第235話 シルフェ様とお出掛け
シルフェ様とシフォニナさんは、普通にお昼ご飯を食べていた。
そう言えば妖精の森に行った時には、ハーブ茶のようなお茶とお菓子をご馳走になったし、クロウちゃんが風に飛ばされて行った時にも食べ物が出たって言ってたな。
どうやって食材を調達したり作ったりするのだろう。謎だ。
うちの連中は、食事の席をご一緒するのを凄く遠慮したが、「いつも一緒にいただいているんでしょ」というシルフェ様のひと声で同席することになった。
でも、食事中はとても静かだった。
アデーレさんとエディットちゃんはお客様がいらっしゃると言うことで、配膳したあと別室に下がったけどね。
「あー、美味しかった。ザックさんとこの料理人さんは良い腕をしてるわね。夕飯は何かしら」
「はしたないですよ、おひいさま」
あ、夕飯も食べるんですね。もしかして泊まって行くつもりなのかな。
エステルちゃんはシルフェ様の予定を聞く前から、念のため客室の準備をさせている。
「シルフェ様は、肉料理とか問題ないんですか?」
「わたし、別にベジタリアンじゃないのよ。だって先ほどのお食事にも、卵とか乳製品とかお肉も入っていたでしょ」
アデーレさんが用意してくれた今日のランチは、ベーコンと野菜、チーズの入ったキッシュ風の卵料理だった。
多めに焼いていてくれていたので、なんとか人数分が足りたんだね。
「そうなんですね。精霊様だから、もしかしてと思いました」
「精霊は、基本的にはお食事はいらないのよ、エステル。キ素力を摂ればいいの。ほらニュムペさんはお水から摂るでしょ。わたしたちは風からよ。だけど長年生きてると、やっぱりお食事もしたくなるじゃない。それから、エステルはわたしのことはお姉ちゃんと呼びなさい」
「は、はい、お、お姉ちゃん」
「それで、今日の午後はどういうご予定で」
「そうねー。まずはザックさんの学院に行って、例の地下と言いたいところだけど、今日着いたばかりだし、王都をお散歩しましょう」
「お散歩、ですか?」
「はい、お散歩よ。お天気も良いわ。いいわよね」
「え、ええ、もちろんです」
絶対この人、じゃなかったこの精霊様、遊びに来たんだぞ。
それに今日は、まずは王都をお散歩って言うのだから、泊まって行く気満々だ。
えーと、それで護衛とかどうすればいいんだ。
「あの、シルフェ様」
「なあに、ザックさん」
「シフォニナさんはお付きで行かれると思いますが、そのほかのお付きや護衛はどうしましょう」
「そんなの、ザックさんとエステルと一緒に行くに決まってるでしょ。護衛とかは、わからないからザックさんが決めて。でも、あなたとわたしを襲える人族の方なんて、いるのかしら。街中にはアンデッドはいないんでしょ」
「それはそうですが」
それでシルフェ様のお相手は少しの間、妹のエステルちゃんにまかせて、俺はジェルさんに相談しに行った。
クロウちゃん、ジェルさんはどこにいるのかなぁ。え、うちのメンバー全員で庭のテラスで何ごとか話し合ってるって?
