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第264話 1年A組の試合が始まる

 オイリ学院長がフィールドに現れて、俺たち審判員が並んで立つ中央近くに来る。

 彼女には学院生会のフェリシア会長とエルランド副会長、それから総合魔導研究部のロズリーヌ部長と総合剣術部のレオポルド部長の4名が従ってる。

 ロズ姉さんは課外部会の部会長でレオポルドさんは副部会長だからだ。


 フェリさんやエルランド副会長と顔を合わせるのは久しぶりだよな。

 ああ、フェリさんは夏休み前に王宮の正門で遭遇して以来か。

 さすがに開会式ということで、挙動不審な態度もせずに真面目な顔をしているが、時々俺をちらちら見るのはやめましょうね。



「ただいまより、選手が入場します。皆様、盛大な拍手でお迎えください。それではまず、1年生6チームの入場」


 1年生のA組からF組までの6チーム30名が、選手入退場口から小走りでやって来た。

 スタンドから沸き起こる大拍手。

 先頭はうちのクラスのヴィオちゃんとライくんだな。よしよし、チームの5名が小気味良く走って来るね。


 続いて、2年生、3年生、4年生と場内アナウンスにより次々に呼び入れられる。

 やがて全24チーム、120名の選手がフィールドに勢揃いした。



「それでは学院長より、開会の挨拶をいただきます。オイリ学院長、お願いします」


「みんなー、頑張ってねー。くれぐれも大怪我などの無いように。それだけ気をつけて、大会を盛り上げてよー。以上っ」


 フィールドにも、持ち運びが出来る拡声の魔導具があるんだね。

 午前中に魔法侍女カフェにうちの家族と来た時には、借りて来た猫のように静かだったけど、どうやらいつもの学院長に戻ったようだ。挨拶が短くてステキですよ。


「続いて、審判員を代表してウィルフレッド魔法審判部長より、挨拶と注意事項をいただきます。なお、その前に皆様にお知らせいたします。今回は特別に、魔法学特待生と剣術学特待生のふたつの特待生になっている、ザカリー・グリフィン君が本大会の審判員となりました。魔法学特待生は、本日ご来賓として臨席いただいているアナスタシア・グリフィン様以来21年振り。剣術学特待生はなんと、65年振りだそうです。そして、魔法学と剣術学のふたつの特待生となったのは、本学院創立以来初めての快挙ですっ!」

「うぉーっ!!」


 おお、そこまで紹介しますか。選手入場に負けないくらいの大歓声に、こっちがビックリしますよ。



「ザカリー君、いつまでも手を振らんで良いから。場内が静かになりませんので。コホン。それでは審判員よりひと言。試合規則を厳守し、対戦相手も仲間であることを頭の隅に残して、正々堂々と戦うようにお願いしますぞ。あとはゴチャゴチャ言いません。以上ですじゃ」


「それでは最後に、学院生会を代表して、フェリシア・フォレスト会長が開会宣言を行います。フェリシア会長、どうぞ」


「本日は、こんなにも大勢の皆様にご来場いただきまして、誠にありがとうございます。また、本日ご来賓としてお越しいただきましたヴィンセント・グリフィン子爵閣下、アナスタシア様をはじめ、多くの貴族関係者の皆様に、学院生会を代表しまして感謝の意を表します。

 今年も1クラスも欠けることなく、4学年全24チーム、120名の選手がこのフィールドに揃っています。ここに集まった選手をはじめ、すべての学院生は、セルティア王国の貴重な人材として育つべく、日頃から勉学に剣術に魔法にと、弛まぬ努力を続けております。本日はその成果を発揮し、見守りいただく皆様に、きっと素晴らしい試合を見せてくれることでしょう。

 前置きが長くなりました。それでは僭越ながらわたくしより、ここに本年の総合戦技大会の開始を宣言させていただきます。皆さん、頑張ってください」



 うーん、マトモだ。あまりにもマトモだ。学院長や審判部長より、遥かにマトモな挨拶と開会宣言だ。

 入学式の時にも感じたそのマトモさに、却って違和感を感じるのは俺だけだろうか。

 セルティア王国の貴重な人材として育つ、か。王立学院の学院生だからまあそうなんだろうけど、ちょっと違う気がするんだよなぁ。



 まあそれは置いといて、これで開会式も終わり、ようやく試合が開始する。


「それでは、選手、退場」


 選手がまた小走りで次々に退場して行く。学院長たちもフィールドから退場し、俺たち審判員は審判員ベンチへと下がる。


「本日は、1年生と2年生の1回戦、計6戦を行います。第1試合は14時ちょうどから開始する予定ですので、それまで暫くお待ちください」


 試合開始予定の場内アナウンスが流れ、観客席はざわざわと落ち着かない雰囲気になっているようだ。

 審判員は試合開始まで、このベンチで待機する。


「さあ、いよいよ第1試合じゃが、フィールド審判員は予定通り、ジュディス先生とディルク先生、フィールド外がわしじゃ。いいかの」

「了解です」


「あとは待機でベンチ観戦じゃな。ザカリーも良いかの」

「わかりましたー」




「大変長らくお待たせしました。それではただいまより、セルティア王立学院学院祭、総合戦技大会1年生の部、第1回戦を開始いたします。第1試合は1年A組対1年D組。選手はフィールドに入場してください」


