第246話 クラス企画会議と選抜メンバー発表
その翌日。4時限目終了後の臨時ホームルーム。
A組専用教室にクラスの20名全員が集合した。
議題はふたつ。学院祭のクラス企画のアイデア出しと総合戦技大会の選抜メンバーの選出だ。
総合戦技大会に出場するメンバー選出は俺に一任されているので、その代わりアイデア出しは免除だそうだ。
俺も昨晩考えたんだけどね。
例えば、アラストル大森林の魔獣や獣が出現する中を巡る、超ミニアラストル大森林お化け屋敷。
教室内に濃い樹木を配置して薄暗い獣道を巡らし、野鳥やクモ猿のムゥリークなどの鳴き声をBGMに、ファングボアや森オオカミ、ゴブリンなんかが襲って来て脅かすとか。
物騒ですか。ダメですか。
大森林を知らない王国の人たちに、少しでもその怖さを味わって貰う楽しそうな企画だと思うんだけどな。
「それじゃ、臨時ホームルームを始めます。まずは、クラス企画のアイデア提案でいいのかな? ヴィオちゃん」
「はいはーい。ここからは、わたくしヴィオが進行を務めます。ザックくん、ご苦労さまでした」
ご苦労さまって、ひと言、ホームルームを始めるって言っただけなんですけど。
まあ、こういうのは彼女にまかせるのがいいか。
それからはヴィオちゃんの手際のいい進行で、クラスの皆から次々にアイデアが発表される。
劇やら音楽会やら、皆が作品を作って持ち寄る展示ギャラリーやらと、前々世と良く似た定番のものが出て来るよね。
弓で的を射抜くか魔法で景品を落とすと貰える、弓と魔法の射的なんかお祭りっぽくて楽しそうだな。
でも、うちの連中が来たら、景品を全部持ってっちゃうよ。
あと、アンデッドが出るお化け屋敷ですか。これはその、例の件で微妙ですぞ。
それからさ、ザックくんの部屋て何? えーと、総合戦技大会に無念ながら出場を禁止されたザックくんが、誰の挑戦でも受ける部屋、ですか。
この限られた教室の空間内で、いちどでもザックくんの膝を床に突けさせることができたら、豪華景品進呈って。それって、俺だけ働いて皆は楽する案でしょ。
そんな中で、ヴィオちゃんとカロちゃんが共同で提案したのは、グリフィン子爵家謹製のカワイイ侍女服を着た女子たちがいるカフェ、ですと。
あー、前にいちど、うちでエステルちゃんとエディットちゃんが着たのを見て、自分たちも欲しいって言ってたからな。
要するにメイドカフェですよね。まあ、この世界にそんなものは無いのだが。
服の実物が無いし、もちろん写真や動画など無いのだが、ふたりはうちのディアンドル風侍女服のデッサン画を描いて持って来ていた。
どうやら昨晩、ふたりで相談して描いたようだ。たぶんカロちゃんだね。上手だね。
口頭で説明した後、このデッサン画を出すとクラスの女子たちから声が上がる。
「キャー、カワイイっ」
「それ着たい、着たい」
「ザックくんの子爵家って、そんなカワイイ制服なんだ」
「アナスタシア様のアイデアなのね。さすが天才だわ」
「その案にしたら、学院祭が終わった後はそれ貰えるのー?」
学院の大先輩で天才魔法・元少女だったアン母さんは、女子学院生の間では伝説的な存在らしい。母さん、有名人なんだね。
「クラスの女子全員分を、うちの商会で作って、学院祭が終わったらみんなに進呈します、です」
「キャーっ」
カロちゃんがそう発表すると、これで女子10名の意見はこの案でまとまった。
「えーと、男子はどうするの?」
「そんなの、裏方に決まってるでしょ。お客さんに出すものを、作らないといけないんだし。何人かはギャルソンで採用するかも、だけど」
「でもさ、うちの侍女服でいいのかな?」
「ザック」
「なに?」
「いいから、オーケーと言うんだ。逆らうな」
盛り上がる女子たちを余所に、クラスの男子全員がライくんと同じ目をして俺を見る。
「はい、OKであります」
「それではクラス企画も決まったので、次にザックくんから、総合戦技大会の選抜メンバー5名を発表して貰います。いいかしら?」
「えーと、昨日から熟慮に熟慮を重ね、あれやこれやと頭を悩ませ……」
「前置きはいいから」
「はい。それでは発表いたします。ドルルルルゥー……」
「それ何。早く」
「はい。ヴィオちゃん、カロちゃん、ライ。そして、バルとペルちゃん、であります」
「え、僕?」
「わたし?」
うちの部の3人は、まあ自分たちが選ばれるだろうと落ち着いていたが、バルくんとペルちゃんは少々驚きとも緊張ともつかぬ顔をしていた。
