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第311話 地下墓所へ

「もうお昼頃かな」

「お昼時は過ぎてるんじゃないですか? お昼ご飯にしますか? ザックさま」

「そうだね。ここも随分とキレイになったし」



 泥沼坊(仮)やレヴァナントを消滅させて、精霊様たちと浄化作業を引き続き行った。

 結構、時間がかかりました。

 なにしろ、水の循環が無いところで800年間かけて汚されて来たらしい水だ。

 自然に浄化されるには、同じく何百年、いや何千年もかかるかも知れないところを、真性の水の精霊様の力でごく短時間で行ったのだから、もの凄い回復速度ということなのだろう。


 この広い地下空間に点在する幾つもの小さな沼は、すべて透き通る水となった。

 ただしこのままだと、また年月が経つにつれて汚れて行ってしまうので、地中で断たれている水脈と繋げるとニュムペ様は作業を続けた。


「水脈を遮断していたものは何なのですか?」

「わたしは言いにくいのですけど、これは水の精霊の力を悪用した、言ってみれば呪いなのです」

「呪い?」


「水の精霊なら水を通す、風の精霊なら風を通すのが普通のなのだけど、その力を逆に使うと通っているものを止められるのよ。だけど、精霊がそれをしちゃうと、呪いになってその場に留まり続けるって訳ね。まあ、ここを造った時に、手を貸した子たちがそんなことをしたんでしょ」


