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第295話 人外パーティメンバーがやって来る

 ブルーノさんが会って来た王都の商業ギルド長は、次回は俺やエステルちゃんに是非お会いしたいと言っていたそうだ。

「今回は、お付き合い始めと言うことで、今後ともどうぞよろしく」なのだとか。

 まあ、侮れない組織の長というのは、逆に付き合っていて損は無いのかも知れない。


 あと、ラリサ・カバエフ王宮魔法士に関しては、ティモさんが補足情報の中で報告してくれた。

 はっきり言って、彼女についての情報がなかなか得られないそうなのだが、セルティア王立学院にはちゃんと1年生から入学していて、どうやら遠方から単身で王都に来て寮に入ったらしい。


 入学年齢の12歳からもう6年も王都にいるのだから、昨日今日に王都に忍び込んで来た訳じゃないんだよね。

 これは、魔法学部長で王宮魔法顧問のウィルフレッド先生とか学院長にさりげなく聞いた方が早いかな。



「ところでエステルさん。シルフェ様は、いついらっしゃるのだろうか」

「それなんですよ、ジェルさん。11月には戻られるとおっしゃってたんですが、一向に風の便りが来なくて。どうしたんでしょうねぇ」


 エステルちゃんの言う風の便りとは、言葉通り風が運んで来る便りだ。いや、風そのものと言っていいのかな。

 シルフェ様はこの風の便りを、風が届く場所へならどこにでも送れるそうだが、11月も半ばを過ぎても送られて来ない。

 また、いきなり来たりするのかなぁ。


「そうですか。もう11月も残り少ないし、12月に入れば、ザカリー様の学院も直ぐに冬休みに入ってしまうからな。そうすると、われらもグリフィニアに戻らないといけないし」

「そうですねぇ。でもお姉ちゃん、そろそろ来ると思いますよ」




 11月最終の10日間講義サイクル中のある日、そんなシルフェ様の風の便りが届いたと、クロウちゃんがエステルちゃんからの報せを運んで来てくれた。


「どれどれ。お、これはシルフェ様からの風の便りだね」

「カァ」


「なになに。『ちょっと遅くなりましたが、今度のザックさんのお休みの日に屋敷に戻ります。お昼前ぐらいに、屋敷の訓練場で待っていてください。シルフェより エステルへ』か。短い文面だね。でも、屋敷の前庭とかじゃなくて、なんで訓練場なのかなぁ」


「カァカァ」

「わからないか。エステルちゃんもそう言ってたんだ。そうだよね」


 まあ、精霊様が何を考えているかなんて人間には分からないから、当日、訓練場で待っていればいいだろう。カァ。




 そして12月に入り、今月最初で今年最後の学院の休日になった。

 休日明けの4日から5日間は各講義で学年末試験があり、その後5日間にプラス振り替え分の1日を足した6日間の講義を終えると、翌15日は4年生の卒業式と秋学期の終了だ。


 学年末試験はともかく地下洞窟の件での相談があるから、俺は少々ドキドキしてシルフェ様とそれからたぶん一緒のシフォニナさんの到着を、風の便りに書いてあった通り屋敷裏の騎士団建物に隣接している訓練場で待っていた。


 勿論、隣にはエステルちゃんがいて、俺の頭の上にはクロウちゃんが座っている。

 それからシルフェ様たちのお出迎えということで、ジェルさんたちもやって来た。アルポさんとエルノさんも来てるね。

 お昼ご飯の準備をしているアデーレさんとエディットちゃん以外は、全員集合だ。



 今日の空は快晴。風もそれほど強くない。

 暫く皆で雑談をしながら待っていると、先触れのように少し強めの風が吹き、やがて一陣の風が訓練場にいる俺たちの顔を打った。


「お、竜巻か」

「いらっしゃったみたいねー」


 訓練場のフィールド中央に小さな竜巻がふたつ。その渦は徐々に緩やかになり、そして美しく立つふたりの女性の姿になった。


「ただいま。遅くなっちゃったわ。ザックさん、エステル、みなさん、お元気かしら」

「皆さま、お出迎えありがとうございます」


「シルフェ様、シフォニナさん、ようこそ」

「さ、お屋敷に行きましょ。お姉ちゃん、シフォニナさん」

「ちょっと待って。もう直ぐ、来るから」

「えっ??」


 カァ。なになにクロウちゃん、空って。あ、あれは……。


 おふたりの精霊様やエステルちゃんの髪の色が溶け込むような、快晴の青空。その遥か上空にもの凄いスピードで黒い雲が流れて来たと思うと、徐々に高度を下げながらこちらにやって来る。


