第233話 夏休み合同合宿終了
翌朝、キャンプを撤収し帰り支度をする。
手早く荷物がまとめられ、馬車に積み込まれて行く。
姉ちゃんの部員さんたちは、エイディさんが手配した馬車が迎えに来るそうだ。
姉ちゃんもそれに乗って学院まで直接行くと言う。
「アビーさま、ちゃんと時々は、お屋敷に帰って来てくださいよ」
「わかってるって、エステルちゃん」
「危ないことはダメですよ」
「はいはい。これでも気を付けてるから、心配しないで」
「じゃ、姉ちゃん、先に帰るよ。みなさん、今回はありがとうございました。また学院で」
「とても楽しく有意義な合宿でありました。こちらこそ、ありがとうであります」
「ありがとうございます」
俺たちは先に出発することにした。
姉ちゃんとエイディさんたちが手を振って見送ってくれる。
みんな意外といい人たちだよね。話し方や物腰は、あれだけど。うちの部員たちも、以前よりは彼らと随分仲良くなったみたいだ。
唯一の1年生部員のロルくんが、ひと際大きく手を振っている。主にカロちゃんに向けて。
こりゃ、これからが楽しみですな。
「ザックさま、何ニタニタしてるんです?」
「え、いや何でも、さあ馬車に乗りますよ」
来た時と同じく、女子部員とエステルちゃんがうちの馬車に、もうひとつの馬車に男子3人が乗り込んで、王都へと出発した。
帰路の馬車内は、ふたりとも疲れたのか言葉少なだった。
王都までは2時間ほどの行程だし、帰りは途中の村で小休止をせずにそのまま直行する。
そして内リンクに入り、まずは一般の屋敷街にあるカロちゃんのソルディーニ家の王都屋敷に向かって彼女を送り届ける。
それから貴族屋敷街に入って、ルアちゃんのアマディ準男爵家、ブルクくんのオーレンドルフ準男爵家、ライくんのモンタネール男爵家、ヴィオちゃんのセリュジエ伯爵家と順番に送って行った。
貴族屋敷には、騎乗のオネルさんかライナさんがいちおう先触れで行き、門前に馬車が横付けされて御者役のブルーノさんかティモさんが荷物を降ろしてくれる。
その都度馬車から皆は降りるが、俺は馬車の前までだ。
ホストの立場の子爵家長男の俺が屋敷門まで行くと、儀礼上、屋敷の中に招かれてしまうので、今回は申し訳ないがそうさせて貰った。
門前には、エステルちゃんとジェルさんが付いて行って挨拶してくれる。
この辺はジェルさんがすべて差配してくれていた。
「ザックくん、中に入る?」
「いや、また今度にするよ」
「そうだね。じゃまた学院で。今回はホントにありがとうね」
「いやいや。ゆっくり休んで」
最後のセリュジエ伯爵家でヴィオちゃんがそう言ったけど、伯爵家の屋敷内に入っちゃうと直ぐに帰る訳にはいかなくなっちゃうからね。
と言うことで王都に入ってから結構時間が掛かっちゃったけど、これはまあホスト役の最低限の義務なので仕方が無い。
ようやく自分の王都屋敷に帰って来ましたよ。
「おお、お帰りじゃな。ご苦労さまでござった」
「ささ、開けますぞ」
アルポさんとエルノさんの朗く大きな声が響く。この声を聞くと、帰って来たって感じだよな。
俺は門内に入ったところで馬車から降りる。エステルちゃんも降りて来た。
「アルポさん、エルノさん、無事に帰ったよ。何か変わったことは無かった?」
「ザカリー様、エステル嬢さん、お帰りなさいですじゃ」
「特に直接は何も。ごくごく時たま、王宮騎士団員らしき者の姿が通りかかったぐらいですかな」
「王宮騎士団員か。何か言っては来なかったんだね」
「通りすがりに、歩みを止めずに門外から中をちらっと見るだけですわい」
「ひとりだったり、ふたりだったり、ですの。じゃが、1日に1、2回ほどですわな」
「いちど後を付けるかとも思いましたが、まあ止めときました」
「うん、それでいいよ。取りあえず無視しましょ」
「そうですな」
「ささ、お疲れでしょうから、早くお屋敷に入りなされや」
レンタルしていた馬車からは、アルポさんとエルノさんも手伝って屋敷前で素早く荷下ろしをして、ティモさんがそのまま返却しに行ってくれた。
