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第249話 魔法特訓とは

 ルアちゃんの打込み相手を終えたアビー姉ちゃんは、「楽しかったわ」と言って自分の部が訓練をしている方に戻って行った。

 俺もブルクくんとの打込み稽古を終えている。


「お疲れ」

「はあ、はあ、お疲れでした」


 それで、バルくんとペルちゃんはどうしたでしょう。


 俺たちの打込み稽古が長かったので、充分に休んで体力を回復させた後、ふたりで組んで交互に打込む訓練をしていたようだ。

 あれで今日は帰らせて貰いますとか言って来るようだったら、少々考え直すところだったけど、ふたりとも剣術には真面目に取組んでいるのだろうな。



 それからいつものように、うちの部員たちと夕食を食べに行ったのだが、今日はバルくんとペルちゃんも一緒だ。

 全員で8名、テーブル空いてるかな。


「みんな、お疲れさまでした」

「お疲れさまー」


「ねえねえ、バルくん、ペルちゃん。うちの部長と、アビーさまと訓練したご感想は?」

「あー、いや、学院の初日を思い出したよ」

「わたしもよ。あの剣術学中級の講義。でも、あの時よりも厳しかったかも」


「そうだなー。今だったら、あの時ぐらいだと平気な気がするけど、今日のは」

「なんだか、最後はなりふり構わずになって」

「いやー、僕もだよ」


 そうですか、そうですね。なりふり構わずやってみるのも、時にはいいものですよ。



「でも、うちの部長の意図は、多少は分かったんじゃないのかな」

「お、ブルク、この先生の意図って何だよ」


「僕は全身で身を以て理解したよ、ザックの言いたいこと。キレイ事だけじゃ闘えない、ってことだろ?」

「自分より遥かに強い相手と闘ったら、今までなぞって来た型なんて、直ぐに崩されちゃうのよね。それが良く分かったわ」


「今まで教わって来た型は、大事なものだと思うよ。それには先人が学んだ術理が込められている。だけど、それを踏まえて、闘いには激しさや荒々しさ、諦めないタフさなんかが必要なんだ」


「お、珍しくザックがマトモなこと言ってるぜ」

「その通りだと思うけど、言ってるのがザックなんだよね」

「魔獣をひょいと倒す、とか言う人だから」

「です」


 魔獣をひょいって言ったの、エステルちゃんなんだけどなー。

 ひょいって言っても、別に気楽に倒す訳じゃないんだよ。どんなに格下の相手でも、真剣に闘って倒すんだから。怖いんだよ、うちのレイヴンの女子組は。




 翌日の総合武術部は通常のルーティンでは魔法訓練の日だ。うちの部では、剣術と魔法を1日ごとで交互に訓練を行っている。

 しかし、総合戦技大会の特訓も併せて行うということで、昨晩の夕食の席で1年A組選抜メンバーとなったバルくんとペルちゃんも加えて打合せし、魔法訓練場と剣術訓練場に分かれて訓練をすることにした。


 つまり、自分たちも総合戦技大会までは剣術に専念したいというブルクくんとルアちゃんの意見もあり、このふたりとA組選抜メンバーの剣術担当であるバルくんとペルちゃんの4人が今日も剣術訓練場で訓練をする。

 それで残りの俺たちは魔法訓練場だ。


「ブルク、ルアちゃん、頼むね」

「うん、任せて。と言うか、なかなか楽しみだよ」

「あたしも。昨日特訓をした4人だしね」

「僕らも、剣術学中級受講者と訓練するのが楽しみだよ。ね、ペルちゃん」

「そうね。1年生の実力者と言われるふたりとの訓練なんて、燃えるわ」


 そうですね。A組、そしてB組、E組のこの4人で、名実共に1年生のトップ4になってほしい。

 俺は? また言うけど、員数外なんだよね。



「あら、秋学期の初魔法訓練ね。でも今日は4人?」

「こんにちは、ロズリーヌ部長。今日からよろしくお願いします。ブルクとルアちゃんは、当面は剣術専念なんですよ」


「ああ、総合戦技大会か。聞いたわよザカリー君。あなた、出られないんだってね」

「はい。学院長と教授たちからの要請とかで」

「ロズ姉さんもウィルフレッド先生たちから、いろいろ聞いてるわ。まあ、わたしとしては、あなたの魔法が見られないのが残念だけど、仕方ないわ。それで、お嬢たちは選抜メンバーになったのよね?」


