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第210話 騎士爵叙爵式

 7月に入り今日も快晴。グリフィン子爵領の夏は、時折シャワーがあってほど良く大地を濡らすが、だいたいは晴れた日が続く。

 7月4日、今日はジェルさんが騎士になる日だ。


 朝から屋敷の大広間では、叙爵式の準備で忙しい。先日の夏至祭パーティーに続いて大きな行事が続くよね。

 でも今日は騎士団がメインのセレモニーでもあるので、手の空いた騎士団員や騎士団見習いの子たちが準備を手伝ってくれている。


 大広間の壁には、グリフィン子爵家の紋章をあしらったタペストリーと、その紋章を変形させたグリフィン子爵家騎士団紋章のタペストリーが巡らされている。

 うちの紋章はもちろんグリフィンだよね。


 鷲の翼を持った上半身と獅子の下半身。

 この世界ではフェンリルと同様に神獣とされ、神々をその背に乗せ天空を駈けると言われている。

 フェンリルがルーさんのように実在するのだから、グリフィンも実在するのだろうか。

 もしかしてうちのご先祖とか?



 今日の叙爵式の出席者は、ほぼ全員の騎士団員を中心に、主要な内政官の人たちや来賓の各ギルド長など。

 港町アプサラからは、モーリス・オルティス準男爵も昨日到着している。この人、家令のウォルターさんのお兄さんですよ。


「いやあザカリー様、大きくなられましたなぁ。それに引き替えエステルさんは、ぜんぜん変わりませんな。なんともお若く可愛らしくてお奇麗で、よろしいよろしい。いろいろ伺っておりますぞ、ははははは」


 相変わらずウォルターさんと違って賑やかなお人です。


 あと、領地の村で静養中のジェルさんのお父上は、残念ながら来られなかった。馬車で揺られての移動はまだ控えた方がいいらしい。

 ジェルさんは領都に着いた翌日に領地に帰り、お父上に帰省の報告とお身体の具合を確認して直ぐに戻って来た。

 クレイグ騎士団長は、今日の叙爵式後に暫く休暇を取って村に戻るよう、ジェルさんに命じたそうだ。



 今日はヴィンス父さんはもちろん、俺も騎士団の礼服姿。どうこう言って初めて袖を通しました。

 子爵家の長男で、父さんに何かがあった時には替わりを務めなければいけない立場だからそうなんだろうけど、ちゃんと俺用の礼服が用意されていたんだね。

 騎士の礼服とは少し違うのでウォルターさんに聞いてみると、いちおう子爵用のデザインに準じたものなのだとか。


「良く似合ってるわよザック。あなたも随分背が伸びたのね」

「はい、良くお似合いですよ、ザックさま」

「馬子にも衣装って、実際に見たの初めてだわー」

「ほらほら、あなたたち、そろそろ時間よ。ザックを構ってないで、自分のお衣装に気を使いなさい」

「はーい」


 母さんも姉さんたちも、そしてエステルちゃんも公式の貴族女性のドレスだ。

 当初は「そんなお衣装、ダメですぅ」とか言っていたエステルちゃんも、徐々に巻き込まれて慣らされて来てるみたいだな。

 シルフェ様からお揃いのドレスをいただいた時点でそうなんだから、もう諦めた方がいいかもよ。

 風の精霊のかしらの妹になりましたぁとか発表したら、いったいどうなるのだろうね。



 カーンカーンと、今日特別に玄関ホールに吊るされた鐘が騎士団見習いによって打ち鳴らされ、正午の時を告げた。

 既に大広間には、騎士団長クレイグ・ベネット準男爵、ネイサン副騎士団長以下20名の騎士、12名の従騎士、60名ほどの従士が整列している。

 最前列中央、クレイグさんの隣には、新調した騎士礼服に身を包むジェルさんが凛々しく立つ。


 喇叭を脇に抱えた3名の従士が、列の横に出て高らかに吹き鳴らした。


「それではただいまより、ジェルメール・バリエに対する騎士叙任並びに騎士爵位叙爵の式を執り行う」


 進行役であるウォルターさんの、先日のクレイグさんに劣らぬ戦場声が大広間に響く。


 広間の床よりも少し高く設えられた広い壇上には、ヴィンス父さんとアン母さんをはじめ、モーリス準男爵、ヴァニー姉さんとアビー姉ちゃん、俺と、クロウちゃんを胸に抱き抱えたエステルちゃんが並んでいる。

