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第242話 秋学期初日のホームルーム

 今日はいつも以上に早起きをした。

 なぜなら今日から、セルティア王立学院の秋学期が始まるからだ。


 たしか今日は、1時限目前の8時半からホームルームがあるんだよな。

 普段は5日間周期の講義のふた周り目、その初日の朝にあるのだが、今日は学期始めということで最初にある。

 クラス委員の俺としては遅刻が出来ないので、屋敷から登校すると言うこともあっていつも以上の早起きをした訳だ。



「おはようございます」

「おはよう、ザックさん」

「おはようございます、ザックさま」


 はい、早朝の食堂には、シルフェ様とシフォニナさんがいらっしゃいました。

 まだ王都屋敷に滞在しておられます。

 風の精霊様は早起きです。ごく自然に、ほぼ自分の席となった椅子に座っているのです。


「今日から学院に行かれるのね」

「はい。10日間は寮生活ですね。10日後の夜に屋敷に戻って2日間がお休み。そんなサイクルが始まります」

「ちゃんとエステルの元にお帰りになるのね。偉いわ」

「はい、怒られますから」


「寮からのお帰りが翌朝でも、怒ったりはしませんよ。でもこの人、ちゃんと帰ってくるんですよ」


 エステルちゃんとエディットちゃんが朝食を運んで来た。

 どうやらとても偉い人らしいエステルさまの姉という存在に、エディットちゃんも慣れたらしい。



 今日は普段の朝食よりもだいぶ早い時刻なので、ジェルさんたちよりも先にいただく。

 だから人族は俺だけという、とても不思議な朝の光景かも知れない。


「シルフェ様たちはどうされるんですか?」

「そうねー。もういちどニュムペさんに会いに行かなきゃだけど、ザックさんとエステルとは一緒に行けないわよね。でもその前に、ナイア湖とやらにも行ってみたいし」


 ああ、まだ王都にいるつもりなんですね、きっと。

 ナイア湖でクロウちゃんが水の精霊を見かけたという話は既にしてあって、ニュムペ様に会い行く前にその確認もしておきたいということのようだ。


「妖精の森は、シルフェ様がお留守でも大丈夫なのですか?」

「うちの子たちは、わたしが長い間留守にするのは慣れてるから、ぜんぜん大丈夫よ」

「おひいさまは、良く世界中を巡られますから」


 世界中を巡るんですね。風の向くままでしょうか。それともジェット気流でしょうか。



 屋敷玄関前でエステルちゃんとクロウちゃん、エディットちゃん、そしてシルフェ様とシフォニナさんに見送られて、俺は学院へと走る。

 その前に、夜明けとともに門を護っているアルポさんとエルノさんに声を掛けた。


「行って来るよ」

「お気をつけての、ザカリー様」

「10日後じゃな」


「どうやら、シルフェ様たちはまだ屋敷に滞在しそうだから、頼むね」

「おお、そうですか。ザカリー様がおらんから、気を抜かぬようにしないと」

「ザカリー様は、ご心配せずに勉学に励んでくだされよ」


 うちは全員強いし、たぶんそれよりも精霊さんふたりの方が強いから、何も心配はいらないんだけどね。




「おはよう」

「お、ザック、おはよう」

「先日振りね」

「ゆっくり休めました、ですか」


 心置きなく休めたかどうかと言えば、かなり微妙なところですよ。

 合宿後の夏休み最後の数日は、あっと言う間だったからね。


 クラスのみんなも、それぞれに良く日焼けして元気そうだ。

 あちこちの席で久しぶりの声を交わしたり、夏休み中の出来事なんかが話されている。

 ところで、俺が教室に入った時に「ちゃんと来たなー、ザック」とか、「事件は起こしてないわよねー」とか声が掛かるのはどうしてかな?



「よし、ホームルームを始めるぞ。ザカリー、よろしくな」

「はい。みんな、おはようございます」

「おはようございます」

「全員が無事に、元気な姿で揃ってるね」


「僕たちはみな無事だけど、ザックは大丈夫だったのか?」

「グリフィニアで事件が起きたって話は、聞こえて来なかったわよね」

「じゃ、グリフィン子爵領は平穏だったのか、なんだ」

「あなた、なに残念そうなの?」

「レストランで女の子を泣かせた事件だけ?」

「なになに、カロちゃんから聞いたの?」

「カロちゃん、詳しく詳しく」

「あとで、です。でも事件性は無かった、です」


 事件性なんて少しも無いですよ。カロちゃん、もう話したのか。



「あー静かに。今日は秋学期初日と言うことで、クリスティアン先生から連絡事項があるそうです。先生、お願いします」


「皆、どうやら元気に夏休みを過ごしたようだな。それで早速だが、私からの連絡事項は、10月の学院祭についてだ」


 クラス内が少しザワザワする。入学以来、初めての大きな行事だからね。


「皆も知っていると思うが、学院祭は10月3日から7日までの5日間、学院生が中心となって実施する、セルティア王立学院最大の催事でお祭りだ。そしてこの学院祭のメインには、クラス対抗の総合戦技大会が行われる」


