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第276話 学院祭なか日も終わって

 総合戦技大会3日目の後半戦、2年生の決勝トーナメントも無事終了した。

 トーナメントに進んで来たのは、すべてアビー姉ちゃんのなんとか剣術なんとかに在籍している課外部員3人のいるクラスだ。

 やはり、副部長格のエイディさんの実力がひとつ抜きん出ていて、彼の2年D組チームが優勝となった。


 2位はジョジーさんの2年F組で、D組とこのF組が明後日の無差別戦、学院トーナメントに進出し、ハンスさんのいる2年A組は残念ながら進むことが出来なかった。

 つまり、この時点で、うちの1年A組とブルクくんの1年B組の対戦相手も決まったということだ。


 第1試合で、1年生の1位となったB組チームが2年生の2位であるジョジーさんのF組チームと対戦。

 そして第2試合で、1年生2位のA組チームが2年生1位のエイディさんのD組チームに挑むことになる。

 これは強敵ですよ。



 2年生の決勝トーナメントを見ていて疑問に思ったのは、3チームとも、と言うか3人とも、自分たちが課外部で鍛錬しているであろう強化剣術を、誰も使わなかったということだ。

 使う必要がなかったのか、でも部員同士の直接対決もあったので、学年の決勝トーナメントでは使わないと申し合わせていたのか、それは分からない。

 あとでアビー姉ちゃんにでも聞いてみるかな。


 俺が彼らの強化剣術を見たのは、夏休みの合同合宿で行った試合稽古の際に、ブルクくんとの対戦で最後に出したエイディさんのものだけだ。

 もしあれが出されたら、ブルクくんとルアちゃんはともかくとして、1年生レベルの剣術の腕ではどうしようもないよね。

 しかしそれ以前に、そこまで肉薄して闘えるのかだけどさ。


 対エイディさんチーム対策は?

 うーん、今夜ゆっくり考えようか。それとも当たって砕けろで、ヴィオちゃんたちに任せようか。

 俺はそんなことを考えながら3日目の審判員仕事を終えて、総合競技場の関係者出入口に向かった。



 おや? あそこに集まっているのは、まさにいま試合を終えたばかりのなんとか剣術なんとかの皆さんではないですか。姉ちゃんとロルくんもいるな。


「おーい、なんとか剣術なんとかのみなさーん」

「強化剣術研究部よっ。ザック、お疲れさま」

「おお、ザカリーさん。審判員、お疲れさまであります」

「お疲れさまであります」


「こんなところで、何してるの?」

「うん、ここで集合して、これから夕ご飯でも食べながら反省会に向かうところ」

「なるほど。あ、エイディさん、学年1位、おめでとうございます。ジョジーさんの2位とハンスさんの3位、残念でした」


「いや、ありがとうであります。ハンスのチームは学院トーナメントに進めなかったでありますが、この3人のチームのうち、どれかはそうなってしまうので」

「私どもは、明後日に再チャレンジであります」

「今年は負けてしまいましたが、来年は1位になるであります」


 この3人、話し方とか物腰はあれだけど、剣術に対してはホントに前向きなんだよね。



「そう言えば、ザカリーさんのクラスは残念でありましたな。いや、壮絶な連戦でありました。見ておりましたよ」

「ねえ、ルアちゃんとカロちゃんは大丈夫?」

「うん、あの試合のあと診察を受けて、身体的には問題無し。念のために看護室で様子を見るため寝かされていたけど、もうふたりとも解放されたと思うよ」


「あ、あの、カロさんは、決勝戦に出られなくて、だ、大丈夫でしたか」

「ロルくんも、治療室にお見舞いに来てくれれば良かったのに」

「えっ、あの、僕」

「ははは。うん、直後はかなり落ち込んでたみたいだけど、エステルちゃんたちもお見舞いに行って、A組チームも行ったら元気を取り戻したよ」


「良かった」

「この子、カロちゃんが担架で運ばれて、おまけに欠場がアナウンスされてから、気が気じゃなくて、先輩たちの試合の応援にも、ろくに力が入らなかったんだから」

「ぶ、部長っ」


 いやー、ロルくん。心配してくれてありがとうね。キミもカロちゃんに会いに行ってください。

 明日は元気に、魔法侍女をしていると思いますからね。



「これで、明後日はヴィオちゃんたちチームとエイディのチーム、ブルクくんチームとジョジーのチームの対戦になったわね。あんた、何か考えてるんでしょ。今日の試合を見たら、あんたんとこのクラスは何をやって来るか、わからないし」

「そうであります。あの初めの試合での、大きな水溜まりと雷と氷でありますか。あれは吃驚したでありますよ」


「うーん、取りあえず、何も考えてないかな。あんな奇策は1回切りのものだしさ」

「まあそうね。ルアちゃんも、強行突破しようとしないで、落ち着いて闘えば、また別の展開もあったかもだわね」


「それより、皆さんにちょっと聞きたいんだけど」

「なに?」「何でありますか?」


「今日の決勝トーナメントで、どうしてお三方とも強化剣術を使わなかったの?」

「ああ、それでありますか。まずは、課外部ではなく、クラス単位のチーム戦でありますからな。突出したパフォーマンスは避けたと言うか。それよりも、素の剣術での鍛錬度合いを試したかった、と言う方が正しいでありますかな」


