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第270話 アビー姉ちゃんの1回戦

 3年生の試合は、昨日の1年生や2年生よりも剣術と魔法の技量も上がり、却って接戦が続いた。


 さすがに、どちらが勝ってもおかしくないような審判員判定にまではならなかったが、第1試合も第2試合も15分をフルに闘い、まだ戦闘可能な選手を残しての勝敗判定になった。

 この場合は基本的に、戦闘可能な残余人数が多い方で決まるんだよね。


 また剣術も魔法も威力が上がっている分、木剣で打撲したり魔法で傷つくケースも増え、俺も結構忙しくなる。

 同時に何ヶ所かに回復魔法を施しに行かなければならず、ついつい抑えている速度を多少早めて走ってしまったのだが、なんだかその度に拍手が起きるんだよね。



 昨年まではどうしていたのかを、魔法審判員のクリスティアン先生とジュディス先生に聞くと、試合後の回復治療に手間取ったり、競技場内に臨時に設置している治療室に選手を運んだりで、結構時間が掛かっていたそうだ。


「今年はザカリーくんがいるから、治療が早く終わるし、治療室に運ばなくて済んでるから、とっても助かるわよね、クリス」

「そうだな。いざという時のために治療の先生が控えているが、ヒマで良いと言ってるぞ。それに試合の進行も、例年になくスムーズだしな」


「今年から4年間は、こんな感じで大会が出来るから、いいわよね」

「ザカリーには申し訳ないけどな」


 4年生まで俺が審判員なのは決定なんですかね。ライくんの言葉じゃないが、それは少々寂しいかもですよ、先生方。



 さていよいよ、3年生1回戦の最後の試合だ。C組対E組。アビー姉ちゃんは3年C組だね。


「それではこれより、3年生1回戦の最終試合を始めます。3年C組と3年E組の選手は入場してください。なお、C組は昨年、2年生で最終日の学年無差別戦決勝まで勝ち進み、惜しくも敗退、準優勝となったチームです」


 この場内アナウンスに、「うぉーっ」と競技場内から大歓声が沸き起こる。

 そしてその大歓声に迎えられて、両チームの選手がフィールドに走って姿を現した。



 お、姉ちゃん、いい顔と言うか、不敵な顔をしているな。

 俺と同じように幼少の頃から騎士団で見習いに混ざって剣術を習い、魔法の適性が低いと判明してからはクレイグ騎士団長を師に、強化剣術に心血を注いで来た。


 この学院で自分の課外部を作って、普段の訓練のほか、休日には部員たちを連れて王都近隣の森に入り獣を狩る訓練をしていると言うから、おそらくはどの学院生よりも実戦経験が多いだろう。

 どうやら、森に潜んでいた盗賊団といった、ならず者との対人戦も経験しているらしい。詳しくは教えてくれなかったけど。


 だが何よりも姉ちゃんの凄いところは、天性とも言える野性の身体能力、人間離れしたスピードかつ予測不能の動きだ。

 ジェルさんに聞いたところでは、彼女やオネルさんと互角以上で戦闘訓練を行うそうだ。

 そんなに鍛えて強くなって、どこに行こうとしてるんだ、姉ちゃん。




 アビー姉ちゃんのC組は、剣術前衛が姉ちゃんを含めて3人、魔法後衛がふたり。

 一方で対戦相手のE組は逆に剣術前衛2名に魔法後衛が3名と、魔法に重点が置かれているようだね。


 E組の5名は前衛、後衛とも、センターラインからはだいぶ後方にポジションを置いている。

 それを確認したのか、姉ちゃんがひとり前衛の位置からからゆっくりと抜け出して、ほぼセンターライン上に進み出た。

 あいつ、敢えてひとりで突出して、5人をいっぺんに片付けるつもりかな。


「ピーッ」とフィールド審判に立つフィランダー先生の試合開始のホイッスルが、響き渡る。


 すると姉ちゃんのC組選手全員が、初めから速度を上げて相手フィールドへと走り出した。

 おいおい、いきなりの突撃かよ。


 それを見たE組の魔法後衛が、3名全員で猛然と火球魔法を撃ち出す。だが、自分たちがかなり後方に下がっていることもあって、突撃してくる敵への狙いが定まらない。

 そこにC組の魔法後衛のふたりも、走りながら同じく火球魔法を相手前衛に目がけて撃ち出す。

 5人が揃って撃つ同じ魔法を飛び交い、壮絶な火球魔法戦が続くのかと思われた。



 しかし、それは突然に終わった。E組からの魔法が飛んで来なくなったのだ。

 なぜなら、いつの間にかアビー姉ちゃんが敵のフィールド奥深くの魔法後衛のポジションまで到達していて、次々に3人を狩って行ったからだ。それも見事にアクロバティックな動きで。


 まず、左端の魔法後衛の横に野獣のように猛然と駆け込むと、その胴を素早く打って倒し、それに気が付いたセンターの魔法後衛が慌てて魔法を撃とうとするところを、高く宙に舞い上がって肩口に木剣を振り下ろす。

