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第299話 テンペストの魔法をやってみる

 こうして学年末試験期間の5日間も過ぎ、これから最終日の4時限目、中等魔法学の試験だ。

 この時間は、俺は何もすることはないよね。試験の見学でいいのかな。


 この講義はヴィオちゃんとライくんもいて、俺を除くと受講生は全部で8人だ。

 ひとりも脱落することなく、9ヶ月みんな良く頑張りました。

 そして先生たちは、今日も本来の教授のウィルフレッド先生に加えクリスティアン先生とジュディス先生も参加している。


「それでは、中等魔法学の学年末試験を始めますぞ。皆の魔法は、これまでに随分と進歩しましたからな。おそらく大丈夫だと思うが、この試験でもし評価が低い場合には、2年生になって高等魔法学の講義に進むことは出来ん。魔法学を取る場合は、また中等魔法学じゃ。そこはいいかな」

「はい」


「よし。それでは、名前を呼ばれた者から、ひとリずつ、向うのまとに向けて、攻撃魔法を3本撃って貰う。連撃の場合は、それで1本と数える。魔法の種類は何でも良いぞ。3本中、種類を変えても良い。自分がいま発動出来る、最も自信のあるものを撃ちなされ。よろしいかな」

「はい」



 試験方法の基本は初等魔法学と同じだね。

 ただこの中等魔法学の場合は、ウィルフレッド先生が説明したように、結果や評価如何によって、2年生の高等魔法学を選択受講する可否が決まる。


 もし受講が否となった場合は、初等魔法学から上がって来る受講生と一緒に、2年生でも再び中等魔法学を選択受講するか、あるいは魔法学そのものの選択をやめるしかない。

 ちなみに、2年生で高等魔法学を受講し学年末試験をクリアした者は、3年と4年では少人数形式の高等魔法学ゼミに進むことができ、このゼミは魔法学の3人の教授がそれぞれ受け持っている。



「で、ザカリー。ちょっとこちらに」

「え、何ですか?」

「その、なんだ、今日の試験は、お主がすることは何もないのじゃが」

「何もないのじゃが?」


「真似せんでも良いわ。つまり、その、教授も3人揃っておるので、試験官も足りておるのじゃが」

「そうですね」

「全員の試験が終わった後にじゃ。その、お主なりのこの1年生での成果をじゃな、見せては貰えんじゃろか」


「ああ、そういうことですか。試験はしないが、何か見せろと」

「早い話、そういうことですじゃ」

「いいですよ」

「いいじゃろか。そうか。よし、頼みます」


 俺がいいですよと答えると、ウィルフレッド先生の目が輝いた。

 ホントこの魔法爺さん。魔法に貪欲なのはいいけど、ことあるごとに新しい魔法を見せろとか煩いんだよな。

 まあ学年末試験の日だし、俺もすることが無くてヒマだから今回はいいか。でも、何を見せようかなあ。



 実際に今年取組んだ魔法と言えば聖なる光魔法なのだが、さすがにそれをここで見せる訳にはいかない。

 なにせ、過去はともかくとして、現在では特に人族で出来る者がいないという伝説の魔法だからね。

 それに見た目は地味だし、教授以外にはどんな魔法なのか良く分からないだろう。


 あとは何があるかなあ。四元素魔法以外だと、姿隠しの魔法とか? いや、これは使えるのがバレるとちょっといけませんな。追求されそうだし、今後使い辛くなる。

 エステルちゃんも出来る即死の黒魔法は、いやいや、もっといかん。

 そうか、四元素魔法やその派生系複合系以外だと、見せちゃいけないものばかりだよね。


 既に始まっている試験からひとり離れて、それを眺めるともなく眺めながら俺は頭をひねっていた。

 四元素魔法の派生複合系にしとくか。でも、火関係は危ないし怒られそうだし。


 今年、俺の身近で起きた印象的なことと言えば、シルフェ様?

