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第268話 2回戦の戦術と明日への活力

「ヴィオちゃん、ライ。キミたちふたりは、少なくとも1年生では魔法がトップなのを、忘れてませんか? それにカロちゃんももう、今ではそれに次ぐ腕前だと言うことです。つまり、1年生の魔法トップ3がここにいる」


「魔法学特待生様は別にしてな」

「ザックくんにそう言って貰えるのは、すごく嬉しいけど」

「です」


「しかるに、対E組戦は、魔法を前面に出して闘う」

「でもよ、ルアちゃんは速いぜ。それに、俺たちの魔法のことは良く知っているしな」

「そうよ。あのスピードで動かれると、当てるのは難しいわ」


「だから、初めは当てません。罠を作るのですよ」

「え?」

「罠を作るって、どうやって」



 言葉で説明しても分かりにくいので、俺たちは魔法訓練場に移動することにした。

 もう今日の学院祭は終了しているし、魔法訓練場と剣術訓練場は総合戦技大会の出場チームの練習に使っていいことになっている。


 時間もだいぶ遅くなり、俺たちが魔法訓練場に到着してみると、そこには誰もいなかった。

 よしよし、まだ誰にも見られたくはないからね。


「じゃ、ここでさっき僕が言ったフォーメーションに、位置取りをしてみよう」


 チームの5人は半信半疑ながらフォーメーションを取る。


「ヴィオちゃんとライは、もっと間隔を空けて。うん、そのぐらい。カロちゃんは後ろに下がり過ぎないように。今回、カロちゃんの魔法が大事だからね。それから、バルとペルちゃんは、カロちゃんの直ぐ後ろだよ。はい、そのぐらいかな」


 2ー1ー2のフォーメーションだが、ヴィオちゃんとライは左右に大きく開いた遊撃的前衛。

 少し下がってカロちゃんがセンターで、バルくんとペルちゃんがその斜め後ろ左右に、後衛と言うよりカロちゃんをカバーするように立つ。



「よし、そんな感じだ。で、試合開始のホイッスルが鳴ったら、まずカロちゃんが、前方のフィールドに大量の水を撒く。水弾を固めて撃つんじゃなくて、アクアスプラッシュをいくつも放って広範囲に水びたしに。ちょっとやってみて」

「はい、です」


 カロちゃんが無詠唱でアクアスプラッシュを前方、左右の斜め前方のフィールドへと次々に放って行く。

 この半年間、エステルちゃんの弟子になって、俺の指導も受けてるから、魔法の実力が随分と上がって来ているんだよね。

 魔法学の受講は初等魔法学だが、もう充分に中等魔法学以上だ。


「いいよ、こんなものかな。じゃ、この水びたしのフィールドに、ライよ、雷魔法を弱めでいいから撃ち続けてくれ」

「え? 弱い雷撃でいいのか。わかった」


 ライくんが雷撃を放ち、水に濡れたフィールドに着弾するのを、俺は見鬼と探査の両方の能力を発動して見守る。

 うん、濡れた大量の水でびちゃびちゃになっている地面が帯電しているな。



「ちょっと見ててよ」


 俺は、無限インベントリからこっそりと取り出しておいた鉄製のダガーを、そこに投げ入れる。

 すると僅かにバチバチっと言う音がして、ダガーが感電した。


「これって……」

「水溜まりの雷さん、です」


 この世界でも、静電気については良く分かっていなくても、雷が落ちたところに水溜まりがあるとそれを伝わって行くのは知られているみたいだね。


「つまり水溜まりの雷さんに、誘い込むってこと?」

「まあ、そううまく誘い込めないだろうから、速い動きを阻害するって感じかな」

「で、わたしは? あ、そうか。今度はフィールドを凍らせるのね」

「そうそう、やってみて」



 今度はヴィオちゃんが、濡れたフィールドにアイススパイクではなく、フローズンウィンド、氷の風を吹かせる。

 これは最近、彼女が練習している魔法で、対象にうまく当てるのに苦労をしているが、今回は広く水びたしになった地面なのでそれほど苦労はしない。


「ハアハア、こんなもんで、どう?」

「うん、まあこのぐらいでいいかな」


 さすがに地面が一面の氷とまでは行かないが、凍りかけていて走ると足を取られ滑って転びそうになるぐらいにはなっていた。


 フィールドを広範囲に水びたしにし、雷撃をそこに撃ち、更にフローズンウィンドで凍らせる。

 これで、急襲的な攻撃や激しい移動攻撃の足止めが出来るだろう。



「でもさ、このあと、こっちからはどう攻撃するの?」

「相手の出方にもよるけど、それでもルアちゃんは動いて来る筈だ。だから彼女には遊撃の3人で集中的に魔法攻撃。それから剣術組は即座に前に出て、他の前衛ふたりを潰す。もちろん、相手の後衛から魔法が飛んで来るだろうけど、それほど精度は高く無いと思う」


「そううまくいくか? 僕たちも前に出づらくなってるし」

「だから、キミたち3人の魔法攻撃で殲滅し、バルとペルちゃんの剣で掃討するんですよ。まあここまでは、僕が考えた基本戦術だから、あとはキミたちで連携なんかを相談してください」


