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第218話 ふたりの絆

 お買い物デートを昨日決めてからの今日だから、どこでお昼ご飯にするか特に予約もしていなかった。

 お会計の時にブリサさんから聞かれてそう言うと、以前にふたりで行った中央広場を臨むレストランの予約に人を走らせてくれた。

 今日は本当にありがとうございます、ブリサさん。



「ザックさま、お金、ホントに大丈夫ですか? ちゃんと考えてます?」

「ダイジョブダイジョブ」


 えと、トゲトゲがひとつ幾らでそれを3つ買って、お洋服はあれが幾らでもうひとつが確か幾らで、レストランは、えと、とエステルちゃんはぶつぶつ独り言を言っている。

 きっと足りませんよね、お渡ししたのが5千エルぐらいで、でも足りなければわたしが払えばいいですし、ぶつぶつぶつ。



「そう言えば、クロウちゃん来ませんね。どうしたのでしょ」

「それが、通信がうまく届かないんだよね。繋がりは消滅してないから、生きてることは確かなんだけど。どこまで行ってるのかな」

「そうなんですか。どうしたのでしょうかね。命に別状がなければ、ですけど」


「うん、それは大丈夫。凄く遠いのか、通信が不安定な感じだから。でもちゃんと帰って来るよ」

「そうですよね。シルフェ様のお力で、前よりも速く飛べるようになってますしね」


 それにしても、ホントにどこまで行ったのやら。王都よりも遠いのは確かだよな。



「これはこれはザカリー様、エステル様、それからあの、クロウちゃん様は本日は?」

「あ、こんにちは、急な予約ですみません。今日はふたりだけです」

「いえいえ、お越しいただいて光栄でございます。おふたりですね、分かりました。ささ、どうぞこちらへ」


 支配人が出迎えてくれて、2階の窓際の席へと案内してくれる。前に来た時と同じ、眺めの良い席だね。

 ほかのお客さんたちも、俺たちが案内されると挨拶したり声を掛けてくれたりした。



「ザカリー様とエステルさんよ。デートかしら」

「お近くで見ると、大人びて来たわよね、ザカリー様。なんだか凛々しくなられて」

「今から玉の輿は無理ですよ」

「そんなのみんな分かってるわ。だってエステルさん、凄くお奇麗で可愛らしいもの」

「以前からあの方、本当にお変わりないわよね。子爵家秘伝の美容法とか?」

「なんだか、年齢を止めて、ザカリー様が大人になるのを待ってらっしゃるみたいよね」

「以前は、ザカリー様の侍女さんだったんでしょ」

「今はどういうお立場なのかしら。一緒に王都に行かれてるのよね」

「ここだけの話、じつはどこかのお姫さまって噂もあるわ」

「外国の方なの?」

「どこから来られたのか、秘密なんですって」

「凄くお強いって話もあるわ。アナスタシア様のお弟子さんだとかも噂されてるし」

「そのぐらいの方じゃないと、ザカリー様の面倒なんてとても見れないわよね」

「言えてる」


 なんだかすみません、お騒がせして。

 でもエステルちゃんについては、結構真実に近い噂話もあるんだね。

 そろそろ探査でまわりのテーブルの会話を拾うのは、止しにしましょう。



 内陸の王都では新鮮な魚介類料理があまり食べられないので、今回も港町アプサラから運ばれて来た魚のお料理をいただきました。

 ワインを付けていいことになったので、良質の白ワインも美味しくいただきます。


「今日はお買い物楽しかったかな」

「はい。ザックさまとご一緒ですから」

「王都じゃなかなか、ふたりでこんな風には出来ないしね」

「それは仕方ありませんよ。敵地みたいなものですから」


「敵地か。それほどでもないと思うけど、警戒は怠れないか。やっぱりグリフィニアはいいよな」

「はい。だから今日は、とっても幸せです」

「そうか、良かった。僕もとても嬉しいよ」

「はい」



「それで、じつは僕も買い物をしたんだ」

「えー、いつですか? なに買ったですか?」

「知りたい? 見たい?」

「知りたいです、見たいです」

「それでは見せてあげましょう。はい、これでございます」


 俺はブリサさんのお店の袋から、美しく包装されリボンで結ばれた小さな箱をふたつ取り出した。

 そしてエステルちゃんの前と自分の前に、ひとつずつ置く。


「ふたつ買ったんですか?」

「うん。それでは目の前にある箱を一緒に開けますよ。いいですかー」

「えと、開けて見ていいんですか? はい」


 いちにのさんで、ふたり同時に包装を解いて箱を開ける。

 箱の中を見たエステルちゃんの目が大きく見開かれた。



「これは、ブレスレット、ですか。キレイ。とても可愛い。えと、そちらの箱は?」

