第206話 調査報告会
少し時間を置いて調査報告会をすることにした。場所は前回のミーティングと同じく、俺の部屋ね。
エディットちゃんが紅茶をポットにいれて持って来てくれ、エステルちゃんがテーブルにお菓子を広げる。そんな感じなの?
「それでは調査報告会を始めるわよー。まずはそうね、ザカリー様から。この10日間に起こったことを、漏らさずすべて白状するのよー」
「え? 白状って、何も悪いことしてないよ。それに、調査に関することだよね」
「ザカリー様の場合は、それ以外でも何かしたらちゃんと白状しないとだな」
「そうですね。エステルさんにきちんと報告しているかも、確認しないと」
なぜかライナさんが仕切ってるんだけど。まあそれはいいとして、何で俺だけ白状とかしないといけないんだろ。
「えーと、クロウちゃんを通じて覗きました。すみません」
「それはエステルさんの発言や態度で、そうだろうなと思っていたぞ。会話も聞かれていたのですかな」
「はい、そうであります。すみません」
「どうしてそんなことができるのかは、また聞かせて貰うとしてー。じゃあ、この件の内容は後で私たちが報告しまーす。ザカリー様、それから他には?」
王宮騎士訪問の様子を覗いていた件を、まず最初に白状させられた。これはあの場で、エステルちゃんにはバレてるから仕方ない。
それから俺は、地下洞窟の始まりの広間の入口を塞いでいる魔法障壁を、アルさんに来て貰ってより強力なものに張り直したこと。
その効力は100日ぐらいで、10月の初めまでは大丈夫なこと。
学院長以下の関係者には、その話をしたことを報告した。
「以上であります」
「それだけ? ほかにはありませんかー? ちゃんとすべて白状してますかー?」
「はい。今回はこれですべてであります。あ、そうだ。うちの総合武術部の夏休み集中訓練を、夏休みの終盤に行うことにしたんだ。その相談に、8月の15日に部員たちが屋敷に来ることになった」
「ほら、大事な予定を漏らしてるではないか。それでは、あの子たちが8月15日に屋敷にいらっしゃるんですな」
「はいジェルさん。すみません」
「するとその集中訓練は、15日以降から8月末までの間ということか。どのぐらいの日数、どこで訓練するかなどは、まだ決まっていないのですかな?」
「15日に集まって相談する、ということであります、はい。すみません」
「よし、そのミーティングにはわれらも参加する。通常の学院内ならともかく、まだ夏休み期間中のことですからな」
「はい、わかりました。すみません」
「はいはーい。では、その件はその予定で。ザカリー様は、大切なことの報告漏れはダメですよー」
「はい、すみません」
「では次はー、ブルーノさんね。お願いしまーす」
「へい。では、冒険者ギルド長と会って来た件を報告しやす」
王都の冒険者ギルド長がつい先日まで遠方に出張していたとかで、ブルーノさんはなかなか会えずに時間が経ってしまっていた。
それでようやく、先日に会えたそうだ。
「ギルド長が把握していたのは、先だってサンダーソードの連中が業務完了報告をした内容まででやすな。魔法障壁が張られていて、現在は洞窟内に入れない状況は掴んでいない様子でやした。もちろん、自分からはその話はしてやせん」
「そうすると、ギルド長もしくは冒険者ギルドは、それ以上の情報を持っていないということかな」
「ええ、現状の地下洞窟やアンデッドについては、その通りでやすがね」
「それはどういうこと?」
ブルーノさんは、なぜか含みのある言い方をした。なにか報告し辛い内容でもあるのだろうか
「いえ、現状に関してはそうだとして、何かもっと知ってるのではと、探りを入れてみやすと、こんな話が出て来やした」
「どんな話?」
「これは、先代のギルド長から聞いたとかという話で、本人は確証がないそうでやすがね。あの地下洞窟の出入り口は、学院だけじゃないそうなんでやすよ」
「え、ほかにも出入り口があるの? どこに?」
「へい。それが……王宮の中なんだそうで」
「えーっ」
「王宮、だと」
「ブルーノさん、それは本当なんですか?」
ブルーノさんが冒険者ギルド長から聞き出したのはこんな話だ。
王都地下の洞窟には出入り口がじつは2ヶ所あり、そのもうひとつは王宮内にあるのだという。
ただしこれは、学院内の出入り口と違って厳重に封印されており、その先代のギルド長が知る限りでも、かつて開けられたりそこから洞窟内に誰かが入ったことはないのだそうだ。
この出入り口の存在を知っているのは、王家や王宮関係者のごく一部。
先代ギルド長も、その当時にアンデッド大掃除の依頼があった際に、その時の内政長官がたまたま洩らした話を曖昧なものとして聞いたに過ぎない。
だから、どうして王宮にその出入り口があるのか、何のためのものなのか、どうして封印されているのかは現在のギルド長も知らないのだということだ。