 既に魔法訓練場にいた総合魔導研究部のロズリーヌ部長が話しかけて来た。

 ロズ姉さんが言うところのお嬢とは、ヴィオちゃんのことだね。彼女はヴィオちゃんのセリュジエ伯爵家に属するオドラン準男爵家の長女だから、ヴィオちゃんが幼い頃から良く知っている。



「ええ、カロちゃんとライくんと、1年A組の選抜メンバーになったわよ。ザックくんのご指名」


 俺のご指名って、キミが俺に選抜決めを一任したんでしょうが。


「ふーん。まあ、それはそうか。で、あと2名は?」

「総合剣術部の部員にしましたよ」

「ああ、なるほどね。でも、お嬢たちは剣術も訓練してるのよね」

「ロズ姉さん、いいとこ突くけど、ここからは秘密よ」


「秘密ね。まあいいか。せいぜい1年生の予選から勝ち上がって来なさい。そしたら対戦できるかもよ」


 そうなんだよね。

 以前にヴァニー姉さんやアビー姉ちゃんから聞いたところでは、例年の対戦の組み合わせとしては各学年内でまず予選トーナメントを行い、1位と2位を決める。

 そして1年から4年までの1位と2位、8チームが決勝トーナメントを行うことになる。

 つまり優勝までは5回連続して勝てば良い訳だ。



「では、魔法訓練を始めようか」

「はーい」「おう」


「はいっ」

「はいヴィオちゃん。どうぞ」


 ヴィオちゃんが手を挙げた。何かな?


「わたしたちも特訓なのよね。えーと、どんな特訓なのかな、と思って」

「それ、気になります、です。ザックさま、昨日は何も言わなかったし」

「もしかして、俺たちもぶっ倒れるまで、魔法を撃つとかか?」


 いやいや、倒れるまで撃つとか、魔法耐久レースじゃないんだから。

 ぶっ倒れるなら、別の理由で倒れて貰いますよ。俺も昨晩、練習方法をじっくり考えましたから。



「まず、先日の合宿訓練を思い出してほしい」

「あの森の中での魔法訓練か?」

「そうそう。あの時、君たちは、森の中からの攻撃に対して、輪の陣形で動かず迎え撃った」


「結局最後は、輪を縮められて、あなたの石礫つぶての雨で頭を抱え込んじゃったけどね」

「コホン。つまりだ、君たちは動かずに魔法を撃った。それはファングボア狩りでも、基本的には同じだ」

「まあ、そうね」


「だから今日から始める特訓では、動いて貰う」

「この前に言ってた、激しく動くってやつね」

「激しく動くのか」

「動くのよ」


「そのためには、動ける体力、臨機応変な動きのできる身体能力を、より高める必要があるのだが、あと1ヶ月で万全に出来るわけでもない。でも、君たちはまだ1年生だ。この先も見据えて、今日からそれに取組んでいただきたい」

「ザックも1年生だけどな」「だわね」「です」



「コホン。でだ。これまでも、動きながらの無詠唱魔法発動訓練をして貰っているけど、今日は動ける体力づくり訓練をして貰います」

「ということは?」

「つまり?」

「走る、ですか?」


「その通り。では、走りますよー。僕が先導します。コースは学院中ですよー」

「えー」

「だから、なぜか木剣も持ってるのね」

「魔法訓練なのに、不思議でした、です」


 はい、4人で木剣を持って走りますよ。ちゃんと訓練用の上下も着てますよね。

 では出発しましょう。



 それから総合武術部の4人は走り出し、まずは魔法訓練場のフィールド内を一周してから外へと出て行く。

 ロズリーヌ部長をはじめ総合魔導研究部の部員たちや、魔法訓練場に集まっていた多くの魔法関係の課外部の部員が俺たちを呆れた顔で見送る。


 いやー、なんだかマラソン大会で競技場を出て、マラソンコースへと向かう選手たちみたいだよね。

 さて、この4人のうち、何人が魔法訓練場に戻って来られるでしょうか。って、4人ともちゃんと戻って来ますよ。


 さあ元気に行きましょう。走るのって楽しいよね。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

よろしかったら、この物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

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