 さあ始まるぞ。

 ヴィオちゃん、ライくん、カロちゃん、バルくん、ペルちゃんのA組選手5名がフィールドに現れ、小走りで所定の位置につく。

 続いてD組の5名も現れた。あいつらもいるな。


 フィールドはセンターラインで左右に分けられ、試合開始時はそのセンターラインを超えなければ自分たち側のどこに選手を配置しても良い。

 ただし試合そのものは、相手陣営のゴールを割るといった勝敗方法ではなく、5名の全選手が戦闘不能となるか、戦闘可能な選手が残っていても負けを認めた場合に終了するので、自陣での配置を守らなければいけないのは試合開始の時のみだ。


 双方のチームとも、まだ自陣のフィールドで円陣を組んで最終の打合せを行っている。


 センターライン中央に既に立っていたフィールド審判員のディレク先生が、双方のチームのキャプテンを呼んだ。

 A組はヴィオちゃんだね。D組からも女子の選手が走って来る。

 ちょっと探査の能力で声を拾ってみようかな。



「双方とも、試合規則は頭に入っているな。即死か重傷に至る危険な攻撃、魔法防護壁を超えて観客席に飛ぶ攻撃は禁止だ。それらが認められた時には、即時試合を止める。また、首から上の頭部を直接に攻撃するのも、危険と判断された場合は同じくだ。いいな」

「はいっ」


「よし、それでは試合を始める。試合時間は15分。時間内に勝敗が決しない場合は、審判員の裁定となる。今から2分後に、私のホイッスルの合図で試合開始だ」

「はいっ」


 ふたりの女子は、それぞれのチームのもとに走って行った。

 2分間でフォーメーション。そして試合開始となるので、即座に行動する。


 うちのA組は、バルくんとペルちゃんの剣術前衛が、センターラインから少し距離を置いて、やや間隔を空けながら並んで立つ。

 その後方に、こちらはかなり間隔を空けてヴィオちゃんとライくんの遊撃メンバー。そして最後方のセンターにカロちゃんだ。

 つまり、まずは2ー2ー1のフォーメーション。


 一方、D組はと見ると、前衛に同じくふたり。このふたりも剣術メンバーだね。

 そして、そのふたりからかなり距離を取って、3名が大きく間隔を空けながら広がって並んだ。

 初等魔法学講座で俺が教えている男子ふたりが両脇だから、センターの女子は火魔法が得意だという子だろうね。

 D組は2ー3のフォーメーションということだね。



 フィールドのセンターに立っていたディレク先生が、双方のフォーメーション組みを見ながら、審判員ベンチのある正面観客側に走って、フィールドの中央空間を空ける。

 反対側には、もうひとりのフィールド審判員であるジュディス先生が立った。

 フィールド外審判員のウィルフレッド先生も、こちら側で所定の位置に立つ。


 試合が始まる前の先ほどまで騒がしかった観客席が、静けさに包まれる。

 第1試合ということで、選手も審判員もそしてすべての観客も、緊張感に支配されたようだ。


「ピーッ」


 ディレク先生が吹くホイッスルが、緊張した空気を切り裂くように鳴り響いた。


「うぉーっ」という大歓声が、いちどに沸き上がる。

 おいおい、この雰囲気。選手たちは大丈夫か? 走ってずっこけるなよ。



 まず、ゆっくりと動き出したのは、D組の方だ。

 並んで立っていた前衛のふたりが、前に進むのではなくお互いの間隔を少しずつ空けながら、斜め後ろへと後退し始めた。

 後衛の3人は動いていない。


 これって、ビビってる訳じゃないよな。誘っているんだな。

 それを見て、A組のバルくんとペルちゃんが前進し始め、遊撃のヴィオちゃんとライくんが大きく外側へ、そしてカロちゃんも孤立しないように前に進み出した。


 A組の前衛が徐々にフィールドのセンターラインへと近づく。

 D組の戦法は相手の前衛を釣り出して、後衛から魔法か。俺が教えたウィンドカッター二連撃ちが役立つかな。

 そろそろ来るぞ。



 突如、シュルルルーとD組後衛センターの女子が火球魔法をバルくんに向けて放った。

 そして少し間隔は空いたが、2発目がペルちゃんへと飛ぶ。どちらも胴体から下半身を狙ったものだ。

 バルくんとペルちゃんも勿論それに気が付いて、避けようと斜め横に走り出すが、そこにD組後衛の男子ふたりが、ほぼ同時にウィンドカッター二連撃ちを左右のサイドスローから撃った。


 おお、なかなかうまく修得したではないですか。

 ウィンドカッターは火球よりも速度が速い。火球がバルくんとペルちゃんから外れて、少し離れて地面に着弾したが、直ぐさま到達したウィンドカッター2発がふたりを襲う。


 なんとか避けたか。いやもしかしたら少しペルちゃんを掠ったかも。

 そこに、D組前衛が二手に分かれて、それぞれがバルくんとペルちゃんを木剣で倒すべく駆け込んで来た。


 序盤から総力を挙げての前衛潰しですか。なかなかいいよ。

 でもうちのA組チームの最大戦力は、ヴィオちゃんとライくんだからね。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

よろしかったら、この物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

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2021年2月21日付記

本編余話の新作、「時空クロニクル余話 〜魔法少女のライナ」を投稿しました。

タイトルからお察しの通り、あのライナさんの少女時代の物語です。作者としては、どうしても書きたかったというのもありまして。

とりあえず第1章ということで、今回は数話の中編で連載を予定しています。

リンクはこの下の方にありますので、そこからお飛びください。

ライナさんを密かに応援してくれている人も、そうでない人も、どうかお読みいただけますと幸いです。

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