「こっちも、これ」

「えー。同じもの、ふたつ……」


「それは、エステルちゃんの。それでこっちは、僕の」

「えとえと、お揃い? えーっ」


「そう、お揃い。でも、それだけじゃないよ」

「な、なんですか?」

「このブレスレットはね、呼び寄せの腕輪って言うんだって」



 それから、ブリサさんに聞いたこの呼び寄せの腕輪の能力や使い方を説明した。


 もしもの時に、もう片方の腕輪を身に着けている相手のことを強く想ってキ素力を込めれば、その人を直ぐ近くに呼び寄せられること。

 使えるのは1回だけで、使うと両方とも消えてしまうこと。

 でも、それを試すことが出来ないから、本当にそんな力があるのか、紛い物なのかは分からないこと。


「僕は本物でも紛い物でも、どちらでもいいって思ったんだよ。これをふたりで身に着けて、それで絆がもっと強くなるのならって。このブレスレットも、そうなるよって語りかけて来た気がしたし」

「ふたりの絆……」


 ブレスレットを手にしたエステルちゃんの大きな目に、みるみる涙が溢れ、ぽろぽろとこぼれ落ちた。

 ハンカチ、ハンカチはどこだっけ。あ、ポケットだ。はいエステルちゃん、ハンカチ。



「見て見て、エステルさん、泣いてるわよ」

「なになに、ケンカ?」

「違う違う、どうもザカリー様が何かをエステルさんにプレゼントして。それで暫く小声で話してたら、エステルさんが泣き出して」

「あらあら、ザカリー様、慌ててるわ。やっとハンカチ出した」

「何かの記念日かしら」

「プロポーズ、とか?」

「それはまだ早いでしょ」

「あ、泣き止んで、ふたりで手首に何か着けてるわ。あれ、ブレスレットね」

「きゃー、お揃いよ、お揃い」

「お揃いのブレスレットをプレゼントしたのね。それでエステルさんが感激して、泣き出して」

「やるわね、ザカリー様」

「わたしにもお揃いをプレゼントしてくれる男性、どこかにいないの?」

「ザカリー様の面倒を見るくらい、あなたも苦労すればね」

「言えてる」


 なんだかすみません、お騒がせして。



 それからレストランを出て、中央広場を暫く散歩してから屋敷に帰った。

 エステルちゃんは左手首に着けたブレスレットを撫でたり、太陽にかざしてみたり、同じく左手首に着けている俺の腕を伸ばさせて、横に自分の腕を並べてみたりと、とてもご満悦でした。


「ところでザックさま」

「ん、なに?」

「この、呼び寄せの腕輪って、お幾らだったんですか?」


「えーとですね。1万エル」

「1万エル、ですか。本物の魔導具だとすると、とてもお安いと思いますけど。それにブリサさんからお買いになったのですから、何か裏があるとかも思えませんけど。それにしても、このブレスレットと、わたしのお洋服と、トゲトゲと、レストランのお食事代とで、とってもお渡ししたお金では足りませんよね。そうですよね、ザックさま」


 ですよねー。ちょっと計算すれば、分かりますよねー。

 トゲトゲ指輪の暗器、角指かくしがひとつ400エルで、3つで1,200エル。洋服が2着で4,200エルでブレスレットが10,000エル。今の食事代が税込1,050エルだから、合計16,450エル。つまりだいたい16万円。


 エステルちゃんに渡された財布の中身が5,000エル。ブレスレットを除いても赤字でした。



 屋敷に帰り着くまでには、買い物にと母さんからお金を貰ったのをすっかり白状させられました。


「奥さまにお詫びしないとですぅ」

「お詫びなんて、しなくていいんだよ。だって母さんが、これでドンとエステルちゃんにいい物を買いなさいって渡してくれたんだからさ。ここは知らなかった振りをして」

「そうですかあ?」


「お願いだからそうして。その分、もう僕がお説教を喰らってるし」

「え? なんて?」

「男として甲斐性なし、だって」

「ふふふふ。そうです、ザックさまは甲斐性なしですよ」

「カァカァ」



「クロウちゃんもそう思いますか、って、クロウちゃん! どこ行ってたですかぁ」

「カァ、カァカァ、カァ」

「話せば長くなるけど、簡単に言うと、大森林の上空で風を吹かせる練習をしてたら、吹かせ過ぎて自分が飛ばされて、気が付いたらシルフェ様の妖精の森まで飛んでいた、だってぇ!」

「えーっ!」

「カァ」


いつもお読みいただき、ありがとうございます。

よろしかったら、この物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

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