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第213話 聖なる光魔法

 この夏の前、4月からセルティア王立学院の地下洞窟で起こった出来事を、俺は神獣フェンリルのルーさんと水の精霊のかしらであるニュムペ様に、順を追って語った。

 シルフェ様とアルさんは途中で口を挟もうとしたが、ぐっと我慢したようで、ルーさんとニュムペ様も黙って神妙に聞いてくれた。


「どうなのニュムペさん。これって大もとは、あなたたち水の精霊と、そのうちの誰だかと人族との間に出来た息子のせいでしょ。だいたい、清浄な環境を最も必要とする精霊が、不浄な、それも皆殺しにされて怨みの籠ったむくろの地下墓所造りに協力するなんて。それは、妖精の森の力も失うってものよ。だから、邪神だか悪神だか分からないけど、そんな邪なものにつけ込まれてしまうの。この責任をあなたはどう取るのかしら」

「ひー」


 俺が説明し終わると同時に、シルフェ様が堰を切ったようにニュムペ様をまた追求し始めた。

 はいはい、落ち着きましょうね、シルフェ様。



「しかし、大もとの原因はそうだとして、これは800年前のことだ。森を失い、多くの下級精霊どもは散り散りになっているし、ニュムペ殿もこの大森林の奥地で謹慎しているようなものだ」

「でもね、ルー。800年間放置状態で、それが今年になって悪化が発見されたのよ。それも、ザックさんとうちのエステルが、王都に住み始めた途端よ」


「現状をどうにかせねばならぬのは、分かった。しかし小憎と小娘が」

「ザックさんとエステルよ」

「ああ、このザックとエステルが王都に住み始めたと言うのも、あながち無関係とは言えないのではないかな」


「な、なんだ、このイヌっころは言うに事欠いて、ザックさまとエステルちゃんのせいとでも言いたいのかの」

「そんなことは言っておらんわ、クロトカゲじじい」


「まあまあ、アルさんも怒らないで。それってどういうことなんですか? ルーノラスさん」

「正しい名前を口に出すな。それに長いからルーで良い」

「はい、ルーさん。教えてください」



「このザックが、変動の起こるきっかけになったのではないか、ということだ。つまり変動因子だ」

「それは……」

「それは、おまえも何となく分かっているのだろ。外部から来て影響を与え、変動をもたらすもの」


流転人るてんびと……」


 俺の隣にいるエステルちゃんが小さく呟いて、俺の手を握った。少し震えている。

 大丈夫だよ。仮に俺が変動のきっかけだとしても、変動は必ずしも悪いものだけではない。

 それにもう俺は前世のように、あらかじめ決められた人生や運命を辿っている訳じゃないんだ。



「心配するな。変動は悪ばかりではない。それに変動因子はひとつだけではない。邪なもの、向うの大陸にいる一部の跳ねっ返り、この森の北にいる野心に凝り固まった者。負の因子だけでもいくらでもある」


「ルーの言いたいことは、何となく分かったわ。だったら、ザックさんが正の変動因子として、もっともっと強くなればいいのよ。たとえそれが負の因子とぶつかったり、大きな変動を引き起こすきっかけになったとしてもね」

「上では、大きな変動が起きるのを、まだ望んではいないようだがな」


 そう言ってルーさんは空を見上げ、シルフェ様、アルさん、そしてニュムペ様の人外の方たちは同じように大空へと顔を向けた。

 それにしてもシルフェ様、もっともっと強くとか、負の因子とぶつかるとか、大きな変動のきっかけとか。

 俺、この今世では、のんびり長生きしたいのですけど。



「あのー、それはいいんですけど、直近の問題と言うか、あの地下墓所とかアンデッドとか、どうしますか?」

「おお、そうじゃ。実際にザックさまやエステルちゃんは、迷惑を蒙っておるのじゃからな」

「そうよニュムペさん、どうするの」


「あの、わたし、そこに行きます」

「あなたが行って、どうするの」

「まあまあ、シルフェさんよ、ニュムペさんの考えを聞いてみるのじゃ」


「あの、わたしがその地下墓所とアンデッドを、なんとかします」

「あなた、気持ちは分かるけど、あなたがもし穢れでもしたら、世界中のお水が腐っちゃうかもよ」

「えーっ」


 俺とエステルちゃんは、思わず声を出して驚いてしまった。

 水の精霊のかしらのニュムペ様が穢れたら、世界中の水が腐るんですか。

 そうだとすると、風の精霊のかしらのシルフェ様がもし穢れたら、いつも悪臭の風が吹くとかですか。



「そこまで酷くはならないと思いますけど、その、お水の汚染が少し出るとか広がるとか、大地の水の浄化が遅くなるとか、森が傷むとか……」


 それって環境問題ですよ。この話、いつからエコ関係のお話になったですか。


「まあ、でもあなた、手元の配下も今は少ないし、おひとりじゃ無理よ。そうだわ。アル、あなたが黒ブレスで一掃しなさい」

「だからシルフェさん。前にも言ったが、それをやると、もし地下洞窟が崩れでもしたら、地上に影響が出かねんて。のう、ザックさま」

「うん、地上はうちの学院だから、大勢の学院生がいるし」


「うーん、じゃ、ルーが行ってちょっと暴れて来なさい」

「おやおや、私にこの森を出て、人族の王都まで行けと言うのですか。それにその通路を塞ぐ薄闇の壁だかの奥がどうなっているのか、確認もしないといけませんよ。本当に邪な力が働いているのか確かめないと」



