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第320話 辺境伯の使者

 お爺ちゃんとお婆ちゃんは、それから1月いっぱい8日間ほど滞在して屋敷を後にした。


 その間にお爺ちゃんは、父さんにウォルターさん、クレイグさんらを交えて話し合ったり、主要ギルド長が訪ねて来たり、騎士団に行って訓練を見学したりしていた。

 お婆ちゃんも母さんや姉さんエステルちゃんと、例の領主夫人になる勉強会という名目の女子会をしたり、昔なじみの奥様方が訪ねて来てお茶会などを開いていた。


 おふたりだけで、14年振りのグリフィニア散策もしたようだね。

 そういう時には普段はどこに居るのか分からないセリヤさんがちゃんと付き従い、俺もジェルさんたちレイヴン女子組に指示して、護衛とお供をして貰った。


 あと、騎士団や内政官の主立った人、古くから子爵館にいる人などが参加して、内輪だけで歓迎会も開いた。

 ブルーノさんと庭師のダレルさんに冒険者ギルド長のジェラードさんとエルミさん、それにエルミさんの妹で現役冒険者のアウニさんと、かつてのグリフィニアでトップの冒険者パーティメンバーが顔を揃えた。5人が揃うのは、やはり10年ぐらい振りなのだそうだ。

 あと、ジェルさんたちレイヴンにアルポさんエルノさんと、王都屋敷のメンバーも参加したよ。


 こうして8日間が過ぎ、お爺ちゃんとお婆ちゃんは再び旅に出る。

 このあとは港町アプサラに行って、今回は王都経由ではなく船を乗り継ぎながらミラジェス王国の王都ミラプエルトまで行き、そこから自分たちの住む村に戻ると言う。

 ミラプエルトは港湾都市だそうだから船で行けるんだね。

 それにしても船旅か、いいなあ。冬でこっちはかなり寒いけど、ミラジェス王国方面の海は温暖なのだそうだ。


 アプサラまではやはり乗り合い馬車で行くといってうちの馬車を断り、「次回は夏にでも」とセリヤさんも加わった3人で飄々と去って行った。

 そういうところはグリフィン家の男の伝統で、お爺ちゃんも相変わらず意地っ張りなんだな。

 もちろん、ミルカさん指揮の調査探索部員が陰護衛をしてるけどね。




 2月に入り、父さんと母さんに俺とエステルちゃん、それからウォルターさんも交えて王都屋敷の使用人の件を相談した。

 もちろんエステルちゃんとは事前に話をしていますよ。カァ。

 クロウちゃんは遊びに行くのね。はい、行ってらっしゃい。カァ。


 と言うのも、まずボドワン先生の王都行きが正式に決まったからだ。

 先生は俺と話した後、直ぐにセルティア王立学院の教授就任を受ける旨の手紙を出したそうで、その了承と出来れば入学試験が行われる2月15日前後ぐらいに来られたし、という学院からの返事を受取っていた。

 なので彼は、10日過ぎにはグリフィニアを立つことになる。


 一方で俺とエステルちゃんは、フォルくんとユディちゃんの意志を既に確認してある。

 父さんと母さんの了解が貰えれば王都に連れて行きたいと話すと、ふたりは跳び上がって喜んだ。ドラゴニュートの短い尻尾がフルフルと振れている。

 ボドワン先生が卒業試験をすると言うので、いま兄妹は猛勉強中だ。まあひとつの区切りとしてはそれもいいよね。



「そういうことで、ひとつはフォルくんとユディちゃんを王都屋敷に連れて行きたいんだ。それから、アデーレさんとエディットちゃんを直接雇用にしたいんだよ」


「そうか、それはエステルさんも賛成なんだな」

「はい、子爵さま。わたしもザックさまの案に賛成しています」

「その、エステルさん。俺のことは、アンと同じように、例えば、お父様とか」


「わたしにはもう、そのことで煩いのよ。お父さまって呼んであげてくれないかしら」

「はい、……お父さま」

「うん、うん、エステルが、あ、エステルでいいよな。エステルが賛成なら、俺に反対はないぞ。どうだ、ウォルター」


 娘に大甘のヴィンス父さんに娘が増えた訳で、お父様と呼んで貰えればそれで反対の意思は無いようですな。


「はい。そもそもフォルタとユディタはザカリー様がお預かりになっていますし、ザカリー様とエステル様の小姓ペイジと侍女ですので、ザカリー様のご意思のままに。ただし、王都は獣人族が少なく、ましてや稀少な竜人であることをお忘れなきように」


