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第205話 夏休み開始

「えーと、本日、このホームルームを終えましたら、僕たちの初めての夏休みとなります。夏休みに入るにあたって、クリスティアン先生の方からは何か注意事項とかありますか?」


「そうだな、言うまでもないが2ヶ月半近くの長い休みとなる。初めての長期休みなので、9月1日に皆の顔が無事に見られれば、私の方からは何も無い。あと、皆はそれぞれ実家に戻ると思うが、課外部活動などでもし暫く寮にいる場合には、寮長と管理人に必ず申し出ておくように。そのぐらいだな」



「わかりました。みんなの方からは何かあるかな?」

「ザックくんは、やっぱり帰省よね?」

「え、僕? うん、20日出発予定でグリフィニアに帰るよ」


「ちゃんと学院に戻って来いよ」

「そのまま行方をくらますとか?」

「いちおう領主の息子だから、それはないでしょ」

「カロちゃん、見張ってなさいよ」


「朝、グリフィニアを走ってなかったら、危ない兆候、です。でもたぶん、グリフィニア中で見張ってるから、大丈夫」

「領都中に見張られてる領主長男て、どうよ」

「あはは、地元でもやっぱりザックくんね」


「あのー、僕のことは、たぶん大丈夫だから」

「ちゃんと、9月1日に顔を見せるのよ」

「その前に部活の集中訓練するから、事前確認はオッケーよ」

「ヴィオちゃん、お願いねー」


 うちのクラスのホームルームって、いつもこんな感じだ。俺、クラス委員で司会を仰せつかってるんですけど。



 さて、春学期はこれで終了だ。

 A組20人が揃ってクリスティアン先生に挨拶をし、全員で専用教室を出る。

 途中で女子寮に戻る女子に手を振って別れ、男子たちも寮ごとに別れて行く。

 俺の最後のバイバイは同じ寮のライくんだ。


「じゃあな、ザック。2泊3日だっけ? 気をつけて帰れよ、ってザックに言ってもあまり意味ないか」

「ライのとこは近いからいいよな」

「王都圏の隣だからな。朝早く出れば泊まらずに行ける。ヴィオちゃんとこもそうだけど」

「それじゃね、8月15日か」

「だな」


 部屋に戻って片付けをし、寮に帰って来ている寮長のテオさんに挨拶をする。

 彼は寮生全員をきちんと見送ってから、寮を出るそうだ。

 俺みたいに王都内に屋敷があって、そこから帰省する者もいれば、この寮から直接帰省する寮生もいるからね。ご苦労さまです。


 でもテオさんの家は王宮騎士爵家で、実家は王都だから帰省の必要は無いんだよね。

 彼が王宮騎士の次男だというのは、最近まで知らなかった。あと知り合いでは、総合剣術部部長のレオポルドさんが王宮騎士の長男だと、アビー姉ちゃんから聞いた。




 それと昨日の放課後、地下洞窟の件で学院長に呼び出され、いつものメンバーでミーティングがあった。

 始まりの広間の入口を塞いでいる魔法障壁が、7月5日頃に効力切れとなる件だね。


「で、ザックくんとしてはどう考えているの? あなた、20日ぐらいにグリフィニアに帰っちゃうんでしょー」

「それについては、対処済みとだけ言っておきましょう」

「え? 対処済みなの?」

「どういうことだよ」


「えーとですね。じつは先日、より効力の強い魔法障壁を張り直して貰いました」

「そうなのかの。して今度は何日ぐらい持つのじゃ」

「だいたい100日」

「100日ね……」


 先生たちは、その100日という日数を頭に思い描いているようだ。今から100日後と言えば、もう秋学期は始まっている。いや、10月に入るかな。



「おい、100日後とすると、ちょうど学院祭の辺りじゃないかよ」

「そうよねー。学院祭が10月3日から7日までの予定だから、今日から数えて100日後は10月6日。3日前から数えたらちょうど学院祭初日よねー」

「おいおいおい」

「また計ったようにじゃ」


 別に日数を計算してそうした訳じゃないですよ。

 あれからクロウちゃんに伝言で飛んで貰って、アルさんがまた来てくれたのがまさに3日前。

 相談したところ、「それでは、倍の強さと効力のを張りましょうぞ」と貼張り直してくれた。


 まだアルさんもシルフェ様も、水の精霊のかしらのニュムペ様を探し出せていないそうで、責任を取らせるかどうかは別として少し時間稼ぎだね。



「またその時までに張り直して貰うか、それまでに対処方法を考えるか。それしかないわねー」

「そうじゃな」

「それしかないか」


 ちなみに、先日視察に来て魔法障壁の存在を見つけてしまった王宮騎士団の副騎士団長には、俺が助言した通り、人智を超えた空間魔法らしいという言い訳というか見立てを報告し、とりあえずは追求を回避したとのこと。


