第274話 1年生決勝戦の闘い
「ただいまより、1年生の決勝戦、A組対B組の試合を行います。なお、A組チームは先ほど行われた2回戦の際、カロリーナ・ソルディーニ選手が負傷したことにより、本決勝戦は大事を取って欠場となり、4名での出場となります。同時に、同じく負傷したE組のルアーナ・アマディ選手も、決勝戦のあとに行われる2位決定戦を欠場となりました。これにより、E組は2位決定戦を辞退いたしましたので、本決勝戦にて1位と2位が決定されます」
場内アナウンスが流れ、カロちゃんとルアちゃんの欠場が決まったことが競技場内に知らされた。
E組は主戦力のルアちゃんが出場出来ないことから、2位決定戦を辞退したんだね。それもひとつの決断だ。
競技場内には、カロちゃんとルアちゃんを心配する声、欠場の嘆息、これからひとり足りない4名で決勝戦に挑むA組への心配と声援とが、様ざまに渦巻いた。
うちのクラスの魔法侍女たちが叫ぶ、力いっぱいの声が聞こえてくる
「それでは、A組とB組の選手が入場します。大きな拍手でお迎えください」
選手たちが選手入場口からフィールドに走って来た。
4人となったA組チームも元気良く走って来る。
ヴィオちゃんとライくん、そしてバルくんとペルちゃんも、フィールド外審判員として立つ俺の方を見ながら所定の位置へと向かう。
皆の顔は、うん、闘志は失っていないな。俺は頷いてみんなにニッコリと微笑んだ。
主審のフィランダー先生が双方のチームのキャプテン、ヴィオちゃんとブルクくんを呼ぶ。
注意事項をあらためて確認したあと、ふたりが握手をしてそれぞれのフィールド位置へと下がった。
さあフォーメーション配置だ。
先日の作戦会議でも、俺はこの対B組戦への作戦は何も話していない。
おそらく相手は、特別な戦術を用いるというより、総力で潰しに来るだけだとのみ言ってある。
これはA組が4名となったいま、まさにその通りに闘って来るだろう。
A組が有利な部分は依然として魔法力だが、数で優位に立ち、かつ荒々しく剣を振るうようになったブルクくんがいるチームに勝てるだろうか。
B組の初期フォーメーションは、1回戦と同じくブルクくんを頂点として三角形を作る剣術前衛と、その後方にふたりの魔法後衛を配置した。
そしてA組は、4人がそれぞれに少しずつ空間を空けて、ほぼ横一列に位置取りをする。
バルくんとペルちゃんがセンター、そしてその両脇方向にヴィオちゃんとライくんが立つ。
これは一斉に個別撃破か。いや、剣術前衛がふたりでブルクくんを防いでいるうちに遊撃がほかを潰すつもりだな。
「ピーッ」とフィランダー先生の吹くホイッスルが鳴った。
その音と同時に、ブルクくんが真っ直ぐ前方へ走り出す。そして、その後方のふたりの剣術前衛も続いた。
その時、ヴィオちゃんからアイススパイクが、ライくんからウィンドカッターが続けざまにブルクくんの後を追う剣術前衛ふたりに向けて撃たれた。
これは牽制と足止めだな。
B組の魔法後衛もそれを見て魔法を放つが、まだ相手に対して距離があり、うまく狙いを定めることができない。
ヴィオちゃんとライくんは、ゆっくりと前進しながら次々に魔法を撃ち続ける。
この速度で連撃を重ねられるのは、1年生ではこのふたりだけだろう。
その魔法は思惑通り剣術前衛の足を止め、ブルクくんひとりだけが前進する。
それを見て、バルくんとペルちゃんが一気に動いた。
猛然とブルクくんに左右斜め前方から接近し、ふたり同時に間合いに入る。
ガンガンと左右から交互に木剣を繰り出し、2対1の闘いが始まった。
これを確認して、後方で足止めを喰らっているB組の剣術前衛のふたりに、ゆっくりと距離を縮めていたヴィオちゃんがフローズンウィンドを、そして反対方向からライくんが雷撃を連続して何筋も放った。
先ほどからのアイススパイクとウィンドカッターを、何とか防ぎ避けていたふたりの剣術前衛だが、こんな魔法は初めて喰らったのだろう。
