第258話 魔法と剣の特別講義
お昼休み明けの3時限目は、まさに初等魔法学の講義です。
あいつらいるよな。おお、いたいた。
「ザカリー君、今日はちゃんと先生してくれるのよね」
「なにを言っているですか、ジュディス先生は。ちゃんとするに決まってるじゃないですか」
「それならいいんだけど。学院祭が間近だから、ちょっと確認を」
「僕はそんなお祭には、浮かれてなどおりません。大切なのは、魔法技能の向上です」
「そ、そう。じゃ、いつものように、風グループをお願いね」
と言うことで、風魔法グループの5人のところに行く。
そこの男子ふたり、君たちがD組でしたか。そうですか。
「いやー、今日も魔法学初級の講義に、ようこそいらっしゃいました」
「おい、相変わらずザック先生、変だぞ」
「ようこそいらっしゃいました、とか言ったこと、あったっけ」
「何かまた、企んでるとか?」
「今日は急にいなくなったり、しないわよね」
「いやー、あり得るー」
はいそこ、5人でコソコソと話さないように。
「と言うことで、講義を始める前に質問をしたいのですが。えーと、みんなの中で、総合戦技大会の選抜メンバーに入った人はいますかー?」
なんと、全員が手を挙げました。
そうなんだ、凄いねみんな。最初は魔法に自信が無くて文句すら垂れていた子たちが、この数ヶ月でなんとも成長したものです。
先生、とても嬉しいです。
「おい、なんかぶつぶつ言ってるし、やっぱり今日も変だぞ」
「はいそこー、静かに。ところで、みんなは何組だったっけ?」
「えー、今更? ザック先生ひどい、覚えてないの?」
「そりゃ、ザック先生だから」
「そうよねー」
それから5人のクラスをあらためて聞くと、カロちゃんの言う通り男子ふたりはD組で、3人の女子はB組、E組、F組とバラバラだった。
ふーむ、ブルクくんとルアちゃんのチームの子もいるんですな。
「ザック先生よ、僕わかったぜ。あれだろ。1回戦の対戦がD組とA組だから」
「お、そうか。ザック先生、事前調査的な、か? まさかA組に有利になるようにとか、考えてないだろうな」
「でも、ザック先生は出ないんでしょ」
「出場禁止よね」
「あっちにいるカロちゃんは出る筈よ」
「諸君、僕は諸君らに魔法を教えている立場ですぞ。いくらなんでも、その立場を利用して、自分のクラスが有利になるようなことはしません。それよりも、みんなが選抜メンバーに選ばれたお祝いに、今日はとっておきを教えちゃいますよ」
「えー、とっておきだって」
「なになに」
「わかった。魔法に関しては、僕たちはザック先生を信頼してるからな」
「うん、ほかのことでも信頼してほしいけど」
「それは、むりー」
「コホン。いや、魔法だけでも、信頼してくれてありがとう。でだ、今日教えるのは、それほど難しいことではないよ。みんなは短縮詠唱のウィンドカッターをだいぶ習熟したから、一気に二連撃ちを教えちゃいます。それも普通よりちょっと変化のあるやつ」
この5人は、ウィンドカッターなら短縮詠唱で充分に安定して発動出来るようになっている。無詠唱もあとひと息だ
二連以上の発動は、本当なら無詠唱の方が発動間隔も短く出来て効果的なのだけど、総合戦技大会で頑張って貰うために、無理矢理やらせちゃいましょう。
そこで俺が教えたのは、従来彼らがやっている身体の正面から撃つウィンドカッターではなく、右腕と左腕を順番に横に伸ばして、その指先の異なったふたつの位置から続けて撃つというものだ。
これが発動間隔を短く連続して出来るようになれば、対象との距離で効果の違いはあるものの、異なった方向からウィンドカッターが飛来して防御がしにくくなる。
「みんなは無詠唱一歩手前だから、例えば短い言葉で、そうだね、カット、とか詠唱するのはどうだろう」
そこで俺は、右腕を横に軽く伸ばし後ろから振りながら、「カット」とひと言短く詠唱して指先からウィンドカッターを飛ばし、直ぐに続けて同じように左腕を振って発動させた。
要するにピッチングのサイドスローみたいなのを、左右の腕で続けて行う感じだね。
時間差で異なる角度から飛んだウィンドカッターは、シュパッシュパッと小気味良く続けて的を刻んだ。
「どうです。これならもう、みんなも出来ると思うよ。はい順番に挑戦してみよう」
「おおー、なんだか良さげだぞ」
「わたしも、できそうかも」
「やってみるー」
それから、風魔法グループの5人は練習を始める。