 シルフェ様と言えば風魔法。基本の風魔法は一般的だけど、皆があまり見たことのないものでは竜巻魔法とかか。

 でもこれは、エステルちゃんの代表的魔法だし、ウィルフレッド先生はあの地下洞窟掃除の際に見てるよな。


 シルフェ様と言えば、大嵐テンペストかな。

 まだ実際にはシルフェ様の起こす大嵐テンペストを見たことはないが、俺のイメージでいくつかの魔法を複合させれば出来るよね。

 そうか、そのちっちゃい版でもやってみるかな。えーと、風と雨と雷を複合させて、遠隔発動を加えて。


 俺は急遽、ザック版大嵐テンペストの魔法を組立て、シミュレーション発動で試してみる。

 シミュレーション発動は実際の魔法現象としては発現しないから、俺の脳内現象の内だ。



 あれやこれや微調整を行い、風と雨と雷のバランスを取る。出力調整も大切だ。一歩間違うと、この訓練場が吹き飛ぶからね。

 夏にアラストル大森林の奥地で、聖なる光魔法の発動出力のコントロールが出来なくて、巨大な光のドームを出現させてしまった失敗を思い起こす。あれは、酷かったな。


「おーい、ザカリー」

「ザカリーくーん」


 気が付くと、クリスティアン先生とジュディス先生が俺を呼びに来ていた。


「ザカリー、おまえ大丈夫か? もう皆の試験が終わるんだが」

「あなたがひとりで大人しくベンチに座って、ジーッと一点を見ている姿が、ちょっと怖いんだけど」


 あ、ずっと脳内作業でシミュレーション発動をしていたので、その様子がそう見えてましたか。


「いえ、大丈夫ですよ。少々考えごとと言うか、頭の整理」

「そうか。それならいいのだが。部長が、そろそろザカリーに声を掛けてくれと言うんでな」


「部長がやたら期待しちゃって、もうウキウキしてて。でも、凄く危険なのは控えてね」

「はい。出力調整さえ間違えなければ」

「そこ、いちばん怖いのよね。何をするのか皆目わからないけど」


 まあ大丈夫でしょ。シミュレーション上ではね。



「おお、ザカリー、来たか。それで、何を見せてくれるんじゃ。どんな魔法なのじゃ。もちろん、わしらが見たことの無い魔法なのじゃろ」

「まあ、そんな感じです」


 はいはい、煩いですよ。どうどうどう。


「よし、学年末試験はこれで終了じゃ。皆、良く頑張って来たのが、結果に現れておったぞ。各自の評価は次回の講義で伝えるが、今日の締めに、本講義のアドバイザーであるザカリーが、まだわしらの見たことの無い魔法を見せてくれるでな。ザカリー、お願い出来ますじゃろか」


「はい、それでは。まず、僕が立つ位置からあちらの方向に向いて、決して僕の前には出ないでください。出力は最少限にしますが、これは余りやったことのない魔法なので」


 じつは今日初めてやります。さっき組立ててシミュレーションしただけですよ。それは言わないで置くけど。


「そ、そうか。わしたちを巻き込むのと、訓練場は壊さんでくれよ」

「ええ、そこのところは。まあ大丈夫です」


 集まった先生や受講生たちを、俺は見回す。

 ヴィオちゃんとライくんはなんで諦め顔で、直ぐにでも逃げ出せるように態勢を取っているのかな?



「それで、その、どんな魔法なのじゃ。いちおう、わしたちにも心構えが必要じゃし」

「ああ、これからお見せするのは、四元素魔法をベースにした複合魔法ですよ。だから、理屈では複数の元素魔法が可能なら、誰でも出来ることになります。ただ今回は、四元素のすべてを複合させますが」


「おい、ザックのやつ、石礫つぶての雨とか降らせるんじゃないだろうな。あれは当たると痛いぞ」

「でも、四元素のすべてを複合させるって言ったから、違うんじゃない」


 ライくん、煩いですよ。でも、いい線突いてます。


「よ、四元素ぜんぶの複合って、それは、誰でも出来るとは思えないわよ」

「しかし、四元素すべての適性を持っていれば、可能だということか」

「クリス、ジュディ、ともかくは見せて貰ってからじゃ。それで、何と云う魔法なのじゃ、ザカリー」


「テンペスト、です」

大嵐テンペストとは、初めて聞いたが……」

「では、やりますよ」



 やる前にあれこれ言っても始まらないので、俺は黙って見せることにする。


 まずは慎重にキ素力を循環させながら、出力のコントロールを行う。

 そしてそれを、複合させるそれぞれの魔法のチャンネルごとに区分する。基本は四元素だから4チャンネルだが、雷やひょうなども加え、かつ遠隔発動させるので、取りあえずは12チャンネルぐらいかな。


 では、行きます。


 俺の身体の前面から風が吹き始め、それが徐々に強くなって行く。ひゅーひゅー、ごぉーごぉーという音が伴う。

 そして、魔法訓練場の屋根の無い辺りの中空に黒い雲を出現させ、そこから雨が落ちて来る。

 雨はやがて大粒に変わり、強風に横殴りの豪雨となった。


 眩い光と轟音と共に、雷が落ちた。それが幾筋も幾筋も訓練場のフィールドに落ちる。

 そして、雷が落ちた場所には小さな火柱が立ち、豪雨の中でもなかなか収まらない

 強風は土や砂を巻き上げ、小さな竜巻を作り始めた。

 砂粒が豪雨の雨粒と混ざって辺りに飛び散り、やがてその豪雨がひょうへと変化する。

 大粒の氷がバラバラと地を打ち、それも砂粒と混ざって周囲へと飛び散る。


 複数の小さな竜巻がフィールドを縦横無尽に移動し、雷はところ構わず落ち続けて小さく火災が起き、大量の砂粒と氷の粒が席巻する。


 しかし、嵐はいつまでも続くことはない。

 いつしか竜巻は消え、強かった風も収まって行き、ひょうは降り止んでいた。

 訓練場のフィールドには静けさが戻って行き、中空の黒雲も霧散して行く。


 大嵐テンペストはこれで終了だ。

 俺は最後に、辺りを照らす柔らかい光のライトの魔法を打ち上げ、そしてシルフェ様が出すような少し甘い香りを伴った優しい風を起こして、フィールドの空気を落ち着かせた。



「どうですか? あれっ?」


 振り返ると俺の後ろに居る筈の皆が、誰もいない。

 どこに行ったのかと見ると、訓練場のフィールドを囲む壁際のベンチのところで全員がしゃがみこんでいた。


「おーい。魔法、終わりましたよー。終了ですよー」


 みんなちゃんと見ていてくれてたのかな。初出し魔法なんだからさ。貴重なんだよ。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

よろしかったら、この物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

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2021年2月20日付記

本編余話の新作、「時空クロニクル余話 〜魔法少女のライナ」を投稿しました。

タイトルからお察しの通り、あのライナさんの少女時代の物語です。作者としては、どうしても書きたかったというのもありまして。

とりあえず第1章ということで、今回は数話の中編で連載を予定しています。

リンクはこの下の方にありますので、そこからお飛びください。

ライナさんを密かに応援してくれている人も、そうでない人も、どうかお読みいただけますと幸いです。

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