第297話 竜人化と格闘訓練
夕食は全員で揃っていただいて、ニュムペ様とアルさんにも客室を用意する。
アルさん、ベッドで寝られますか? 寝惚けて元の身体に戻ったりしたら嫌ですよ。屋敷が壊れますからね。
あと、お客様用の夜着も用意しましたからね。自分で着られますか?
「心配するでない。千年前にもこういうのを着て、ベッドで寝てたことがあるわい」
「千年前ですか……」
翌日はシルフェ様がニュムペ様に王都を案内すると言って、お出掛けするそうだ。
勿論、シフォニナさんとエステルちゃんも一緒で、護衛はジェルさんとオネルさん、ライナさんが付く。
ブルーノさんとティモさんは、女性陣から離れて周辺警戒だね。
クロウちゃんは、今日はライナさんの胸に抱かれてますか。毎日日替わりでいいですな、キミは。カァ。
アルさんは、当然のごとく人族の街やお店などには関心がないので、屋敷で過ごすと言う。
ホント、必要ある時以外は出不精だよね。だから、ルーさんに引き蘢りトカゲとか言われるんですよ。
「まあ、まだこの竜人族の姿と大きさに慣れておらんからな。不測の事態を避けるということじゃ」
「はあ」
「それよりザックさまよ。聖なる光魔法の方はどうなんじゃ。うまく修得出来たかの」
「ええ、使えるぐらいには。見せましょうか?」
「おおそうか。では、拝見しようか」
そこで、俺とアルさんは訓練場に行く。
「前にシルフェ様には、オッケーを貰ってるんだよ」
「ならば、制御も安心じゃな。では、わしに向けて発動してみなされ」
またそれですね。シルフェ様に見ていただいた時も、精霊のおふたりに撃ちました。
あれは精霊だから問題なかったけど、ドラゴンは大丈夫なのか。
「その竜人の姿でも大丈夫なの?」
「ああ、それはほれ、ドラゴンの身体だろうが何に変化しようが、中身は同じじゃから」
そうか、この世界のドラゴンの身体は、大半がキ素で形成されているらしいんだよね。
まあそれは、人間の身体が、60パーセントを占める水分を除くと炭素原子や酸素原子、水素原子、窒素原子などの原子で構成されているのと同様に、キ素を主要な構成要素としているということのようだ。
ちなみに、人間の身体において水分以外で最も多いのは炭素原子で、水を除く残りの50パーセントとなる。
つまり人間の身体は、水と炭素で出来ているようなものなんだよ。
「と言うことは、聖なる光魔法はキ素を破壊しないということ?」
「まあそうじゃな。破壊はしないが、震わせる」
「震わせる??」
「そうそう。震わせて、良きキ素と悪しきキ素を分離し、悪しきキ素は滅するんじゃよ」
「へぇー」
シルフェ様とシフォニナさんに撃った時、あのひとたちは全身が洗われるようだとか言っていたけど、やっぱりクリーニングしてた訳か。
アルさんの説明でも、汚れ落としと除菌、滅菌効果で合っているんだな。
水魔法のクリーニングよりも、遥か上の効果があるということですね。
それから俺は、アルさんに向けてセイクリッドパワーライトを、広がるビームと絞り込んだレーザービームの2種類で放った。
シルフェ様たちの時よりも少々強めにしてみましたよ。
「ふぉー、良い具合じゃ。太陽の光を全身に浴び続けて、そのあと清浄な滝に打たれたみたいな感覚じゃな。細くしたのは、ちょいとチリチリしたが、イタ気持ち良かったわい」
「そんな感じなんだ」
「これなら、あのふにゃふにゃ壁なんぞ難なく破れるじゃろ」
「アルさんがそう言うなら、合格点でいいよね」
「おうとも。さすがザックさまじゃて」
こうして聖なる光魔法の合格点を貰ったあと、アルさんが竜人の身体での動きや戦闘能力を確かめたいと言うので、昼食を挟んで1日中ふたりで戦闘訓練を行った。
なにしろドラゴンなものだから、いくら動いても疲れるということがないんですな。
夕方まで終了したいと言わないものだから、日中のすべてで付き合いましたよ。
竜人化したアルさんは、魔法以外で接近戦闘などが出来るのかと思ったら、剣とかの武器などは使わず格闘戦だった。
それもキ素力をうまく活用した強化パンチや強化キック、あるいは俺が密かに得意としているキ素力を撃ち当てる掌打なども織り交ぜて来る。
また、相手の腕や身体を取っての投げも上手い。
それなら俺も、武器は使わずにお相手しましょうということで、ふたりで高速の移動と接近を繰返しながら、時間が経過するのも忘れて格闘戦闘訓練を続けた。
「あらら、ザックさんとアルは戦闘訓練なの?」
「ザックさんは魔法が達者かと思っていましたけど、アルと互角に格闘戦闘なんかも出来るのですね」
「午前からずっとやっていたのかしら」
「すみません、あの人、夢中になると叱るまで止めないのでぇ」
「おい、ザカリー様がアル殿と格闘戦をしているぞ。と言うか、人間がドラゴンと格闘なぞ出来るものなのか」
