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第256話 グリフィン子爵家と王宮

 エステルちゃんは12歳でファータの探索者の見習いになって、翌年にはグリフィニアに来ていた。あの夏至祭事件の時には、もういたよね。

 その翌々年、俺が隠れてこっそりと屋敷裏手の空き地で剣術の稽古をしていた時に、覗きに来てクロウちゃんに見つかったのが、初めての出会いだよな。


 それから、冒険者ギルドに行った時には護衛に付いて、その後に担当侍女のシンディーちゃんが婚約したその代りに、俺担当の侍女兼護衛兼見張り役になったんだ。


 父さんたちがいつから許嫁いいなづけと考えていたのかは分からないけど、少なくとも探索者になったばかりのエステルちゃんをグリフィニアに引き取ったのは、父さんと母さんがエルメルさんとユリアナさんと相談した結果だったのだろう。

 なるほどね、そういうことか。



「ん、なんだ。気分を悪くしたか?」

「いや、そんなことはないよ。5歳の時から7年も一緒にいるのは、僕とエステルちゃん自身なんだし。それだけふたりで、一緒の時間を過ごして来たんだから。それにシルフェ様もおっしゃってたでしょ。長い将来を決めるのは、僕らふたりだって」


「ほぉー。おまえ、王都で成長したんだなー。いつからそんな、良い発言が出来るようになったのか」

「可愛い子には旅をさせろと言うのは、本当ですな」

「ザカリー様は、意外とマトモなんですよ。行動はともかくとして」


 そこのおっさんたち、俺はいつもマトモですよ。まあ、こういう評価にはもう慣れてるけどさ。



「よし、わかった。それでは、シルフェーダ家には正式に申し入れをしよう。ミルカ、いいかな?」

「はい、それは勿論です。兄たちはもとより、里長さとおさたちも、その話がいつ来るのかと逆にやきもきしてますよ」


「ねえミルカさん。来年の夏休みとか、またファータの里に行ってもいいかな」

「おお、それは良いに決まっています。うちの爺さんたちも待ってますよ。ザカリー様は今度はいつ来るのかと、里に帰るたびに聞かれて困っておりました」


「そうだと、アンも行きたがるよな。俺も行ってみたいし」

「奥様はともかくとして、子爵様は。国外の、それもリガニア方面ですからな」

「そうだよな」


 ファータの里があるリガニア地方は、まだ長い紛争が続いているからね。

 さすがにセルティア王国の子爵が、紛争地帯にお忍びで行くのは難しいかもだよな。

 まあその辺は、また来年にでも考えましょうね、父さん。



「もうひとつ、ザックに聞いておきたいことがあるんだが」

「王都の地下洞窟とシルフェ様の関わりだよね」

「そうだ。その、なんだ、言える範囲でいいから、頼む」


 俺はちらりとミルカさんの顔を見る。

 彼は俺の表情を読むようにしながら、大きく頷いた。


 それで、8月にシルフェ様と学院に下見に行った際に、オイリ学院長たちに話したのと同じような説明をした。

 父さんもセルティア王国の建国伝承とアンデッドの正体については、真実に近い話を知っているようだ。

 今回、王都に来るにあたって、ミルカさんからブリーフィングを受けていたみたいだね。


「つまりシルフェ様は、かなりお怒りになったということか」

「まあそうだね。それで、現在の王家にまでお怒りが行きそうになったんだけど、これは取りあえず胸の内に留めて貰ってる」


「祖先が作ったそんな災厄の元を、800年もほったらかしにして何してるんだ、ということですな。ザカリー様とエステルさんが王都にいるのに、それは迷惑な話だから、王家にも責任を取らせて懲らしめなければならんと。これはいい。はっはっは」

「おいクレイグ、笑い事ではないぞ」


 クレイグさんは、王家に何か含むところでもあるのかな。

 この辺の、うちのような辺境に近い領主貴族家と王家や王宮との関係性は、俺にはまだ良く理解出来ていないよな。



「まあともかくだ。その地下洞窟に入って直ぐの、その始まりの広間だったか、その入口に強力な魔法障壁を張っていただいているので、現状は安全だということか」

「うん、そうだね」

「それで、今後の対策は、シルフェ様もお考えいただけると」


 実際は風と水の精霊にブラックドラゴン、それから俺とエステルちゃんを加えた人外パーティで何とかしちゃうって計画なんだけどね。

 これはさすがに言えません。



「それともうひとつお聞きしておきたいのは、王宮の動きというか、その王宮騎士団副騎士団長をリーダーとする若手の一派のことですな」


 ああ、サディアス・オールストンさんの一派のことだね。

 ティモさんの調べでは、なんでも王宮の中では主戦論者で、おまけにグリフィン子爵家に関心を持っているという。


「あらかたはウォルターから報告を受けているが、夏休み以降は特に動きはないのだな」

「うん。アルポさんとエルノさんの話では、ごくたまに屋敷の様子を遠目から伺いに来てるみたいだけど、あれから直接的な接触はないね」


「ティモとブルーノさんには、引き続き調査を続けるよう、ザカリー様からご指示をいただいていますが、それでよろしいでしょうか」

「そうだな。当面はあのふたりに任せよう。ジェルメール騎士たちは、あまり動かない方がいいかな? どうだ、クレイグ」


「女子の騎士団員は動かん方が良いでしょう。美人が動くと目立ちますからな。それにしても、エステルさんとジェルメール騎士たちが、クロヴィスだかの王宮騎士を訪問した話を聞きましたぞ。お見合いの相手が、その副騎士団長だったそうで。なんとも不愉快で失礼な話だ。エステルさんがお怒りになったとか」

