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第333話 内リンクの外にお出掛け

 その夜、エステルちゃんに天空からもたらされた伝言を伝えた。


 彼女は今日の午後、フォルくんとユディちゃんにエディットちゃんの3人を連れて、商業街にお買い物に行ったんだよね。

 レイヴンは女子組3人が護衛に付き、ブルーノさんとティモさんは3人とは別に明日俺たちが行く予定の内リングの外、北広場周辺の下見調査に行って来ている。


 エステルちゃんは、3人の弟と妹が自分の手元にいるようでとても上機嫌だけど、フォルくんはお姉さんたちに囲まれた外出で、ちょっと気恥ずかしそうだった。

 この子たちは同い年で今年11歳になるから、男の子としてはそうだろうな。



「ザックさまは、午後は何してたんですか?」

「レイヴンも誰もいないからさ、アルポさんとエルノさんと交替で訓練してた」


 爺さんたちは1時間ぐらいで交替しながら訓練場に来て、俺との戦闘訓練に付き合って貰った。

 ふたりとも戦闘力はほぼ同じぐらいで、闘い方も良く似ている。

 さすがに、ティモさんがするような立体機動戦闘の動きは衰えているようだが、それでも引退後も訓練や狩りで維持して来た身体能力はたいしたものだ。


「だからわたしたちが帰って来た時、ふたりともいつも以上に活き活きしてたんですね」

「あの爺さんたち、ちっとも疲れないんだよなぁ」

「わたしたちが生きてる何十倍も長い間、訓練してますからね」



「それでね、話は変わるけど、エステルちゃんに伝言があるんだ」

「え? アルポさんとエルノさんからじゃないですよね。どなたか来たですか?」

「うーん、来たと言うか、何と言うか」

「なんですか、それ? クロウちゃん、ほらもう眠いんだから、自分の寝床に行きなさい」

「クァァ」


 クロウちゃんの寝床は、俺の部屋とエステルちゃんの部屋のなぜか両方にあって、俺が学院の寮にいる時には彼女の部屋の寝床、俺が屋敷に帰っている時は俺の部屋の寝床で寝ることが多い。

 シルフェ様たちが良く来るようになってからは、シフォニナさんの部屋で寝ることもあるようだ。キミはどこでも行けるからいいよね。クァ。はい、もう寝なさい。



「それで、どなたが来られたんですか? アルポさんとエルノさんからは聞いてませんけど」

「うーん、今日の午前中なんだけどね……」

「わたしたちが、お出掛けしていたときじゃないんですか?」


 ジェルさんたちと明日の外出の相談をした後、訓練場でひとり木剣を振っていた時のことを話す。


「去年から、ごくたまにだけど、あるんだよね。その、アマラ様とヨムヘル様が来ることが。あ、実際に目の前にいらっしゃる訳じゃないよ。あー、えーと、来てるのかな。その辺は曖昧なんだ。たぶん、僕が見えていても、他の人には見えないんじゃないかというような」


 エステルちゃんは、冗談や作り話を聞いているという感じではなく、とても真剣に俺の話を聞いていた。

 だって、彼女自身、真性の風の精霊様がお姉ちゃんになっちゃってるし、上位ドラゴンとか神獣フェンリルとかが身近な存在にいるからね。


「アマラ様とヨムヘル様ですか……」


 俺が前世で、赤ちゃんの時や幼少期に転生させた張本人の向うの神サマに、実際に身近で見護られて育ったことは話していない。と言うか、前世や前々世のことは何も話していないのだけどね。

 だから、神様と俺の関係や俺に使命らしきものがあるとかも、まったく触れたことがない。まあ俺自身も良くは分かってないのだけどさ。



「それでね。アマラ様からエステルちゃんに伝言なんだ」

「えーっ! わ、わたしにですか」


「あ、僕とエステルちゃんが正式に許嫁いいなづけになったことは、アマラ様とヨムヘル様もご存知だよ。これはルーさんが伝えたそうだけど」

「ルーさんが……。ほぉーっ」


「と、と言うことは、えと、わたしのこともアマラさまとヨムヘルさまはご存知なのですかぁ?」

「だから、エステルちゃんに伝言なんだよ」

「ふぇー」


「えと、えと、それってどういうことですかね。神さまというのは、あなたのことをご存知で、いつもあなたのことを見ている、とか、それって現実なんですかね」などと、エステルちゃんはなんだかブツブツ独り言を言っている。



