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第348話 1年生の魔法学、そして勧誘初日の成果は?

「皆さんこんにちは。わたしの初等魔法学の講義に良く来てくれたわね。わたしは、この講義を担当する魔法学教授のジュディスよ。それから、さっきからみんなザワザワして気になってると思うけど、隣にいるのは2年生のザカリーくん。ザカリー・グリフィンくんよ。魔法学を勉強しようと思う学院生なら、みんな知ってるわよね。そう、本学院で21年振りの魔法学特待生。それから数十年振りだからわからないけど、剣術学の特待生でもあるのよ。両方の特待生となると、もしかして創立以来かしら」


「先生、ジュディス先生」

「え、なに? ザックくん」

「もう僕の話はいいですから」


「あ、まあ今日はこのぐらいにして。それでね、このザカリーくんが、この初等魔法学の講義を1年間手伝ってくれるの。わたしと分担して魔法学を教えますからね。どう? 凄いでしょ」


 今日のオリエンテーション講義に参加しているのは、えーと30人弱ぐらいか。

 去年は50人近くいたから、今年はだいぶ少ないな。でも昨年も結局、受講したのが18人だったので、そのぐらい残ればいいのだろう。

 それにしても俺の紹介はいいから、早く講義を始めなさい。



「それじゃそろそろ講義を始めますね。この学院の魔法学は必須科目の概論は別にして、あとはすべてこの魔法訓練場での実践講義です。この初等魔法学では、初心者のために主に初級レベルの攻撃魔法を訓練しながら、より高度な魔法へと進んで貰うためのものね」


 1年生たちは真剣に聞いている。男女比的には、やはり女子の方が多いかな。

 魔法に男女の違いはまったくないと俺は思っているが、女子は剣術より魔法に関心が高いのだろう。

 尤も俺の近くには剣術に秀でた女性が多いので、その辺は何とも言えないけど。


「もちろん、魔法には能力適性や元素適性がありますし、皆さんの現在の実力もバラバラだと思います。ですから受講生の全員が確実に前進出来るよう、基礎的なところから始めて行きます。学年の終わりには、来年の中等魔法学に進めるぐらいの実力が身に付きますよ。皆さん、頑張りましょうね」


「それでは早速、実践講義を始めて行きますよ。まずは、魔法の発動に必要なキ素力の循環ね。キ素力がどうして魔法に必要なものなのかについては、概論の講義で教わりますので、ここでは皆さんが効率的にキ素力を循環させるための訓練をして行きます。ザックくん、お願いします」


 ああ、結局、俺がやり方の見本を見せる訳ですね。去年もやりましたね。

 しかしこれは、キ素力の動きというものが普通は見ることが出来ないので、じつはなかなか難しいんだよね。

 ジュディス先生はぼんやりとは判別できるようだが、俺が見鬼の力を使ってはっきりと視覚的に捉えられるのは極めて珍しいから、昨年に味をしめて俺にやらせようとするんだよな。


