第336話 神様のことを聞かれる
「それで、先ほどの北フォルス社でのことは、ご説明いただけるのでしょうな」
俺とエステルちゃんが座るテーブルの席に着いたジェルさんが、そう問いかけて来た。
社の中では何も言わなかったが、さすがに聞かずにはいれなかったのだろうね。
「そうよー。あのアンヘルとかいう長のお爺ちゃんにも、何か光ったのを見られてるのにー、わたしたちが事情を知らないなんてダメよねー」
「結界でぼんやりしたのは、理由が分かってますからいいですけど、あの光には少し吃驚しましたよ」
このテーブルには、ライナさんとオネルさんのお姉さん方3人が当然のように着いており、そう問いかけて来る。
ブルーノさんとティモさんは隣のテーブルだね。クロウちゃんも何かを察知してそっちなのね。
で、やっぱり説明しないといけないかなー。
「えーと、それではご説明しましょう」
「うんうん」
「今日のお祈りは、エステルちゃんがアマラ様にお願いをするお祈りでありまして」
「うんうん」
「お願いというのは、あのアルさんから貰った白銀のショートソードのことで」
「うんうん」
「じつは昨日、アマラ様からあの白銀を持って来いと言われてまして」
「うん、うん?」
「それでアマラ様から、あの白銀をエステルちゃんが遣えるようにしていただきまして。光が出たのはその時のことで、光ったのは白銀です。あ、ヨムヘル様もいました。まあ、こんな感じ」
「…………」
「えーっ!」
「あの、ザカリー様。聞いていいですかな?」
「はい、ジェルさん、どうぞ」
「いくつか理解出来ないことがあったのだが、まず昨日、あの白銀のショートソードを持って来いと言われたのだな。その、アマラ様から」
「そうだね」
「ザカリー様のところに、連絡があったとか?」
「ちょっと待ってください、ジェル姉さん。アマラ様と言えば夏と太陽の女神様ですよ。この世でいちばんの神様ですよ。その女神様から連絡とか」
「そうよねー、今は冬だし」
「そこじゃないですよ、ライナ姉さん」
「うん、連絡とかが来たんじゃないんだ」
「そうですよね、ザカリー様」
「昨日、僕のところにいらっしゃってね。あ、ヨムヘル様も来たけど」
「ええーっ!」
「そ、そういうこともあるだろう。ザカリー様だからな」
「そうよねー。ザカリー様だし」
「そうですかね。まあ、ザカリー様ですので」
「それで、今日ここに僕たちが来ることをご存知でね。エステルちゃんにあの白銀のショートソードを持って来させて、アマラ様に話しかけろっていう話でさ」
お姉さん方は少し疲れた表情をして、もう俺の話に突っ込んでくれなくなった。
話を続けますよ。
「なので、さっき北フォルス社に行った訳ですよ。それで、エステルちゃんを連れて来ましたよーって言ったら、アマラ様が来ていただいて。あ、あとからヨムヘル様も来たけど。ね、エステルちゃん」
「はいー、です」
「それで、アマラ様の指示に従ってエステルちゃんが白銀を捧げ持ったら、そこにアマラ様が手を置いて。そしたら白銀が鞘ごと光り出して。光が結界から漏れちゃったのはこの時ですな。ね、エステルちゃん」
「はいー。あれは吃驚しましたぁ。でも、初めからずっと吃驚してましたけどぉ」
「それでエステルちゃんが、あの白銀のショートソードも遣えるようになったということらしいんだ。ね、エステルちゃん」
「はいー。試してみないとですけどぉ」
どうでしょう。ご理解いただけたでしょうか。
「もう突っ込む気力があまりないのだが、話の流れはいちおう分かりました。あの光が、白銀のショートソードが光ったものだというのも理解した。しかし理解できんのは、そもそもアマラ様と、それからヨムヘル様もか、どうしてザカリー様は、その、お知り合いなのだ。ん? お知り合いでいいのかな? その、いつからなのだ?」
アマラ様の存在が急に近くなったのは、去年の夏にアラストル大森林に行って聖なる光魔法をルーさんから教えて貰って、発動を試したとき辺りからだよな。あれは大事故寸前だったけど。
あの時の話を詳しく話すと更にややこしくなるよね。
「聖なる光魔法を訓練し出してからかなー。あれはアマラ様のお力が関わっているから」
「あ、アマラ様にお願いして発動させるっていうものよねー」
「そうそう、ライナさん。あの魔法って、普通の光魔法にアマラ様のお力が加わる感じじゃないかって、僕は思っているんだよ。だから、それがきっかけかな。あ、ヨムヘル様は一緒に付いて来たけど」
「なるほど、そういうことですか。アマラ様との繋がりがないと、あの魔法は出来ないと。だから、ザカリー様が聖なる光魔法を出来るようになる過程で、アマラさまとの強い繋がりを持たれた、ということですな」
