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第216話 武器武具屋と冒険者ギルド

「オッケー?」

「オッケーです」

「人影は?」

「それらしき人はいません。普通そうな方が数人」

「確認よしっ、突入っ」

「はいっ」


 この領都でいちばんの武器武具屋の入口で、なぜ俺とエステルちゃんが身を潜めて店内を伺っているのかというと、それはここが冒険者ギルドにも近く、冒険者たちが頻繁に訪れる店だからだ。

 あの人らに見つかると、例によって勢揃いしかねない。



「どうやら、早い時間ですから、みなさんお仕事に出てるようですね」

「あの人らを侮ってはいけないよ、エステルちゃん。なにせ昼間から、ギルドでたむろしている強者つわものだ」

「そうですね。不断の注意が必要ですぅ。でも一日中ブラブラして、どうやって生活されてるんでしょうかね」

「そこが、冒険者というものだよ、エステルちゃん」

「そうですね。なんだか、さすがですぅ」


 そんなつまらない会話を交わしながら恐る恐る店内に入ると、どうやらエステルちゃんの探索の通り、それらしき人影は見当たらなかった。

 やれやれ、これでゆっくり見て廻れるよ。



 何かめぼしい物とか目新しい武器はないかと、店内を巡る。


「ザックさま、ザックさま、これ見てください。」

「うん?」


 ちょっと離れて武器を見ていたエステルちゃんが呼ぶので、行ってみる。


「これ、ダガーとちょっと違いますよね。どうですか?」

「ん? これは。たぶんスティレットかな」


 スティレットは所謂、刺突剣の一種だ。騎士にとどめを刺すための武器で、慈悲の一撃を与えるという意味のミセリコルデとも呼ばれる。時には暗殺用にも使われるらしい。

 エステルちゃんが手に取って、刺突の動作をしているそのスティレットはかなり細くて、長く頑丈な太針に見える。


「こっちは、小さいですね。わたしが持ってるのよりは大きいですけど」

「ん? それは、アサシンニードル」

「そうそう、それですぅ」


 次にエステルちゃんが手にしたのは、刺突剣というよりもう大型の針そのもの。と言うか、持ってるんですね、暗殺針アサシンニードル。


「これは面白いです。トゲトゲの指輪ですぅ」


 これは角指かくしじゃないか。こっちの世界にもあるんだな。言ってみれば指輪の宝石がある場所に、鋭利なトゲが2つ3つ付いている。

 前世では忍びが暗器として使っていた。これを指にはめて、不意打ちで顔などを殴りつける。時にはトゲに毒を塗って暗殺にも使う。

 ほらほら、指4本に全部はめて拳を突き出すんじゃありません。



 何のことはない、ここは暗器コーナーでした。

 その角指かくし、気に入ったの? 買う?