 さすが、学院生活で日々精力を剣術鍛錬に注ぐ皆さんでありますな。

 課外部では強化剣術に取組み、クラスのチーム戦では純粋に剣術の実力を試すということなんだね。

 俺はあらためて、エイディさんたちを尊敬した。言葉遣いと物腰はあれだけど。




 これから反省会を行うというアビー姉ちゃんたちと別れて、俺は魔法侍女カフェへと向かう。

 もうそろそろ、3日目の学院祭も終了の時刻だ。


 学院祭を訪れていた大勢の人たちが、帰り道へと戻って行く。

 その人びとの流れとは逆に歩いて行くが、時々「ザカリーさまー」とか「明日も頑張れよー」とか「明日も面白いこと頼みますよー」とかの声が掛かる。

 いや、面白いことすると怒られますんで。まあ、手でも振っておきましょう。



 魔法侍女カフェは、1年生の決勝トーナメントが終わると、応援のため臨時閉店していたお店を再開させていた筈だが、俺が着いた時にはもうクローズドになっていた。


 ドアを開けて中に入ると、ああ、やってますね。

 キミたちは今日の反省会と称して、毎日お店を閉めるとお菓子を広げて打ち上げをやってますよね。


「あ、ザックくん、お帰りー」

「今日もご苦労さまでした、オーナー」

「お仕事、ご苦労さまですー」

「さあさ、疲れた身体には、甘いものでもー」


 はいはい、気遣いありがとうございます。

 何だか俺ひとりだけ、仕事をして帰って来た気分だよね。まあそうなんだけどさ。



 店内を見ると、『学年2位おめでとう。残念だったけど、学院トーナメント頑張ろう!』と大きく書かれた紙が壁に貼ってあった。

 ああ、今日頑張った選抜メンバーへの慰労会だったんだ。

 うん、ホントに5人は頑張ったよ。


 その5人はと見ると、ヴィオちゃんとペルちゃんと、それからカロちゃんもちゃんと魔法侍女の制服に着替えてるんだね。

 わざわざいちど着替えるのがどうしてなのか俺には謎だが、そういう決まりごとにでもなっているのだろうか。


 心配していたカロちゃんの様子も、元気に皆と笑い合って大丈夫そうだった。


「あ、ザックさま。その……」

「うん、もう明後日に向けて、体調も万全そうだね」

「はい、です」


 クロディーヌ先生の診察は済んでいるとは言え、俺は念のためにこっそりと探査で彼女の身体を診てみる。

 うん、何も問題は無さそうだ。少々心配し過ぎかも知れないが、どうも幼い頃から知っているカロちゃんをお父さん的に見てしまうんだよね。



「そっちの打撲お揃い4人組も、大丈夫そうだな」

「なによ、その打撲お揃い4人組って」

「僕たちのことだろ」

「そんなの、わかってるわよ。だいたい、わたしたち3人はみんな、ブルクくんにやられちゃったけど、あなただけひとり違うんだから、お揃いじゃないわ」


 ああそうか。ライくんだけ、ブルクんではなくB組の剣術前衛のひとりにやられたのだった。


「でもさ、僕だけブルクの石礫つぶてを喰らわされるなんて、不公平じゃないか。あれ、かなり痛かったんだぜ」

「それは、あなたの日頃の行いが悪いせいよ」

「日頃のって、そうかなぁ」

「災難ってやつだな」


「まあ、チームの全員がフィールドに倒れたんだから、そういう意味では、全員がお揃いで痛い思いをした訳だ」

「この偉そうな先生をフィールドに倒す、誰か奇特な人が現れないものですかね」

「ザックさまがフィールドに倒れたら、この世の終わり、です」


「それほどなの? カロちゃん」

「あ、ひとりだけ、います、です」

「だれ、だれ?」

「エステルさん」

「あ、ああぁ」


「いつも叱られてます、です」

「それって、フィールドに倒されるって言うより、自分から倒れるって感じよね」

「そうとも言います、です」



 今日の学年決勝トーナメントで、冗談ではなくチームの全員がフィールドで倒れて1位にはなれなかったけど、みんな元気を取り戻したみたいだな。

 これで学院祭のなか日も終わり、残すところあと2日だ。クラスの全員で明るく楽しく、最後まで学院祭を楽しみたいよね。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

よろしかったら、この物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

ーーーーーーーーーーーー

2021年2月21日付記

本編余話の新作、「時空クロニクル余話 〜魔法少女のライナ」を投稿しました。

タイトルからお察しの通り、あのライナさんの少女時代の物語です。作者としては、どうしても書きたかったというのもありまして。

とりあえず第1章ということで、今回は数話の中編で連載を予定しています。

リンクはこの下の方にありますので、そこからお飛びください。

ライナさんを密かに応援してくれている人も、そうでない人も、どうかお読みいただけますと幸いです。

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