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第298話 学年末試験を受ける、じゃなくて

 初等魔法学で俺が教えて来た風魔法グループの5人は、この学年末には無詠唱でのウィンドカッターの基本発動と、学院祭前に特別に教えた短縮詠唱での二連撃ちを全員が修得出来た。

 更に二連撃ちも不安定で発動失敗は多少あるものの、なんとか無詠唱で撃つことが出来る。


「先生はとても嬉しいなぁ。諸君たちは総合戦技大会も経験したし、この9ヶ月での進歩は素晴らしいっ」


「おい、ザック先生、まともになったのか」

「素直に喜んでるみたいよ」

「裏とかないよな」

「でも、あの人、ウソはつかないから」

「そうよね。風の攻撃魔法が出来るようになったの、ザック先生のおかげだし」

「ここは素直に、言葉を信じましょ」


 はい、みんなコソコソ話さない。


「風魔法グループは、全員試験合格っ! ジュディス先生にそう報告しますっ!」

「やったー」「わーい」「今年を乗り切ったぞー」


「では、次回の最終講義では、ウィンドボムを教えますから、3月までに覚えてくるように」

「えー」「まだやるんですかー」

「魔法の修得に、これで終わりというのはありませんぞ」

「でもよー、3月からは2年生だぜ。魔法学の講義を取るか、わからないし」


「もちろん、ここにいる5人全員が、中等魔法学を受講することを先生は望みます」

「はいはい」

「返事は1回でよろしい」

「はーい」


 よし、これで来年もこの5人を鍛えることにしましょう。そうしましょ。




 4時限目の剣術学中級は、受講生がブルクくんとルアちゃんのふたりだけだけど、学年末試験はどうやってやるのかな。


「よし、全員揃ったな」


 俺を含めた1年生が3人と、この講義の教授であるフィランダー先生に1日の欠席もなくディルク先生とフィロメナ先生が来ている。

 とうとうこのメンバーで、1年生の剣術学中級講義が終わるんだね。


「それでは、今日はブルクとルアの学年末試験な訳だが、まあ俺個人としては特段に試験はしなくても良いと思っている。そのぐらいふたりは進歩した。だが、まあ学院の講義の決まりだから、試験はするぞ。試験は打込みだ。それで試験官は俺と、それからもうひとりは、ディルクかフィロメナか……」


「はい、はい、はーい」

「なんだ、フィロメナ、手を挙げて。試験官はおまえがするのか?」


「いえ。わたしも試験をしてほしいのよ。ザックくん、試験して」

「はあ?」


「縮地よ。縮地もどきの進捗っ!」

「えー、僕が先生の試験をですか?」

「そうよっ。だから、ブルクくんとルアちゃんの試験は、部長とディルクでお願いね」

「はあ……」



「なあザック。剣術学中級って、俺の講義だよな」

「そうですよ。今更なに言ってるんですか、フィランダー先生は」

「そうだよな」


 こうしてホントに仕方がないので、フィランダー先生がブルクくんの、ディルク先生がルアちゃんの、そして俺がフィロメナ先生の試験をすることになった。


「まずは素振りだ。それから各々で試験をするぞ。よし、始めっ」


 いつもの全員での素振りを終え、3つの組に分かれて試験を開始する。


「まずは、剣を構えてからの高速移動を見ますよ。それでは、充分に距離を取って、僕の始めの合図から自分のタイミングで高速移動。そして、僕との間合いに入って一撃。いいですね?」