「3つ買おうかな」

「じゃ、僕が出すよ」

「いいですよ、いちおう武器ですし。普通の指輪なら買っていただきますけど」

「いや、今日は僕が全部お金を出します」

「へぇー。じゃ、お願いね」


 エステルちゃんの人差し指、中指、薬指に合うサイズの物を選んで、店員さんにお会計をして貰った。

 しかし、今日最初の買い物が、忍び武器の角指かくしでいいのかなぁ。まあ喜んでるからいいか。



 お金を払って包んで貰っていると、背中に気配を感じた。ははあ、やはり見つかったか。

 後ろに振り向くと案の定、冒険者の女性が立って頭を下げていた。でも、ひとりだけだな。


「お買い物をお楽しみのところ、失礼いたします。若旦那、ねえさん」

「うん、こんにちは。どうしたの?」

「大変に申し訳ありませんが、ギルドまで、少々ご足労をいただけないでしょうか。失礼ながら、ギルド長が声を掛けて来いと申しまして」


 どうやら、俺たちがこの店にいるのを誰かが発見して、冒険者ギルド長のジェラードさんにご注進したようだ。

 たぶんナンバー2のエルミさんが、荒っぽい人じゃなくて、わざわざ言葉遣いの丁寧なこの人を寄越したんだろうね。

 ジェラードさんなら先日の夏至祭パーティーで会って、王都でのサンダーソードの件で丁寧にお礼を言われてるし、ジェルさんの叙爵式でも顔を合わせたばかりだけど、何だろ。


「(どうする?)」

「(少しだけなら、いいんじゃないですか)」

「(長居はしないようにしよう)」

「(そうですね)」



 念話でエステルちゃんと確認して、お声掛けに乗ることにした。

 それでこの女性冒険者さんに案内されて、直ぐ近くの冒険者ギルドへと赴く。


 ドアを開けてギルドの中に入ると、やっぱりでした。

 大勢のヒマな冒険者さんたちが整列して一斉に頭を下げている。


「ご苦労さまです、ザカリーの若旦那」「お疲れさまです、エステルねえさん」


 はいはい、もう頭を上げて解散していいからね。

 一礼したままの冒険者さんたちの前を通り、苦笑いしているジェラードさんとエルミさんの方へと俺たちは歩いて行った。



「買い物を楽しんでるところ悪かったな、ザカリー様、エステルさん」

「ギルドの近くに来てましたから、いいですよ。で、どうしたんですか? ただ顔を見たいから、ではないんですよね」

「まあ、そうなんだ。それほど時間は取らせねえから、少しだけ奥に来ていただいても」


 それで俺たちは、ギルド長の応接室に案内された。

 そう言えばこの冒険者ギルドも久しぶりだよね。アラストル大森林探索の時以来かな。


「いや、じつはな、昨日、大森林に入った複数の冒険者から報告があって」

「どんなです」

「そのやつらは、結構、奥まで入っていたそうなんだが、なんでも更に遠方の奥地の方で、何か物凄い光が見えたそうなんだよ。いちばん具体的な報告では、そいつはたまたま割と見通しの効くところにいたらしいが、凄く眩い光が大きく膨らんで、直ぐにまた萎んで行ったのだとか」


「ほぉー」

「それで、こいつは大森林の異変なのじゃねえかと。昨日中に目撃情報を集めて、今朝方騎士団にも報告と問合せに走らせたところなんだが、そしたらザカリー様が近くに来ていらっしゃるって聞いて、何か知らねえかと思ってよ」



「(ザックさま、見られてましたよ。うまく誤摩化してくださいね)」

「(そ、そうだね)」


「それは僕も初耳だ。そんなことがあったんだね」

「ザカリーさまでも知らないか。いや、異変とかでまた凶悪な魔物でも近場に出張って来やがって、大森林での活動が制限ってことになると、冒険者としては困るからよ」

「いや、えーと、なんだか大丈夫な気がするよ。勘だけど」


「そうですか? 奥地探索ってことになっても、ザカリー様やブルーノたちは王都に戻っちまうでしょ」

「うん、それはそうなんだけど、大森林でそんな異変はもう起きない気がするなぁ。勘だけど」

「ふーん」


 ジェラードさんはどうして、そんな疑り深い目で俺を見てるのかな。

 もう大丈夫だと思うよ。俺が王都に戻れば、なおさら。勘じゃなくて事実として。



「まあ、ザカリー様の、その勘がそう告げるのなら、信じますけどね。本当に何もご存じないのですな」

「僕の勘がそう保証します。たぶん」

「そうですか、ではその勘を信じることにしますぜ。まあ、ザカリー様がそこまでおっしゃるのなら、こちらとしては安心しましたが」


 その話題はこれで終わった。

 それからエルミさんも交えて、現在は学院の教授で俺の総合武術部の顧問にもなって貰っている元エルフ冒険者のイラリ先生の話などを少しして、ギルドを後にする。

 イラリ先生は、ほとんどのエルフ冒険者の師匠だったし、俺と話す時には良くエルミさんとブルーストームのアウニさん姉妹の話題も出る。ジェラードさんも知っているそうだしね。



「もう、ドキドキしましたよ」

「まあ、あれを僕がしたこととは誰も分からないだろうけど、その目撃情報のせいで、大森林の出入り制限が出ちゃうと、冒険者が可哀想だよね」

「出力を最少限にして訓練しろって、ルーさんもおっしゃってましたから、気をつけてくださいね」

「もうあんなヘマはしないよ」


「それよりも、ブリサさんのお店に行って、それからお昼ご飯にしよ」

「そうですね、行きましょう」


 俺とエステルちゃんはまた手を繋ぎ、気を取り直して歩き出した。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

よろしかったら、この物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

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