 そして倒した相手も確認せずに、あっと言う間に右端の魔法後衛の目前に到達すると、何も為す術のない相手の胴を叩いた。


 そして3名を倒し終えた姉ちゃんは、その場にひとりで立ち、センター方向へと振り返る。

 突進して来るC組からの魔法攻撃を避けるばかりで動けずにいたE組の前衛に、C組の前衛ふたりが到着し、闘いが始まっている。

 しかしE組の剣術前衛はふたりとも既に負けを意識したのか、闘いに精彩がなく、あっと言う間に倒されてしまった。


 アビー姉ちゃんのC組の完勝だった。



「ピーッ、ピー」


 試合終了のホイッスルの音とともに俺は審判員ベンチを飛び出し、俊速で3人が倒れているE組の後衛のポジションへと走った。

 姉ちゃんが抑え気味の威力で叩いていたのは確認しているが、3人も倒れてるからね。


 そして、3人の状態を診ながら回復魔法を順番にかけて行く。

 特に、肩口を空中から打たれたセンターポジションの人は少し心配だったが、うん、鎖骨が折れたりはしていないようだね。

 打撃の威力と言うよりは、打たれたショックの方が大きかったみたいだ。



「ザック、あんた来るのも、治療も早いわね。ちょっと走るの、速過ぎよ」


 姉ちゃんはこの場に残って俺の治療を見守っていたが、それが終わると声を掛けて来た。


「姉ちゃんこそ、速過ぎ。ちゃんと前衛を倒してから、ここまで来いよ」

「ああ、うちの前衛もそこそこ強いから、任せても大丈夫なのよ。こっちの後衛には悪いことしちゃったけどね」

「ホント、せっかく魔法を撃ってるところに、姉ちゃんがいきなり現れるなんて、災難だよな」


 そんな会話を交わしてから、アビー姉ちゃんはセンターラインの辺りにいる自分のチームのところに悠然と歩いて行った。

 ある意味あいつも、貫禄が出て来たよね。


 ここまで3年生の1回戦全試合を見て来たが、やはり姉ちゃんの力は突出していた。

 もし剣術の個人戦とかがあったら優勝候補筆頭じゃないかな。

 4年生で総合剣術部部長のレオポルドさんもかなり強いようだが、訓練は見ていても実際に闘う姿をほとんど見たことがないので、どうだろうか。

 このあとは4年生の1回戦なので確認出来るでしょう。



「いやー、やっぱりアビーは強かったな。ザックから見て、おまえの姉ちゃんてどうなんだ?」

「あの野生児ですか? うちの姉ちゃんは、アラストル大森林に放り込んでも、たぶんひとりで帰って来られます」


「そ、そうなのか。それは凄いな」

「と言うか、ザックくんのとこって、ホントたいした姉弟よね」

「いやーフィロメナ先生、それほどでも」


「で、去年は、最終日の決勝戦でどうして負けたんですか?」

「ああ、相手の4年生のチームが特殊だったのよね。魔法の上手い子が4人も揃っていて、それで集中砲火を浴びちゃって、アビーちゃん、ボロボロにされちゃったのよ」

「それで、ひとりだけの剣術前衛が前の総合剣術部の部長でな。こいつが、アビー以外の選手を順番に倒して行った訳だ」


 それは確かに特殊なチームとの決勝戦だったんだな。

 総合剣術部の前の部長というからにはかなり強かったのだろうけど、姉ちゃんを剣で相手にせず魔法で潰させた訳か。それも戦術だよね。


 今年は優勝するつもりだろうし、まあ俺の姉ちゃんだから応援してあげましょう。




 本日後半の4年生1回戦の試合は、やはり現総合剣術部部長のレオポルドさんのクラスと、総合魔導研究部のロズリーヌ部長のクラスが強かった。


 レオポルドさんのチームは剣術前衛が3名に魔法後衛が2名と、やはり剣術に重点を置いてはいたが、魔法要員も決して劣っている訳ではなく相手チームと互角に魔法戦を闘い、その間にレオポルドさん以下の剣術前衛が悠々と相手を倒して行った。


 一方、ロズ姉さんのチームは3名の魔法後衛に力を入れていて、風の刃が翻弄し、火球が次々に襲いかかり、アイススパイクが飛ぶという華やかな魔法の撃ち合いになった。

 特にロズ姉さんは移動しつつ、フローズンウィンドで相手の行動を無効化しながら、何本もアイススパイクを撃ち放って的確に当て、ほとんどの相手選手を倒してしまった。



 こうして本日の3年生と4年生の1回戦も無事終了した。


「なんとか1回戦がすべて終了したの。ここまでは、大きな怪我を負った選手も出なくて良かったですじゃ」

「おう、審判員の先生方もご苦労だった。ザックもご苦労さん。それでどうだ、明日からはフィールド審判もやってみるか」


「いや、やっぱり1年生の試合はやめておきますよ。僕のA組も出ますしね」

「別にわしらはいいと思うが。では、フィールド外審判員をやって貰うのではどうじゃな」

「フィールド外審判員ですか」


 フィールド外審判員はフィールドの外側に立って、フィールド内にいる剣術審判員と魔法審判員の目の届かないところを補助する役割だね。まあそれならいいか。


「わかりました。でもちゃんと交代してくださいよ。試合全部とかは勘弁ですからね」

「お、そうか。ちゃんと交代するからよ」

「取りあえずは、第1試合からじゃな」


 なんだか普通に俺を、正規の審判員に引きずり込もうとしてるんだよな。

 まあ確かにこの広いフィールドをフィールド内2名、フィールド外1名で見なければいけないから、大変なのは分かるけど。



 さて、学院祭2日目ももう終了するし、今夜はまた屋敷に戻って、明日以降の分のグリフィンマカロンやその他のお菓子の追加分を搬入しなきゃだ。

 裏方仕事って忙しいよね。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

よろしかったら、この物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

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2021年2月21日付記

本編余話の新作、「時空クロニクル余話 〜魔法少女のライナ」を投稿しました。

タイトルからお察しの通り、あのライナさんの少女時代の物語です。作者としては、どうしても書きたかったというのもありまして。

とりあえず第1章ということで、今回は数話の中編で連載を予定しています。

リンクはこの下の方にありますので、そこからお飛びください。

ライナさんを密かに応援してくれている人も、そうでない人も、どうかお読みいただけますと幸いです。

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