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第325話 プレゼントイベント

「これはエステルちゃんへのお土産じゃ」


 そう言ってアルさんが手に取ったのは、ふた振りのショートソードだった。



「えと、これはたしか、白銀と黒銀のショートソードとかいう名前でしたぁ」

「そうそう。この2本の剣は、元になっている材料は少々異なるが、言わば姉妹の剣じゃ」

「へぇー、エステルちゃんとシルフェ様みたいだね」

「そなんですか」


「これって、白銀と黒銀という名前が付いてるけど」

「ミスリルじゃよ」

「ひゃぁー」


 ミスリルってあるんだ。たしかに白銀という名の方は、鞘から抜いてみると銀のように輝いているが、その白い輝きが尋常ではない。

 それから、黒銀? 黒いミスリルってあるの?


「こっちの黒い方は、黒曜ミスリルじゃな。ほれ、このように黒曜石のごとく黒く輝き、しかもミスリルとしてはいちばん硬い」


 黒銀の方をアルさんが抜き、それを部屋の灯りにかざす。

 俺が手にする白ミスリルは眩く輝き、黒曜ミスリルは鈍く、しかし重い存在感を持って輝いている。


 俺とアルさんは、そのふた振りのミスリルのショートソードを、エステルちゃんの両手に持たせた。

 ほぉー、とか言いながら彼女は両手に握られた剣を高く掲げ、見比べている。



「この剣って、魔道具なんだよね。あっちの火焔の剣と氷晶の剣は、名前からして働きがなんとなく想像がつくけど」

「ほっほっほ。このふた振りのショートソードはの、なんでも白い方は白魔法、つまり光魔法を増幅させて放ち、黒い方は黒魔法を同じく増幅させるものなのじゃそうな。もちろん剣としても、そこらのものなど比較にならん強さを持っておるがな」


「白魔法と黒魔法を増幅させるって、この剣自体が魔法を放つってことじゃないの?」

「おう、さすがはザックさまじゃ。まさにその通り。白魔法と黒魔法が使えん者にとっては、ただの剣じゃ」


 ただの剣と言っても、伝説の金属ミスリル製の剣ですよね。それだけでも凄い価値だと思うけどなあ。


「だから、エステルちゃんか」

「そうですじゃ。黒魔法と光魔法を訓練しておる、二剣使いのエステルちゃんだからこその剣じゃな」


 まあ、普通の人で黒魔法や光魔法を使える者は、この世界にはいないと言われているけどね。

 だから例えば人族にとっては、アルさん言うところのただの剣でしかない訳だ。

 だけどエステルちゃんが使えば……。


「それって、もしかしてエステルちゃんも、あの白銀の方で、聖なる光魔法が使えるようになるかもってこと?」

「そうじゃの、その可能性は充分にある。訓練次第じゃな。黒銀の方は、おそらく直ぐに使いこなせるようになるじゃろ。あれで斬れば、黒魔法で相手は粉々に分解じゃ。ふぉっほっほ」


