表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

354/1124

第347話 お姉さん先生に連行される

 新入部員勧誘の出店の準備も終わり、もう直ぐ午前の2時限目も終了する。

 いよいよ勧誘活動の本番だ。

 今のうちに交替で昼食を済ませてしまうことにする。


「よし。ではヴィオくんとライくんで、先に行って来たまえ」

「ええーっ。なんでそのふたりなんだよ。それに、あの格好の……」

「ごちゃごちゃ言わない、ライ。これは部長命令であります」

「部長命令って、この1年間で初めて聞いたぜ」


 いつもなら俺の発言の百万倍は言い返すヴィオちゃんは、ホッペタを膨らませて黙っていた。

 あれ、何か機嫌悪いですか? どちらかと言うと、俺の方よりライくんを睨んでいる。


「いいわ、先に行って来る。ほら、行くわよライくん」

「だけどよ」

「来なさい」

「おう」


 ライくんはヴィオちゃんに引っ張られるように、学院生食堂へと去って行った。


「行きました、です」

「そうねぇ。引っ張って行ったね」

「逆だといいのに、です」

「そうなんだけどねぇ」


 カロちゃんとルアちゃんが、ふたりの後ろ姿を眺めながらそんな風に話している。


「あれでいのか、ザック」

「うーむ、どうでしょうか」

「どうでしょうかって」


 おや、2時限目が終わったようですよ。1年生が少しずつ講義棟から外に出て来た。

 さあ、1年生を迎える準備をしますよ。カァ。



「きゃー、なになに、カワイイんですけど」

「え、どれどれ? あ、あの方たちが着てるのって」

「学院の制服じゃないわよね」

「お隣にもいるわ」

「あそこって、課外部の勧誘よね」

「何の課外部かしら」

「お洋服関係とか?」

「きっと女の子向けよね」

「行ってみましょうよ」


 えーと、女の子も大歓迎ですけど、女の子向けと言うか、剣術と魔法の鍛錬方面で。お隣もやはり剣術方面なのですが。

 そうとも知らず、並んで立つカロちゃんとルアちゃんの可愛い姿に、引き寄せられるように1年生の女の子が集まって来た。

 そして、ふたりから渡されたビラとふたりの姿を見比べて、女の子たちは首を傾げている。


 あのビラは、昨晩5人で手分けして手書きで作成したものだ。

 総合武術部という名称と、魔法と剣術の両方を訓練する学院内唯一の課外部といった説明が簡単に記されたものだ。

 ひとり20枚以上作成というヴィオちゃんからの厳命を受けて、寮の新入生歓迎会が終わった後、頑張って書きましたよ。


「剣術と魔法をやりたい子、良かったら考えてみてねー」

「たいへんだけど、死ぬことはありません。どこの部よりも強くなれる、です」

「詳しい話が聞きたかったら、あそこにいる優しいお兄さんが説明するよ」

「ふたりとも、見ての通り怖くない。イケメン、です」


 カロちゃんの呼び込み文句が、ちょっと変な気がしないでもありませんが。カァ。



「あ、ねえねえ、あそこにいらっしゃるのって」

「あの方、ザカリーさまでしょ。ザカリー・グリフィンさま」

「変人で怪物ってウワサの方よね」

「でも、見た感じお優しそうよ」

「なぁに、あなた、興味があるなら行ってきなさいよ」

「えー、でも、ちょっと怖いかも」


 俺って必要以上に聴覚が良いのですけど。カァ。


 集まっていた1年生の女子たちは、うちの出店の前でさんざん騒いだあと、「おなか空いたー」と食堂の方へ行ってしまった。

 そのあとは、同じような女の子のグループや、こそこそカロちゃんとルアちゃんを見ながら通り過ぎる男子たちが来たが、まださすがに中に入って説明を聞こうという者は現れない。


