第281話 姉ちゃんチーム対4年生
「それではただいまより、学院トーナメント、準決勝の2試合を行います。まずは準決勝第1試合、2年D組対2年F組。選手が入場します」
場内アナウンスに観客からの大歓声が上がる。
先ほどの学院トーナメント1回戦の最後の試合は、難なくレオポルドさんのチームが勝ち上がった。
これで準決勝は、エイディさんの2年D組とジョジーさんの2年F組の対戦。そしてアビー姉ちゃんの3年C組とレオポルドさんの4年D組の試合だ。
1年生のチームが残れなかったのは寂しいが、学年差や訓練、経験の違いを考えると致し方ないだろう。
俺が出ていれば、というのは、言うだけ野暮だよね。
2年D組と2年F組の試合が始まる。
どちらも、3人の剣術前衛と魔法後衛ふたりという3ー2フォーメーションのチーム。
2年生同士の学年トーナメントではエイディさんチームが勝っているが、さて今回はどうでしょうか。
そして試合はやはり、総力戦となった。
剣術の腕ではエイディさんが抜け出ているとはいえ、チーム戦となると分からない。
お互いがお互いをひとり、ふたりと倒し、最後はエイディさんとジョジーさんの1対1の闘いとなった。
別にふたりで事前にこの対決を計画した訳ではないのだろうが、同じ課外部に在籍する者同士の闘い。
ここはジョジーさんの頑張りを応援したいところだ。
しかし、やはり底力ではエイディさんに軍配が上がる。
間合いの外での探り合いからの激しい打ち合い。その応酬のなかで一瞬の隙を見て、エイディさんの突きがジョジーさんの胸元に入る。
ジョジーさんはバランスを失って後ろに倒れ、その胸にエイディさんの剣先が置かれた。
うん、いい闘いだった。でもやっぱり、ふたりとも強化剣術は使わなかったんだね。
彼らが言っていた、日頃の鍛錬の成果を出す闘い。
次はいよいよ決勝戦だが、エイディさんは最後の最後に出すのだろうか。
そして、準決勝の第2試合、3年C組対4年D組。
この試合が事実上の決勝戦と考える観客が多いのだろう。選手たちがフィールドに入場すると、これまでで最大の歓声が沸き起こった。
こちらも両チームとも、剣術前衛が3人に魔法後衛がふたりだ。
姉ちゃんがロズ姉さんのチームを下してしまったことで、準決勝に残ったのはどちらかと言うと剣術に比重が置かれたチームばかりとなった。
やはりこういう少人数のチーム戦では、魔法要員がどう闘うのかがポイントとなってしまうよね。
別の言い方だと、脳筋は土壇場で強い、とも言う。え、違う?
それはさておき、この準決勝第2試合。
なんとアビー姉ちゃんは、これまで繰り出して来た超絶的移動速度を出さずに、他のふたりの剣術前衛とともにゆるゆると前進し、それを見て前に出て来たレオポルドさんチームの剣術前衛と3対3の闘いを始めてしまった。
そして魔法後衛の敵味方4人も、距離を置いて魔法戦を始める。
おい、姉ちゃんはともかくとして4年生相手の真っ向勝負に勝算はあるのか、と見ていると、案の定、レオポルドさんと闘う姉ちゃんは互角に相対しているが、他のふたりは徐々に4年生に押されて行く。
すると、姉ちゃんはトンと後ろに大きく跳躍してレオポルドさんとの距離を空け、着地と同時にスタンと今度は上空に跳躍して、くるくる回転しながら空中を移動して落下し、直ぐ側で闘っていたひと組の相手の4年生の首筋を叩いて、一瞬のうちに気絶させてしまった。
呆気に取られてその瞬時の出来事を見ていたレオポルドさんの口が、「おまえっ、何をっ」と言ったように見えた。
しかしその直後に姉ちゃんは、もうレオポルドさんの目前、僅かに間合いの外に立っている。
おい、おまえは忍びか。と言うか、さっきの試合といい、いまの動きといい、エステルちゃんと俺がやる高速機動戦闘訓練を良く見て研究してやがるよな。
いや、それが出来る方が凄いんだけどさ。
それはさておき、これで剣術前衛は3対2になってしまった。
残りひとりは自チームのふたりに任せ、姉ちゃんはレオポルドさんとの真っ向勝負を再開する。
しかしさすがに相手は強かった。姉ちゃんの変則的な動きや不意の攻撃にも何とか対応し、時折強烈な斬撃を繰り出す。
この闘いが暫く続いたが、再びアビー姉ちゃんは木剣を構えたまま後方へと跳んで、距離をかなり空けた。
そして、ふぅーっと大きく息を吸い込み長く吐き出したように見える。
彼女の、魔法適正はぜんぜん無いのに膨大なキ素力循環が渦巻くと、木剣を大きく八相に構えた。
「やぁーっ」
滅多に出さない姉ちゃんの甲高い気合い声が響いた直後、そこから瞬時に前進して間合いに入ったのか、それとも剣先自体が長く伸びたのか。そのどちらも同時に起こしたのか。
