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第294話 第2王子の立ち位置とは

 学院祭や祖父祖母の来訪と、いろいろなことがあった10月も終わり、11月もあっと言う間に半ばを過ぎた。

 今日は2日休日の王都屋敷、レイヴンミーティングを行う日だ。


 ブルーノさんとティモさんがこの間、学院祭最終日に現れたクライヴ・フォルサイス第2王子とサディアス・オールストン王宮騎士団副騎士団長らの調査をしてくれており、今日はその報告を聞ける。

 いつものように、俺の部屋にレィヴンのメンバーが集まった。



「まず私から。第2王子のことです」


 グリフィン子爵領の調査探査部王都分室員でもあるティモさんが、口火を切って報告を始める。


「クライヴ・フォルサイス、18歳、男性。現国王アリスター・フォルサイスの次男。なお、王太子である長男は、セオドリック・フォルサイス。第2王子より7歳ほど歳が上です。フォルサイス家には、クライヴとセオドリックの間にアデラインという王女がおり、二男一女ということになります」


「続けます。クライヴ王子は、3年前にセルティア王立学院を卒業。いちおう名義上は学院生会、総合剣術部、総合魔導研究部の3つに所属していましたが、特に熱心に活動をしていた訳ではありません。ただ、その総合魔導研究部で、先日同行していた同級生のラリサ・カバエフ王宮魔法士とは一緒であり、また、ヴァネッサ様も後輩になるということです」


 学院生会と二大課外部に籍を置いていたんだね。まあ名義上ということか。課外部でヴァニー姉さんの先輩というのは、あまり気分が良くないけどさ。



「クライヴ王子の王位継承権は第3位。ただし、あと10年以内には王太子が王位を継承すると王宮内では言われているそうです。第2位はアデライン王女。従って実質的には、クライヴ王子の王位継承権は価値の無いものとされています」


「10年以内に王位継承があると言われているのか。現在のアリスター王が高齢とか、身体が弱いとか?」

「いえ、アリスター王は現在、50歳代前半ですが、病気持ち等の話は聞こえて来ていません。それにフォルサイス王家の者は、比較的長命とされています。これは初代王の出自のせいもあると、私個人は想像しますが」


 知る者は極めて少ないが、ワイアット・フォルサイス初代王は、人族の男性と水の下級精霊との間に生まれたそうだから、その子孫もわりと長命なのかもね。



「と言うことは、現在の王の意志で、王位継承を行うということなのか?」

「いえジェルさん。そこのところは噂の域を出ないのですが、どうやら、公爵家の意向が強く働いているとか」

「公爵家の意向ね」


「ねえねえ、その王太子って、奥さんはいるのー?」

「いえ、まだ独身です、ライナさん」

「でもさー、王太子妃候補はいるのよね」

「はい、三公爵家にそれぞれ」


 三公爵家にそれぞれ王太子妃候補がいると言うことは、学院生会長のフェリさん、フェリシア・フォレストさんも候補のひとりとなのかな。

 彼女はたしか、フォレスト公爵家の長女だったよな。



「話を第2王子に戻します。従って、彼の王宮内での地位は、決して高くないと言うことです。兄が王位を継げば、彼は領地を持たない名目上の公爵位を叙爵され、じっさいは王宮内で一生を過ごすことになります。あとは、王太子妃になれなかった公爵家の娘と結婚して、そこの公爵家を継ぐとか。しかし、この線は無いでしょうね」


 前世で俺がいた世界で言えば、いわゆる部屋住みという立場だね。

 王国内の領地は限られているし、それほど広くない王家の直轄領を分割して新たな公爵家を起こすことなど出来ないだろうから、一代限りの部屋住み公爵になるということか。


「三公爵家以外の貴族家に、婿に行くということは無いんですか?」

「あー、それいい質問だわー、オネルちゃん。そこんとこどうなの、ティモさん」


「理屈ではあり得ますが、自分の家の跡継ぎを差し置いて、第2王子を婿にして跡継ぎに迎え入れる領主貴族家があるのかどうかと言えば……」



「でもさー、例えばうちらのとこだったら、ザカリー様が死んじゃって、ヴァネッサ様やアビゲイル様の婿とかに、強引に捩じ込まれちゃったりしたら」


「おいっ、ライナ、おまえ何を言うんだっ」

「だってぇー、ジェルちゃん。そんなことも、まったくあり得ない話じゃないでしょー」

「そんなこと、あり得ん。ぜったいに無いっ」


「まあまあ。ライナさんの言うように、もし僕が死んだりしたら、まあ理屈上はあり得るけど、おそらくうちの父さんは怒りまくって、それこそ王子を殺すか内戦にでもなりかねないなぁ」