「うん、そうだね。グリフィニアにいると忘れてしまいそうだけど、そこは大切なところだ。充分に気をつけるよ。ね、エステルちゃん」

「はい。普段はわたしの身近に置きますが、ジェルさんたちともそこはしっかり相談しておきます」


「あと、ソルディーニ商会から派遣して貰っている、アデーレさんとエディットの件ですが。こちらも、この1年でのザカリー様とエステル様のご判断ということでしたら、私に異存はありません。子爵様と奥様のお考えはどうでしょう」


「そうだな。昨年秋に王都屋敷に滞在して接した限りでは、この屋敷の侍女と遜色が無かったようだが、アンはどうだ?」


「ええ、エディットさんは、エステルに良く教育されているようでした。それから、アデーレさんの料理は絶品だったわ。エディットさんは侍女に、アデーレさんは王都屋敷の料理長でどうかしら、エステル」

「はい、賛成です、お母さま」


「アンとエステルがそう言うなら、それで良い。ソルディーニ商会には、ウォルター、よろしく頼むぞ」

「承知しました」



「あと、ザック。おまえに頼むのも少し変なのだが、ボドワンのことをよろしくな。あの人のことだから、心配は無いと思うが」

「僕がどれだけ先生の役に立てるかわからないけど、もちろんだよ。僕の恩師だから」


 ボドワン先生、そして筆頭内政官のオスニエルさんは父さんの学院生時代の先輩だ。

 ヴァニー姉さんが5歳になった時に家庭教師として招聘したから、12年もこのグリフィニアで暮らしていたことになる。

 それが久し振りの王都生活となる訳だが、父さんの言うように心配は無いと思うけど、何かあって僕が力になれることならどんなことでも助力するつもりだよ。



 俺が話した王都屋敷案件も決まり、そんな話をしていると領主執務室のドアがノックされた。


「誰だ?」

「コーデリアです、子爵様」

「コーデリアさんか、入っていいぞ」

「失礼します」


 家政婦長のコーデリアさんだった。いつも冷静な彼女がなんだか少し困惑しているようだけど、何かあったのかな。


「どうしたの? コーデリアさん」

「はい、子爵様、奥様。今しがた先触れが参りまして、モーリッツ・キースリング辺境伯様のご使者がご訪問されたいと。既にグリフィニアにはご到着されているそうです」


「何だと? それは随分と急な話だな。それで、訪問されるご使者はどなたと言っていた?」

「ベンヤミン・オーレンドルフ準男爵とのことです」

「何? ベンが来ているのか。わかった。お待ちしていると、先触れに伝えてくれ」

「承知いたしました」


 ベンヤミン・オーレンドルフ準男爵とは、キースリング辺境伯に属している準男爵だよね。そう、ブルクくんのお父さんですよ。

 父さんがベンと言ったように、古くからの知り合いで仲も良いらしい。


「辺境伯領に何かあったのかな。ウォルターは何か知っているか?」

「いえ、こちらには特に変事の情報はありません。私にも皆目分かりませんな」


 調査探索部長を兼ねているウォルターさんが知らないということは、辺境伯領や国境とかに何かがあったということではないのだろうけど。


「ザックはベンの息子さんと同級生で、同じ課外部だったよな。エステルも息子さんを知ってるのだろ? ふたりも同席しなさい」

「そうね。エステルをベンヤミンさんに紹介しないといけないし」



 と言うことで、俺とエステルちゃんも一緒に玄関ホールで待っていると、屈強な雰囲気の背の高いブロンドヘアの男性が、護衛とお付きを従えて正面玄関を入って来た。

 おお、なかなか鍛えておられますね。ブルクくんに良く似ていらっしゃる。確か父さんよりは少し年下だった筈だよな。


「おお、ベン、随分と久し振りだ。良く来たな。どうした」

「これはヴィンス兄、アナスタシア様、突然の来訪で申し訳ありません。もっと早くにご連絡すれば良かったのですが」