王宮内にそんなものがあるのだとしたら、そちらの方が地下墓所の本当の入口なのではないかと、その話を聞いて俺は思った。
だいたい、本当に地下墓所として造られたのなら、学院にあるあの大岩の裂け目だけが墓所の出入り口とは考えにくい。
あれは自然に出来たようなとても狭い裂け目で、墓所の正規の入口らしくないし、例えば裏動線とかではないのかな。
「なるほどね。そんな出入り口があったとして、でも厳重に封印されているのなら、アンデッドが出て来るとかの心配はないんだろうね」
「そのようでやすな。王宮内にアンデッドが出たといった話は、ギルド長も聞いたことがないようでやしたね」
「えと、地下のアンデッドになにか悪い力が働いたのだとしたら、その王宮の出入り口が関係あるとかないですかね」
「そうか、エステルちゃん。邪神か悪神か分かんないけど、そんなのの影響がどこから来たのか。学院長や魔法学の教授のいる学院からっていうのも、なんとなく考えにくいよね。もしかしたらその王宮の出入り口からってのも、可能性がまったくない訳じゃないか」
「どちらにしろ、現状は確かめようがないでやすね」
「そうだな。王宮内で、それもおそらく隠されてるだろうからな」
「わたしたちで確認するのは、ちょっと難しそうよねー」
この話は、今はこれ以上進めようが無い。では次の報告かな。
「じゃあ次ね。ティモさんお願いできますかー」
「はい、それでは私からは、王宮騎士団と例の副騎士団長について」
ティモさんからはまず王宮騎士団の成り立ちや現在の規模、編成などについて、ざっと説明があった。
この前、俺が整理したのと同じような内容だね。
「さて、それであのサディアス・オールストンという副騎士団長です。ブルーノさん以外は顔を合わせたということで、あの人物の印象は皆さんお持ちかと」
「若くて金髪、長身のイケメンで弁が立つ、よねー」
「はい。関係者の間では、建国以来の俊才騎士とも言われているそうです」
「建国以来の俊才騎士か。気に食わん」
「はいはい、ジェルちゃんは黙っててねー。ティモさん、続きをお願いします」
「彼のオールストン王宮騎士爵家は、建国戦争以来ずっと王家に従って来た家柄で、かつて貴族の爵位をという話もあったそうですが、王宮騎士として王家を護ることに徹したいと、それを断ったという噂もあります」
「歴代のオールストン家からは、何人か騎士団長の地位にも就いていますし、あのサディアスという方も既に副騎士団長ですから、行く行くは騎士団長になるだろうという評判だそうです」
「王宮騎士の中でも、とびっきりのエリートということなんだね」
「そうですね。私の調査では、8歳で騎士見習いとして王宮騎士団に入り、その後12歳から15歳までは、王宮騎士団に所属したままセルティア王立学院生になりました。そして卒業後直ぐに従騎士。20歳を越えた頃にオールストン家を継いで王宮騎士爵位を叙爵。昨年に28歳で副騎士団長の地位に就いたということです。なお、ご承知の通り、現在独身です」
うちの騎士団でも8歳から見習いとして入団出来るが、一般からも募集しており必ずしも従騎士や騎士になれる訳ではない。
サディアスという人は建国以来の王宮騎士爵の家柄で、王宮騎士になることを約束されながら見習いになったのだろうね。
それにしても、騎士団に所属したままで学院に入学したのか。
「と言うことは、今年は29歳なのねー。30歳を目前に伴侶を得ようって魂胆かしら。でもそんなエリートくんが、どうしてうちのジェルちゃんとお見合いしようって気になったのかしらねー」
「ええい、煩いぞ、ライナっ」
「これまでも、お見合い話はたくさんあったそうですよ。でも今までは、すべて断って来たとか。それが何故だかは分かりませんでしたが」
「ティモさん、そんな調査は良いのだ」
「はい。ジェルさん」
「それより、どうしてあの副騎士団長が、今回、地下洞窟に関心を持っているのか。それから王宮騎士団やあの人が何をどこまで知っているのか、だよな」
「そうですね、ザカリー様。本当に知りたいのはそこのところなのですが、どうもその辺の情報まではまだ辿り着けません。継続して調査します」
「うん、お願いします」
「はいはい、ティモさんの調査報告は今のところ以上ね。では最後は、先日の訪問の件よねー。この件は、当事者は言いにくいだろうから、客観的に立ち会ったオネルちゃんとわたしからするわ。オネルちゃん、いい?」
「わかりました、ライナ姉さん」
俺は覗き見してたから知ってるけど、客観的に立ち会っていたというオネルさんとライナさんの報告は興味深いな。女性の視点は鋭いからね。
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