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第289話 これからの予定とすぐそばの安らぎ

 ミーティングを終えて、レイヴンの皆は再び屋敷での仕事を済ましてしまうために持ち場に戻った。

 部屋には俺とエステルちゃんだけが残される。

 クロウちゃんは暫くエステルちゃんの膝の上で丸くなっていたが、やがて散歩に行くと言って窓から飛んで行った。


「はぁー。静かになりましたね、ザックさま」

「そうだね」

「このあと、どうしますか?」

「そうだな」


「もう、ザックさまは。何も考えてませんよね。放っておくと、結局だらだらしますよね」

「そ、そうです」



「あの……」

「ん? なに?」

「12月なんですけど」

「ああ、地下洞窟のこと?」


「はい。お姉ちゃんは、12月の半ばぐらいまでが焦点て。その頃、決行ですかね」

「そうだなぁ。年内には何かしておかないとだよなー。えーと、魔法障壁の効力が切れるのは……」


 シルフェ様たちと学院に下見に行って、魔法障壁を張り直していただいたのが8月の終わり、24日だったか。

 そこから100日後とすると、1ヶ月が27日だから12月16日だ。

 正しく100日間かどうかが分からないので、それよりも前に少なくとも魔法障壁は更新させなければならない。


 一方で学院の秋学期の予定だが、12月に入って直ぐの5日間講義には学年末試験がある。

 この試験で落第する者はいないと言うが、試験結果が悪い場合には山のように課題が出されるのだとか。

 また、受講数の半数以上で合格点を酷く下回る結果を出すと、退学対象となる。

 つまり、落第はさせないが、退学はあるよ、ということのようだ。



 それはともかく12月の予定だよね。

 その5日間講義での学年末試験があって、次が学年最後の5日間講義。正確には明日の学院祭お片づけ日の休講分の振替えが最後に1日あるから、6日間だね。

 これで、秋学期と今年の講義は終了。俺の1年生が終わる訳だ。


 講義の最終日が12月14日で、翌15日はいよいよ4年生の卒業式があり、そしてその日で秋学期も終了となる。

 だから16日からは、2月末までの長い冬休みだ。

 まさに、シルフェ様が魔法障壁を貼り直した日から数えて丁度100日目の、その日ですな。


 と言うことはだ。まずは、学年末試験の前か終えた頃には、魔法障壁を更新する必要がある。

 そうしないと、安心して卒業式や学年末を迎えられないからね。


 そして仮にその頃、魔法障壁を更新したとして、冬至祭もあることだから俺たちは年内にはグリフィニアに帰省しなければならない。

 遅くとも12月24日ぐらいにはグリフィニアに到着するとして、2泊3日の旅程なので出発は22日の朝となる。


 だから、学院が冬休みに入る16日から21日までの6日間。行動するとすれば、この6日間のいずれかとなる訳だ。


 俺は自分の部屋に備えてある紙を取り出して来て、カレンダーのように日付を記入しながらその主な予定を書いて行った。



「おお、なるほどですぅ。こうして見ると、この6日間しかないということですよねぇ」


 その予定表を覗き込みながら、エステルちゃんが感心する。

 この世界では、内政官や騎士団、学者関係とかならともかく、カレンダーやスケジュール表を作ったり確認したりする習慣があまりないからね。


「グリフィニアに帰る日は姉ちゃんと調整する必要があるけど、だいたいこんな感じになるんじゃないかな」

「そうですね。でも、アナスタシア・ホームには行かないんですか? きっと今年も、子供たちが待ってますよ」

「あ、そうか。だとすると出発を1日早めて21日だから、使えるのは5日間か」


 身寄りのない子たちを預かるアナスタシア・ホームへのグリフィン家から訪問で、ここのところ年末のこの時期担当は俺とエステルちゃんだった。

 今年は夏休みに1回訪れているが、王都住まいになって訪問回数が減ってるからな。

 それに昨年の24日は、クリスマスパーティーをしたんだよね。クリスマスと言うのは、俺の心の中だけに仕舞っておいたけど。


「ホーム用ツリーのアラストルトウヒの木を、ダレルさんにまたお願いして置かないとですぅ。それから、今年はあの子たちに何をプレゼントするのかとか、その準備もありますよぅ」

「そ、そうだね。プレゼントは、こっちにいる間に準備しないとかな」

「ですね」


 すっかり、アナスタシア・ホーム訪問の話になってしまった。

 それも大切だが、問題は地下洞窟の件だ。

 学院生なんだから学年末試験も大切ですよって? まあそれは大丈夫でしょ。なにせ、剣術学と魔法学は特待生なので、剣術学中級と魔法学の初等と中等の3つの講義は試験免除ですからね。