「どうして、そんな呪いを?」

「どうしてかしらね。ニュムペさんの妖精の森が近くにある、水の豊富な大地だったから、この地下が水で溢れるのを防ぎたかった? いえ、それだけじゃないのよね、きっと」


「とにかく、わたしの配下だった者たちのしたことですから、呪いを解いて近くの水脈に繋げます。大量の水が漏れ出すなんてことにはしませんから」



 こうして浄化作業を終えた後に、ニュムペ様が遮断していた呪いを崩してそれぞれの沼と地下水脈を繋げ、すべての沼は湧水池となった。

 これでようやくひと段落し、お腹も空いて来たという訳だ。


 空気も浄化され、アンデッドも消滅灰になって臭いも無くなったので、結界は解除している。

 と言うことで、お昼のお弁当ですね。じつは念のために、2食分のお弁当を無限インベントリに収納して来ましたよ。


 今朝、暗いうちに屋敷を出発する前、朝食と合わせて全員の3食分を用意して貰ったので、アデーレさんとエディットちゃんは大変だったのだ。

 エステルちゃんは勿論、レイヴン女子組の3人も手伝って、朝からわいわいやっていた。



「ホント、うちの大将は便利よねー。各自が糧食とか持ち歩かなくて済むんだから」

「そうですね。荷運びを一手に賄う指揮官って、騎士団的には最高ですよね」


「その能力って、他の人にもどうにかならないのー、ザカリー様」

「えー、たぶん無理だなぁ。何故かは言えないけど。でも、マジックバッグとかいうのがあるんじゃないの」

「マジックバッグなんて古代魔導具よー。そんな稀少なもの、見たことないわー」


「マジックバッグかの。わしのところに、そんなのがあったかも」

「アルたちドラゴンは、自分じゃ使わないくせに、そういうのを集める癖があるわよね」

「そ、そんなことはないぞ。使えるものがあれば、使うわい」


「えー、アルさんのとこにマジックバッグとか、そんな魔道具があるのー? こんど持って来てー」

「こら、ライナっ」

「ライナ姉さんは、もう」


「ほっほっ、ライナ嬢ちゃんたちになら、何か持って来てあげても良いぞ」

「やったー」

「カァ」


 龍は宝物が好きで、集めて来ては自分の棲処に収蔵すると言うが、この世界のドラゴン族もそうなんだね。

 それから、ライナさんとクロウちゃんは、もう何かを貰うつもりですか。凄く喜んでるけどさ。




「さて、お昼も済んだことだし、少し休んだら先に進むよ」

「はーい」


「しかし、どうしてこんなところに穢れた沼があったのかな」

「3本の通路のどれにも、途中にこのような汚れた場所があるのかのお」

「でも、ニュムペ様が水を感じたのは、ここだけだったんですよね」


「と言うことは、他の通路を行くと、別の何かが穢れているとか?」

「お水じゃないとすると、何でしょ。でも、汚くて臭いのは確実ですよ、きっと」

「わたしは、四元素に関係がある気がするわ」

「四元素て言うと、ここがお水だから、あとは風か土か火ですよね、お姉ちゃん」


「そう、そのうちで火は腐らないとしたら、あとは風と土かしらね」

「ここの汚水はどうやら毒素のある泥水のようだったから、風と土に毒素か。そうか風はガスかも」

「がす、ですか? ザックさま、なんですか、それ」


 あ、この世界だと、ガスって言葉は分からないか。えーと、身近な例えで言うとすると、放屁的な? いやいや、食後のひとときですから、女子たちからブーイングですぞ。



「つまり、空気とは違う空気みたいなのとか、空気の中に違う成分が混ざっていて、それが毒だったり、燃えやすいものだったり」

「???」

「ここは清浄な水脈から遮断されて、毒を含んだ穢された水が溜まっていた訳よね。とすると、風の場合だと、きれいな空気の流れが断ち切られて、もしかしたら毒が充満しているとかになるわ」


「そうですわ、おひいさま。何か扉とかで閉ざされていて、それを開けると毒の混ざった風が吹き出すとか」

「そうだとすると、わたしたちなら一発でやられちゃいますぅ」


「土だとどうなのじゃ? 土の恵みは、良い水と空気からもたらされる。水が無く、空気も穢れているとすると、カサカサの汚れた土かの」


「土から水が無くなると、大地は砂漠というものになります。こちらのニンフル大陸にはありませんけど、お隣のエンキワナの奥地にはあります。ただし、アマラ様の太陽の光は降り注ぎますから、とても暑くて、試練の地とも言われています」


「ああ、そこならニュムペさん、わたし飛んで抜けたことがあるわよ。シフォニナさんも一緒に行ったわよね」

「はい。あそこの風はとても熱く乾いていて、あんな場所なら人とか動物にとっては、厳しい試練になります。でも、途中に、きれいな湧き水の池と樹木の生えているところもありました。広くはありませんでしたが」