 あちゃー、来たんだ。カァ。隣に立つエステルちゃんも、少し緊張した顔でその黒い雲を見つめ、シルフェ様とシフォニナさんもそちらを見上げている。

 そして、訓練場に集まった全員も俺たちと同じように、その方向に目をやった。



 こちらに近づくにつれ速度を緩めた黒い雲が、ついに訓練場上空へと到着し、ゆっくりと旋回しながら下りて来た。

 そして音も無く、フィールドの真ん中に着地して留まる。


 王都屋敷にあるこの訓練場の広さは、バスケットコート2面分をひと回り大きくしたぐらいだから、縦横がだいたい35メートルぐらいかな。

 そしてそこに着地した黒い雲は、およそ10メートルの大きさ。


 その雲がゆっくりと霧散し、中から現れましたよ、アルさんが。


「あわーっ」「ひょーっ」「おひゃーっ」


 ああ、何人もの人がいちどにひっくり返るというのを、初めて見ましたね。

 俺とエステルちゃん、それからシルフェ様とシフォニナさん以外の、ここにいる7人全員が腰を抜かして尻餅を突いていた。



「あー、アルさん、久しぶり。来たんだ」

「おお、ザックさま、エステルちゃん。来ましたぞ」

「アルさんてば、声ちっちゃく。ここ、貴族屋敷地区の真ん中ですぅ」

「お、そうじゃな。すまんかった」


 うちの王都屋敷の特にこの訓練場は高い木々と硬化された土壁に囲まれていて、身体の大きさが10メートルにも及ぶアルさんの姿は、外部からは見えないだろう。

 しかし、声がやたら大きいんだよな。ドラゴンですから。


「おおそうじゃ。着きましたぞ。降りてくだされ」

「はい」


 アルさんの背中から、たおやかな音色の返事の声が聞こえて、水の大きな塊のようなものがアルさんの身体を伝わって地面へと降りた。

 そして地上に落ちると同時に、か細く美しい女性の姿へと変わる。


「あ、ニュムペさまですぅ。いらっしゃいませ」

「ようこそいらっしゃいました、ニュムペ様。アルさんに乗って来たんですね」

「はい。お久しぶりですね、ザックさん、エステルさん。水脈を辿って来ても良かったのですけど、アルに乗せて貰った方が早いので」


 水の精霊の頭のニュムペ様だ。そうか、水の精霊様は水脈を辿って移動出来るんだね。川とか地下水脈とか?


 そしてこれでなんと、臨時人外パーティの全員がうちの王都屋敷に集合しちゃった訳ですよ。

 もう、事前に報せてくださいよ、シルフェ様。

 報せてくれないから、王都屋敷にいるメンバーが揃ってお出迎えしちゃったじゃないですか。全員が腰を抜かしてるけど。カァ。

 あ、クロウちゃんはさっそく、シフォニナさんのおっきい胸に抱かれてるんだね。



「あ、あの、その、ザカリー様」

「え? あ、大丈夫かなジェルさん。みんなも大丈夫?」


 ジェルさんたちは、ようやく立ち上がれたようだ。おずおずと俺とエステルちゃんの後ろに近づき、固まっている。


「あの、その、安全なのだな?」

「安全も何も、前に話したでしょ、アルさんだよ。あ、アルポさんとエルノさんには言ってなかったかな。でも、吃驚しちゃったよね」


 全員が、コクコクと言葉無く頷く。アルポさんとエルノさんは、ぽかんと口を開けていた。



「それじゃ、あらためて紹介するよ。こちらが、ブラックドラゴンのアルさん、です。エステルちゃんの古いお友だちで、僕も親しくさせて貰ってます」


「おお、初めましてじゃな。皆さんは、ザックさまの配下の方たちかの。わしは、アルノガータ。アルさんと呼んでくれていいぞ。わしも、ザックさまの配下みたいなものじゃから、皆と同僚ということじゃの。よろしくの。フフォホホ」