「まあそれは、来てしまったのだから良い。辺境伯領に何かあったのか?」


「いえ、特に辺境伯領に何か、と言うことではないのですが……」

「ふーん、まあ座って話を聞こう。ああ、その前に紹介しておこう。これはザックだ。それから隣にいるのがエステル。このたび、ザックの許嫁いいなづけとなった」


「初めまして、ザカリー・グリフィンです」

「初めてお目に掛かります。エステル・シルフェーダです」


 エステルちゃんは、とても美しいカーテシーで挨拶をした。

 これまで、そんな姿は滅多に見たことがなかったのだが、これは母さんとかに相当仕込まれておりますな。


「君がザカリー殿か。うちのブルクがとてもお世話になっているそうで。息子は王都から帰って来ると、君の話ばかりしてね。それから、あなたがエステル様ですか。なんともお美しい。ブルクから、あなたのお話も聞いておりました。許嫁いいなづけになられたとは、それはお目出度うございます。エステル・シルフェーダ様、そうか、シルフェーダ家の」


 それほど口数の多くないブルクくんと比べると、随分と気さくなお父さんなんだね。

 でも、この世界の貴族って、良くも悪くもそうなんだよな。



 それから玄関ホール近くの応接ラウンジに場所を移して、急な訪問の用件を聞くことになった。

 俺とエステルちゃんもその流れで同席する。オーレンドルフ準男爵に確認すると、俺とエステルちゃんにもいてほしいそうだが、いったい用件は何なのだろう。


 準男爵は、文官らしきお付きの人をひとりだけ応接ラウンジに従え、その人はソファには座らず立っている。

 こちらはウォルターさんさんが同席し、同じくソファに座る俺たちの後ろに立って控えた。


「それでは用件を聞こうか」

「今日は、うちの辺境伯の使者として来ました」

「そのようだな」

「それでですね、まずはこの辺境伯からの手紙を、ご一読いただけないでしょうか」


 オーレンドルフ準男爵、いやベンヤミンさんはそう言って背後に近寄った文官から書状を受取ると、それをヴィンス父さんに手渡した。


「なんだ、あらたまって。辺境伯様からのお手紙だな。では拝読しよう」


 父さんはそう言って書状を開き、読み始めた。

 すると、徐々に顔色が変わり表情が険しくなる。そして書状を持つ手がブルブル震え出した。


 手紙を読んで父さんの雰囲気が変化するのは先月に続いて二度目だが、前回はとても静かでかつ万感の想いによる変化だった。

 だが今回は、だいぶ違うぞ。父さんの顔は真っ赤に紅潮し、目が怒りに染まっている。

 おい、何が書いてあるんだ。アン母さんとエステルちゃんも、心配そうに父さんを見つめる。


 そして父さんは、爆発しました。


「ぐぬぬぬぅ……。娘は、ヴァニーは、誰にもやらんぞおぉっ」



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

よろしかったら、この物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

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2021年2月20日付記

本編余話の新作、「時空クロニクル余話 〜魔法少女のライナ」を投稿しました。

タイトルからお察しの通り、あのライナさんの少女時代の物語です。作者としては、どうしても書きたかったというのもありまして。

とりあえず第1章ということで、今回は数話の中編で連載を予定しています。

リンクはこの下の方にありますので、そこからお飛びください。

ライナさんを密かに応援してくれている人も、そうでない人も、どうかお読みいただけますと幸いです。

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