第287話 王都屋敷訪問の約束
エステルちゃんとの散歩の途中、王宮前広場近くのカフェのテラス席で偶然に、再び出会ったのは俺のお爺ちゃんとお婆ちゃん、そしてエステルちゃんの叔母さんだった。
ブルーノさんが一緒ではなかったら、もしかしたら今回もそのことを教えて貰うことが無かったのかも知れない。
エステルちゃんの叔母さんが影護衛をしている、どこかの要人ご夫婦だ、とかね。
けれど、お婆ちゃんが「もうそろそろ」と言っていたように、この人たちから会いに行きたいという意志が働いていたのかもね。
それとも、天の采配だろうか。アマラ様かな。あ、ヨムヘル様も忘れてませんよ。
お爺ちゃんとお婆ちゃんから、14年前にグリフィニアを出た理由を聞いた後、あらためてエステルちゃんと、それから護衛に付いてくれているブルーノさんとライナさん、ティモさんを紹介した。クロウちゃんもね。カァ。
「どうですか、これから屋敷に一緒に」
「そうしませんか? アビーさまもいますし」
「ああ、アビーは頑張ったな。わしらも試合を見ておったよ」
「あの子、あんなに剣術の天稟があったのですね」
「ザックが審判員をしておるのも、ずっと見ていた」
「あなた、学院で特別の学院生なのね」
「そういう意味では、わしが受けた天啓も幻ではなかった、ということかな」
「そうですねぇ」
長い年月をふたりで過ごしているご夫婦というのは、なんだか会話の繋ぎや間が絶妙だよね。
いやいや、そんなところを感心するとかじゃなくて。
「今日は、ひとまず遠慮しておこうか、ザック」
「そうですね、あなた。今日は本当に偶然でしたからね」
「わしらは暫く王都に滞在つもりでおったから、あらためてこちらからきちんと訪ねて行こう。そうだな、次のザックたちのお休みの時などはどうかな。なあ、エリ」
「そうしましょうか。でも、ザックは休日にお屋敷にいるのかしら」
「この人、屋敷には欠かさず休日の前日の夜に帰るんですよ」
「あら、やっぱりそういう律儀なところは、グリフィン家の男ね。ヴィンスもこのお爺ちゃんもそうだから」
「そうなんですね」
律儀で意地っ張り、そんな感じですかね。確かに父さんはそうだよな。
俺自身は、それほど意地っ張りとかではないと思うんだけどさ。
それにしてもエステルちゃんは、ほんの僅かな時間でお婆ちゃんと仲良くなっていた。
「わかりました。それでは次の学院の休日にお待ちしてます。絶対ですよ」
「わかったわかった。次は何日後だったかな」
「12日後で、2日休みですね」
「では、必ず行くとザックと約束しよう。それでいいな、エリ。セリヤさんもいいかな」
「いいわ、カート」
「承知です。お館さま」
「それでは、わしらは先に行くとするかな」と、お爺ちゃんとお婆ちゃん、セリヤさんはカフェを後にして行った。
自分たちの分の会計は、もう済ませていたみたいだね。
「いやー、吃驚したなー。驚いたなー」
「ホントですぅ」
「ブルーノさんは、直ぐに分かったんだね」
「へい。自分も勿論14年振りですが、お館様には自分が14、5歳の頃に初めてお会いして、冒険者パーティを組んでからもいろいろとお世話になって、それにダレルのこともありやしたから」
ブルーノさんが、現在は冒険者ギルド長をしているジェラードさんとナンバー2のエルミさん、その妹のアウニさん、そして子爵館で庭師をしているダレルさんとパーティを組んでいたのは、以前に教えて貰った。
土魔法の達人で植物が好きなダレルさんが、前の子爵、つまりお爺ちゃんに請われて庭師になったのをきっかけに、そのパーティは解散したのだったね。
ブルーノさんが初めてお爺ちゃんに会ったという14、5歳の頃というと、15年戦争の最末期の時だ。
ブルーノさんは、そんな年齢で戦争に参加して闘ったんだよな。それがどんな闘いだったのか、具体的な戦争の様子はまだ話して貰ったことはないけど。
