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第334話 北フォルス広場

 緩やかにカーブしながら続く中央リング通りを行く。

 通りの両側にはだいたい2階建てぐらいの建物が並ぶが、人通りはほとんどない。


「この通りにはお店とか無いんだね。歩いてる人も少ないな」

「お店はほとんど、広場のとこに集まってるみたいですよ。市も立ちますし、まだ朝も早いからかしら」


 やがて建物の向うに北広場が見えて来た。ああ、なかなか広そうな広場なんだね。

 一角に屋台が集まっているようで、あれが広場市なのかな。

 広場全体は通りと同じく建物に囲まれていて、その中にひと際大きなものがある。

 あそこが祭祀のやしろだろうか。確か北フォルスやしろと呼ばれているのだよな。



「さあ着きやしたよ。どうされますか? まずは市でも覗きやすか?」

「そうだね。市のお店を見てから、そのあと祭祀のやしろに行きたいな」

「わかりましたザカリー様。あちらに見えるのが祭祀のやしろですな、ブルーノさん」

「へい、あれが北フォルスやしろでやす」


「じゃ、市に行きましょうよー、エステルさま」

「そうですね、どんなものがあるんですかねぇ。行きますよ、ザックさま」

「へーい」


 エステルちゃんに手を引かれるままに、俺は屋台が並ぶ広場市へと向かった。

 ティモさんは離れるのをライナさんが許してくれないので、引き続きカップル風に歩く。

 ジェルさんとオネルさんは、俺とエステルちゃんの後ろに従うような感じでいる。

 ブルーノさんは消えたみたいだね。少し離れて見守るかたちだろう。


「朝市だから食材が多いみたいですねぇ。八百屋さんがたくさんあります。あ、こっちはお肉屋さんで、お隣はチーズ屋さんだ」

「食材は豊富のようですな」


「王都は人の数が多いですからね。普通のお店よりこの広場市の方が値段は安いし、新鮮だそうですよ」

「そうですねぇ。たしかに内リングの中の商業街より、お値段が安いみたいですぅ」


「お魚屋さんはないですねぇ」

「王都は内陸だからね。市の屋台じゃ、魚とかは無理なんだろうな」

「あ、パン屋さんはありますね。あっちはお惣菜屋さんかしら」


「ああいう加工した食品は、専門のお店の出店だそうですよ」

「良く知ってるなオネル」

「うふふ。ブルーノさんから事前情報を仕入れました」


 暫くそうやって屋台や出店を見て廻る。

 食材や食料品ばかりなので、エステルちゃんも何かを買うという気はないようだ。

「あ、これは安いですぅ。こっちも商業街よりずっと安いっ」と、値段の安さには感心してるけどね。

 やっぱり、内リングの中の商店は貴族家や裕福な家が相手だから、値段が高めに設定されているのだろうな。



 ひと渡り広場市を廻ってそこを離れた。市にいるお客さんもそれほど多くないようで、結構俺たちも目立ってるしね。

 ある店のおばちゃんに聞いたら、早朝に来るお客さんが多くて、そのあとはお昼前がまた増えるそうだ。


「ちょっと広場をお散歩しましょ、ザックさま」

「そうだね」

「おふたりでどうぞ。我らは離れて見ておりますから」


 次は北フォルスやしろに行くつもりだけど、エステルちゃんは昨晩に伝えたアマラ様からの伝言が頭の中にあって、態度には出さないけどかなり緊張しているみたいだ。

 なにせ太陽と夏の女神で、月と冬の男神のヨムヘル様と並んでこの世界では最高神とされている神様だからなぁ。


 ところであの神様ふた柱って、どういう関係なのかね。

 会話を聞いていると、夫婦のようでもあり姉弟のようでもあり、長年の友だちのようでもある。

 まあ、そのような人間同士の関係性とは違うのかも知れないけどね。


「エステルちゃん、ちょっと緊張してる?」

「だってぇ、アマラ様ですよ。いちばんお偉い神様ですよ。緊張すると言うか、恐いですよぅ。少し歩いて、気持ちを落ち着かせないと」

「恐くなんかないって。だって、近所のおばちゃんみたいな」

「もう、ザックさまは、直ぐそう言う」



「ようよう、可愛い姉ちゃんだな」

「ちょっと俺たちと遊びませんかねえ。小憎、このキレイな姉ちゃん、借りていいか」

「て言うか、身なりのいい小憎だな。おめえは金と姉ちゃんを置いて、あっちに行けや」


 アマラ様の話をしながら広場を歩いていたら、木陰から若い男性がふたり湧いて来た。

 やっぱり内リングの外側だと、こういうのが湧くんだね。


「僕、残念ながらお金は持ってないんですよ。あ、あと、この子は僕の婚約者だから、置いていく訳には行きませんね」

「なんだとぉー、てめえがこの姉ちゃんの婚約者てか。生意気なガキだ」

「金を持ってないわけねえだろよ。ふざけたこと抜かすと、痛い目に会わせるぞ」


 どうするかなぁ。面倒くさいから、そろそろ気絶でもして貰うかな。もうやっちゃっていいかな、エステルちゃん。

 そのとき、背後から走って来るふたりの足音が聞こえた。ジェルさんとオネルさんの足音だな。



「そこまでだ。おまえたちはもう去れ」

「なんだなんだ、おめえらはよう。と言うか、こっちもいい女じゃねえか」

「この辺じゃ、こんなにいい女が3人も揃うなんて珍しいぜ。姉ちゃんたちも俺らに付き合えや」


 あともうひとり、とびきり色っぽいお姉さんがいるんだけど。

 でもそんなに人数も必要ないから、あっちで面白がって眺めてるんだろうな。


「もういちど言うぞ。消えろ」

「ここで立ち去るのが、あなたたちの身のためですよ」


「な、なんだとぉ。気の強そうな姉ちゃんたちだな、おい」

「生意気言うんじゃねえぞ。いまお仕置きしてやるからよ」


