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第331話 今年も始まった王都暮らし

 屋敷の皆に見送られ、そしてグリフィニアの領民の皆さんや例のごとく勢揃いした冒険者連中に見送られて、俺たちは王都へと出発した。


 今回は、ブルーノさんが御する馬車に俺とエステルちゃんにアビー姉ちゃん。それからフォルくんとユディちゃんも乗っている。クロウちゃんはエステルちゃんのお膝ですか。

 騎乗で従うのは、ジェルさん、オネルさん、ライナさん、ティモさんにアルポさんとエルノさん。総勢で12名と1羽と結構な人数だよね。何だか出発する度に増えている。



 グリフィニアの南門を出るところで、フォルくんが御者台に座りたいと言うので許可する。


「僕は小姓ペイジですから、御者が出来るようになりたいです」

「そうか、よし、ブルーノさんにお願いしてみようか」

「はい、お願いします」


 それでブルーノさんに頼み、フォルくんを横に座らせて貰うことになった。

 馬車を操れるようになりたいのもそうだろうけど、馬車の中だと居心地が悪いのかもね。


「外は寒いですから、コートをちゃんと着ないとダメですよ」

「はい、エステルさま」

「ユディちゃんは馬車の中に居なさいね。それから、こらっ」


 クロウちゃんが空に飛び上がり、俺が一緒に御者台に上がろうとして、服の背中を掴まれ引っ張られて叱られた。

 あの、俺はダメですか。そうですか。


 窓から首を出して御者台を見ると、ブルーノさんとフォルくんが並んで座り、なんだか楽しそうに話している姿が見えた。

 昔にアプサラの港町に行った時のことを憶い出す。あのとき、初めて御者台に座らせて貰ったんだよな。あれはもう5年前か。

 馬の御し方を教えて貰いながら、ブルーノさんといろいろ話をしたっけ。そんな想い出がふたりの後ろ姿に重なる。



 いつものように初日は、ブライアント男爵お爺ちゃんの屋敷で1泊だ。


「おお、フォルタとユディタも王都勤めにして貰ったのか。良かったの。尽くせよ」

「はいっ」


「この前は、カートお爺ちゃんとエリお婆ちゃんがお世話になりまして」

「あのふたりとは義理の兄弟姉妹の間柄じゃからな。それなのに14年近くも音沙汰無しにしおって。だから、懇々と説教をしてやったわい」

「いえ、夜遅くまでお爺さんふたりで、お酒を飲んでいただけですよ」


「それで、ヴィンスとはうまく和解出来たそうじゃな。アンから手紙を貰ったが」

「はい。初めて親子孫の三世代で、楽しい時間を過ごすことが出来ました」

「そうかそうか。良かった良かった。これでわしも、ひと安心じゃて」


「それもそうですが、あなた。ザックとエステルさんのこと」

「おおそうじゃ。正式に決まって公表したそうじゃな。良かったな、エステル」

「お目出度う、エステルさん」

「はい。ありがとうございます」


 エステルちゃんは今年に入ってから何人もの人にお目出度うを言われて来たが、それでも恥ずかしげに頬を赤らめた。



「お爺ちゃん、その後の最新情報よ」

「なんじゃ、アビー」

「ヴァニー姉さんにお見合い話が来たの」

「なんじゃと? どこからじゃ」


「それがさ、辺境伯家からなの」

「ふーむ、辺境伯家と言うと長男のヴィクティムか。あれは確かにまだ独身じゃったな」

「お爺ちゃんは、その人のことを知ってる? 姉さんは、王都でお会いしたことがあるらしいけど」


「わしは直接会ったことは無いが、しっかりとした男だとは聞いておる。それで、ヴィンスはどうしたのじゃ」

「ザックとエステルちゃんが、その場にいたのよね」

「うんまあ、使者のオーレンドルフ準男爵がその話を持って来た時は、それは大変だったんだけど、結局、姉さんが行くと言うので、母さんと3人で辺境伯家に行くことになったよ」