と言っても、A組で剣術系の課外部に所属しているのはこのふたりだけだし、魔法はヴィオちゃんとライくんがいれば充分なのは皆も分かっているから、順当な選考だけどね。
「ザックのことだから、無茶で意外な選考をするかと思ったが」
「妥当な線だよな」
「これは、勝ちに行くということかな」
「でも、ここからが始まりじゃないか」
「あの3人はともかくとして、バルとペルちゃんにこれから何が待っているのか」
「がんばれ、バル」
「がんばってね、ペルちゃん。応援するよ」
ああ、バルくんとペルちゃんがああいう顔をしたのは、選ばれたことに驚いたのではなく、これから自分たちを待ち受けている運命が決まったからか。
そうですか。腹は決まりましたかな。
クラス企画の方は、次のホームルームまでにどんなカフェにするのか、メニューは何を用意するのかなどの案を持ち寄ることになった。
ちなみに、お店の名前は「魔法侍女カフェ(仮)」なのだそうだ。
何で魔法? とも思ったのだが、うちのアン母さんに敬意を表してなのだとか。
「グリフィン子爵家カフェ」とか「アナスタシアカフェ」などの案も出たが、それは俺が却下させて貰ったよ。
「では、これで臨時ホームルームを終了します」
「はーい」
「それから、悪いけど、選抜メンバーは残って貰っていいかな」
クラスの皆が、「がんばれ」「がんばって」「もうわたしたちには、応援しかできないけど」「いつでも逃げていいのよ」「責任はすべてザックくんにあるから」などと、主にバルくんとペルちゃんに声を掛けて教室を出て行った。
「バルくん、ペルちゃん、大丈夫よ。これで、それほど鬼畜なタイプじゃないから」
「僕たちが付いてるからさ」
「無茶はさせても、無理はさせない、がモットー、です」
カロちゃん、うちの部員じゃないから、そんなに無茶はさせないつもりだよ。
ほら、ふたりとも無言になってるでしょ。
「えーと、お集りいただいたこの5名で、総合戦技大会を闘いたいと思っております」
「それは、わかってるわ。つまり、大会までにどうするか、でしょ」
「そうであります」
「ザック、いいから普通に頼む」
「でだ、まずこの5人で、どういうフォーメーションを想定するかだが」
「いきなり、普通になった、です」
クラス対抗の総合戦技大会は、剣術と魔法を組み合せたチーム戦だ。
つまり通常は前衛に剣術、後衛に魔法を置いてフォーメーションを組むが、そこはクラス対抗ということで、必ずしも剣術と魔法のメンバーがクラス内でバランス良く揃えられる訳ではない。
例えば、ほぼ全員が剣術というチームもあれば、魔法に偏ったチームも出来てしまう。
また、剣術と魔法を組み合せたチーム戦と言っても、ルールの問題がある。
使用する剣はもちろん木剣。ただし木製槍の使用もオーケーだ。
刃の付いた真剣や槍を使用しなければ、それほど難しい規定はない。姉ちゃんたちが得意な強化剣術も使える。
一方で魔法の方は難しい。
学院生なのでそれほど強力な魔法を使える者はいないが、それでも即死や重傷に至るような魔法の使用は禁止だ。
これは魔法の種類だけではなく威力との兼ね合いもあるので、厳密な規定が難しい。
俺のウィンドカッターはごく初歩の風魔法だが、同時に複数人の首を落とせるとかね。
そこで、魔法学の教授を中心に魔法の熟達者が審判として複数立ち会い、危険と判断される魔法が発動された場合に即座に審判が防御し、発動した側のチームはその場で負けとなる。
その辺のところを、以前にヴァニー姉さんやアビー姉ちゃんに聞いたことがあるが、まあそんな即時中止といったことが起きたことは無いそうだけどね。
あとは同じ学院生同士ということで、良識の範囲内ということだそうだ。
ただ、もちろん怪我はつきまとうので、回復魔法の出来る医務室の先生を中心に、医療チームは万全に準備されるという。
そんな大会の基本的なルールを前提にポイントとなるのは、この5名がどういうフォーメーションで、どのような闘い方をするのかということだ。
つまり、魔法を使える3人が剣術もそれなりに出来るという、うちの総合武術部員ならではの要素をどう活用するかだよね。
その点については、まず基本的なところを決めてから特訓に邁進しようかな。
え? 特訓するのは決定かだって? もちろん勝ちに行くには、決まりですよ。
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