 まずは俺がアン母さん直伝のキ素力循環準備運動をやってみせて、やり方を教えながらカタチだけでも真似をさせるところから始める。

 それで俺が、受講生のキ素力を見て行く訳だ。


「今年の子たちはどう?」


 ひと通り、全員を見て廻ったところで、ジュディス先生が聞いて来た。

 まあ全員そこそこ循環は出来るかな、という感じだ。だがこれは、初等魔法学の受講生では仕方がない。

 攻撃魔法が既にある程度発動できる者は中等魔法学の講義に行くので、ここには初心者ばかりだからね。

 皆に引き続き練習をさせながら、そのようなことを先生と話す。


 今日のオリエンテーション講義は、それから皆に生活魔法でも攻撃魔法でもなんでもいいから魔法を発動させて貰い、それを見る。

 そして効率の良い攻撃魔法の発動とは、という話を先生がして見本に魔法を撃ち、それで終了だ。


「最後はザックくんが、いえ、やっぱりやめましょ。わたしにしておくわ」


 ジュディス先生はそう言って、昨年と同じようになかなか鋭い火球魔法をまとに撃ち込んで講義を終了した。

 さあて、どのぐらいの数の子たちがこの講義を選択するかな。次の講義が楽しみと言えば楽しみだ。



「まあ、今日はこんなところね。次の講義にどのくらい来てくれるかしら」

「去年と同じぐらい来るといいですね」

「見どころのありそうな子っていた?」


「そうだなぁ。複数適性がありそうなのが何人か。あ、そのなかで、土魔法の適性がありそうな子がひとりいましたね。まだ自覚してはいないみたいだけど」

「あなた、そんなことまでわかるの?」


 ジュディス先生はちょっと吃驚したようだ。


 普通、魔法適性は四元素魔法をそれぞれ試させて、その結果から推測し判断する。

 この世界には、適性判定をしてくれるような便利な道具は無い。古代魔導具なら、もしかしたらあるかもだけど、あっても稀少で高価だろうから、いくら王立学院だとは言っても所有するのは厳しいだろう。

 適性の有無の判定だけなら、正しく教えて試させればいちおうは分かるのだし。


 俺は見鬼の力があるからね。キ素力の量や強さ、質や特性も見えるし、その人がどの元素魔法と結びつける適性があるかも判別可能だ。

 だけど、神サマから与えられたこの力はこの世界の人間に話すことは出来ない。

 まさにそれは、人智を超えた力だからだ。


「何となくですけどね。勘みたいなものですよ」

「勘ねぇ……」


 信じてなさそうな顔で俺を見るけど、さすがにこれ以上は話しませんぜ。



「まあ、いいわ。今日はわたしの頼みを聞いてくれて、ありがとうございます。次回からもよろしくね」

「もう講義に来ちゃったんだから、それはいいですけど。でも先生、これって、僕の受講科目の選択の中に入れるんですか? どう扱えば」


 そこで、初めて気が付いた風に口を小さく開けて、可愛らしい表情で、あ、とか言うのはやめてくださいな。


「そ、そうね。あなた、どっちにしろ特待生だから成績とかには関係ないのだけど、いちおう選択する科目の中に入れておいてもらおうかな」

「そうですか。それは構わないですけど、僕の提出書類をいちばん最初に見るのって、担任のクリスティアン先生ですよね」


 また、あ、って可愛い顔してもダメですよ。お昼にフィロメナ先生が「ジュディって、うっかりさんよね」て言ってたけど、それって素でそうなんでしょ。


「提出書類をクリスティアン先生が見て疑問を持つ前に、ちゃんと根回ししておかないとダメですよ」

「わ、わかったわよ。そこはちゃんとするんだから」


 何を慌てて、勝手にプンプンしてるですかね。

 そろそろ3時限目の時間が終わるので、僕は講義棟の方に行きますからね。

 次は自然博物学(2)のオリエンテーション講義があるので、これは出なければならない。




 4時限目を終えて、総合武術部の新入部員勧誘の出店に戻りましょう。

 部員の皆は、俺が突然にお姉さん先生たちに連行されて、そのまま帰って来なかったから怒っているだろうか。心配はしてないだろうけどさ。


 ちなみに自然博物学(2)の教授は、オリヴェルという年配の男性の先生だ。

 1年生の時もこの先生の自然博物学(1)を受講したのだけど、昨年はニンフル大陸内各地での植物や動物の種類や分布、主要なものの概説などの講義だったが、2年生の講義ではセルティア王国内の植物や動物について学ぶ。


 セルティア王国は人が住む平野部、ティアマ海の海洋部、北方山脈の山岳部、そしてアラストル大森林の大森林部の大きく区分されている。

 講義では、この中で最も特徴のあるアラストル大森林の動植物、更に魔獣などをメインのテーマとするそうだ。


 オリヴェル先生は学院の教授だし、お年も召しているので、もうあまり頻繁にはフィールドワークをしていない。

 しかし昨年に先生から聞いたところによると、グリフィン子爵家の筆頭内政官であるオスニエルさんと、ブライアント男爵お爺ちゃんの長男であるエルネスト伯父さんから、定期的にレポートを貰っているそうだ。