この王都屋敷の屋敷建物前は、グリフィニアの子爵館と同様に広めの庭園になっていて、その庭園の中に東屋風のテラスがある。
なるほどそこに、うちのメンバーが集まっていた。
「お、ザカリー様。で、ご様子はどうなのだ」
「ご様子って、シルフェ様? 今はラウンジでエステルちゃんがお相手をして、ゆっくりされてるよ」
「いろいろ聞きたいことがあるのだが、ザカリー様があまり離れているのは良くないだろう。だから少しにするが、あの方は本当に風の精霊様なのですか」
「うん、本物だよ。前に呼び出されて妖精の森でお会いした」
「またまた、ザカリー様は軽いわねー。でさでさ、エステルさんが妹って。直系の子孫だから、というのはわかったけどー」
「うん、精霊さんていうのは何百年も何千年も生きてる存在だから、子孫でも孫でも娘でもいいらしいんだけど、エステルちゃんがひとりっ子だから、お姉ちゃんがいいってシルフェ様が決めたんだよ」
「これも、軽い理由なのだな。本当にそうなのか? 双子のように瓜二つだし、最近、エステルさんの髪の色が、青みが強くなって来たと思っていたのだが、今日、その、シルフェ様のお姿を拝見したら、青い髪色だったぞ」
「まあ、先祖返り的なものはあるのかもだけど」
「それより、これから午後は王都を散策したいって、シルフェ様がおっしゃってね。僕とエステルちゃんはお供しなければいけないんだけど、護衛はどうしようかジェルさん」
「お、そうなのか。それは……。うーむ、あまり大層にしては、目立つからいけないのだろうな。私とオネルとライナが付いて、ブルーノさんとティモさんは周辺警戒にあたって貰うか。と言うか、ティモさん、役に立つのか?」
そう言えば、ファータ衆はどうしたのかなと思ったら、屋敷正門のところで3人が固まって何かを話している。
声が聞こえて来ないから、珍しく小さな声で話してるんだな。
「どうしたの? 3人で」
「これはザカリー様、どうしたのではないですぞ。どえらいことで」
「そうですぞ。わしらはどうしたらいいのやら」
そうだね、風の精霊の眷属で子孫と言われるファータの人にとっては、真性の精霊で頭であるシルフェ様ご本人が登場したのだから、これはどえらいことだよね。
まあまあ、でも来ちゃったんだから落ち着きましょう。
「ザカリー様は、こういったことには免疫はあるのでしょうが、私共には天地がひっくり返るほどの出来事なのです」
「そうじゃ、ティモの言う通りですぞ、ザカリー様よ」
「ましてや、エステル嬢さんが妹じゃとおっしゃられては」
「そうだよね。それは僕も初めてお会いした時は、ちょっと吃驚したし」
「ちょっと吃驚、ではありませんぞー」
「生を受けて百数十年。それ以来、最大の吃驚ですぞー」
はい、そうですね。すみません。
でもようやく、いつもの声のでかさが戻って来た。
「それでティモさん。これから、シルフェ様とお出掛けすることになっちゃったんだ。護衛はジェルさんたちが付いてくれるんだけど、ブルーノさんとティモさんに周辺警戒をお願いしたいんだって。大丈夫かな?」
「あ、はい。なんとか。お側近くよりも、周辺警戒の方が気が楽です」
ティモさんは、ジェルさんたちがいるテラスの方に走って行った。
あとはこの爺さんたちだが。
「アルポさん、エルノさん。とにかく現実を受け入れて、シルフェ様がこちらにおられる間は、しっかりお護りしようよ」
「それは、当然じゃ」
「わかっておりますぞ」
「お願いしますね」
「はいっ」
ファータ衆の3人は、ようやく少しは落ち着いて来たみたいだ。
さてそれではお出掛けしましょうか。
ラウンジに戻り、ではお出掛けしましょうかと、シルフェ様、シフォニナさん、エステルちゃんと玄関ホールに行くと、ジェルさんたちレイヴンの女子組3人が待っていた。
大袈裟にならないようにと平時の簡易な制服に帯剣のみだ。
「では、行きましょうか」
「あら、ジェルさんたちもご一緒してくれるのね」
「我らは護衛でして……」
「ご一緒なんだから、どちらでもいいわよ。さあ行きましょ。エステル、案内してくださいね」
「はいー」
ブルーノさんとティモさんは、既に屋敷の外へ先行しているようだ。
門を出る時には、さすがにアルポさんとエルノさんはもう土下座はしなかったが、最敬礼で一行を送り出した。
さて、エステルちゃん。とりあえずは商業街ですかね。
「(まずは、商業街でお店巡りですかね、ザックさま)」
「(そうだね。王宮広場方面まで商業街を歩こうか)」
「(あら、商業街ね。お店がいっぱいあるのよね。そこに行きましょう。シフォニナさん、人族のお金とか言うの、持ってらっしゃる?)」
「(少しなら持って来ました、おひいさま)」
「(えーと、お買い物をするなら、うちで出しますから)」
「(あらいいの? ザックさんとエステルに甘えちゃおうかしら)」
そうだった。シルフェ様たちは念話ができるし、俺たちの会話に入って来られるのを忘れていた。
これは迂闊に念話でコソコソ話が出来ないぞ。
て言うか、シフォニナさんはどこからお金とか手に入れるんだろう。謎だ。
人外の偉いお方が一緒だと、いろいろ大変だよね。
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