 クロウちゃんはそんな様子を見ていたが、もう大丈夫だろうと屋敷に帰って行った。ああ、お腹が空いたんだね。

 何も問題ないって、ちゃんとエステルちゃんに報告するんですよ。カァ。




 そろそろライくんとヴィオちゃんが戻って来るだろうから、次のお昼交替は誰にしようかなとぼんやり考えていたら、俺を呼ぶ声がする。


「あーいたいた。ザカリーくん、やっと見つけた」


 顔を上げて声がする方を見ると、魔法学教授のジュディス先生と剣術学教授のフィロメナ先生がこちらにやって来る。


「あらー、あなたたちそれ着てるのね。可愛いわね」

「あ、ジュディス先生とフィロメナ先生、こんにちは、です」

「どうしたんですか?」

「ちょっと、ザカリーくんに用があってね」

「部長ならそこで、ボーッとしてるよ」

「あら、ヒマそうね」


 そこにライくんとヴィオちゃんが帰って来たので、カロちゃんとルアちゃん、ブルクくんをお昼に行かせる。


「ザックさまは?」

「なんだか先生たち、僕に用があるみたいだから、先に行っていていいよ」

「それじゃ行って来るよ、ザック」



「それで、おふたりでどうしたんですか、珍しい取り合わせですけど」

「そんなことないわよ」

「わりと仲がいいんだ、わたしら」

「ほら、どっちの部もあとはあれだし」


 ああ、確かに部長のおふたりはあれですが、クリスティアン先生とディルク先生はかなりマトモだと思いますよ。


「それで僕に用って、なんですか?」

「あのね、ザカリーくん。少々折り入ってお願いがあるんだけど」

「お願いですか、ジュディス先生」

「わたしもなんだ、ザックくん」


「フィロメナ先生もですか? あ、それからややこしいので、ジュディス先生もザックでいいですよ」

「うん、ありがと。それでね、あなた、今年の選択科目はもう決めてる?」


 来たよ、これだ。ふたりの顔を見て何となく予想はしてたけどさ。

 去年に学院長から言われましたよね。教授の方から学院生を勧誘しちゃいけないって。



「あ、警戒するのはわかってるわよ。だからほら、お願いと折り入っての相談って言ったじゃない」

「決して勧誘とかではないのよ」


「ここは、あなたの課外部の出店だし、活動の邪魔になるといけないから、場所を変えていい?」

「ザックくん、お昼まだなんでしょ。わたしたちもまだだから、どう?」

「もう、仕方ないなぁ。確かに先生たちにここに居座られると、1年生が近寄りにくいから、行きましょうか」


 それで俺は、ヴィオちゃんとライくんにちょっと出て来ると断って、お姉さん先生方とお昼に行くことにした。

 出店は任せるよ、そこのおふたりさん。ふたりはやれやれという顔をしているけど。




「フィロ、どこに行く?」

「あそこがいいんじゃない、ジュディ」

「あそこね」


 ふたりが俺を連れて行ったのは、剣術訓練場と魔法訓練場にわりと近い、小ぶりなカフェレストランだった。

 学院内には、こういった食事とお茶のできる店が学院生食堂以外にもいくつかある。

 ここは課外部員の女子とかが部活終わりに良く利用する、学院内でも女の子に人気のあるお店だ。

 ちょうどテーブルが空いていたので、お姉さん先生ふたりを前にして座る。


「ここって、美味しい日替わりランチセットがあるのよ」

「わたし、それ。ザックくんは? 今日は先生たちの奢りよ」

「へぇー、ご期待に沿えないかもですよ」

「いいのよ。ご飯は奢りだから。ザックくんもセットでいいわよね」

「ええ、お願いします」


 今日のセットは、多めのチーズが合わせられたたっぷりの野菜サラダに、きのこと牛肉の生クリーム煮風の料理。そして美味しいパンが添えられる。

 ワインはダメですか。ダメですよね。

 前世の世界でティラミスの原点とされる、ビスコティベースのティラミス風のお菓子がデザートに付く。


「このお店の料理人て、ミラジェス王国の出身の人って聞いたけどホント?」

「そうらしいわよ。でもこの王都って新鮮なお魚が滅多にないから、すごく残念がってるそうよ」

「ああ、確かにお魚料理があったら美味しそうよね」