「ええシフォニナさん。水脈は深いけど砂漠にも流れていますから。時々そうやって、地表に顔を出すんです」

「恵みは必ずどこかにあって、試練から癒してくれるということね」



 隣のエンキワナ大陸には砂漠があるんだね。

 シルフェ様とシフォニナさんは時々、風に乗って世界中を旅しているそうだけど、砂漠の上も飛んだことがあるということか。


 ともかく、もう一本の通路の途中にあるのが土にまつわる場所で、砂漠のような状態だとすると、太陽の光が降り注がない汚れた砂漠、毒素の混ざった砂地とかかな。

 もしそうだとしたら、そっちも人や動物が足を踏み入れた途端にやられてしまいそうだ。


 3本の通路には、どれも行く手を妨げる大がかりなトラップみたいな場所が待っているのか。

 と言うことは、ニュムペ様が選んだこの道でたぶん正解だった訳だな。

 まあそれも、精霊やドラゴンが一緒だったからで、人族だけだとおそらく無理だけどね。




「よしっ、では出発するよ。念のために結界を張っているから、先ほどと同じように、指示が無い限り繭の外には出ないようにして進んでね」

「はーい」


 どうもこの先が本当の地下墓所という気がするので、アルさんが先頭に立ち、ブルーノさんとティモさんが従う。あとは同じ隊列だ。


 先ほどの戦闘でアンデッドどもが出て来た入口があった。

 ここから先は、石積みで造られた通路だな。いよいよ、墓所ということか。


 そこに入ると直ぐに大きな扉がある。アルさんは何も躊躇うことなく、その扉を開けた。

 俺たちが清浄化させたこちら側の空気と、扉の向こう側の澱んだ空気が、扉を開けたことでぶつかり合ったように感じられる。

 俺はそれを押しのけるように、聖なる光魔法を発動させて扉の奥へと放った。


 発動し続けている探査に、この通路の向うで何かが悶え苦しみに耐えているような感覚が引っ掛かって来る。

 レヴァナントどもか。まあ行ってみれば直ぐに分かるだろう。



 アルさんが、俺たちの歩みを気遣うかのようにゆっくりと慎重に進んで行く。

 扉の向うは、完全に人工の石造りの通路だった。

 天井はそれほど高くないが、横幅は充分にとられている。


 結界の繭の中を明るくするように光魔法を灯しながら進むと、やがて再び大きな扉が見えて来た。

 あの扉の向うだな。いよいよだ。


「アルさん、封印とかはされてる?」


「ちょっと待ってくれるかの、ザックさま。ふーむ、向こう側から魔法鍵が掛けられているようじゃな」

「こっちからじゃなくて、向うから?」

「そうじゃの。つまり、扉の向うに、魔法鍵を施せるものがおるということじゃ」


「それなりの魔法が使えるのが、あっちにいるってことよねー」

「そうじゃの、ライナ嬢ちゃん。まあわしから見れば、ちゃちなものじゃがの」

「でも、人にすればかなり高度な魔法の筈よー」


「なに、ライナ嬢ちゃんなら覚えれば、このぐらいは直ぐに出来るようになるて。覚えたければ、わしが教えてしんぜるよ」

「お願いします。やったー」


 なんだかアルさんとライナさんが随分と仲良くなっていると言うか、アルさんは女の子のおねだりには甘そうだからなぁ。

 まあそれはともかく、たぶん800年前に死んだ魔法使いがいるんだね。

 ワイアット・フォルサイス初代王に戦いで敗れた、部族王マルカルサスの側近とかかな。



「アルさん、その魔法鍵は解錠出来るよね。開けてくれるかな?」

「もちろんじゃて。じゃが、向うの様子がはっきりせんから、少し離れて開けようかの」


 俺は探査と空間検知を強めに発動させる。

 扉の向うは、かなり大きな空間だ。聖堂か体育館の内部のような感じ? いや墓堂か廟ということか。

 そこに動くものは。動いてはいないが、苦しみと怨みや怒りなどの強い負のエネルギーを発するものが何体かいる。しかし数は少ないな。5体ほどか。


「扉の内部は、広い。おそらく、アンデッドが5体ほどいる。しかし、どれもたぶん強い。場合によっては、ジェルさんたちは手を出さないで。1対1はぜったいダメだ。援護に徹すること。これは僕からの命令だ」


「しかしっ、ザカリー様」

「ザックさまが、滅多に言わない命令ですよ、ジェルさん」

「は、はい。わかりました、エステルさん」



「よし、アルさん、開けてくれ」

「了解ですじゃ」


 アルさんが何やら黒く小さな塊を手から出して空中に浮かべ、扉に向けて飛ばす。

 それは両開き扉の合わせ部分に貼付くと、合わせの隙間からじわじわと向こう側へ潜って行った。


「魔法鍵は解けました。開けますぞ」


 そして、アルさんが扉に直接手を触れることなく、眼の前の扉は開いて行った。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

よろしかったら、この物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

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2021年2月20日付記

本編余話の新作、「時空クロニクル余話 〜魔法少女のライナ」を投稿しました。

タイトルからお察しの通り、あのライナさんの少女時代の物語です。作者としては、どうしても書きたかったというのもありまして。

とりあえず第1章ということで、今回は数話の中編で連載を予定しています。

リンクはこの下の方にありますので、そこからお飛びください。

ライナさんを密かに応援してくれている人も、そうでない人も、どうかお読みいただけますと幸いです。

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