「ともかく。この16日から20日のどこかで、1回は地下洞窟に潜らないとだな。出来れば最奥まで行って、全貌を確かめたい」

「すべて、お片付け終了てなりますかね」

「うーん、それは行ってみないと、何とも言えないなぁ。アルさんがゴォーってやれば別だけど」


 アルさんの黒ブレスを、最大出力でかまして貰えば簡単に終わるかもなんだが、地上の学院に被害が出ると申し訳ない。


「王宮の下まで続いていて、そこが最奥だったら、ゴォーでもいいんじゃないですか」

「そ、そうかな。そうかも」

「それで、いろんな面倒くさいことのお片づけをして、はいお終い。ダメですかねぇ」

「たぶん、ダメでしょ」


 セルティア王国も、はいお終い、になりそうだよな。

 少なくとも俺が学院生の間はやめておこうね、エステルちゃん。



「それから、あと、わたし、もうひとつ心配があるんですよぅ」

「え? 王宮がはいお終い、じゃなくて?」

「そんなのよりも、とても大切なことです」

「何かな」


 そんなのって、まあわが家の王宮と王家への評価はダダ下がりなんですけど。


「何かなって、ザックさまはひどい。ジェルさんたちですぅ」

「あ」


「わたしたちが、その辺りの日に地下洞窟に潜るとして、ジェルさんたちはどうするんですか? 黙ってるんですか? でも、もう学院も冬休みになって、わたしも一緒に行くんですから、そしたら隠れて行く訳にはいきませんよ。どうするんですか? ちゃんと言うんですか? でも言ったら、私らもお供するて、絶対言いますよ」


 エステルちゃんは、ぐいっと俺の顔に自分の顔を近づけて、一気にそう言った。

 途中から顔をほのかに赤く上気させるものだから、とても可愛い。キスしていいですか? 今はダメですか。



「もう、ザックさまは。そこんとこ、ちゃんと考えてます?」

「そうだよなー」

「そうだよなー、じゃないです」


 まったく頭に無かった訳じゃないんだけどさ。でも今回は、俺とエステルちゃん以外は人外の超強力パーティだ。

 風の精霊のかしらのシルフェ様とそれからシフォニナさん。水の精霊のかしらのニュムペ様。そして、上位ドラゴンであるブラックドラゴンのアルさん。

 こんなパーティですよ。


「うーん。ちゃんと、ちゃんと言うけど、でも今回は、連れて行くことは出来ないなぁ」

「やっぱり……。そうですよね」

「シルフェ様から、いくら加護をいただいているとは言っても。やっぱりジェルさんたちは普通の人間だしなぁ」


「ザックさまとわたしも、種族は違っても人間ですよ。ザックさまは、えと、ちょっと違う?」

「僕はともかく、エステルちゃんは、その、かなり精霊が入って来てるでしょ」

「えー、そですかね。髪の毛がちょっと青くなったぐらいですよぅ。もっと寒くなれば、落ち着きます」

「そ、そうかな」


 いや、夏に青くなったけど、冬には落ち着くとか、そういう季節ものではないと思うのですが。

 今はもう、本当に美しくて艶やかな紺碧色なんですけどね。



「とにかく、ジェルさんたちには、今回は諦めて貰うしかないな」

「そう、ですよね。でも、お話しする時は、ザックさまがちゃんとお話ししてくださいよ。適当に、ちょっと地下洞窟だからダイジョウブとか、ダメですからね」

「ちゃんと話すよ」


 まずは、11月には戻って来るとおっしゃっていたシルフェ様と相談して、段取りや日程を決めてから、レイヴンのメンバーには話をしないとだな。


 どう考えても、邪な力が働いていると思われる今回はダメだ。

 彼女らを連れて行って、もし万が一のことがあって誰かを失うような事態にでもなったら、たぶん俺は何も躊躇うことなく、アルさんがゴォーってするよりも先にフレイムメティオとかを何発も何発もぶち込んで、一気に終わらせてしまいそうだ。


 例えそれによって地上に被害が出てしまっても、王宮なんかが崩れ落ちても、それで俺が王都に居られなくなって学院生を辞めることになっても。



「ザックさま、ザックさま。ザックさまったら、恐ろしげなキ素力が少し漏れ出てます。黙り込んで、何を考えてたんですか? 怖いことでも頭に浮かんだんですか?」

「あ、いや、ゴメン」

「珍しいですよ、ザックさま。はい、こちらにいらっしゃい。わたしのお膝に頭を乗せて、目を瞑って落ち着きましょうね」


 エステルちゃんに膝枕をして貰って、その柔らかさと温かさを感じながら俺は静かに目を閉じた。

 学院祭がようやく終わったのもあるし、これまで色々なことがあったから、気持ちが少し疲れてるのかな。

 今日はもう、すべてを忘れてエステルちゃんに甘えていてもいいよね。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

今回で第七章は終了です。

今年4月末から連載を開始し、ようやくここまで来ました。

いつもお読みいただき、本当にありがとうございます。


新年からは第八章に入ります。

引き続きこの物語にお付き合いいただき、応援していただければ幸いです。

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2021年2月21日付記

本編余話の新作、「時空クロニクル余話 〜魔法少女のライナ」を投稿しました。

タイトルからお察しの通り、あのライナさんの少女時代の物語です。作者としては、どうしても書きたかったというのもありまして。

とりあえず第1章ということで、今回は数話の中編で連載を予定しています。

リンクはこの下の方にありますので、そこからお飛びください。

ライナさんを密かに応援してくれている人も、そうでない人も、どうかお読みいただけますと幸いです。

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