魔法への恐怖に避ける一方となり、ふたりの前進が完全に止まる。
ここで突撃して一気に潰しに行くと思いきや、ヴィオちゃんとライくんは頷き合うと今度は後方から近づいて来るB組の魔法後衛へ向かってアイススパイクとウィンドカッターを飛ばしながら、猛然と走り出した。
これに慌てて、B組の魔法後衛のふたりもウィンドカッターの連撃で対抗する。
しかし、魔法を撃たれることに慣れており、ここまで2試合を闘って来たヴィオちゃんとライくんの敵にはならなかった。
片手に木剣を持って走りながらの魔法戦でみるみるうちに接近し、ふたりがほぼ同時にそれぞれの相手を見定めると、胴を叩いて打倒した。
この間、バルくんペルちゃんとブルクくんとの2対1の闘いはどうなっただろう。
それまでふたり掛かりの連続攻撃に剣を合わせていたが、やはりブルクくんは強かった。
勝機を見たのか、ペルちゃんの振り下ろした木剣を強く撥ね上げ、よろめくところを胴打ち。
それに慌てて突きに出るバルくんの木剣を上から叩き落とし、返す剣で斜め下から同じく胴を打って、続けざまにふたりを倒してしまった。
そしてブルクくんは後ろを振り返る。
自軍のフィールド後方では、いままさに自分のチームの魔法後衛が倒されたところ。
そしてその中間では、剣術前衛のふたりがようやく態勢を整え直したところだった。
これでA組2名対B組3名。試合開始からそれなりに時間が経過しているので、このまま時間切れとなれば残り人数差でB組の勝利だ。
しかしブルクくんは、自分からまだ距離が離れているヴィオちゃんとライくんに視線を向け、意を決したかのように走り出した。
同じくブルクくんを見ていたヴィオちゃんとライくんも、フィールド後方の左右からゆっくりと前進する。
ブルクくんはふたりの剣術前衛が居る場所に到着すると、ひと言ふた言、声を掛けて3人でライくんに向かって走り出した。
これを見てライくんも、向かって来る3人にウィンドカッターを撃ちながら前進する。
ヴィオちゃんも慌ててそちらへと走り出す。
するとその時、突如ブルクくんが走りながら魔法を撃ったのだ。
この大会で初めて発動した彼の魔法は、あの夏休み合宿で俺がお見舞いした土魔法の石弾、石礫だ。
俺が撃ったほど大量という訳にはいかないが、それでも複数の石弾がライくんを目掛けて飛んで行く。
それも、間隔が空いてしまいがらも二度三度と。
次々に飛んで来る石礫には、ライくんも自分の魔法発動がおろそかになってしまった。
当たって怪我をするような然程の威力はないが、それでもあれは痛い。
このライくんの様子を見ながら、B組の剣術前衛のふたりが速度を早めて距離を縮める。
一方でブルクくんは、走る方向を変えてヴィオちゃんへと向かって行った。
いきなり自分へと目標を変え接近して来るブルクくんの姿に、ヴィオちゃんはここで足を止めキ素力を循環させると、渾身一擲の強力なフローズンウィンドを放った。
これにもろに当たれば、おそらくそれだけでブルクくんは倒れるだろう。
しかし彼もどうやら、ヴィオちゃんがフローズンウィンドを放つことを予測していたようだ。
フローズンウィンドはアイススパイクなどと比べると、強力ではあるが遥かに速度が遅く、彼女が苦労しているように動く相手に狙いを定めるのがとても難しい。
ブルクくんは自分の目前に到達したこの魔法を、なんとか走りながら避ける。
しかしどうやら、左の肩口を掠めてしまったようだ。
それでも歯を食いしばりながら走り続けると、ヴィオちゃんが二の矢を放つ寸前に剣の間合いに入り、片手だけで両手剣の木剣を横薙ぎにして胴を叩いた。
そして直ぐに、ライくんと自チームの剣術前衛の方を見やる。
その視線の先には、なんとか雷撃でひとりを倒しながらも、もうひとりに木剣で打たれて崩れ落ちるライくんの姿があった。