 ひょぉー、ですよ。たしかに、エステルちゃんはある程度、即死系の黒魔法を既に使えるらしいから、それが増幅されてひと振りの斬撃で粉々に分解ですか。

 あまり人を斬らせたくはないけどさ。



 あとの魔道具武器類はレイヴンのメンバーへのお土産だ。

 ところで、拡声の石と障壁の石はおまけだそうだ。アルさん言うところのガラクタの山に転がっていたので、役に立つかなと思って持って来たのだとか。

 拡声の石と言えば、冬至祭の時に父さんに見つけてあげると言った拡声の魔道具だよな。これは貰っておきましょう。


「それから、このマジックバッグは?」

「これもレイヴンの皆へのプレゼントですぞ」

「いいの?」

「いいですぞ。あともうふたつ3つあった気がするし、わしは使わんからの」


 だいたいアルさんは、魔道具自体、何も使わないでしょうに。

 これって集めたらそれで満足する、所謂収集癖というやつなんだろうな。


 と言うことで、出した魔道具をマジックバッグの中に再び入れる。

 ああ、吸い込まれるように中に消えるのは、俺の無限インベントリと良く似てるね。

 入れてしまうと、バッグの中に手を突っ込んだ時に、確かに入っている物の名称が頭の中に浮かんで来る。


 まだ剣を掲げてふほぉーとか言っているエステルちゃんに、剣を鞘に納めさせてアルさんの部屋を辞去した。

 レイヴンの皆にプレゼントするのは明日だね。




 翌朝、朝食を済ませたら魔法訓練場に集合するように、レイヴンメンバーへの伝言を頼んでおいた。

 今日は午後からシルフェ様たちは、エステルちゃんと母さんや姉さんたちを連れて、グリフィニアを見物がてら買い物に行くそうだから、午前中は暇だ。

 もちろん護衛はジェルさんたちなので、ちょうどいい。


「ザックさんは、これからどうされますの?」

「うん、魔法訓練場でエステルちゃんと日課の訓練。(ジェルさんたちに、アルさんのお土産をプレゼントするんですよ。昨晩確認したけど、ものがものなので、父さんたちには内緒で)」