「はいっ」


 フィロメナ先生は、俺から15メートルほどの距離を取ってこちらを向き、木剣を構えながら彼女独特の軽快なフットワークで身体を動かしリズムを取る。


「よし、始めっ」

「はいっ」


 俺の合図にひとつピョンと垂直に跳ぶと、初めはゆっくりとジグザグに前進し始め、そして一気に加速した。

 うんいいね。速い。

 そしてあっという間に、不動で剣先を下げて立つ俺との間合いに入ると、その瞬間に斜め上段から両手剣を斬り下ろした。


 ガーンと俺はその木剣を下から跳ね上げ、やや後方に下がる。


「よし、止め。いいですよ。なかなか速い」

「そ、そう。良かったわ」



「それでは、縮地もどきの成果を見ます。どのぐらいの距離を取りますか?」

「えーと、間合いの外、5歩からでお願いします」


 彼女の身長は165センチほどで、1歩は75センチぐらいだ。なので5歩だと4メートル弱ぐらいから始めることになる。


「いいですよ。では、僕は動きませんから、自分の感覚で縮地もどきに入り、間合いで一撃。いいですか?」

「はいっ」


 フィロメナ先生は慎重に俺からの距離を測り、自分が一撃を放つ位置から5歩離れる。

 そして木剣を構えた。

 俺は先ほどと同じく、だらりと剣先を下げて不動で立つ。



 彼女がじっと俺を見つめる。出だしのタイミングを計っているのかそれとも緊張からか、小刻みに震えている。

 遠くから、ブルクくんとルアちゃんの剣を打込む声が聞こえてくる。


 そして、フィロメナ先生の震えがすっと止まると同時に、彼女が一歩踏み出し、そして縮地もどきに入った。刹那、俺の眼の前で剣が先ほどと同じく斜め上段から振られる。

 俺はその斬り下ろされた木剣を、5寸の見切りで躱した。


 途端に彼女の態勢が崩れ、前のめりになってしまう。


「もういちど。いま先生は、胴を斬られました。停止、斬り下ろしの動作から、躱されても態勢を崩さず、隙を見せないこと」

「は、はいっ」



 それから、同じ動きを数度繰り返させた。

 フィロメナ先生は4歩ほどの距離なら、縮地もどきの動きが出来るようになっているのだが、どうしても間合いに入って、停止からの攻撃が安定しない。

 特に躱されると態勢を崩しがちだ。


 今日はこのぐらいかな。よし、あともう1本だな。


「もういちど」

「はいっ」


 先ほどから繰返された動き。しかし最後に俺は、斬り下ろされた剣先を見切りながら少し身体を沈め、同時に右手を木剣の握りから離して掌打を胴の真ん中に撃つ。

 その俺からの不意の攻撃をまともに受け、フィロメナ先生は5メートルほど真後ろに吹っ飛んだ。


 あ、大丈夫かな。思った以上に吹っ飛ばしたですよ。

 俺は直ぐさま駆け寄り、彼女の身体の具合を探査で診ながら回復魔法を施す。

 この辺は総合戦技大会で随分と慣れました。


 うん、特に問題は無いようだね。そして俺は、仰向けに横たわりながら大きく目を見開いて俺の顔を見ているフィロメナ先生の手を握ると、ゆっくり立ち上がらせた。



「い、いまのは?」

「掌打です。試験終了の活、ですね」

「しょうだ??」


「はい。少々キ素力を流して、てのひらで撃ちます」

「あれが、てのひらで撃ったの? わたし、吹っ飛んだわ」

「どうです? 活が入ったでしょ」

「え、ええ」


「間合いの内では、このような攻撃もあるということですよ」

「どんなに速くても、ただ、間合いに入っただけではダメってことなのよね」

「はい、それが身体で理解出来たのなら、10点加算しますよ」

「充分に、分かったわ」


 これで、フィロメナ先生の今回の試験は終了とした。

 どうやら、ブルクくんとルアちゃんの試験も終わったようだね。



「ねえねえ、ザックくん。わたし結局、何点?」

「10点加算で、70点ですね」

「加算が無いと60点かぁ。でも、それって合格?」


「縮地もどきは、あの距離では出来てます。だからそこは合格ですが」

「攻撃との繋ぎと、そのあとよね」

「はい。そこまでが安定しないと、実戦では使えません。まあ、一撃で斬り倒せる相手ならそれでも大丈夫ですけど、そんな相手に先生なら、縮地もどきを使う必要はないでしょう」


「そうか、そうよね。そして、あなたみたいに強い相手だと、躱されるか、さっきみたいにてのひらだけで、吹っ飛ばされてしまうと」

「そういうことです」


「ねえねえ。来年は縮地もどきの続きと、それからさっきの掌打も教えて。いいわよね。お願いします」

「え、いいですけど」

「やったー」



 どうやら、ブルクくんとルアちゃんも合格点を貰えたようだ。

 ということは、これで剣術学中級の学年末試験は終了ですか。これでいいのかなぁ。

 ブルクくんとルアちゃん、それからフィロメナ先生も喜んでいるので、まあいいか。

 では次回の講義で、剣術学中級は講義納めですね。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

よろしかったら、この物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

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2021年2月20日付記

本編余話の新作、「時空クロニクル余話 〜魔法少女のライナ」を投稿しました。

タイトルからお察しの通り、あのライナさんの少女時代の物語です。作者としては、どうしても書きたかったというのもありまして。

とりあえず第1章ということで、今回は数話の中編で連載を予定しています。

リンクはこの下の方にありますので、そこからお飛びください。

ライナさんを密かに応援してくれている人も、そうでない人も、どうかお読みいただけますと幸いです。

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