「ピーッ、ピー」
試合終了のホイッスルが鳴った。しかし競技場内は、まだ静まり返っている。
やがて少しの間を置いて、大歓声が沸き起こった。
かなりの激戦に、終わってみれば辛くもブルクくんとB組チームの勝利だった。
A組の4人は全員がフィールドに倒れている。B組で横たわっているのは、最後に倒された剣術前衛のひとりと魔法後衛ふたりの3人。
しかしブルクくんも左肩をフローズンウィンドにやられ、ヴィオちゃんの横で座り込んでいる。
木剣でやられたA組の剣術前衛のふたりとB組の魔法後衛のふたりは、それぞれクリスティアン先生とジュディス先生に回復治療を任せ、俺はまずライくんと彼の雷撃に至近距離から撃たれたB組選手のもとへと俊速で走る。
雷撃は、直撃すると怖い魔法だからね。
彼の身体の様子を探査で丹念に診ながら、回復魔法を施す。どうやら雷撃のショックで身体が硬直して倒れたようだが、心配は無さそうだ。
「身体に異常は無さそうだけど、あとで治療室に行ってくれ」
「あ、はい。ありがとうございます、ザカリーさん」
それから今度は、どうやら胴をしたたかに打たれたらしいライくんを診て回復治療を行う。
「あー、アバラまでは行っちゃってないね。打撲、打撲」
「そ、そうかよ。ブルクの石礫といい、木剣といい、メチャ痛かった」
「ほれ、もう大丈夫。少し寝てろ。ヴィオちゃんとブルクのところに行くから」
「あいよ」
それから、超俊速でふたりのところに駆けつけると、まずは座り込んでいるブルクくんの左肩を診た。
ああ、肩と腕の筋肉がやられちゃってるね。かなり強いフローズンウィンドだったな、これ。
俺は強めの回復魔法を、左肩と腕を中心として全身に施した。
「ほらブルク、大丈夫か? 肩はもう治っていると思うから動かしてみろ」
「ああ、ありがとう、大丈夫そうだ。左肩から先がもげたかと思ったよ」
「良く闘ったな。最後の闘志は凄かった」
「ヴィオちゃんが、僕を殺しそうな視線を向けて来た。ちょっと怖かったけど、なんとか先に叩けたよ」
「そうか。まあ闘うって言うのは、そんなものだ。念のために、あとで治療室で先生に診て貰えよ」
「うん、わかった」
それから横たわっているヴィオちゃんの回復を行う。こっちもライくんと同程度の打撲だな。
「ああ、ザックくん……。負けちゃったわ」
ヴィオちゃんが回復魔法をかける俺の顔を見て、ポロポロ涙をこぼした。
彼女が泣くなんて、初めてだ。
「これで大丈夫。ライと同じくらいの打撲だから、あいつとお揃いだな」
「こんなに痛い打撲のお揃いなんて、嬉しくないわよ」
「よしよし、良く闘った。負けたら悔しい、打たれたら痛い。でも、そうやって積み重ねて行こうよ」
「うん」
こうしてA組は決勝戦で負け、1年生の2位となった。でも今年の総合戦技大会は、まだ終わりじゃないよ。
明後日には4学年の1位と2位が参加する学年無差別戦、学院トーナメントがある。
カロちゃんも出場できる筈だから、あらためて仕切り直しだ。
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
よろしかったら、この物語にお付き合いいただき、応援してやってください。
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2021年2月21日付記
本編余話の新作、「時空クロニクル余話 〜魔法少女のライナ」を投稿しました。
タイトルからお察しの通り、あのライナさんの少女時代の物語です。作者としては、どうしても書きたかったというのもありまして。
とりあえず第1章ということで、今回は数話の中編で連載を予定しています。
リンクはこの下の方にありますので、そこからお飛びください。
ライナさんを密かに応援してくれている人も、そうでない人も、どうかお読みいただけますと幸いです。