 それから、俺が土魔法でフィールドをいったん元の状態に戻し、再び試合開始時のフォーメーションから水魔法、雷撃、フローズンウィンドという流れを繰返した。



「それで、ルアのチームに勝ったとして、決勝戦はブルクくんのB組よね。そっちの作戦は?」

「ブルクのチームか。うーん、考えておりませんっ!」

「…………」


 魔法戦では充分に勝てるが、剣では敵わないだろう。

 おそらくブルクくんを中心とした前衛3人が、こちらの各個撃破に出て来る筈だ。

 あるいは、こちらの前衛の相手を他のふたりにさせて、ひとり荒々しく遊撃を潰しに来る可能性もある。


 ブルクくんはルアちゃんほどの速さがないが、こっちの遊撃も走れるようになったとは言え、決して速くはない。

 だからまあ、総力で相手を潰す真っ向勝負だな。俺はチームの皆にそんな話をした。


 あと、ブルクくんがまだ初級者ながら、火魔法とそれから学院生には珍しく土魔法を使えることは特に指摘しないでおいた。

 ヴィオちゃんたちは当然に知っているし、そこら辺は自分たちで考えてみてください。




 こうして学院祭初日が終了し、皆で遅めの夕食を学院生食堂で食べてから寮へと戻る。


「なあザック、おまえもやっぱり試合に出たかったんだろ」

「ん? ライ、気を使ってくれてるの?」

「いや、なんだ、気を使うと言うか、ザックも同じ学院生なんだからさ。審判員とかにさせられて忙しそうだけど、ちょっと寂しいんじゃないかと思って」


 みんなと途中で別れて同じ寮のふたりで歩いていると、ライくんがそんなことを言って来た。

 クラスメイトで入学以来の親しい友だちだから、どうしても他の学院生と異なる立場に置かれてしまう俺のことを心配してくれているんだね。



「寂しいとかは無いけど、やっぱり、クラスのみんなと一緒に試合に出られたら、楽しいだろうなとは思うよ。でもね……」

「強すぎるのも、問題だよな。ほどほどに強いとかなら出られたんだろうけど、それじゃザックじゃあないし」


「いいんだよ、僕は。ヘッドコーチでも審判員でも、こうしてちゃんと大会に関われているしさ。今日、うちの家族から、裏方で頑張っていて見直したって労われたんだ。家族に見直されたの、生まれて初めてだよ」


「そうか。ザックもいろいろ大変みたいだけど、おとなになったんだな」

「いやー、それほどでも」


 それは俺だって、普通の学院生と同じような学院生活を送るとか、クラスのみんなの中に混ざって、特別じゃない何かを一緒にするとか、してみたい時もあるよ。

 でもそれだとたぶん、この世界でのザックっていうアイデンティティは崩壊するんじゃないかな。


 この世界に生まれて存在している理由と言うか、二度も転生した自分に与えられたお役目がおそらくはあるのだろうし、そのための能力や強さとかと引換えに失わざるを得ないものもあるということか。

 俺はこうして学院生活を送れて、同年代の友だちがいて、俺のことを心配してくれている家族や身内がいるだけで充分だ。



「じゃ、また明日な」

「うん、おやすみ」


 寮に到着し、ライくんと別れて自分の部屋に戻る。


 いやー、今日は長い1日だったなー。さすがに少し疲れました。

 あれ? クロウちゃんが飛んで来るぞ。何かあったのかな。

 俺は部屋の窓を開けて、クロウちゃんが到着するのを待った。


「カァ」

「どうした? 何かあった訳じゃないのか」

「カァカァ」

「エステルちゃんのお手紙? 夕方に会ったばかりじゃない。なんだろ。えーとなになに」


『ザックさま、今日はお疲れさまでした。大変だったでしょ。

 わたしたちは、ザックさまのクラスの魔法侍女カフェに行ったあと、ほかのクラスを見て廻って、学院長さんに教授先生用のレストランでお昼をご馳走になって、それから総合戦技大会を観戦して。とても楽しかったですよ。

 わたしも、ザックさまと同じ学院生だったら良かったのになーって、ちょっと思っちゃいました。でも、わたし、今がいちばん幸せですよ。ザックさまと一緒に歩けるから。それでたぶん、明日の方がいちばん幸せで、明後日の方がいちばん幸せで。あれ、わたし、なに言ってるですかね。

 でも、学院から帰りの馬車の中でそんなこと考えてたら、ザックさまにお手紙を出したくなっちゃいました。クロウちゃん、夜にゴメンね。でも、いいよって言ってくれましたので。だから、特に用がある訳じゃないの。お返事は書かなくていいわよ。明日も早起きしなきゃですし、審判員さんとかお仕事もありますしね。選手じゃないけど、ザックさまを応援してます。

 では、おやすみなさい。ザックさまへ。エステル』



「カァ、カァ」

「え、もう屋敷に戻るの? でも喉が渇いたから、甘露のチカラ水がほしいって。はい、これ飲んでちょっと待ってて」


 無限インベントリにストックしているアルさんの洞穴の甘露のチカラ水を、クロウちゃん用の深皿に出してあげて、お返事は書かなくていいってあったけど、少し返事を書く。


『僕も今がいちばん幸せで、たぶん明日がいちばん幸せで、明後日がいちばん幸せだよ。僕だけが学院にいても、いつもエステルちゃんと一緒だから。明日も頑張るよ。おやすみ。ザック』


 今日の出来事を簡単に報告したあと、最後にそう書いた。


 さて、明日は学院祭2日目だな。

 エステルちゃんの手紙を読んで、明日への活力を貰って、これで今夜もぐっすりと眠れる。クロウちゃん、ありがと。カァ。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

よろしかったら、この物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

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2021年2月21日付記

本編余話の新作、「時空クロニクル余話 〜魔法少女のライナ」を投稿しました。

タイトルからお察しの通り、あのライナさんの少女時代の物語です。作者としては、どうしても書きたかったというのもありまして。

とりあえず第1章ということで、今回は数話の中編で連載を予定しています。

リンクはこの下の方にありますので、そこからお飛びください。

ライナさんを密かに応援してくれている人も、そうでない人も、どうかお読みいただけますと幸いです。

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