「ヴィンスは、娘のことが大好きじゃからな。それは大変だったじゃろうて」

「でも、まとまればいいお話だと思いますよ、ねえあなた」


「そうじゃな。そうすれば辺境伯家とも姻戚関係じゃしの。これで、隣り合う3つの領主が親戚じゃから、それは心強い。よしっ、わしが仲人をするぞ」

「あなた、ザックとエステルさんの仲人もするって、言ってたわよね」

「それは当たり前じゃ」


 相変わらずの先走り爺さんだけど、まずは本人同士がうまくいかないとだよね。

 うちの父さんなら、政略的な目的なんかで絶対に娘を嫁にやらないだろうからさ。




 翌々日、王都屋敷に到着した。

 事前に報せておいたので、屋敷のメンテナンス関係を任せているソルディーニ商会の王都支店長が、アデーレさんとエディットちゃんと共に待っていた。


 フォルくんとユディちゃんが馬車から降りると、エディットちゃんが駆け寄って来た。

 同い年の女の子ふたりが、互いの手を取って踊るようにぴょんぴょん跳ね、フォルくんが嬉しそうにその姿を見守っている。


「ザカリー様、アビゲイル様、エステル様、お帰りなさいませ。グリフィニアの本店から既に指示が届いておりまして、アデーレとエディットの当商会との契約を解除し、また本人たちの同意も取り、グリフィン子爵家の直接雇用とする旨の書類を作成してお持ちいたしました」


「うん、ありがとう。確かに書類は受け取りました。引き続き、屋敷の保守関係はお願いしますね」

「それは勿論でございます。ザカリー様、こちらにサインを。はい、確かにいただきました。それでは私はこれにて」


 屋敷の修繕や備品、消耗品の調達、庭の手入れなんかは、引き続きソルディーニ商会に任せることになっている。

 支店長さんが持って来た書類に目を通してサインをすると、彼は支店に帰って行った。



 荷下ろしをして馬車を格納し、馬小屋に馬を入れて世話などが終わってから、全員にラウンジに集まって貰う。

 アデーレさんとエディットちゃんが合流したので、総勢で14名と1羽だ。


「みんな、お疲れさま。それから、アデーレさんエディットちゃん、ただいま」

「お疲れさまでした」

「お帰りなさいませ」


「もうとっくに知っていると思うけど、あらためて発表します。まず、これまでグリフィニアの屋敷で勤めていたフォルタとユディタが、王都屋敷勤めとなりました。ふたりは僕が預かっている子たちで、フォルくんは小姓ペイジでユディちゃんは侍女だよ。はい、みんなに挨拶して」


「ザカリーさまとエステルさまの小姓ペイジを務めるフォルタです。これからは王都屋敷の一員として、よろしくお願いします」

「ザカリーさまとエステルさまの侍女のユディタです。兄ともども、よろしくお願いします」


「おお、しっかりした良い子たちぞ。それに、良く鍛えられているようだ」

「竜人で双子の兄妹ですの。ザカリー様とエステル嬢さまの配下じゃて、わしらの同僚ぞ。仲良く励もうな」

「はいっ」


 アルポさんとエルノさんは新しい孫でも出来たような表情で、とても嬉しそうだ。

 でもこの爺さんたちは、じつは闘いになると恐い爺さんだからね、仲良くして鍛えて貰うんだよ。



「それから、アデーレさんとエディットちゃんだね。これまでは、ソルディーニ商会からの派遣で来て貰っていたのだけど、今日からグリフィン家の直接の雇用となりました。つまり、正式にわが子爵家の一員となった訳だ。エディットちゃんは、ユディちゃんと同じ侍女。それからアデーレさんは、アン母さんの発案で王都屋敷料理長に就いて貰うことにしました」


「えっ、ザカリー様、それは。私なんかが料理長だなんて」

「まあ、部下がいないんだから、仕事自体はこれまでと変わらないしさ。でも、母さんが昨年食べた料理がとても美味しかったって、だから料理長になって貰いなさいだって。ねえ、エステルちゃん」


「はい、わたしもお母さまの案に直ぐに賛成しましたよ。この屋敷がアデーレさんの居心地の良い居場所になるように、どうか受けてくださいね。お願いします」

「お願いしますだなんて、エステル様。お願いしなければいけないのは、私の方ですよ。わかりました。いただいた肩書きに恥じないように、もっともっと美味しいお料理を作らないと」