 仲間であるジェルさんの晴れ姿を、クロウちゃんにも見せてあげたいとウォルターさんに頼んだら、あっさりと許可してくれた。



「ジェルメール・バリエ、前へ」

「はっ」

「壇上に上がれ」

「はっ」

「両膝を突け」

「はっ」


 ジェルさんが最前列から進み出てステージ前でいったん止まり、上がれの声で壇上に上ると、両膝を折り曲げステージ床に置かれた低い台に膝を突いた。


「子爵様、お願いいたします」

「おう」



 両膝を突き頭を垂れて畏まるジェルさんの前に、父さんが立つ。

 そして父さんは愛用の両手剣を鞘から抜き、剣先を上に立てて身体の前に捧げ持つ。


なんじ、ジェルメール・バリエ。われ、ヴィンセント・グリフィンの名において、我がグリフィン子爵家騎士団騎士になろうとする者」


 そして、捧げた剣のブレードが下ろされ、その平がジェルさんの右肩に置かれる。


なんじ、ジェルメール・バリエは、アマラ様とヨムヘル様のご加護のもとに、我が騎士としてその剣を捧げ、真理と正義を守り、我が領民と我が領地、そしてすべての幼き子を守護するか」

「ははっ」


 ジェルさんのひと際高いいらえの声が響くと、肩に置かれたブレードの平によって、右肩が1回、左肩が1回、再び右肩が1回、軽く叩かれる。


なんじ、ジェルメール・バリエ。われ、ヴィンセント・グリフィンの名において、なんじを我がグリフィン子爵家騎士団騎士と任ずる」

「はっ」


「よしっ、ジェルメール・バリエ騎士。表を上げて立ち上がれ」

「はっ」


 ジェルさんは紅潮した顔を上げて立ち上がり、父さんの顔をしっかりと見る。


「うむ、良い顔だ。ジェルメール騎士、頼むぞ」

「はっ」



「それでは続いて、ジェルメール・バリエ騎士に騎士爵位を授爵する。ザカリー様、子爵様の横にお並びください」

「はい」


 ウォルターさんの声に、俺は父さんの横に進み並ぶ。


「ジェルメール・バリエ騎士には、子爵様と共にザカリー様によって騎士爵位が授爵されます。まずはバリエ騎士爵家当主の証しとして、子爵様からバリエ騎士爵家の旗を」


 父さんから、バリエ騎士爵家の紋章がデザインされた旗が、今度は片膝を突いたジェルさんに渡される。今回のために新調されたものだね。

 バリエ家の紋章は、丸みを帯びた逆三角形の盾と交差する2本の剣があしらわれたものだ。

 ジェルさんの後ろには介添え役としてライナさんが付いていてくれ、授与された旗を受取る。


「続いて、騎士爵の証しとして、ザカリー様から剣を」


 今度はこれも新たに鍛えられた両手剣だ。この剣にはグリフィン子爵家の紋章が刻印されている。

 俺はその剣を、片膝を突き両手を伸ばして受取るジェルさんに渡した。


「その旗をもって、ジェルメール・バリエ騎士をバリエ騎士爵家当主に、その剣をもって、騎士爵に授爵する」


 俺の声を聞いてジェルさんは、剣を横にして両手で捧げ持ったまますくっと立ち上がった。

 そして俺の顔を真っ直ぐに見る。緊張は続いているが、少し微笑みが表情に浮かんで来たようだね。


「これを以て、ジェルメール・バリエに対する騎士叙任並びに騎士爵位叙爵の式を終了とする」


 再び高らかに喇叭が吹き鳴らされた。

 ジェルさんも騎士団の列に戻り、父さんと俺も元の位置に戻る。

 大広間を支配していた緊張感が、安堵へと静かに変わって行く。



「さあ、式が終わったらランチパーティーよー。ジェルメール・バリエ騎士、お目出度う!」


 アン母さんの美しく良く通る声が、まだ静けさの中にあった大広間に響いた。その声を合図に、一気に歓喜へと変化する。

 ウォーっと騎士団員の雄叫びが一斉に上がり、片手を突き擧げてドンドンドンと床が踏み鳴らされる。

 そして大拍手だ。大広間の中を拍手がいつまでも続く。


「はいはーい。じゃあ、皆さんもパーティーの準備を手伝ってくださいな。テーブル出しますよー。テーブルが出たら、お料理とお飲物が出ますよー」

「はいっ、奥様っ!」


 母さんの声で、空気があっと言う間に変化する。

「奥さまは、やっぱり凄いですぅ。わたしも見習わなくちゃ」と、俺の隣に立つエステルちゃんの呟き声が聞こえて来た。



 ともかくも、ジェルさんお目出度う。いい叙爵式だった。

 王都から帰る直前にちょっと嫌なこともあったけど、今日からあなたは栄誉あるグリフィン子爵家騎士団の誇り高き騎士だよ。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

今回で第五章は終了、次回から第六章になります。

引き続きこの物語にお付き合いいただき、応援いただければと思います。

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