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第344話 2年生初日

 3月1日、今日から王立学院の新学年が始まり、新入生の入学式が行われる。


 俺は早朝に屋敷を出て寮に戻った。管理人のブランカさんに挨拶して自室へと向かう。

 久し振りの寮の自室だね。

 無限インベントリに入れて来た着替えやその他、エステルちゃんに持たされた物を収納家具に仕舞う。


 今日は午前中に入学式があり、そのあとはクラスで臨時のホームルームをやって解散。

 午後は総合武術部のミーティングだ。

 それから夜には寮で、第7男子寮恒例の新入生歓迎会がある。

 初日だというのになかなか忙しいよね。



 入学式に出席するために学院講堂へと行った。

 この王立学院では、クラスで集合してまとまって行くとかはないので、三々五々学院生が集まって来る感じだ。

 学院としてはいちおう、自由な雰囲気と規律ある行動を旨としているのだけど、確かに無闇に規律を乱す行いをする学院生は見当たらない。

 だから、じつは俺がいちばんの要注意人物と見られている節もあるのだけど、そんなことないですよね。


 教授たちが集まっていたので、近寄って行って挨拶をした。あ、ボドワン先生もいるね。


「先生方、おはようございます」

「お、ザック。おはような、久し振り。元気そうだな」

「おはようじゃ、ザカリー。今日は大丈夫じゃよな」


 剣術学部長のフィランダー先生と魔法学部長のウィルフレッド先生が、早速に声を掛けて来る。


「え、大丈夫って何ですか? ウィルフレッド先生」

「それはほれ、昨年のこともあるからの」

「ああ、今日は大丈夫ですよ、何ごともありません。僕が保証します」


「ザックが保証してくれれば、まあ大丈夫だな」

「そうじゃの。じゃが、何かあったら、保証したザカリーに任せるからの」

「ええー、僕ですか」


 昨年の俺たちの入学式では、ブラックドラゴンのアルさんが俺とエステルちゃんがいる気配に引き寄せられて、上空で姿を現したという事件があったからな。

 でもウィルフレッド先生、仮に何かがあっても、何でもかんでも俺関係ということはないんですよ。ホントウに心外な。



「ザカリー様、来ましたね」

「あ、ボドワン先生。無事に着任、ご苦労さまです。イラリ先生、今年もよろしくお願いします」

「ええ、ザカリー君、よろしくお願いしますね」


 イラリ先生と話していたボドワン先生が、俺に気が付いて声を掛けてくれた。


「でもボドワン先生、ここは学院なんですから、ザカリー様じゃなくて呼び捨てとか君付けとかでお願いしますよ。ほら、そっちのおじさんとか爺さまは、ザックとかザカリーとか呼び捨てだし」