「そうですよぅ。たぶん、ファータで暗殺部隊を送って、っちゃいますよ」


 えーとエステルちゃん、ファータには暗殺部隊とかあるんですか。まだ俺が知らないだけですか。そうですか。カァ。



「だいたい、ザカリー様が死んだらっていう前提条件が、ほぼ不可能です」

「そうねー。それは理屈上でもあり得ないわねー」

「ザカリー様は、理屈から多少外れて、いるからな」

「そうそう」


 それって、どういうことですか、お姉さん方。俺って、世の中の理屈から外れて存在してるんですかね。カァ。え、そうなの? クロウちゃん。


「ただ、その辺の実態は、王家や王宮とかじゃ、理解出来ませんよね」

「そうだな。それはそうだ。剣術と魔法が少々上手い子爵家の長男、とかの認識しかなかったら、変なことを考えるやからが出ないとも限らん」

「少々上手いどころじゃないから、そんな勘違い野郎は、その時点で死んだも同然だけどねー」


 実態って何ですか、実態って。でも、お姉さん方が言うような勘違いが起きないとも限らないから、その辺は頭の隅に置いておかないとだな。



「あの、えーと、話を戻しますが、ともかくクライヴ王子は、そのような弱くて不安定な立場にいるということです」

「それで、副騎士団長一派との関係はどうなのかな」


「先日の学院祭訪問では、例えば王太子であれば騎士団長が同行となりますが、第2王子でしたので、副騎士団長の役務となったというのが、名目上のことのようです」

「なるほどね」


「ただ、サディアス・オールストン副騎士団長がクライヴ王子と親しいのは、事実のようです。しかし、副騎士団長ら若手の一派が表立って第2王子派というように、積極的に派閥を形成している訳では無いようで、その辺は王太子ともバランスを取っているというのが、もっぱらの評価ですね」


「でも、サディアスさんが扱いやすいのは、クライヴ王子の方ということか」

「そうですね。なにせ王太子の側では、三公爵家がそれぞれ主導権を取ろうと鎬を削っていますから」


 どうやらサディアス副騎士団長が、クライヴ王子を利用できるなら利用しようとしている線が強いかな。



「ブルーノさんからはありますか?」

「へい。冒険者ギルド長に紹介して貰って、先日に商業ギルド長に会って来やした」

「会えましたか。さすが、ブルーノさん」


 王都の商業ギルドは、王都フォルスだけでなく王都圏全体をカバーする、セルティア王国で最も規模の大きなギルドだ。

 王都では冒険者ギルドの実力が低いのに対して、商業ギルドの力が強い。そしてもちろん、王宮関係の情報も多く持っているということで、ブルーノさんは面談して来たのだった。


「いえ、しかし王都の商業ギルドは、情報力もたいしたもののようでやしたよ。ザカリー様とアビゲイル様、そしてエステルさんのお名前も知っておりやした。それから自分のことも」

「えーっ、ザックさまとアビーさまはともかく、わたしのことを知ってるんですかぁ」


「へい。今年からグリフィン家の王都屋敷を差配している女主人様ですね、とギルド長が言っておりやした」

「それはなかなか、侮れないね。まあ、ブルーノさんは有名だから、知っていると言うのは分かる気がするけど」


「いえいえ、有名だなんて。でも、そのおかげで、すんなり会えたってことはありやすがね」



「それで、王宮や第2王子関係のことで、情報収集ですかなと、用件も先に当てられてしまいやしたよ。なんでも、学院祭最終日の総合競技場に、商業ギルド長もいたそうなんで。で、第2王子が来たことは勿論、子爵様と会われたことも当然に知っておりやした」

「そうなんだ。それは話が早いと言うか、気をつけなくてはいけないと言うか」


「自分もあらためて、気を引き締めやしたよ。情報を集めているのは、こちらだけでなく、思わぬ者たちもそうなんだと」

「そうだね。これは僕らも、気を引き締めないとだ。それで、どんな話が聞けたの?」


「へい。第2王子についてや王家での立場などは、ティモさんの報告と被りやすがね。いくつか気になった点がありやした」

「気になった点?」


「まず、王太子の妃候補推しで最も積極的なのは、三公爵家筆頭のフォレスト公爵家であるということでやす。まあこれは、当たり前と言えば、当たり前なのでやすが」


 やはりそうなのか。フェリさんは、どう思っているのだろう。彼女はあともう少しで学院を卒業する。



「それから、第2王子がここのところ、いくつかの領主貴族と接触しようとしているとのこと。これはどうやら、後ろ盾を求めているのではないかと、ギルド長は言っておりやしたね」

「なるほどね。不安定な立場から、後ろ盾になってくれる領主貴族を探しているのかな」


「そして、王宮内や貴族関係その他で実力のある若手を、味方に引込もうとしているらしいこと。この3点でやすな」


 実力のある若手を味方に、か。王都にいる貴族の子息子女、騎士関係、魔法士、そのほか民間からとかかな。


 ブルーノさんが商業ギルド長から聞いた話からすると、クライヴ王子は王家や王宮内だけでは立場を作れないので、王宮外からの力も集めようとしているとも解釈出来る。

 もしかして、俺とかも狙われている? あ、アビー姉ちゃんもか。


 では、力を集めて彼は何をしたいのか。それはまだ、まったく分からない。

 しかし俺は、こちらが望まぬ外部の思惑で散々に翻弄されて来た前世での人生を、思い起こさずにはおられないのだった。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

よろしかったら、この物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

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2021年2月20日付記

本編余話の新作、「時空クロニクル余話 〜魔法少女のライナ」を投稿しました。

タイトルからお察しの通り、あのライナさんの少女時代の物語です。作者としては、どうしても書きたかったというのもありまして。

とりあえず第1章ということで、今回は数話の中編で連載を予定しています。

リンクはこの下の方にありますので、そこからお飛びください。

ライナさんを密かに応援してくれている人も、そうでない人も、どうかお読みいただけますと幸いです。

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