「あのエステルさんが怒ったのか。それはよっぽど不愉快だったんだな」


「まあね。エステルちゃんが怒るなんて、滅多にないから」

「それはザックに対して以外ってことだよな」

「そうですな。ザカリー様以外になど、初めて聞いた話ですな。はっはっは」


 まあ俺は、いつも説教を喰らってますからね。父さんとそこのおじさん、受け過ぎですよ。



「この機会だから、僕からもちょっと聞きたいんだけど」

「ん、何だ?」


「うちの子爵家と王家や王宮との関係なんだけど。父さんたちは王家や王宮をどう見てるの?」

「ああ、そうか。それは、おまえも理解しておいた方がいいな」

「私から考えを述べてよろしいですかな、子爵様」

「いいぞ、クレイグ。頼む」


「それ以前からもそうなのですが、近い話では15年戦争ですよ、ザカリー様」


 今から47年前に、突如として北方帝国ノールランドの軍勢が国境を越え攻め寄せようとして起こったのが、北方15年戦争だ。

 このアヌポス世界では、今年がアヌポス新暦2548年。

 だから15年戦争は2501年に始まり、2515年に終結したことになる。


 ヴィンス父さんは戦争終結時に6歳、母さんはその年に生まれているから戦争には行っていないが、クレイグさんやウォルターさんは終盤に従軍し、ブルーノさんや今は子爵館で庭師をしているダレルさんも、当時は年少の冒険者として参加したそうだ。

 現在、うちの門番をしてくれているアルポさんとエルノさんも、特別工作戦闘部隊とかの恐ろしい部隊の一員だったんだよね

 実年齢不詳のミルカさんも闘ったのかな。


 それはクレイグさんたちにとっては決して遠い昔の戦争の話ではなく、彼が言う通り近い話なのだ。



「あの戦争で、実質的に15年間を中心になって戦ったのは、北方帝国と国境を接するキースリング辺境伯家や隣の我がグリフィン子爵家、奥様のご実家のブライアント男爵家、その他、大森林に接する辺境の貴族家なのですよ」


 アラストル大森林に接して領地を持っているのは、いまクレイグさんが名前を挙げた3つの領主貴族家に加えて、デルクセン子爵家とエイデン伯爵家の5家だね。

 二年前、まさに俺とエステルちゃんがファータの里行きで辿った貴族領だ。

 更に言えば、総合武術部員のルアちゃんのアマディ家はエイデン伯爵家に所属する準男爵家、そしてブルクくんのオーレンドルフ準男爵家はキースリング辺境伯家に所属している。


「それに引き替え、王家や三公爵家を中心とする王都圏の軍は、的外れの指揮や無用な口出しをするくせに、実際の戦闘ではいつも怖じ気づくばかりで、まあ役に立たなかった。あの者どもよりも他の遠方の貴族家部隊の方が、数はそれほど多くはなかったものの、良く闘ったと言えます」


「王家や王宮と王都圏軍は、俺たち辺境の武力を盾に保身や政争ばかりで、かつ邪魔にさえなったという訳だな」

「簡単に言えばそういうことですな、子爵様。ですから、我らはセルティア王国に所属してはおりますが、王家と王宮、三公爵家を決して信用してはおらんのですよ、ザカリー様」


「また何か事が起きたら、王家は僕たちに前面で闘わせて、それを利用して自分たちに有利に導こうとしたり、身を守ろうとするってこと?」

「そうだろうと、常に我らは見ています」

「俺もそう思っている。だから王宮の連中は、いつも俺たちに関心を持っているし、俺たちの力を当てにしようとしている。俺たちには何もしてはくれないがな」



「まあ、その副騎士団長とやらが、ザックやうちの騎士団に接近して来るのは、根底にそういった思惑があるからだろうよ。ジェルメール騎士には申し訳ないことをしたが」

「おそらく、ザカリー様と懇意になり、あわよくば手中にして、王宮内でより優位な立場やら力を得ようと考えておるのではないですかな。王国側から戦争など起こされては、たまりませんが」


「そうだとしますと、王宮側というかその一派は、まだザカリー様の本当のお姿や実力を、よく分かっていないということでしょう」

「そうだなミルカ。まさか、風の精霊様の義理の弟殿とは思いもよらぬだろうて。はっはっはっは」


 そこのふたり、何だか嬉しそうに話してるけど、狙われてる当事者は俺ですからね。

 まあ確かに、エステルちゃんや俺に何かあれば、大嵐テンペストが王宮を局地的に襲いますけどね。



「ともかく、ザックは気をつけてくれ。先に手は出さないでくれよ。俺の息子が王都を壊滅させたというのも何だし」

「そうなったら、辺境で貴族連合を作りましょうかな」

「ファータは無条件で同盟しますよ」


 おいおい、嬉しそうだな。父さんが困ってるでしょ。

 よっぽどのことが無い限り、俺から先に手を出すとかはしませんからね。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

よろしかったら、この物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

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2021年2月21日付記

本編余話の新作、「時空クロニクル余話 〜魔法少女のライナ」を投稿しました。

タイトルからお察しの通り、あのライナさんの少女時代の物語です。作者としては、どうしても書きたかったというのもありまして。

とりあえず第1章ということで、今回は数話の中編で連載を予定しています。

リンクはこの下の方にありますので、そこからお飛びください。

ライナさんを密かに応援してくれている人も、そうでない人も、どうかお読みいただけますと幸いです。

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