「なんだか、いちどお昼ご飯に戻って来ただけで、午前中からずっと訓練場に行ってるって、エディットちゃんが言ってましたよ」
「それにしても、人とドラゴンの格闘訓練て、歴史上初めてとかじゃないのー」
「すみません、あの人、だんだん人を辞めてるかもですぅ」
「ザックさま、ザックさまー。アルさんも。もう夕方ですよ。そろそろお終いにしてくださいね。いつまでも止めないと、夕ご飯抜きにしますよー」
ちゃんと聞こえてましたからね。そろそろ止めますから、夕ご飯抜きはちょっと。
女性陣が街歩きとお買い物から帰って来たので、アルさんとの戦闘訓練は終了となった。
いちど屋敷に帰って、俺とアルさんがいないものだから、エディットちゃんに聞いて見に来たらしい。
「いや、その、アルさんが竜人化した身体の動きを確かめたいって言うからさ。どう? アルさん」
「だいぶ動けましたな。やはり、手足を使って闘うのは勘所が難しいのじゃが、ザックさまのおかげで随分と闘えるようになりましたわい」
「うん、良かった」
「うん良かった、じゃないです。だいたいザックさまは、明日から学年末試験ですよね。今日はお勉強するから屋敷にいるよとか、朝は言ってましたよね。お勉強はしましたか? してませんよね。アルさんは、時間の感覚がちょっと違うから仕方ないですけど、ザックさまは仕方なくありませんよね。夕ご飯のあとは、ちゃんとお勉強ですよ」
「はい。ごめんなさい」
「叱られましたね」
「叱られたな」
「夕ご飯抜きには、ならなかったみたいねー」
「カァ」
「ザックさんも、叱られるんですのね」
「エステルからだけだけどね」
「エステルさまが、いちばん強いんですよ。たぶん」
「ザックさま、付き合わせて悪かったの」
「いや、アルさんのせいじゃないから。それに、叱られるの慣れてるし」
「慣れてる、じゃありません」
「はい、ごめんなさい」
結局、夕ご飯のあとは俺だけ自室に籠って、学年末試験のお勉強となりました。
そして休日明けの翌日。今日から5日間の各講義は学年末試験だ。
「おはよう、ザックくん」
「おはようございます、ザックさま」
「おはっす、ザック」
「みんな、おはよ」
「ザックくんは、試験は、大丈夫か」
「ザックさまは、入学試験、首席ですから」
「首席転落じゃ、格好わるいよな」
「うーむ、首席かどうかはともかく、まかせなさい」
「はいはい」
ヴィオちゃんとカロちゃん、それにライくんもおそらく問題は無いだろう。
どちらかというと問題は、俺だよな。
ペーパーテストは大丈夫だと思うのだが、特待生である剣術学と魔法学の試験の時、俺って何するんだろうね。
剣術学と魔法学は実技試験だというから、受講生がそれぞれ実技を試されるのだろうけど。
それから午前中のふたつの講義の試験をこなし、午後の3時限目の初等魔法学となった。
「はい、それではこれから、初等魔法学の試験を行います。ひとりずつ名前を呼びますから、呼ばれたらここに来て、的に向けて魔法を撃ってください。撃つのは各自3本。同じ魔法でも変えてもいいわよ。でも、この1年で修得した成果を見せるように。あと、無詠唱が絶対条件ではありませんが、出来るだけ無詠唱に挑戦してください」
「はいっ、ジュディス先生」
「はい、ザカリーくん。手を挙げてるけど、何かしら?」
「あの、僕は? 試験、するんですよね」
「きみは何を言っているのかな。ザカリー君は試験官でしょ。あなたが教えて来た受講生の試験をしてくださいね」
「はあ。やはり」
たぶんそんなことではないかと思っておりましたが、その通りでありました。
俺が教えて来た風魔法グループの諸君の魔法を見て、それぞれが現在どんな状態か、どこまで修得出来ているかを後でジュディス先生に報告するんですと。
初等魔法学では、基本的には落第点はつけないそうだ。
まあ学院1年生の初等の魔法では、少しでも攻撃魔法が発動出来るようになっていれば合格だからね。
では、試験を始めますよー。風魔法グループはこちらに集まってくださいねー。
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
よろしかったら、この物語にお付き合いいただき、応援してやってください。
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2021年2月20日付記
本編余話の新作、「時空クロニクル余話 〜魔法少女のライナ」を投稿しました。
タイトルからお察しの通り、あのライナさんの少女時代の物語です。作者としては、どうしても書きたかったというのもありまして。
とりあえず第1章ということで、今回は数話の中編で連載を予定しています。
リンクはこの下の方にありますので、そこからお飛びください。
ライナさんを密かに応援してくれている人も、そうでない人も、どうかお読みいただけますと幸いです。