「おじさんとか、とはなんだ」

「わしは爺さまではないぞ」

「はははは。やっぱりザカリー様、いやザカリー君だね。ではそう呼ばせて貰いますよ」


「ほら、ザカリー、もう直ぐ入学式が始まるぞ。席に着いて貰えるか」

「クリスティアン先生、お久し振りです。了解しました」


 やれやれ、という声を背中に受けながら、俺は2年A組の席に着いた。

 ああ、もう全員ちゃんと席に座ってるんだね。


「おはよう、みんな」

「おはよう、ザックくん」

「元気だった? て言うか、聞いたからね」

「あとで詳しく、よ」

「ひゅーひゅー」

「お目出度う」


 ああ、カロちゃんとヴィオちゃんだな。もう許嫁いいなづけ正式発表の件が周知されていますか。

 こりゃ、ホームルームはその件がメイン議題になってしまいそうですわ。



 入学式は特に何ごとも起きず、滞り無く進んだ。

 今年の新学院生120名が入場し、学院長挨拶、教授代表挨拶、来賓挨拶と進行する。

 今年の教授代表はウィルフレッド先生だった。

 昨年はフィランダー先生だったから、おっさんと爺さまとで交代でやっているのだろうか。


 さすがに昨年のおっさんのように数秒では終わらず、と言って長々とも話さず、うちの学院らしくごく短い挨拶でまとめた。

 だけど、「この学院には、いろいろな上級生がおりますからの。何があっても驚かんことじゃ。すべては人生勉強のひとつと心得るように」とか話すのはどうなんだろう。

 新入生をビビらせてはいけませんよ。


 そして今年の学院生会会長は男子の4年生だった。

 えーと、俺にとっては昨年の会長が強烈だったので、印象が薄いです。確か彼は、王国南方のアールベック子爵家の次男か三男だったよな。

 ヴィオちゃんなら知っているだろうね。


 そして最後は新入生代表の挨拶。昨年は例の事件で、俺が最後まで務められなかった。

 例年、入学試験の首席が挨拶することになっているが、おや、なかなか美人さんの女の子だね。12歳の女の子にしては背もすらっと高くて、しなやかそうだ。


「ただいまご紹介に預かりましたソフィーナ・グスマンです。先ほど挨拶された会長のお隣の領から参りました。学院長、先生、ご来賓、そして学院生会会長と、とても温かい歓迎のお言葉をいただき、誠にありがとうございます。本日、晴れてこのセルティア王立学院の栄誉ある一員となり、新入生一同、とても感激しております」


 首席なだけあって、なかなかしっかりした子だね。挨拶は続いていたが、隣に座るヴィオちゃんにちょっと聞く。


「ねえ、グスマンて伯爵家かなんかだっけ」

「もう、ザックくんて、どうして知らないかな。あの子は、南の国境沿いのグスマン伯爵家の四女よ。ほら、もう挨拶が終わるわよ。静かにしなさい」

「へい」


 ヴィオちゃんが早口の小声でそう教えてくれた。

 グスマン伯爵家の四女さんか。男子もいるだろうから兄弟姉妹が多いんだね。

 でも、遠目に歩く姿を見ても、身のこなしがなかなかいいよな。あれは剣術をやってるな。



「これでセルティア王立学院入学式を終了いたします。それでは、新1年生はクラスごとに所定の位置に集まってください。各クラスの担任の先生がいます。2年生以上の学院生は退場してください。ご来賓の皆様も続いてご退場をお願いします。本日はご出席いただき、ありがとうございました」


 司会進行の学院職員さんがそう告げ、俺たちは学院講堂を退場する。

 次は専用教室でホームルームだね。


 この学院では、各クラスの専用教室は4年間同じ教室を使用する。だからローテーションだね。今年の1年生が使用するのは、昨年に4年生が使用していた教室だ。

 つまり、4年間同じ部屋を20人が使って新たな子たちに引き渡す訳だから、汚してしまうとそのクラスの恥になる。

 うちのクラスでは副クラス委員格のヴィオちゃんをはじめ女子が煩いから、自分たちで率先して掃除を行い、とてもキレイな状態に保っている。




「それでは、2年生になって初のホームルームを始めますよ。みんな元気に冬休みを過ごしたかな」

「はーい」

「みんな元気だね。それでは……」


「まずはザックくんの、あれから?」

「まだ早いわよ、クリスティアン先生からの連絡事項があるんだから」

「そうでしたー」


「あの、先生、お願いします」

「お、おう。ありがとう、ザカリー。あれって何だ? まあいいか。2年生最初の私からの連絡事項は、講義選択の件だぞ。みんな把握していると思うが、確認として聞いてほしい。明日から5日間は選択科目のオリエンテーション。出席は自由だ。今年から必修の概論講義は無いから、午前と午後を使って好きな講義に出席してくれ」


「選択数は10科目以上。上限は5日間の講義枠の20科目だ。各科目とも2年生用の講義になる。まあ君たちは、どれを選択するかもう考えていると思うが、昨年選択しなかった科目を取る場合は、いきなり2年生用から受講するか、それとも敢えて1年生用を受講しても良い。その辺は各自良く考えて判断してくれ。選択科目の提出は5日目の夕方までだからな。以上だ」



