいいわよ」

「はい、ヴィオさん。それでは失礼します、ザカリーさん」

「うん、よろしくね」


 ソフィさんは、美しくて丁寧なお辞儀をして去って行った。



「もうザックくんは、どうしていきなり試験みたいなことさせるの?」

「え? 早い方がいいじゃん」

「いきなりは失礼、です、ザックさま」

「そうだよ。いくら貴族とか関係ないって言っても、伯爵家のお嬢さまだよ」


「まあまあ。でもあの子、入部してくれそうだったぜ」

「ライくんは、何かわかったの?」

「いや、そんな気がしただけだけどさ」


「男子の勘なんて、当てにならないわよ。女の子って、意外に冷静でシビアなんだから」

「それは自分もだって、言いたいのかよ」

「なによ」

「まあまあ、ふたりとも。折角、初めての1年生が来たんだから、期待して待とうよ」


 ヴィオちゃんとライくんは、ひとつ前進する前のこじらせって雰囲気でしょうかね。

 まあ魂年齢的に先輩の俺としては、温かい目で見ていましょう。ブルクくんも放って置きなさい。



「ねえねえねえ、なかなか良さげな入部希望者が来たじゃないの」

「お、出たな姉ちゃん。こっちを伺ってたのか」

「さっきから自分の出店にいるでしょうが。隣なんだから見えるし、聞こえるわよ」


 見えるのはそうだけど、聞こえるのはアビー姉ちゃんが野性の聴覚を持っているからだろ。


「それにしても、なかなかの素材と見た。魔法のことはわかんないけど、剣術はかなりやって来てるわよ」

「え、アビーさまもそう思うんですか? ザックくんもそう見ていたみたいだけど」


「ホントずるいわよね。うちでもああいう子が欲しいのにさ」

「まあ、わが部にそれだけ、魅力があるということですな」

「なによ。悔しいからうちでも、絶対に女の子を入部させるわ」


 それだけ言って、姉ちゃんは自分の部の方に戻って行った。はいはい、頑張ってください。



「では、そろそろ今日は片付けて、引揚げるとしますか」


「部長はもう安心しちゃってるよ」

「ソフィちゃんが、既に入部したつもりでいます、です」

「こんどの休日まで、あと9日間はわからないのよ」


 各課外部が出店を出しての新入部員勧誘活動は、なにせ今日が初日で次の2日休日前日まで、まだ9日間もある。

 だから確かに、まだ分からないのだけどさ。

 俺の当初の本音としては、入部希望者が誰も現れなかったり、仮に現れても続けられそうもない子だったら正式入部は諦めさせて、新入部員は無しでも良いと思っていたからね。


 それが、どうやら素質のありそうな子が話を聞きに来てくれたのだから、御の字ですよ。

 まあ部員のみんなには、明日からも勧誘を頑張って貰いましょう。

 それも課外部活動の楽しみのひとつだからね。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

よろしかったら、この物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

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本編余話の新作、「時空クロニクル余話 〜魔法少女のライナ」を短期連載予定で投稿しています。

リンクはこの下の方にありますので、そこからお飛びください。

ライナさんを密かに応援してくれている人も、そうでない人も、どうかお読みいただけますと幸いです。

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