「それについては、えーと、ルーさん。僕に光魔法を教えていただけませんか?」

「ザックさま、ダメ」

「大丈夫だよエステルちゃん。あの奥を探りに行けそうなのは、今のところ僕しかいなさそうだし」


「だったら、わたしも行きます。ダメと言われても一緒です」

「カァ」


「あらあら、妹が行くのならお姉ちゃんも行くわよ。それならニュムペさんもね。アルもその大きさなら行けるのよね」

「はい、シルフェさんが一緒なら心強いです」

「おう、もちろんじゃぞ」

「えーっ」


 ルーさんはたぶん参加しないと思うけど、風と水の精霊のかしらおふたりとブラックドラゴンによる高位の人外チームで王都に来るですか。そうですか。



「私は無闇に、この大森林を離れる訳にはいかない。それで魔獣どもが暴れ出して、いちばん困るのはザックのところではないかね」

「そうですね、その通りです。たとえ王都が大変なことになっても、グリフィニアやグリフィン子爵領で魔獣が暴れるようなことが起きたら、僕はそちらの討伐を優先します」


「ははは、そうだな。この世界でのおまえは、そうするべきだ。だから、おまえに光魔法を教えることにしよう」

「えっ、ありがとうございます」


「このトカゲ爺さんは、黒いのは教えられても、光は教えられんだろうしな」

「な、なにをっ。まあ、その通りなのじゃが、なんだか悔しいわい」

「まあまあ、アルさんにもいろいろ教わって感謝してるんだから」

「そうですよ、アルさん。えと、何でしたっけザックさま。ドーナッツはドーナッツ屋でしたっけ?」

「なんじゃ、それは。わし、ドーナッツなぞ売っておらんが」


 餅は餅屋ね。この世界にお餅はないから、前にそんな風にエステルちゃんに教えた気がする。



 それから、皆が見守る中でルーさんから光魔法を教わった。

 現状俺は、光を出したり浮かべたり照射したりするライトの魔法は出来るのだけど、アンデッドなどに効果があるというセイクリッドライト系統が出来ないんだよね。


「つまりおまえは、普通の光は扱えるが、聖なる光が分からないということだな」

「そうなんです。どうもその区別がつかなくて」

「そうか、しかしそうであるなら、おまえには簡単なことだ」

「簡単なんですか?」


「この世界の光の根源、つまり太陽の女神はどなただ」

「あ、アマラ様」

「そうだ。つまり聖なる光は神の光、従って、アマラ様の光ということだ」

「そうか、でもどうやって発動すれば。アマラ様にはお会いしたことが無いですし」


「たとえお会いしたことがなくても、神を感じ想像することは出来る。それが、この地上に生を受けた者に与えられた能力ではないのかな」

「感じ想像する、ですか」

「それにおまえは、いつでもアマラ様に見護られている」



 アマラ様は、俺が別の世界から転生して来た時から俺のことを見護っている、らしい。

 たしか昔に、前の世界の神で俺を転生させた張本人のサクヤがそう言っていた。

 サクヤ、随分と会ってないな。前の世界であんな感じで元気なんだろうな。


 でも俺は、今はこの世界で生きている。この世界の太陽の光を受けて、アマラ様に見護られて。

 これまで夏至祭とかで、うちの家族やエステルちゃんや領民の皆さんと一緒にアマラ様に感謝は捧げて来たけど、そう言えば感じたり想像したりしたことは無かったな。


 アマラ様……。

 俺は先ほどルーさんたちがしたように、大空を見上げて太陽の女神を感じ、そして想像する。大森林の中に溢れる濃いキ素を集め、全身にキ素力を循環させながら。


「あー、ザックさま、いけないっ」

「こらぁー、集め過ぎよー」

「離れろ離れろ、ほれ、エステルちゃんもじゃ」

「この子、凄いのねー」



 なんだか周りで慌てた皆さんの声が聞こえる。でも、それよりももっと遠く、空の彼方から優しげな声が聞こえて来る気がする。


「ザック、ザック。ほらほら、しゃんとしなさい。光はあなたのもとに。そして光は、あなたから。ちゃんと制御してお使いなさいね、ザック」


 後から聞いたのだけど、その時、俺の身体を包み込んでそれから空中に広がった七色のキ素力が、眩い光のドームとなって大きく膨らみ一気に弾けたそうだ。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

よろしかったら、この物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

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