「ひぇー」「よ、よろしくで、ございますぅ」


「それから、こちらは、真性の水の精霊様で、水の精霊のおかしらのニュムペ様です。ニュムペ様は、現在は別の場所に棲んでおられるんだけど、もともとはこの王都圏にいた方だから、里帰りみたいなものですよね」


「はい。このたびは、ザックさんとエステルさんにご迷惑をおかけしておりますので、こうしてやって来ました。里帰り……そうなりますかしら。皆さん、よろしくお願いしますね」


「ひょー」「よ、よろしくで、ございますぅ」



「そうそう、アル。あれ、ザックさんとエステルに見せてあげなさい。だいぶ練習したんでしょ」

「あれか、シルフェさん。そうじゃな、やってみるか」


 なになに、練習したあれって、危険なことじゃないよね。


 アルさんは、「それじゃぁ、ほいっ!」と掛け声をかけた。

 するとアルさんの巨体は、みるみる黒い霧に包まれる。小型化の黒魔法じゃないよな。あの魔法ならいつもやってるし。

 黒い霧に飲み込まれたアルさんは、すぐに霧そのものになる。黒い霧になって移動するやつ? いや、違うのか。


 その霧は、ちょうど背の高い人間と同じくらいの大きさになった。

 そこにシルフェ様が風に包まれた何かを投げ込む。それを飲み込んだ黒い霧は、直ぐさま散って消えて行った。


 これは、人化の魔法か。いや、見覚えのある短い尻尾が生えてるから、ドラゴニュート?

 消えた霧の中から現れたのは、まるでウォルターさんがいつも着ているような上品な上下の服に身を包んだ、少し年老いているが体格の良い竜人族と思える男性だった。



「あら、思った通りその服、良く似合うわよ、アル」

「お、そうかの。なんだか全身がこそばゆいが、似合うなら我慢じゃな。ありがとう、シルフェさん」


 シルフェ様が風に包んで投げ込んだのは、いまアルさんが着ている服だったんだ。靴とかもちゃんと履いてますね。


「アルさん、人化、いや竜人化が出来たんだ。凄い魔法だな」

「ホントですぅ。ビックリですぅ。まるでドラゴニュートさん、そのものですぅ。フォルくんとユディちゃんのお爺ちゃんみたい」


「フホホホ。いや、その、なんじゃ。王都に行ってザックさまと一緒に行動するのなら、あなたは人化魔法を練習しなさいと、シルフェさんにきつく言われての。それから日々、訓練したのじゃよ。まあ、人族ではなく、案の定出来たのは、竜人族じゃがの。フフォホホ」


 そう言えば、以前にシルフェ様とそんな話をしたよな。それで、そのあとアラストル大森林にシルフェ様たちが行った時に、何か相談していたって一緒に付いて行ったクロウちゃんが言ってたけど、このことだったんだ。


 本人が姿を変化させたいって強く思い、そこからイメージ出来る何かじゃないとってシルフェ様が言ってたけど、アルさん、頑張ってくれたんだね。



「さあ、これでみんなでお屋敷の中に入れるわね。そろそろ行きましょうか。風が冷たくなって来ましたしね」

「はい、お姉ちゃん」


 風が冷たくなって来たってシルフェ様、貴女あなたは風そのものでしょ。

 でも、とにかく彼女の言う通り、アルさんの訓練成果のおかげで一緒に行動しやすくなりました。それでは、みんなでお昼でもいただきましょうか。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

よろしかったら、この物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

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2021年2月20日付記

本編余話の新作、「時空クロニクル余話 〜魔法少女のライナ」を投稿しました。

タイトルからお察しの通り、あのライナさんの少女時代の物語です。作者としては、どうしても書きたかったというのもありまして。

とりあえず第1章ということで、今回は数話の中編で連載を予定しています。

リンクはこの下の方にありますので、そこからお飛びください。

ライナさんを密かに応援してくれている人も、そうでない人も、どうかお読みいただけますと幸いです。

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