「エステルちゃん、エステルちゃん、聞いてる?」

「は、はいーっ」


「アマラ様からエステルちゃんにこう伝えてくれって。わたしを祀る祠の前で、白銀を翳してわたしに話しかけなさい、って」

「アマラさまをお祀りする祠の前で、白銀を翳して話しかける……。あっ、明日お出掛けする北広場の近くに大きな祭祀のやしろがあるんですよね。それで」


「うん、そこに行きなさいってことだよね」

「白銀を翳して、ていうのは、あの白銀のショートソードのことですよね」


「そうだね。黒銀だけではバランスが悪い。活かすものと滅するもの、両方の釣り合いを取りなさい。だそうだよ」

「それって、白銀のショートソードも使えるようになれってことですか。ということは白魔法」


「そうだと思うよ。白魔法が光魔法のことだけなのか、僕にも良く分からないけど、たぶんエステルちゃんがまだ出来ない聖なる光魔法のことを、アマラ様はおっしゃっているんじゃないかと思うんだ」


「そうですか。わたしが聖なる光魔法が出来ないのを、アマラさまがご存知で。そうですか。アマラさまにお話かけるんですね。そうですか」



 おっと、エステルちゃんがパンク寸前になっているので、これ以上いろいろ言うと会話不能になりそうだよな。

 俺としては、アマラ様がおっしゃっていた「活かすものと滅するもの、両方の釣り合いを取る」という言葉が凄く気になる。


 滅するものが黒魔法で、あの何でも粉々に分解してしまう即死魔法だとして、では活かすものとは白魔法のことだろう。

 しかし、俺がいま使える聖なる光魔法は、アンデッドなどを浄化して消すことが出来るのは分かっているが、それが果たして活かすものということなのだろうか。


 俺にはまだ分かっていない。

 でも、なんだか白魔法というのは、それだけじゃないような気がしている。

 活かすものとは何なのか? 活かすものと滅するものの釣り合いを取るということは、どういうことなのか?

