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第335話 アマラ様の祠で

 ジェルさんたちも後ろに従って来たので、俺は振り返って少しお願いをすることにした。


「これからエステルちゃんがアマラ様にお祈りをするんだけど、儀式みたいなことをするから、ちょっと余所の人に見られたくないんだよ。なので、見え辛くする結界を貼るけど、念のために僕たちを囲んでおいて貰えるかな」


「そうですか、わかりました。それでは」


 ジェルさんは余計なことは何も聞かずに、レイヴンのメンバーに指示して後方にいる人たちから見えないように並んで立たせた。

 エステルちゃんは、クロウちゃんをライナさんに預けている。



 俺はそれを確認して、視界を遮る範囲のごく狭い弱い結界を貼った。

 陽炎のようにゆらぐ結界がエステルちゃんと俺を囲んだ。これで周囲からは、こちらがぼんやりとしか見えない筈だ。


 そして無限インベントリから白銀のショートソードを取り出すと、鞘ごとエステルちゃんに渡した。


「あの、ザックさま。先にお祈りしてください」

「うん、そうだね」


 白銀のショートソードを持って跪くエステルちゃんの横に、俺も同じように跪き、心の中でアマラ様に呼び掛ける。


「アマラ様、アマラ様、エステルちゃんを連れて来ましたよ」



 すると目の前に白い靄が広がって行き、辺り一面を包み込む。やがてその靄の向うから光が近づいて来た。


「あっ」と俺の直ぐ横から声が聞こえる。エステルちゃんの声だ。

 横を見ると、白い靄の中に彼女の姿が現れている。そして直ぐ隣に俺がいるのに気が付き、酷く驚いた顔でこちらを見た。


「ザックさま。これは」

「もう直ぐ、いらっしゃるよ」

「えっ、アマラ様が?」


 眩しい光が俺とエステルちゃんを照らし、それが収まって来るとそこにアマラ様が微笑みながら立っていた。


「アマラ様、昨日振りです。エステルを連れて参りました」

「はい、おはよう。ここはフォルスの北のやしろね。とっても久し振り。あら、エステルちゃんね。初めまして」


「エステルちゃん、ご挨拶を」

「あ、はい。あの、エステルでございます。アマラさまのご尊顔を拝し奉り、恐悦至極の……」

「そんなお硬い挨拶は、しなくていいのよ。あなたは、シルフェちゃんの妹になったんでしょ。シルフェちゃんはわたしの娘みたいなものだから、あなたも同じよ」


「あ、えと、はい」

「いつもザックをお世話いただいて、ありがとうね」

「その、わたしは」

「ザックはね。この世界ではわたしがお預かりしているので、わたしは母親みたいなものね。でも、ちゃんとこの世界のお母さんはいるから、魂の方のお母さんかしら。だから、あなたもね」


 エステルちゃんが俺と婚約したからか、或いはシルフェ様の妹になったからか、それとも。

 そんな思いが頭の中にふと浮かんだ時、靄の向うから誰かが近づいて来るのに気が付いた。



「おーいアマラ、なんで俺を置いて行くかな」

「あら、ヨム。あなたも来たの?」

「あなたも来たの、ではないだろ。昨日は一緒だったじゃないか。よお、ザック」


「ヨムヘル様、はい、昨日は」

「え、ヨムヘル様?」

「おお、そっちはエステルだな。ヨムヘルだ、よろしくな」

「あ、はい」


「エステルは、俺らの娘のシルフェの妹だから、同じく娘みたいなものだぞ」

「もうヨムったら、もうその話は済んだのよ。わたしの娘ね」

「だから、俺らのって。まあ良いわ。ザックは俺らが預かっている子だから、そのザックと結ばれたのだしな」


「その話も、もうしたわ」

「そうなのか」

「だから、ふたりともわたしの子よ」

「俺らのだろ」

「はいはい。ヨムも入れてあげるわよ」



「あのぉ、エステルが白銀を持って来たのですが……」

「あら、そうだったわ。では、早速済ませましょうね、エステルちゃん」

「はい」


「白銀を両手で持って、そうそうそんな感じ。それで、腕を伸ばして。わたしの方にね」


 アマラ様の指示で、エステルちゃんは白銀のショートソードを両手で捧げ持つようにして、それから腕を伸ばした。


「それでいいわ」


 そう言うとアマラ様は、掌を白銀の上に置く。するとショートソードは、鞘ごと眩く光だした。


「この剣をエステルが遣うとき、エステルの意志に従い、このアマラの名において白き善なる力が放たれるものとする」


 アマラ様がそう唱え、そして置いた掌を離すと、剣から放たれていた光は徐々に消えて行った。



「これでいいわね。あとはエステルちゃんが、自分で工夫するのよ」

「あの、アマラ様」

「なあに、ザック」


「いま唱えられた白き善なる力というのは、白魔法ということですね」

「そうね、魔法で言えば白魔法よね」

「それは、聖なる光魔法ということですか?」


「そのことね。そうでもあるし、それも含まれるわ」

「と言うことは、それ以外にも」

「あら、例えばあなたたちにも、もう既に出来るものがあるじゃない。ほら、回復魔法とか」


 ああ、そうか。回復魔法も聖なる力の魔法と言われている。

 ただし、聖なる光魔法の場合は、使える人間はもうほとんど存在しないとされているが、回復魔法については多くの者が程度の差はあれ使えるので、そういう認識が薄れているんだよね。


