表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

249/1124

第244話 見学と個人授業

 バルくんがライくん相手に打込みを始めた。ふむふむ。


 正直言うと、1年生にしてはうまさはあるが強さが足りない。変化も少ないな。

 教わった型通りに、ただ稽古として木剣を繰り出している感じだ。

 どちらかと言うとライくんの方が、多少デタラメ感はあるものの、剣だけの実戦でも強いだろう。

 あらためて総合武術部での半年間の成果が感じられるね。この前の合宿でも何かを吸収したかな。



「先生の講義って、試合稽古とかは?」

「初級なんだからまだよ。春学期は、素振りと型、それから打込み。秋学期は、これから各自の技量の進捗を見極めて、それから試合稽古って感じね」

「それはそうですね」

「下手に怪我とかされちゃうと、危ないしね。あなたみたいな回復魔法の使い手もいないし。あなたみたいな」


 そんなに強調されても、俺は講義が重なってますからね。


「まあ、何かあったら通常は、学院の医務室の先生を呼ぶわ。この時間だと、お隣の魔法訓練場に、呼びに走らせることも出来るでしょ」


 つまり俺を呼びに行くのが、いちばん手っ取り早いって言いたいんですよね。まあその時は呼んでください。



「そうね。あなたがそんなに聞くのなら、今日は特別に、何人かを選んで試合稽古をさせようかな。たまたまここに、回復魔法が出来る人がいるし。たまたまだけど」


 そんなにとか聞いてないですけど。そりゃ、たまたま見学してますけどね。


 それでフィロメナ先生は少し考えていたが、「打込み、止めっ」の声を掛ける。


「はい、お疲れさま。皆、だいぶ身体も安定して来たし、動きも夏休み前よりも良くなっているようだわ。それでは秋学期初日ということで、特別にこの後の時間を使って試合稽古をしてみます。ただしそうね、まだ全員と言う訳にいかないから、私が3組ほど選びました。今後は皆の様子を見て、最終的には全員にやって貰うわよ。それに今日は、剣術学特待生が見学してるしね」