「お爺ちゃんとお婆ちゃんにも吃驚したけど、セリヤさんがエステルちゃんの叔母さんだったなんて。学院祭で顔を見た時、なんだか誰かに似てると思ったけど、ユリアナさんに似てたんだね」
「はいぃ、わたしも吃驚ですよぅ。こんなところでセリヤ叔母ちゃんに会うなんて」
「ティモさんも、分かったんでしょ?」
「いえ、私は何度かお顔を見ていたぐらいで、直ぐには」
「セリヤ叔母ちゃんの里は、うちと別なんですよ」
「ああ、ユリアナさんは、別のファータの里から嫁いで来たってことか」
「だからわたしも、お仕事に出る前以来、会ってなくて」
「それで探るように、じーっと見ていたんだ」
「はい」
お爺ちゃんがヴィンス父さんと大喧嘩して、お婆ちゃんとふたりで家出? 旅に出ちゃって、それでウォルターさんがこっそり影護衛をエーリッキ爺ちゃんに頼んで、別のファータの里から人を出して貰ったのだろうな。
そんな話をみんなと暫くして、屋敷に帰ることにした。
学院祭がようやく終わっての今日と、結構いろんなことがあったから、もうお腹いっぱいですよね。
屋敷に帰ると、アビー姉ちゃんたちも訓練を終えていた。
風魔法が使えるようにシルフェ様から加護をいただいた姉ちゃんは、午後もジェルさん、オネルさんとそれをどう剣術に活かすのか実地で研究し試し合って、充実した午後を送ったようだ。
「なんだかわたし、新しい扉を開いた感じだわー。昨日はクレイグさんに、もう教えることはそれほどないって言われたけど、なんだか新しく鍛錬しなきゃいけない道が、ぐぐーっと目の前に伸びたって言うのかな」
「アビゲイル様は、今日1日でもう、私らに追いつきましたぞ」
「あっと言う間に置いてかれそう。だから、少し時間を使って3人がそれぞれ工夫して、また3人で成果を教え合うことにしたんです」
剣術女子3人は、訓練直後ということもあって興奮を多少残しながらそんな話をした。
「姉ちゃんは、シルフェ様に感謝だな。それから、シルフェ様との約束はおろそかにしないこと」
「そんなの当たり前よ。努力は勿論、わたしには覚悟だってちゃんとあるわ。ザックに言われなくたって、これがわたしの道」
姉ちゃんの道か。どんな道なんだろうな。
姉ちゃんも来年は4年生だし、そうしたら学院を卒業するのも直ぐ目前だ。
卒業後はどうするのか、考えているのかなぁ。
お爺ちゃんとお婆ちゃんに会ったことは、夕食の後にでもゆっくりと話すことにした。
今は新しい扉を開いたとかで、アドレナリンが出続けているみたいだからね。
そして夕食後、ラウンジで暫く皆で談笑して、シルフェ様とシフォニナさんは夜が不得意だから早々に自室にしている部屋へと戻った。
レイヴンメンバーも自分たちの宿舎に帰る。今日午後の話は、ライナさんがジェルさんとオネルさんにしてくれるだろう。
そしてラウンジには、姉ちゃんとエステルちゃん、俺とクロウちゃんだけだ。
クロウちゃんは、食後のデザートの続きのお菓子ですか。
「姉ちゃんさ」
「なに?」
「今日、エステルちゃんたちと王都を散歩に行ったじゃない。そしたら」
「何かあったの? あんた、何したの?」
「何もしないよ。そうじゃなくて、会ったんだ」
「会ったって、誰と? 学院の誰か?」
「お爺ちゃんとお婆ちゃん、それにエステルちゃんの叔母さんもだけど」
「お爺ちゃんとお婆ちゃんって、男爵お爺ちゃんたち、王都に来てたの?」
「母さんの方じゃなくて、父さんの方の、グリフィン家のお爺ちゃんとお婆ちゃん」
「えっ?」
「偶然なんだけど」
姉ちゃんが言う男爵お爺ちゃんとは、アン母さんの実家であるブライアント男爵家のお爺ちゃんのことだ。
グリフィン家の祖父祖母の存在が今まで無かったから、お爺ちゃんお婆ちゃんと言えばうちでは母方しか思い浮かばないんだよね。
姉ちゃんは俺が言ったことを咀嚼しようと、暫く沈黙していた。
「偶然て、それ本物なの? あんたもわたしも会ったことなんて無いんだし」