「それで、学院の各クラスが準備するものとしては、ひとつは皆で何か考えてクラスの全員が行うクラス企画だ。例年だと、お店や展示、あとは劇や音楽演奏会などもあるな。それからもうひとつは、総合戦技大会に選抜メンバーを出すことだ。選抜メンバーは5名。チームを組んで剣術と魔法で対抗戦を行うことになる」


「先生。クラス企画は、この専用教室を使うってことでいいんですね」

「そうだ。どんな企画内容にせよ、この教室で行う。ちなみに、学院講堂では課外部の演劇やコンサート、発表会などだな。総合戦技大会は、5日間を通じて総合競技場で行うことになる」



 この学院祭の話で、クラス内にはざわめきが起こった。

 クラス企画と、クラス対抗戦の選抜メンバーの選出。クラスの皆が初めて共同して行う催事だからね。


「クラス対抗戦はザックが出れば、もううちのクラスが優勝決定じゃないのか」

「ザックくんひとりでも優勝よね」

「よし、ザックを出して、他のみんなは応援に回ろう」

「それなら、クラス企画に集中して打込めるわよね」

「気楽に学院祭が楽しめるぞー」


「あー、とても残念なお知らせなのだが、ザカリーはクラス対抗戦には出られない」

「えーっ」「なんでですかー」「そんなー」「どうしてー」


「ザカリーは剣術と魔法の特待生で、その、あまりにも強すぎる。皆が言うように、ザカリーが出場すれば、もうそれで優勝だ。そこで学院長と教授で協議の結果、ザカリーの出場は控えてもらうことに決定したんだ。まあ私としては、ザカリーの出る試合が見られないのは、とても残念だがな」


 このクリスティアン先生のこの話で、クラス内のざわめきは頂点に達した。


「とすると、魔法はヴィオちゃんとライくんで決まりじゃない」

「カロちゃんも同じ課外部で、だいぶ上達してるそうよ」

「おい、剣術はどうするんだ」

「剣術かあ。ちなみに僕は無理」「わたしもムリー」「どうするよ」


 話題の中心であり、クラス委員である俺としては、まずはこの場を収めないとだよな。



「クリスティアン先生、選抜メンバーはいつまでに決めればいいんですか?」


 あ、ヴィオちゃん、さすが伯爵令嬢ですな。的確な質問で、皆が静かになりました。


「そうだな。次のホームルーム。つまり、6日のホームルームまでに決定して、その日の内に学院生会に届出てくれ。これはクラス企画も同様だ。当然だが、早く提出する分には問題ない」

「わかりました。じゃ、ザックくん。それまでに選抜メンバーは、あなたが決めなさい。クラス企画は、わたしたちが相談して決めるから」


「えー、僕が決めるの?」

「そうよ。だってあなたは魔法学のアシスタントでアドバイザーで、このクラスで唯一の剣術学中級受講者で、実質的にそこでも先生なんでしょ」


 はい、剣術学中級の受講者は1年生で3人だけ。そのうちのブルクくんはB組でルアちゃんはE組です。つまり、1年で言えばB組とE組が要注意。

 しかも確かに、時にはフィロメナ先生やディルク先生にも剣術を教えたりしてますな。



 そうすると選抜メンバーとしては、公平な目で見ても技量的にヴィオちゃんとライくん、それからカロちゃんは決定だな。

 魔法はこの3人で充分なので、問題は皆が言うように剣術だよな。あとふたりを、さてどうするか。


「あの、クジ引きとかでは?」

「真面目に考えて決めるのっ」

「じゃんけんは?」

「ザックくん」

「でもさ」


「ザックよ、いいから逆らうな。言われた通り、おまえが決めるんだ」

「そうだよ。無駄な抵抗はよせ」

「君が決めれば、誰も文句は言わん。それがクラスの平和のためと心得よ」


「はい」


 でもホントウにどうするかな。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

よろしかったら、この物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

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