 それから先生は、試合稽古をして貰う3組6名の学院生の名前を挙げた。

 そこにはライくん、ヴィオちゃん、そしてバルくんと、A組の3名が入っている。

 あとの3人は、どうも剣術学中級諦め組らしい。

 名前を告げた後に、俺の方を向いてウィンクするのは止めましょうね、フィロメナ先生。



 試合稽古の様子は省略しましょう。3つの対戦で勝ったのはすべてA組でした。

 対戦相手には悪いが、ライくんとヴィオちゃんはまだまだ剣術初心者とは言うものの、この程度の相手でうちの総合武術部員が負けては困る。

 それで注目はバルくん。


 結果としては、ギリギリでなんとか勝ちを拾ったというところだ。

 相手も技量はほぼ同程度で型稽古のような打ち合いが続き、結局はラッキーな瞬間をバルくんが得て、相手の腕に彼の木剣をおずおずと当てることが出来た。

 経験が少ないのは仕方がないとして、さてどうしようかな。



「はい、では今日の講義はこれで終了します」


 それぞれの試合稽古を振り返りながらいくつか指導を行い、講義は終了した。

 見学していた俺のところに、うちのクラスの3人がやって来る。


「ザックくん、ホントにあっちをサボって見に来たんだ」

「おまえ、さすがだな」

「いやー、それほどでも。って、サボってませんよ。自主訓練にしたからさ」

「訳わかんない」


「あの、なぜ、見学?」

「バルくんそれは、この人……」

「しーっ、ヴィオちゃん。いやいや、たまには初級の講義も見てみたいなと」


「この先生のすることは、いちいち気にしない方がいいぞ、バル」

「あ、そうか」


 取りあえずバルくんの追求も無さそうだ。次の俺の講義は剣術学中級で場所は同じここだし、インターバルは30分あるし、どうするかな。

 あ、フィロメナ先生なんですか? みんなは次の講義に行きますか、そうですか。



「どう、どう? 先生、サービスしたわよね?」

「は、はあ」

「これはザック君にひとつ貸しかな。そうよね」

「は、はい」


「さてさて、この貸しはどうやって返して貰おうかな。どうしましょ。次は中級の講義だし」

「えーと」

「そうだわ、先生の縮地の訓練を見てくれるってどう? その前に、少し教えて貰わないとよね。そうしましょ、どうかしら」


 そうしましょ、どうかしらって。フィロメナ先生的には、先ほどの試合稽古は俺に対するサービスって位置づけですか。剣術学初級の講義としてそれでいいのかなぁ。

 でも確かに、充分参考にはなりましたけど。



 それで仕方がないので、俺は更衣室で訓練用上下に着替え、先生が待つ訓練場のフィールドへと戻る。


 フィロメナ先生は春先に俺の縮地もどきを見て、更には実際の対戦で縮地(真)を体験してから、自分自身でそれを修得することを目標にしているようだ。

 俺は以前に、ごく簡単に術理を解説し前世の歩法も教えたのだが、それ以上は直接的に訓練を見てはいない。


 これまでは先生自身がいろいろと試しながら、ひとりで訓練をしているのだと言う。

 実際にやってみて貰ったが、まだまだ先は遠いな。


「まずは縮歩に繋がる歩法の鍛錬からですが、その前に、そうですねダッシュしてください」

「ダッシュ?」

「あ、いや、ここからあそこまで、いきなり最大速度に上げて走り込んで。それから急停止、反復してこちらに同じく最大速度。そしてまたここで反復を繰返す」

「わかった」



 およそ50メートルのダッシュの反復繰り返し。ごく短時間で俊速移動する感覚と、それを維持するためのスタミナもつける。

 こちらの世界では、うちの騎士団員やファータの探索者とかはともかくとして、短距離や中長距離とかでスピードを変えて走る訓練などは勿論無い。


 その中で、素早い動きを信条とするフィロメナ先生は、おそらく走るスピードも速いと思うのだけどね。

 だからまずはダッシュをさせてみよう。



「よし、始めっ」

「はいっ」


 言われた通り、先生はダッシュすると50メートル先で急停止してクルっとこちらに向き直り、また猛然と駈けて来る。

 なかなか速いよね。よし、10往復、50メートルダッシュ20本だ。


 かなり頑張っていたフィロメナ先生。しかし徐々にスピードが落ちて来た。


「止めっ」

「は、はいー。はぁはぁはぁ」

「暫時、休息」

「はいー」


 暫し休ませる。そして再開。


「では、再び行う。位置について」

「えー、まだやるのー」

「まだやります。用意はいいかっ」

「はいー」

「よし、始めっ」

「むんっ」


 こうして10往復、50メートルダッシュ20本を3回繰返した。


「よし、止めっ。暫時、休息」

「ひー、はー、はぁはぁはぁはぁ」



「おーいザック。今日は早いな、ってフィロメナ、どうした」

「ザック君、久しぶり。あれ、フィロメナはどうしました」


 フィランダー先生とディルク先生が訓練場に来ました。

 もう剣術学中級の講義が始まる時間か。間もなくブルクくんとルアちゃんも来るよね。

 ふたりの剣術学の教授は、フィールドに大の字になっているフィロメナ先生を見て吃驚している。


「お、おいザック。おまえ、フィロメナに何をした」

「えー、僕は何もしてませんよ。心外な」

「しかしこの様子は」

「フィロメナ先生の訓練を、僕が見ているだけですよ」


「そ、そうなのか? でもどうして、こいつ大の字なんだ」

「ちょっといきなり、激しくし過ぎたかな。おーい起きてくださーい。もうブルクくんとルアちゃんが来ますよー」

「激しくし過ぎって、おまえ。でもザックは普通に平気な感じだな。凄いなザックは」


「もう部長は何言ってるの。ザック君に指示されて、私がひとりで訓練してたのよ。彼は見てただけ。ちょっとキツい訓練だったし。ふー」

「お、おう。そうか」



 それで受講生ふたりもやって来て、いつも通り素振りから始めたのだが、いざ打込み稽古へという時点でフィロメナ先生がこう主張する。


「今日は私の訓練を見るって約束で、ザック君を予約してますから。ブルク君とルアちゃんの打込み相手は、部長とディルク先生でお願いします」

「フィロメナ、おまえ。予約ってなんだ。そんなシステムがいつ出来た」


「いいから始めますよ。はい、ふたり組になって。はい、始めっ」

「お、おう」


「じゃこっちはこっちで続きよ。次は何をすればいいの?」


 まだやるんですね。今日の講義はフィロメナ先生への個人授業ですか。そうですか、わかりました。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

よろしかったら、この物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