最初は、カットというひと言の詠唱で発動出来なかったり、出来ても二連目がなかなか発動しなかったり、二撃の間隔がやたら長過ぎたりとかなり苦労していたが、講義時間が終わる頃には全員が、取りあえず左右の両方から続けて発動が出来るようにはなった。
「あとは、うまく対象を捉えて当てることと、二連撃の間隔を短くすること。そして頑張れば、無詠唱に辿り着きます」
「おう」「はーい」
「今日から大会までの5日間は、クラスのメンバーで訓練をするだろうから、このウィンドカッター二連撃をものにしてください。では、健闘を祈るっ」
「おう、A組を倒すぜ」
「悪いけど、僕たちが勝つよっ」
「わたしたちも負けないからね」
「学年1位を狙うわ」
「無差別戦まで行くわよー」
講義が終わってジュディス先生が話しかけて来た。
「なかなか面白い事を教えたじゃない。でも、ザカリーくんのクラスのライバルが強くなっちゃうわよ。カロちゃんが気にしてたわ」
「いいんですよ。少しでも技量が上がれば実戦で役に立ちますし、大会も盛り上がりますから。それに、これからの魔法の習熟にも意欲が増すでしょ」
「あら、あなた、やっぱり本当の先生みたいよね。たしかに、総合戦技大会が楽しみになったわ」
「そういうことです。でも僕のクラスは勝ちに行きますけどね」
さて、次の講義は剣術学中級だ。
今日はブルクくんとルアちゃんの相手でもしようかな。最近はクラスごとの訓練で、あまり一緒にしてないしね。
「ザックくーん、今日もわたしの縮歩訓練に付き合ってくれるわよね」
「いえ、プライベートトレーニングはお休みです」
「えー」
「そんな、学院生女子みたいな声を出してもダメです。今日は、ブルクとルアちゃんを扱く予定ですから」
「おい、ザック」
「あ、お疲れさまです、フィランダー先生」
「お、おう、お疲れ。じゃなくて、この講義って、俺の講義だよな」
「なにを当たり前のこと言ってるんですか。そうですよ」
「で、今日の講義なんだが」
「だから、今日はブルクとルアちゃんの相手を僕が交互にしますから、先生たちは自主訓練ということでお願いします」
「そ、そうなのか」
ブルクくんとルアちゃんが来たので、今日の講義の訓練方針を伝える。
まずは素振り、そしてふたりが同時に俺に打込む、変則の打込み稽古。それが終了したら、直ぐにひとりづつ俺を相手に打込み稽古をさせる。
その時は、俺に対していない方の相手は先生たちが順番にしてほしい。
講義の中間で短時間の小休止。
そしてまた講義終了時まで、交互に打込みを続ける。
「総合戦技大会前の最後の特訓だね。よし、わかった」
「講義終了まで、ザックくんはブルクくんに渡さないよ」
「それはこっちの台詞だよ、ルアちゃん」
よし、ふたりとも燃えて来ましたね。
「では、皆、素振りを始めっ」
「おう」「はいっ」
「あの」
「なんですか、フィランダー先生。先生も素振りを始めてください。ディルク先生とフィロメナ先生は、もう始めてますよ」
「この講義って、俺の剣術学中級だよな」
「何度もくどいですよ。先生も打込みをしたいんですか? でも、今日は総合戦技大会前だから、我慢してください」
「あ、はい」
「わかったら、素振りを始めるっ」
「はい」
こうして今日の剣術学中級は、ブルクくんとルアちゃんの足腰が立たなくなるまで打込み稽古を続けた。
うん、これに耐えられるのは、1年生では今のところこのふたりだけだろうな。
よしよし、総合戦技大会がますます楽しみになって来ましたよ。
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
よろしかったら、この物語にお付き合いいただき、応援してやってください。
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2021年2月21日付記
本編余話の新作、「時空クロニクル余話 〜魔法少女のライナ」を投稿しました。
タイトルからお察しの通り、あのライナさんの少女時代の物語です。作者としては、どうしても書きたかったというのもありまして。
とりあえず第1章ということで、今回は数話の中編で連載を予定しています。
リンクはこの下の方にありますので、そこからお飛びください。
ライナさんを密かに応援してくれている人も、そうでない人も、どうかお読みいただけますと幸いです。