「(あら、またアルは何を持って来たのかしら。わたしも見たいから、ザックさんの訓練を見学ということで。いいわね、シフォニナさん)」

「(わかりました、おひいさま)」


「では、わたしも少し見学させて貰いましょうかしら。お出掛けは、お昼のあとですわよね、アンさん」

「はい。それまでに、わたしも用を片付けておきます」



 それで、俺とエステルちゃんは精霊様とドラゴンを連れて昨日に続き、子爵館の果樹園の奥にある子爵家魔法訓練場へと行った。

 なになに? クロウちゃんは貰った足輪を試してみたいの? カァ。


 魔法訓練場の入口に着くと、レイヴンのメンバーが集まっていた。

 エステルちゃんが鍵を開け、皆を入れて中から鍵を掛ける。


「エステルさま、鍵を掛けるのですか?」

「誰も中に入れたくないんですよぅ」

「えー、何かヤバいことでもするのー?」

「シルフェ様たちも一緒ですし、秘密の匂いがしますよね」


 俺とエステルちゃんの許嫁いいなづけが正式に発表されてから、エステルちゃんは様付で呼ばれるようになった。

 彼女自身が随分と戸惑っていたが、さんが様に変わっただけでレイヴンの皆の接する態度は特に変わらない。仲間だからね。



「アルさんがお土産を持って来てくれているって、もう聞いてるでしょ。それのお披露目だよ」

「やったー」

「こら、ライナ」


「ほっほっほ。ライナ嬢ちゃん、待ってなされ。いま出しますからの」

「アルったら、何を持って来たの」

「お土産はこの中じゃ」


 そう言ってアルさんは肩から下げたショルダーバッグを、テーブルの上に置く。


「えー、このバッグの中ってことは、あまり大きい物はないわよねー」

「まてまてライナ嬢ちゃん、慌てなさるな。いま出しますぞ」


 アルさんはバッグの口から手を中に突っ込むと、次々に魔道具の武器を取り出してテーブルに並べて行った。


「ほぉー」「ひゃー」「ふぉー」


 テーブルを囲む皆は、口をあんぐり開けて並べられて行くそれらを見ていた。



「さあ、皆にひとつずつじゃ。わしからの土産じゃが、ここはザックさまから渡していただくぞ」

「え、僕から?」

「そうじゃ。家臣に何かを授けるのは、あるじたるものの務めじゃからな」

「うん、わかった」


「まずは、ジェル嬢ちゃんじゃ」


 はいっと大きく返事をして、ジェルさんが俺の前に立った。


「ジェル嬢ちゃんにはこれじゃ。火焔の剣じゃの」

「ジェルさん、いつもありがとう。これを貴女あなたに授けます。この剣をもって敵を断ち、皆を護ってください」


 片膝を地に突くジェルさんに、鞘に納まっている火焔の剣を渡す。彼女は両手でそれを受取った。


「これは、キ素力を込めて斬れば火焔とともに相手を断つ剣じゃ。その使い方を習熟しなされ」

「なんとぉっ! 火焔の剣、ですか。ありがたき幸せ。しかし私には、なんとも勿体ない」



「よいよい。次はオネル嬢ちゃんじゃぞ」

「はいっ」


「オネル嬢ちゃんには、氷晶の剣じゃ」

「オネルさん、仲間になってもう1年だね。この剣を貴女あなたに授けます。ますます精進し、これからも僕たちと共にあってください」


「氷晶の剣は、ジェル嬢ちゃんの火焔の剣と同じく、キ素力を込めれば氷の斬撃を出すことが出来る剣じゃ」

「あ、ありがとうございます。まだわたしは、とても未熟なのに。でも、精進します」


 激烈な斬撃を振るうジェルさんに火焔の剣。そして、冷徹な突きの一撃を得意とするオネルさんには氷晶の剣と、昨晩にアルさんと相談した結果、このようにした。

 ふたりとも使いこなせるようになるだろう。



「次はブルーノさんじゃ。ブルーノさんには、雷撃の弓じゃ」

「自分にもでやすか」


「ブルーノさん。僕が幼い頃から本当にありがとう。この弓をブルーノさんに授けます。まだまだ僕たちを導いてください」

「ザカリー様。自分などのような者に……」


「雷撃の弓はその名の通り、キ素力を込めて放った矢が、雷撃を伴って狙った的に当たる、一撃必殺の矢じゃ。風魔法が使えるようになったと聞いておるので、合わせれば無敵じゃぞ」

「ははっ」


「次はライナ嬢ちゃん」

「はいはい、わたしの番ねー」

「嬢ちゃんには、これじゃ。重力可変の手袋」

「??」


「ライナさん。レイヴンはあなたがいたから、ここまで続いて来られました。この手袋を貴女あなたに授けます。これからも、貴女あなたらしく僕たちを助けてください」

「それは勿論だけどぉ。この手袋って??」


「その重力可変の手袋はの、重さを変えられる手袋じゃ。手で触れたものを重くも軽くも出来るし、使い方によっては、自分自身やその力を重くも軽くも出来る。あとでわしが、使い方を教えて進ぜよう」


「ライナちゃん、それって人族にとってはとんでもない魔道具よ」

「えっ、そうなんですかー。取りあえずアルさん、ザカリーさま、ありがとう」



「さて、最後はティモさんじゃな」

「わ、私は滅相もない」

「ティモさん、せっかくですから、いただいておきなさい」

「は、はい。エステル嬢さま」


「ティモさんにはこの剣。これは加速のショートソードじゃ」

「はっ」


「ティモさん。僕は、ティモさんがレイヴンのメンバーになって嬉しかった。ティモさんにこの剣を授けます。これからも僕とエステルちゃんをよろしく頼むね」

「ははっ。ありがとうございます」


「そのショートソードはの、キ素力を込めて振るえば、人族などでは目で捉えることなぞ出来ぬ速さで相手を斬る。もし仮に投げれば、光のごとき速さで狙ったものを貫く。そんな剣じゃ。使いこなしてくだされ」


 超高速版の居合いの技が使えたりするのかな。ティモさんも高速移動が出来るし、闘いの幅が広がるよね。



 こうして、レイヴンメンバーへのアルさんのお土産プレゼントイベントは終了した。


 みんなそれぞれ貰った武器を試してみたいようだが、ライナさんだけ左右両手用の重力可変の手袋を手にして首を傾げている。

 あれは俺もかなり興味があるんだよな。アルさんに早速教えて貰いましょうよ。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

よろしかったら、この物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

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2021年2月20日付記

本編余話の新作、「時空クロニクル余話 〜魔法少女のライナ」を投稿しました。

タイトルからお察しの通り、あのライナさんの少女時代の物語です。作者としては、どうしても書きたかったというのもありまして。

とりあえず第1章ということで、今回は数話の中編で連載を予定しています。

リンクはこの下の方にありますので、そこからお飛びください。

ライナさんを密かに応援してくれている人も、そうでない人も、どうかお読みいただけますと幸いです。

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