観客からすれば、気が付くとレオポルドさんの左胴を打たれて吹っ飛び、横転した姿だけが見えただろう。
あいつ、縮地も一歩手前じゃん。
キ素力のエネルギーにより爆発的な高速で剣を繰り出す強化剣術と、俺が得意とする縮地もどきに近いキ素力を使った移動体術。
このふたつを合体させて同時に出した技だ。
競技場内は水を打ったように静まり返る。
いつの間にかレオポルドさんチームの残された剣術前衛ひとりも倒されており、アビー姉ちゃんが暫しの殘心のあと、相手チームの魔法後衛へと走り出そうとすると、彼らは両手を挙げて降参の意志を示した。
魔法後衛狩りの姉ちゃんには敵わないと分かっているからだ。
試合終了のホイッスルが吹かれ、競技場内は一気に大歓声に包まれる。
俺は強化剣術で吹っ飛ばされたレオポルドさんが心配で、超俊速でその倒れている場所に駈けて行った。
「あー、肋骨が2本ほど、ひび入っちゃってますねー」
「そ、そうか。痛いんだが、もの凄く痛いんだが、ザカリー、早く回復魔法をお願い出来ないか」
「部長は頑丈だから、このくらいは大丈夫でしょ」
「いいから、喋らない。そのまま動かない。姉ちゃんもいらんこと言わない。そうしないと、ひびがうまく塞がりませんよ」
「お、おうよ。頼む」
肋骨を元どおりに戻すイメージで、ついでに切れた筋肉も繋ぎながら強い回復魔法を暫く掛ける。こんなものかな。
「あとで治療室に行って、クロディーヌ先生に診て貰ってください。はい、取りあえずこれで大丈夫」
「すまんな、ザカリー。楽になった。ありがとう」
「姉ちゃん、やったな」
「やったなって、なによ、ふん。威力はだいぶ抑えたけど、あれが今のわたしが出来る最大限よ。わかったでしょ。へん、だ」
勝ったくせに何だか機嫌が悪い。ふん、とか、へん、とか、子どもですか。
自分が出せる最大限の技というのは、彼女が言う通りなのだろうが、それをこの場で出したくなかったのだろうね。
しかし、エステルちゃんにひけを取らない高速機動戦闘といい、縮地もどき一歩手前の体術といい、強化剣術の鍛錬に加えて良くぞここまで身に付けて来たものだよな。
滅多に王都屋敷に帰って来ずに休日も鍛錬ばかりしているのだろうが、着実に強くなっている。さすがは俺の姉ちゃんだ。
「あとは決勝戦だけだな。まあ頑張ってくれたまえ」
「なによそれ。どんな相手だろうと、少しも手を抜かない。これがわたしの信条よ」
「エイディさん、頑張れ」
「まあ、あいつらは、日々鍛えているからね。全力で当たってあげないと失礼でしょ」
「エイディさん、死なないように」
「殺しはしないわよ。うちの大切な部員だもの」
いやー、ホントにエイディさん、頑張ってください。
こうして準決勝の2試合は終了した。
このあと15分間のインターバルを置いて、いよいよ決勝戦だ。
「(アビーさま、凄かったですよね)」
「(うん、姉ちゃんはいつの間にか、あんな技が出来るようになったんだか)」
「(前にジェルさんたちと訓練した時、ザックさまやわたし相手と同じように闘ってくれって、いろいろ試してたみたいですよ。あ、でもザックさまには黙ってい
てくれって、言われてましたぁ)」
「(ねえザックさん、アビーちゃんて、魔法適性が無くて使えないのよね)」
「(ええ、そうなんですよ、シルフェ様)」
「(アビーちゃんにも、風の加護をあげようかしら)」
「(うーん、そうですねー。本人が望むなら)」
「(そうね。アビーちゃんが望むなら、ね)」
姉ちゃんがこれからの人生で、もし闘いの場に身を置くことになるのならば、それもいいだろう。
すべては本人次第だ。なぜ自分が強くなろうとしていて、なぜ鍛錬をこんなにも続けているのかも。それらを考えるのは本人。
尤も、何に対しても貪欲な姉ちゃんなら、風の加護を直ぐにほしがるだろうけどね。
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
よろしかったら、この物語にお付き合いいただき、応援してやってください。
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2021年2月21日付記
本編余話の新作、「時空クロニクル余話 〜魔法少女のライナ」を投稿しました。
タイトルからお察しの通り、あのライナさんの少女時代の物語です。作者としては、どうしても書きたかったというのもありまして。
とりあえず第1章ということで、今回は数話の中編で連載を予定しています。
リンクはこの下の方にありますので、そこからお飛びください。
ライナさんを密かに応援してくれている人も、そうでない人も、どうかお読みいただけますと幸いです。