 それは俺にもエステルちゃんにも、やがて理解出来ることなのだろうか。



「ザックさま」

「ん、なに?」

「わたしに、わたしに出来る?」


 ふたり掛けソファで隣に座るエステルちゃんは、俺の肩に頭を乗せてそう言った。

 彼女の甘い香りを直ぐ近くに感じる。


「出来るさ、大丈夫。アマラ様は、エステルちゃんのことも見護ってくれてるよ」

「そうかな。恐くないかな」

「アマラ様って、近所の気のいいおばちゃんみたいな感じだし」

「もう、ザックさまは、直ぐそんなこと言って」


「なにも心配することなんかないよ。さあ、そろそろ寝ようか。明日は朝からお出掛けだからね」

「はい」




 翌朝、朝食をいただき、内リングの外に向けて出発する。

 フォルくんたちには俺たちの外出と留守番を既に申し付けてある。

 彼らは少し不満そうだったが、それでも王都屋敷務めに就いたばかりなこともあって、屋敷での仕事が優先と素直に従った。


 俺とエステルちゃんは外出用の普段着だ。貴族とも裕福な一般とも、どちらにも見えるような衣装だね。

 ジェルさんたちも、それぞれ動きやすさを考えた普段着を着ている。

 それでも女子組は全員がとびきりの美人だから、目立つんだよね。


「それじゃ、行って来るね。帰りは午後過ぎになると思うから、お昼は大丈夫だよアデーレさん」

「はい、承知しました。行ってらっしゃいませ」

「行ってらっしゃいませ」


 並んで見送る4人を見ると、なんだかお母さんと子供たちみたいだね。留守を頼みます。



 貴族屋敷街を抜け、フォルス大通りを右に行く。

 俺とエステルちゃんが手を繋いで歩き、クロウちゃんは上空を飛んでいる。

 レイヴンは結局、ジェルさんとオネルさんが姉妹のように並んで、その後ろにブルーノさん。

 その3人から少し離れて、ライナさんとティモさんが並んで歩く。


「ティモさん、わたしたちも手を繋ぎましょうよー」

「えー、なんでですか」

「いやなのー? 恥ずかしいんでしょぉー」

「声が大きいですって、ライナさん」


 そんなライナさんとティモさんの会話が聞こえるが、無視しましょう。


「ライナは、煩いな」

「今さらですよ、ジェル姉さん」

「どうしたいんだか、ライナは」

「放っておけば、なるようになりますって」


「ティモさんは迷惑がってないのか」

「それほどでもないでやすよ」

「ブルーノさん、そうなのか?」

「まあ、放っておきましょうや。ふたりとも仕事は疎かにしやせんから」


 こっちはブルーノさんがお父さんだよね。それも、年頃の若い娘たちを3人も抱えたお父さんで、大変だ。



 フォルス大通りを暫く進むと、内リングの都市城壁の中と外を隔てる門に着く。

 ここには王都衛兵が多めに詰めていて、外から中に入ろうとする通行者や馬車を厳しくチェックする。

 身元が確かで行き先が明確な者しか通ることは出来ない。

 反対に、外に出る者への対応は比較的緩やかだ。身元を告げて名乗れば、行き先を問われることはない。


 ここだけは一行が集まって、ジェルさんが俺とエステルちゃんの名前と身分、そして5名が護衛であることを申告していた。

 エステルちゃんが俺の婚約者であり、領主貴族に準じる身分として伝えている。

 俺の婚約は、公表とともに王宮内政部にも連絡が行っている筈なので、今後のことも考えてきちんとしておくということだろう。



 何ごともなく門を抜けて、内リングの外の街区へと出る。

 出ると直ぐに内リングの中とは幾分、空気や音が違うように感じた。


「なんだか、空気が違うね」

「風に乗って流れて来る音や匂いも違いますよ」


 エステルちゃんは精霊化の進行なのか、匂いに凄く敏感だからね。

 クロウちゃんが身体を汚して帰って来ると、「臭いですよ、洗って来なさい」といつも叱られている。


「生活の音や匂いってやつかな」

「内リングの中は、商業街はいろんな匂いが少ししますけど、お屋敷の辺りは自然の匂い以外はほとんどしませんからね。でもここは、凄く雑多な匂いが風と一緒に流れて来ますぅ」

「へぇー、そうなんだ」


 フォルス大通り沿いの街並も、門の内と外では随分と違うようだ。


 内側は整然としていて、どの建物も奇麗に整備され美しく飾られてもいるけど、ここから王都外とを隔てるフォルス大門まで真っ直ぐに伸びる街並は、どこか古びて汚れているようでもあり、雑然として見える。

 統一的に造られお金をかけられた街並と、それぞれが勝手気ままに時を過ごしている街並との違いって感じかな。



「ここを左に行きやすよ。暫く行くと北広場に着きやす。問題はないと思いやすが、いちおう気をつけてください」


 ジェルさんとオネルさん、それにブルーノさんが前を行き、俺とエステルちゃんを挟んでライナさんとティモさんが後ろを歩く。それぞれの組が少しずつ間隔を空ける。

 クロウちゃんはずっと空を飛んでいる。

 グリフィニアだと街中でも俺の頭の上かエステルちゃんに抱かれているけど、ここでは凄く目立ちそうだからね。


 フォルス大通りの途中の交差点を左に折れる。中央リング通りと言うそうだが、それほど幅の広い通りではない。

 それに全体で円を描くように緩やかな曲線で伸びる通りなので、見通しはあまり良くないようだ。


 それではブルーノさんの注意に従って、少し気をつけて進みましょうか。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

よろしかったら、この物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

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2021年2月20日付記

本編余話の新作、「時空クロニクル余話 〜魔法少女のライナ」を投稿しました。

タイトルからお察しの通り、あのライナさんの少女時代の物語です。作者としては、どうしても書きたかったというのもありまして。

とりあえず第1章ということで、今回は数話の中編で連載を予定しています。

リンクはこの下の方にありますので、そこからお飛びください。

ライナさんを密かに応援してくれている人も、そうでない人も、どうかお読みいただけますと幸いです。

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