「でもこのデザートは、なかなかじゃない?」

「うん、いける」



「あのー」

「なぁに、ザックくん」

「なぁにじゃないんですが。本題は?」


「あ、そうだ、いけないいけない」

「ほんと、ジュディって、うっかりさんよね」

「フィロだって、すっかりお料理に夢中だったじゃない」


「あのー」

「ええ、そうそう本題。まずわたしからね。ザックくんは魔法学の講義、高等魔法学は取るんでしょうけど、わたしの中等魔法学(2)も取ってくれるのよね」

「ああ、去年の初等魔法学の受講生が、そのまま上がって来ますよね。確かにあいつらに来年もって言っちゃったなぁ」


「そうよねそうよね。だったらこれは決まりよね。それで、相談なんだけど」

「え、それ以外に相談があるんですか?」

「あのね、今年も、初等魔法学を。ほら、去年みたいに……」


 ああ、俺に講義をまた分担させるつもりだな。それも、1年生のを。


「ダメかなぁ。たぶん、ザックくんが取る他の科目にも、ぶつからないと思うのだけどなぁ」


 こいつ、去年の俺の選択科目から類推して、もう確認済みだよな、きっと。

 まあ時間枠が空いているところなら、ひとりで図書館とかに行っているよりはいいかもだけどさ。


「そうすると、おそらくフィロメナ先生も、似たような相談なんですよね。きっと」

「えー、わかっちゃったぁ? でもわたしはジュディみたいに、1年生の講義を手伝えなんて無茶なお願いはしないわよ」


 あ、こっちはダイレクトに、1年生の講義を手伝えとかの言い方をしちゃってるよ。

 でも、そうではないとすると。


「するとつまり、剣術学上級以外に、フィロメナ先生の剣術学中級(2)を取れと?」

「えへへ、バレたか。あと、わたしのパーソナルトレーニングね。これは去年からの約束だから」


 ああ、そんなのもありました。縮地を教えてるんだった。



「それでぇ、どうかしらっ!」


 ふたりで声を揃えて言うんじゃありません。

 もう仕方がないなぁ。まあ、中等魔法学とそれから剣術学中級はそれぞれ取るつもりだったからいいんだけど。

 それに加えてひとつずつプラスですね。わかりましたよ。


「うーん、わかりました。でも、両方の部長先生は、ひとつずつ講義を取るからいいとして、クリスティアン先生とディルク先生には、ちゃんとうまいこと言っておいてくださいよ」

「いいのよ、クリスは。どうせ高等魔法学には来るし、ホームルームもあるでしょ」

「ディルクは口に出して文句は言わないわ。それに彼も剣術学上級には来るわよ」


 ああ、高等魔法学と剣術学上級は、またそれぞれ先生3人が参加なんですね。

 それからジュディス先生、ホームルームは関係ないから。



「よしっ、決まりね。じゃ早速行くわよ、ザックくん」

「行くって、どこに?」

「決まってるじゃない。初等魔法学のオリエンテーション講義よ。これからだから」


 あそうか。昨年も1日目の3時限目だったよな。と言うことは、この魔法訓練場に近いカフェレストランに来たのも、計画的だったのか。

 すっかりお姉さん先生方に嵌められました。


「あ、部員たちに断って来ないと」

「大丈夫よ、職員さんに伝言を頼んで置くから。さあ行きましょ」

「わたしも、剣術学初級のオリエンテーションか。ジュディちゃんと重なってて残念だわ」


 こうして俺は、ジュディス先生に魔法訓練場へと連行されていくのだった。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

よろしかったら、この物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

ーーーーーーーーーーーー

本編余話の新作、「時空クロニクル余話 〜魔法少女のライナ」を短期連載予定で投稿しています。

リンクはこの下の方にありますので、そこからお飛びください。

ライナさんを密かに応援してくれている人も、そうでない人も、どうかお読みいただけますと幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