 それからエステルちゃんは、アデーレさんにエディットちゃん、フォルくんとユディちゃんの4人を集めて、これからの仕事の分担などの相談をする。

 双子のふたりは、昨年に父さんたちと来た時に屋敷内の様子は理解しているが、あらためて確認も行うそうだ。部屋も決めてあげないとだよね。

 その辺はぜんぶ、エステルちゃんに丸投げだけど。


 さて俺は、他のメンバーに少しお願いをしておかないとだね。アビー姉ちゃんとクロウちゃんは、その辺で適当にしていてください。カァ。


「あんた、ずっと気になってたんだけど、そんな足輪って前からしてたっけ?」「カァ」「秘密って、教えてくれてもいいじゃん」「カァ」「そのうちねって、ケチ」とかの会話が聞こえるが、姉ちゃんてクロウちゃんと話せるんだ。さすが野性人だな。



「それで、ジェルさんはじめみんなにお願いというか、注意をして貰いたいんだけど」

「なんですかな、ザカリー様」

「あのふたりのことなんだけどさ。フォルくんとユディちゃん」

「竜人ということですな」


「そうなんだよ。ウォルターさんからも注意するように言われているんだけど、王都って獣人が少ないし、ましてや内リングの中で、それに竜人だからさ」

「屋敷の中にいる分にはいいとして、屋敷の外に出る場合ですね」

「そうねー、オネルちゃんの言う通り、外は要注意よねー」


「なんぞ、あの子たちが攫われるとでも言うのかいの」

「だってー、ただでさえ竜人は珍しいのよー。それが可愛い双子の兄妹でいたらさー」

「狙うやつが現れぬとも限らん、と言うことか」



「そもそもがアプサラで、ザカリー様があの子たちを見つけて助けたんだからねー」

「そうであったのかいの。それは気をつけんとだの」

「まああの時は、向うが引いて戦闘にはならなかったがな」


 ジェルさんとライナさんが、詳細をあまり知らなかったアルポさんとエルノさんに、ざっとその時のことを話した。

 そして、どうしてふたりが北方から逃げて来たのかの話になると、ふたりの爺さんは頭から湯気を出して怒り始めた。


「よし、わしらが北方に潜入して、あの子たちの両親を捜すぞ。なあエルノ」

「おうよ。ついでに北方帝国のやつらを、何人か仕留めて来ようぞ」


 まあまあまあ。はい、どうどうどう。落ち着いてくださいよ。身内への情に厚い爺さんたちだけど、どうも血の気が多くて困る。



「グリフィニアに来てから騎士団で剣術を稽古して来たし、僕も剣術と魔法を鍛えて来たから、たいていの人族になら負けないし、やすやすと攫われたりはしないと思う。でも、目を付けられて何かあると嫌だし、それにこの王都の街中で戦闘とかになると、どんな罪を被せられるとも限らないからね。そういうのは出来るだけ避けたいんだよ」


「当家を嗅ぎ回るやからが、目をつける可能性もありますね」

「ティモさん、そうでやすな。よりいっそう気を配らないとでやすよ、ジェルさん」


 調査探索担当のふたりも注意を促した。


「わかりました。当面はふたりだけでの外出は、させないようにしましょう。必ず我らの誰かが付きます。できれば、エステル様と一緒で、我らが護衛に付くというかたちが良いですな」

「そうだね。その辺のところはジェルさんに任せます」

「了解いたしました」



 ともかくも、こうして新しいメンバーが加わった王都での暮らしが、また始まった。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

今回から第九章です。

よろしかったら、引き続きこの物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

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2021年2月20日付記

本編余話の新作、「時空クロニクル余話 〜魔法少女のライナ」を投稿しました。

タイトルからお察しの通り、あのライナさんの少女時代の物語です。作者としては、どうしても書きたかったというのもありまして。

とりあえず第1章ということで、今回は数話の中編で連載を予定しています。

リンクはこの下の方にありますので、そこからお飛びください。

ライナさんを密かに応援してくれている人も、そうでない人も、どうかお読みいただけますと幸いです。

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