「お、この荷は、凍っておるが肉の塊ですかな」
「わかる? さすがだねアルポさん。ファングボアの肉だよ。うちの部員たちに狩らせてみた」
「ほぉー、それはそれは」
「ナイアの森とやらは、獲物はファングボアですかの」
「うん、そのぐらいみたいだったな。大型の獣の姿は薄かったよ」
「それは残念でしたな。エルクでもおれば楽しそうじゃが」
「カァカァ」
「ん、クロウちゃんなに? 遠くにエルクがいたって?」
「おりますか。それは」
「ふーむ、王都の近場でもエルクがおるのか」
「じゃ、今度はうちの皆でエルク狩りにでも行くか」
「おお、いいですのお」
「それは楽しみじゃぞい」
「もうザックさまは。今帰って来たばかりなんですよ。邪魔になりますから、早く中に入ってください」
「はいです」
皆がまだ荷下ろし荷運びをしているので、邪魔になる俺とクロウちゃんはラウンジでのんびりすることにしました。
エディットちゃん、紅茶をありがとね。
楽しかったね、クロウちゃん。でもあっと言う間だったよね。
カァ、カァカァ。なになに、昨日、湖の上を飛んでたら、水の精霊らしき姿を見たって? ひとりだけ?
カァカァ。ひとりで、ひっそりと湖上に浮かんでいたんだね。ふーん。ニュムペ様の配下さんかな。
カァカァ。きっとそう、か。でも、見つからないようにしてる感じだったんだ。カァカァ。近づいて行ったら消えちゃったんだ、ふーん。
「だいたい終わりましたよ。あとは騎士団の備品を仕舞って、お馬さんと馬車のお手入れをするそうです」
「ご苦労さまでした」
「何を話してたんですか?」
「それがね、昨日クロウちゃんが、湖上で水の精霊さんを見たんだって」
「へぇー。ニュムペ様のとこの方ですかね?」
「どうもそうらしいんだけど、近づいて行ったら消えちゃったんだって」
「恥ずかしがり屋さんでしたか」
「カァカァ」
「そうじゃなくて、隠れてたけど、様子を覗きに来たみたいなんですか」
「まあ、そもそも人前には、姿を現さないだろうから」
「そうですね。でも、あの湖にいらっしゃるんですね」
水の精霊の話はそのぐらいで、あとは合宿訓練での出来事などを話していると、ジェルさんたちが後片付けを終えてラウンジにやって来た。
ティモさんもレンタル馬車を返して戻って来たね。
それを察してエディットちゃんが、お昼ご飯のご用意が出来ましたよと呼びに来たので、食堂へ移動する。
「今回は、大きな出来事は無かったわよねー」
「そう言えば、そうだな」
「ライナ姉さんは、なに残念そうな感じなんですか」
「伯爵令嬢をはじめ、余所の子たちを9人も預かってたのだから、大きな出来事などあったら大変だ」
「でも、これって珍しく無い? ザカリー様といて、こんなの初めてよねー」
「それはそうだな」
「もうライナさんたら。そうそう大変なことがあったら、困りますよぅ」
「でもエステルさんさ、こんなの珍しいわよねー」
「ですけどね」
「ファングボアが1頭だけ、でしたものね」
「あと、石礫の雨が降ったな」
「あれはザックさまですぅ。ホントにもう」
「エステルさんとティモさんは降られなかったけど、結構痛かったんですよ、あれ」
「わたし、土魔法じゃないので防御する魔法の必要性を痛感したわー」
「すんません」
いやー、自分のことながら、言われてみると俺にしては極めて平穏な3泊4日でしたな。
そうそう物騒なことがいつも起こるとは思わないが、ちょっと物足りないような、でも楽しく終わってほっとしたような、正直そんな感じであります。
さて夏休みも、残り僅か6日ほどとなりました。
夏休みの課題ですか? ちゃんとグリフィニアで済ませて来てますよ。
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
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