「ありがとうございました、先生。では、質問はありますか? ないですかー? ではないようですので……」


「はいっ!」

「はい、ペルちゃん。質問はなんですか?」


「質問はザックくんに。いやー、クジ引きで負けちゃって、わたしが代表質問をすることになっちゃって……」


 ペルちゃんが勢い良く手を挙げるものだから、思わず指しちゃいましたよ。

 どうせ質問内容は分かっているんだから、無視しても良かったのだけど。それにしても、クジ引きで代表質問を決めたって。


「何でしょうか? ペルちゃん」

「あのぉ、クラスの一部から得た情報によりますと、昨年末にグリフィン子爵領において、ご長男のザカリー・グリフィンさまのご婚約が発表されたとのことですが、この真偽について。それから、詳細もお聞かせ願いますか?」


 議会審議か記者会見じゃないんだからさ。


「えーとですね。その情報はまあ正しいですが。正確に言うと、僕とエステルちゃんが許嫁いいなづけになったのが正式に決まって、領内で発表されたということですね」


「きゃー、許嫁いいなづけよー」

「それって、両方の親同士が許可して決めたってことよねー」

「さすがは貴族よねー」

「そうすると、エステルさん、いいえエステルさまは、将来のザックくんの奥さま。つまり子爵夫人」

「それって玉の輿なのかしら。それともエステルさんて、どこかのお姫さま?」

「そこのとこはどうなのかしら」


「それについては、ザックさまがお答えにくいかも。なので、わたしが代りに」

「うん、報道官のカロちゃん、お願いします」


 カロちゃんて、報道官だったんだ。知らなかった。



「エステルさまは、遠い地のある一族のおさの家のひとり娘と、領都では噂されています、です。従って、お姫さまなの、です」

「そーなんだぁ」


「遠くから遥々やって来たお姫さまが、ひょんなことから貴族の幼い長男に付いてお世話することになり、さまざまな冒険と苦難を重ね、そうして遂に許嫁いいなづけとなって結ばれ、子爵さまの奥さまになる。まるでお伽話よねー」


 だいたいは合ってるけど、苦難は重ねてないと思うんだけどなぁ。


「代表質問に戻ります。それで、ご結婚のご予定は? いつになるのでしょうか」

「えー、まだぜんぜん決まってないよ。その辺は本人同士も、親同士も話し合ってないし。たぶん、学院生でいる間は無いんじゃないかな」


「と言うことは、王都で式を挙げることはないと?」

「そうだなー。式はグリフィニアだよね。領民の前で挙げるって、この前、冬至祭の時に言っちゃったし」


「そうなんだー」

「でもさ、みんなでグリフィニアに行けばいいんじゃない」

「そうよね。みんなでザックくんとエステルさまの結婚式に行きましょう」

「さんせーいっ」


「では、女子は全員賛成ですね。男子もいいですか?」

「お、おうよ」

「それでは、クラス全員の賛意が得られたということで。卒業後になってもザックくんとエステルさまの結婚式に、A組のみんなでグリフィニアに行くことが決まりました。式の予定が決まったら、なるべく早く連絡すること。予定を合わせないといけないですからね。いいこと、ザックくん」

「はいです」


 代表質問とやらが、いつの間にか決議になってるんだけど。

 あのぉ、この辺りでホームルームを終了してよろしいでしょうか。


「お目出度うございます、ザックくん」

「あ、ありがとう、みんな」



 ようやくホームルームを終えることが出来た。

 これでクラスは、本日は解散だ。


「ザカリー、知らなかったが、お目出度う。そしてご苦労様でした。今年もよろしく頼むな」


 あ、クリスティアン先生、労っていただいて、ありがとうございます。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

よろしかったら、この物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

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本編余話の新作、「時空クロニクル余話 〜魔法少女のライナ」を短期連載予定で投稿しています。

リンクはこの下の方にありますので、そこからお飛びください。

ライナさんを密かに応援してくれている人も、そうでない人も、どうかお読みいただけますと幸いです。

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