 ふたりとも市井の自然博物学者でアラストル大森林をそれぞれ研究していて、オリヴェル先生の教え子でもあるからね。


「今年のテーマは、地元のザカリー君に講義するのは、少々お恥ずかしいですがね」と先生は言っていたけど、そんなことはないですよ。

 俺は凄く特殊な部分は別として、大森林についてそれほど多くを理解している訳ではありませんから。



 さて、ようやくうちの部の出店に戻って参りました。

 4時限目はヴィオちゃんとカロちゃん、それにライくんは講義に行っていたようで、出店ではルアちゃんとブルクくんのふたりが仲良く留守番をしていた。


「ご苦労さまであります。3時限目は申し訳なかった」

「先生たちに連れて行かれたそうだけど、どうした?」

「ヴィオちゃんは、放っとけって言ってたけどさ」


「ちょっと、1年生の初等魔法学に出ることになっちゃってさ」

「ああー」


「それよりも、勧誘の具合はどうかな?」

「あまり思わしくないね。魔法侍女服効果で人は寄って来るんだけど、ビラを渡すとそれを読んで、みんな首を傾げていなくなる」

「話を聞いて行こうって子、いないんだよね」

「そうかぁ」


 そんな話をしていると、ヴィオちゃんたちも戻って来た。あ、ちゃんと学院の制服に着替えているんですね。

 ルアちゃんも着替えてくる、と1年生の専用教室棟に走って行った。トイレを借りて着替えるようだ。


 4時限目が終わったこの時間は、1年生もそれぞれ受講したオリエンテーション講義から学院生食堂や附設しているお店、他のカフェなどに行ったり、寮に戻って行ったりする。

 この課外部の出店村では、ある程度お目当ての課外部がある子が目的の部に話を聞きに来ているようだ。


 学院で伝統ある二大課外部の総合剣術部と総合魔導研究部では、それぞれ何人かの1年生が先輩から話を聞いている。

 その点、隣のアビー姉ちゃんのところもそうだが、うちみたいな新興課外部は苦労するものなのだろうね。どっちもちょっと特殊だし。



 これは、気長に誰か来るのを待つか、それとも明日からの活動方針を見直すか、どうしようかねと皆で話をしていると、「あのぉー、すみません」という声が聞こえて来る。

 全員が一斉にその声の方を向くと、出店のテントの外にひとりの女の子が立っていた。


「あのぉー、総合武術部って、ここですよね?」


 あれ、あの子って、見たことあるよな。

 えーと、そうだ。昨日の入学式で新入生代表の挨拶をしていた、すらっと背の伸びた女の子。長いブラウンの髪が風になびいている。近くで見ると、なかなかの美少女さんだ。


「あ、きみは」

「あら、あなた、ソフィーナ・グスマンさんでしょ」


 ヴィオちゃんも直ぐに気が付いてその子に近寄って行き、カロちゃんとルアちゃんも続く。

 俺たち男子3人は出店の中からその様子を見る。


「はい、1年生のソフィーナです。あの、ここは総合武術部でいいんですよね?」

「ええそうよ。ようこそ、いらっしゃい」

「あの、少々お話を伺いたくて、来ました。いま、よろしいでしょうか?」


「ええ、ええ。もちろんいいわよ。さあ中に入って入って」

「はい、それでは、お邪魔します」



 説明を聞きたいという初の1年生が来ました。それも、今年の入学試験首席の子だよ。

 入学式の時に遠目から見立てたように、このソフィーナって子は剣術をやって来ているように感じる。それも、しっかりとだ。


 俺の心の中で囁く声が、この子はザックの部に入れるべきですよ、と言った気がした。

 アマラ様じゃないよね。ヒマして見てたのかな。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

よろしかったら、この物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

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本編余話の新作、「時空クロニクル余話 〜魔法少女のライナ」を短期連載予定で投稿しています。

リンクはこの下の方にありますので、そこからお飛びください。

ライナさんを密かに応援してくれている人も、そうでない人も、どうかお読みいただけますと幸いです。

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