まあ、そう理解して貰っておくのがいちばん良いだろう。
本当は、アマラ様がおっしゃるところの、俺の魂はこの世界への転生の時にアマラ様へ預けられた、ということらしいのだけどね。
「あの、凄く基本的なというか、根本的なことをお尋ねするのですが」
「なんでしょう、オネルさん」
「神様って、おられるのですよね」
「なんだオネル。随分と根本的な問いだな」
「だって、確かに祭祀の社には祀られていますし、夏至祭と冬至祭ではアマラ様とヨムヘル様に感謝を捧げますし、この世界のあらゆるものを司っているのは、たくさんの神様だって神話には書いてあります。でも、神様の言葉を聞いたり、ましてや神様とお会いしたなんて、今まで聞いたこともありません。ザカリー様が初めてです」
この世界では、神々と人との交流が少ないって、そう言えば昔、前世の神サマのカグヤから聞いたっけ。
だから、宗教的なものが見当たらないんだよな。一方で地上には邪神や悪神がいて、地上の者が付け入られやすいとも。
どうして、アマラ様たちはあまり地上に降りて来ないのだろうね。神話の時代、つまり超古代では事情は違っていたのだろうか。
「僕がどうしてアマラ様やヨムヘル様とお会いできたのか、それは僕も良く分からないんだよな。でも今日、僕とエステルちゃんがお会いしたのは事実だし。ね、エステルちゃん」
「はいー。隣にザックさまもいましたし。幻ぽかったですけど、幻ではありませんでしたぁ」
「(僕の魂のお母さんはアマラ様だって話は、内緒だよ)」
「(それって、流転人に関係ありますよね。はい、突っ込みどころがますます増えるので、内緒にしておきましょう)」
俺の魂が別の世界から転生して来た、ファータの伝説で言うところの流転人であるのを知っているのは、今のところエステルちゃんだけだ。
この話まですると、更にいろいろとややこしくなる。
「オネルは、ザカリー様のおっしゃることを疑っているのか?」
「いえ、ザカリー様なら、というのはわたしもそう思うのですけど。なにしろ神様ですから……」
「でもさー、精霊様ならわたしたちも普通にお会いしているのよねー。それって、普通の人が聞いたら、誰も信じないわよー」
「それは、そうですね。この世には、魔獣や魔物やアンデッドもいれば、精霊さまもドラゴン殿もちゃんといらっしゃる。だったら神様だってって、そう考えるとそうなんですけど」
「そしたらさー、エステルさまが授かったっていう、白銀のショートソードが遣えるっていう力。それが証拠になるんじゃないのー?」
「おお、そうか。たまにはライナもマトモなことを言うな。確かに、アマラ様のお力でエステル様が白銀のショートソードを遣えるようになったのなら、それが証拠だ」
「そうですね。わたしも見たいです。アマラ様のお力」
「じゃ、帰ってエステルさまに見せていただきましょうよー。いいでしょー、エステルさま」
なるほどね。俺が聖なる光魔法を使っても、まあ俺だからってことになるけど、エステルちゃんがあの白銀でどんな力を発揮させられるのか。
それを目の当たりにすれば、まさしくアマラ様のお力ってことで納得できるかもだ。
エステルちゃんは、ちらっと隣の俺の顔を見る。
いいんじゃない。これは念話で言わなくても、俺の顔の表情で彼女もそう受け取っただろう。
「ええ、わかりました。わたしもどうなるか、どう遣えるのか早く試してみたいですから、お屋敷に帰ったら早速に。でもその前に」
「その前に?」
「せっかく、内リングの外まで来たんですから、もうちょっとお店を見て行きましょうよ」
「そうよねー」
「そうですよ」
「そうだな」
そうだそうですよ、そっちのテーブルのブルーノさん、ティモさん、クロウちゃん。
これからお姉さん方はお店巡りだそうですので、もう少し頑張りましょう。
「へい、わかりやした」
「承知、です」
「カァ」
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2021年2月20日付記
本編余話の新作、「時空クロニクル余話 〜魔法少女のライナ」を投稿しました。
タイトルからお察しの通り、あのライナさんの少女時代の物語です。作者としては、どうしても書きたかったというのもありまして。
とりあえず第1章ということで、今回は数話の中編で連載を予定しています。
リンクはこの下の方にありますので、そこからお飛びください。
ライナさんを密かに応援してくれている人も、そうでない人も、どうかお読みいただけますと幸いです。