 ふたりは頷き合うと、懐からナイフを取り出し俺たちにゆっくりと向かって来た。

 俺たちはやれやれと顔を見合わせる。「(エステルちゃん、やっていいかな)」「(そろそろ、おやしろに行きたいから、片付けて)」「(へーい)」



 そのとき、近づいて来るふたりの頭上に石礫つぶての雨が降った。あ、クロウちゃんか。ちゃんと殺さないようにしてるね。カァ。


「痛ぇ痛ぇ痛ぇ」

「なんだなんだ」


 俺はすっと、両手で頭を抱えるふたりに近づき、続けてそれぞれの懐に入り緩慢性のキ素力掌底を腹に撃つ。

 これは衝撃で吹き飛ばすタイプではなく、全身に緩やかに衝撃を行き渡らせて身体の動きを停止させ気絶させるものだ。


 俺のその掌底を喰らったふたりの男は一瞬硬直し、そして地面に崩れ落ちた。


「殺しちゃいましたか? ザカリー様」

「いやオネルさん、身体の動きを止めて気絶させただけだよ」

「お手を煩わせてしまいましたな」

「まあ、僕の方が近かったからさ」

「カァ」


 クロウちゃんも空から下りて来て、エステルちゃんのお胸に飛び込んでいる。


「いいタイミングで偉かったですね、クロウちゃん」

「カァ」



「あららー、結局ザカリーさまがやっちゃったのねー」

「ライナ、おまえは見物してただろ」

「だってー、こんなのに人数いらないじゃない」

「ライナさんが、誰が倒すか賭けようって言いまして」


「そうなんですか、ティモさん。で、誰に賭けたんです?」

「それがねーオネルちゃん。わたしはジェルちゃんでー、ティモさんはオネルちゃん。そしたらブルーノさんが、ザカリーさまだって。結局、ブルーノさんの勝ちよねー」


「つまらん賭けなどしおって。ブルーノさんも」

「これは、つい話に乗りやして」

「ねえ、それよりザカリーさま。あれって掌底撃ちでしょー? 吹っ飛ばなかったけどぉ」


「ああ、今のは緩く全身に衝撃力が伝わるタイプのやつね。身体の動きを止めて気絶させる」

「へぇー、それいいわねー。わたしにも教えてー」

「いいよ」


「それよりも、人が来る前にここを離れますぞ」

「これ、埋めとく?」

「放っておけ、ライナ。行きましょう、ザカリー様、エステル様」




 それで、崩れ落ちて倒れている男ふたりは、ティモさんが風魔法で隅の方に転がして移動させ、俺たち一行は北フォルスやしろへと向かった。


「立派なやしろだなー」

「そうですね。おっきな建物ですぅ」


 俺たちに馴染みの、アナスタシアホームのあるグリフィニアのやしろもなかなかの大きさだけど、この北フォルスやしろと比べると規模は小さく素朴な感じだ。

 ここは石造りの大がかりな建造物で、前世の世界でいう大聖堂に近いよな。


 入口の背の高いドアは開いていて、誰でも自由に中に入って良いようになっている。

 内部はとても広く、ドーム状の天井は高い。

 祭祀の広間の正面には、アマラ様とヨムヘル様を祀る祠が並んで設置されていて、そこを中心に左右の壁に沿って数多くの天界の神様たちを祀る祠が続いている。

 入口近くには精霊の祠もあるね。


「まずは精霊様にご挨拶して、と」

「そうですね」



 一番目はシルフェ様だね。どうせ暖かくなったら屋敷に来るだろうけど、まあご挨拶しない訳にはいかない。

 エステルちゃんと並んでふたりで挨拶して、続けて隣のニュムペ様にも挨拶する。

「ニュムペ様、微力ながらご助力させていただきますよ」と言葉を掛ける。


 俺たちに続いてジェルさんたちも、顔見知りの精霊様の祠に祈りを捧げていた。

 ついこないだ会っていた精霊様に祈るとか、考えてみると変だけど、まあ気にしないでおきましょう。


 水の精霊の祠の隣は火の精霊、そして土の精霊の祠だ。

 こちらはお会いしたことがないけど、いつか会うこともあるのだろうか。

 そして最後に樹木の精霊の祠がある。たしかドリュア様というお名前だったな。

 世界樹を護っている守護精霊ということだが、シルフェ様が今度いちど会いに行きましょうとか言っていたよね。



 精霊様にご挨拶を終え、さていよいよアマラ様とヨムヘル様を祀っている正面のふたつの祠に向かう。

 やしろの祭祀の広間にはそれほど人はいなかったが、それでも何人かが静かに祈りを捧げていた。

 俺とエステルちゃんは、その人たちの祈りが終わるのを黙って待つ。

 今日はエステルちゃんが何故か妙に緊張している感覚が伝わったのか、ジェルさんたちもやはり無言で俺たちの後ろに控えている。


 アマラ様とヨムヘル様、それぞれの祠の前から人がいなくなった。


「さあ、行こうか」

「はい」


 俺たちはゆっくりとアマラ様の祠の前に進んで行った。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

よろしかったら、この物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

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2021年2月20日付記

本編余話の新作、「時空クロニクル余話 〜魔法少女のライナ」を投稿しました。

タイトルからお察しの通り、あのライナさんの少女時代の物語です。作者としては、どうしても書きたかったというのもありまして。

とりあえず第1章ということで、今回は数話の中編で連載を予定しています。

リンクはこの下の方にありますので、そこからお飛びください。

ライナさんを密かに応援してくれている人も、そうでない人も、どうかお読みいただけますと幸いです。

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