「つまり、この白銀で、回復魔法も増幅されるということですか?」

「そうなるわね。それ以外は、エステルが鍛錬して工夫なさいね」

「わかりました」


 それ以外? アマラ様のお言葉からすると、回復魔法以外にもまだあるということなのか。

 これは、エステルちゃんが白銀を遣って鍛錬するのを、見守って行かないといけないな。


「黒銀の方もそうだからな。工夫して鍛錬せよ、エステル」

「あ、はい。ヨムヘル様」



「じゃあ、そろそろね。何か困ったこととかがあったら、わたしを思い浮かべなさい、エステル。もうわたしと会ったのだから、祭祀のやしろに来なくても大丈夫よ。いつでもどこでも、わたしはあなたたちを見護っているわ」

「俺もだぞ、ザック、エステル」


「ほら、行くわよ、ヨム」

「もうか」

「あまり長いと、ふたりを護ってくれている子たちに悪いでしょ」

「それもそうだな」

「ではね」


 ふた柱の神様は、白い靄の中に溶けるように消えて行った。

 そしてその靄もあっと言う間に消え去り、目の前にはアマラ様の祠がある。

 エステルちゃんはほんの暫く手に持つ白銀のショートソードを見つめていたが、やがてそれを俺に手渡した。

 さあ、無限インベントリに仕舞って、結界も解きましょうか。




「大丈夫ですかっ」

「うん、大丈夫だよ」

「エステル様も?」

「ええ、大丈夫ですよ。ありがとう、ジェルさん」


 跪いたまま暫く動かずにいたエステルちゃんも、ジェルさんの心配げな声に返事をして立ち上がった。


「他の人たちの迷惑になるといけないから、やしろを出ようか」

「わかりました」


 少々神経を尖らせている様子でジェルさんは短く返事をすると、レイヴンメンバーに目で合図をし俺とエステルちゃんを囲むようにして入口に向かう。

 皆無言で、周囲に気を配りながら進む。


 すると祭祀の広間の中ほどに3人ほど、同じ衣装を着た人たちが俺たちを待つように立っていた。

 衣装からすると、この北フォルスやしろ社守かみのやしろもりだろうな。



「あの、失礼ですが」

「ん? なんですかな」


 その3人のうちでもっとも年配と見える人が声を掛けて来た。何か見られたかな。

 結界の外からは、ぼんやりとしか見えない筈だけど。


「その、何やら光を発するものがアマラ様の祠から見えると聞き、こうして見に参ったのですが、確かに淡く光が見えたようで。その、アマラ様の祠を、あなた様方が祈りを捧げておられましたので」


「そなたは、どなたですかな?」

「これは申し遅れました。私はこの北フォルスやしろ社守かみのやしろもりおさをしております、アンヘルという者です。失礼ではありますが、どちら様方のご一行でしょうか」


 受け答えをしているジェルさんが、振り返って俺を見た。

 社守かみのやしろもりおさならいいんじゃない。俺はいいよと頷く。



「こちらこそ、失礼をいたした。あちらは、グリフィン子爵家ご長男のザカリー・グリフィン様、そのお隣はご婚約者のエステル様だ。もし何かお騒がせしたようなら、お詫び申し上げる。我らはそろそろ、こちらを去るところでな」


「これはこれは、グリフィン子爵家のご長男様でしたか。もしよろしければ、私どものところでご休憩など、いかがでしょうかな」


「いえ、今日は急いでいるので、こちらで失礼しますよ。またあらためてご挨拶に伺いましょう。アンヘル殿でしたね。光をご覧になられたとか。もしそうだとしても、何も問題ないですよ」


 俺はそのアンヘルさんに近寄って、直接そう言った。

 彼はじっと俺の目を見つめる。


「わかりました。それでは、またお会い出来ることを、楽しみにさせていただきます。いえ、光があったのかどうなのか、見間違いなどもありますからな」

「そうですね。では、僕たちはこれで」


 アンヘルさんら3人の社守かみのやしろもりが頭を低くする前を通り過ぎ、俺たちは正面の入口から外へと出た。



「ふぅー。ちょっと一服、どこかで休憩したいな」

「あちらにカフェがあります」

「うん、カフェで休もう。ティモさん、案内をお願い」

「こちらです」


 今日のメインの目的はこれで果たしたね。さて、あとは観光気分で楽しみましょうか。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

よろしかったら、この物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

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2021年2月20日付記

本編余話の新作、「時空クロニクル余話 〜魔法少女のライナ」を投稿しました。

タイトルからお察しの通り、あのライナさんの少女時代の物語です。作者としては、どうしても書きたかったというのもありまして。

とりあえず第1章ということで、今回は数話の中編で連載を予定しています。

リンクはこの下の方にありますので、そこからお飛びください。

ライナさんを密かに応援してくれている人も、そうでない人も、どうかお読みいただけますと幸いです。

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