「ブルーノさんがいち早く見つけて、お館様って駆け寄ったし、それにエステルちゃんの叔母さんが護衛で一緒だったから」
「そう、ブルーノさんが。それに、エステルちゃんの叔母さんが護衛でいたのね。そうなんだ……」
それで俺は、昨日に魔法侍女カフェで偶然に会っていたことも含めて、今日の午後に起きたことを姉ちゃんに話した。
特に、なぜお爺ちゃんとお婆ちゃんがグリフィニアを出ることになったのか。その経緯やお爺ちゃんの当時の思いは、なるべく聞いた通りに話したつもりだ。
俺が産まれる前に、アマラ様から啓示を受けたってこともちゃんと話したよ。これが無いと、ホントにただの親子喧嘩話だからね。
これで合ってるよね、エステルちゃん。
「はい、お爺さまとお婆さまのおっしゃった話。その当時に、どのように思われてグリフィニアを出たのかは、ザックさまの説明の通りですね。それで、14年間の長い年月とおふたりが旅の暮らしを過ごされるうちに、ずいぶんと心境が落ち着かれて、そろそろ孫たちに会っても良いのではないかと、おふたりが考えるようになられたと、わたしは受取りました」
「なるほどね。エステルちゃんがそう受取ったのなら、そうなんだね」
「はい」
うちの家族や関係者は、だいたいは俺よりもエステルちゃんの言うことに納得する。
まあ、それでいいんだけどさ。
「それで、次の休日に屋敷に来るって約束したんだね」
「うん、たぶん来ると思う。いや必ず来るよ」
「今の話で事情は分かったけど、わたしは、ちゃんとお会いして、自分のお爺ちゃんとお婆ちゃんがどんな方たちなのか判断するよ」
「そうだな」
「でも、どんなお爺ちゃんとお婆ちゃんだった? ねえねえ」
「姉ちゃんは、自分で言った側から」
「お婆さまは、上品だけどとても気さくで、お優しそうな方でしたよ。ね、ザックさま」
「うん、そうだね。エステルちゃんとは、直ぐに仲良くなってた」
「はい」
「それでお爺ちゃんは、そうだなぁ、やっぱり父さんと少し似てたかな」
「律儀で意地っ張りが、グリフィン家の男だって、お婆さまがおっしゃってました」
「ははは、律儀で意地っ張りがグリフィン家の男か。そうだね、その通り」
「ですね」
「ゴホン。でも、話した感じは優しそうで落ち着いてたよな。貫禄もやっぱりあったし。それに夫婦仲が凄く良さそうだった」
「おふたりでお話しされているのを聞いていると、なんだか温かい心持ちにさせられましたね」
「それから、これは昨日、知らずに会った時の印象だけど。強そうだった」
「強そうなんだ。ザックが言うのなら、そこんとこは間違い無いわよね。そうか、強そうなお爺ちゃんなんだ。これは、早く会いたくなって来た」
姉ちゃんはそこで俄然、会いたくなりますか。
いちども会ったことの無い祖父と祖母なんだから、ちょっと関心の向けどころが違う気もするんだけど、会いたくないわ、とか言うよりはまあいいか。姉ちゃんらしいし。
こうして12日後の次の休日。グリフィン子爵家王都屋敷は、元の子爵家当主であるお爺ちゃんとお婆ちゃんの訪問を迎えることになった。
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
よろしかったら、この物語にお付き合いいただき、応援してやってください。
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2021年2月21日付記
本編余話の新作、「時空クロニクル余話 〜魔法少女のライナ」を投稿しました。
タイトルからお察しの通り、あのライナさんの少女時代の物語です。作者としては、どうしても書きたかったというのもありまして。
とりあえず第1章ということで、今回は数話の中編で連載を予定しています。
リンクはこの下の方にありますので、そこからお飛びください。
ライナさんを密かに応援してくれている人も、そうでない人も、どうかお読みいただけますと幸いです。