「その副騎士団長って、もしかしてサディアス・オールストンって人ですか?」

「なんだ、おまえ、サディアスを知ってるのかよ」

「いえ、先日の休日に、たまたま顔を合わせまして。副騎士団長と自己紹介されたんですが、やっぱりあの人なんですね」


「おお、そうよ。凄く若いだろ。俺はあいつがガキで見習いの頃に、まだ王宮騎士団にいてよ。確かに古い王宮騎士家の家柄だが、優秀なんだろうな。気が付いたら、いつの間にか副騎士団長になっていやがった」



「フィランちゃんとは正反対のタイプよねー。若くてスラッとしてイケメンで、弁も立つわ。それに引き替えこの人、口下手で直ぐカッとするものだから、当時の騎士団長と大喧嘩して、騎士爵を返上までしちゃったのよねー」

「まあ、あちこちから怒られるわ、引き止められるわで大変だったがよ。まあ俺のところは騎士爵家としては新しいし、それほど未練も無かったからな」


 なるほどね。俺はまだ王宮騎士はふたりしか知らないが、あんな感じの騎士ばかりがいたらフィランダー先生なら我慢出来なさそうだよな。


 ともかくも、地下洞窟と魔法障壁の件は時間稼ぎと言うか問題先送りで、なんとか夏休みに入ることが出来た。



 若干の荷物をカタチばかり抱えて、最後に管理人のブランカさんに挨拶をする。

「元気に戻って来てくださいよー。お気をつけて」と、笑顔で送り出してくれる。


 さあ夏休みだ。

 魂年齢で何十年振りだろうか、この高揚感、この解放感。

 学生って、勉学あっての学生だけど、夏休みあっての学生だよね。え、違う?




 あとは、ファータから来て貰ってる人たちの件だな。

 これについては、以前からエステルちゃんとも相談している。

 それからティモさんとも相談し、アルポさんとエルノさんの意見も聞いた。


 アルポさんとエルノさんは、「わしらは先月に来たばかりじゃし、今直ぐに里に帰ったら、追い出されたとか思われるわい」とか言っていた。

 彼らとしては、夏休みの期間中もお屋敷をお護りしたい、という気持ちだそうだ。


 ただ、食事を世話してくれているアデーレさんやエディットちゃんにもお休みをあげないといけないしね。

 彼女らふたりは、すべて俺の指示に従えと派遣元のソルディーニ商会から言われているとのこと。



 屋敷に帰った俺は、その日の午後に全員にラウンジに集まって貰った。

 既に方針はエステルちゃんと確認済みだ。


「さて、僕も今日から夏休みに入った訳だけど、みんなの予定についての方針を話すね」


「あれ、ザカリー様、普通の話し方ですよ」

「ミーティングの時いつもやる、変におっさんくさいやつではないな」

「評判が悪いからじゃないー」

「カァ」



「ゴホン。まず僕らは当初の予定通り、20日の朝に出発ね。姉ちゃんがちゃんと前の日までに帰って来るかが、いちばん心配だけど」

「大丈夫ですよ、ザックさま。この前、ちゃんと確認しましたから」


「20日にグリフィニアに出発するのは、エステルちゃん、姉ちゃん、俺に、ジェルさん、オネルさん、ブルーノさん、ライナさんね。ブルーノさんには申し訳ないけど、御者役をお願いします」

「自分の仕事でやすから、申し訳ないとかはありませんよ」


「ティモさんは、まだ王都で仕事が残っているから、当面の予定としては7月の半ばぐらいまで王都にいて、それからいったんグリフィニアに戻って来て貰うでいいよね」

「はい、その予定で大丈夫です」


 ティモさんには、少し継続して調査活動をして貰う予定で確認済みだ。



「アルポさんとエルノさんは夏休み期間中、ずっと屋敷を護ってくれるって話だったね。でも、エステルちゃんと相談したんだけど、ティモさんが屋敷を離れるタイミングで、7月末まで休暇というのはどうかな。地元に帰ってもいいし、ティモさんとグリフィニアに来てもいいよ。それでその間は屋敷の門に鍵をかけて、アデーレさんとエディットちゃんも休暇にしてほしいんだ。どうだろうか」


「ザックさまが言うには、有給休暇と言うんだそうですよ。お休みだけど、お給料が出るんですって」

「ほう、良く分からんが、ザカリー様とエステル嬢さんのご命令なら従いますでな。なあエルノ」

「ティモとグリフィニアに行くのも、ええかもの」

「じゃな」


「アデーレさんとエディットちゃんも、それでいいかな」

「私たちは、そんなお休みが貰えるなんて、いいに決まってますよ。良かったねエディット」

「はい、ありがとうございます。お休み中も、お屋敷に変わりが無いか見に来ます」

「無理しなくていいんですよ」



「じゃあ当面の予定はそんなところで。僕たちは、遅くとも8月の10日までには王都に戻って来るからね。いいかな?」

「はいっ」


 皆のスケジュールの確認は出来たね。

 ではこれから後の時間は、レイヴンメンバーだけで調査報告会だな。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

よろしかったら、この物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

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