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第203話 風の精霊の妹

「ねえ、どぉどぉ、やっぱりその騎士さんなのー?」

「もう、ライナは煩いな。そうだ、うちの父の知り合いのクロヴィス・ジェルボー殿からだ」

「なんて書いて寄越して来たんですか?」

「そうそう、お招きはいつなのー?」


「待てと言ってるだろ。うーんと、3日後の午後はいかがかと書いてある。その日は非番だそうで、王都の自宅にご在宅というこだ。どうだろうか、エステルさん」

「3日後の午後ですね。分かりました。その日にお招きに預かりましょう。ライナさんもオネルさんもいいですよね」

「いいでーす」


 3日後か。俺は残念ながら学院だからなー、ってお呼ばれされてないか。

 まあ俺には、リアムタイムで様子を覗く手はあるけどね。カァ。



「じゃあ、次のザカリー様のお休みの日、と言うか春学期が終わるのよねー。そしたら、みんなの調査報告会をしましょうよー」

「そうでやすな。自分もまだギルド長に会えてないので、それまでには。ティモさんもいいでやすか?」

「承知」

「と言うことで、今日その類いの話をするのは野暮だからー。エステルさんとザカリー様はゆっくりしてなさいねー」


 どういう訳かライナさんが仕切っていたが、まあそれでいいでしょ。

 彼女が言う通り、早いもので明日からの10日間で春学期が終わるんだよね。


 俺とエステルちゃんは、今日はいろいろあったから本当に疲れました。最後のはダメ押しだったよな。

 一方、ジェルさんは早くも3日後を想像しているのか、何かブツブツ言っている。

 お見合いじゃなくて、お見合い話を持って来た人と会うだけなんだからさ。



 夕食をいただいた後は、ラウンジで少しのんびりしてから早めに自室に引揚げた。

 そうだ、エステルちゃんには荷物を出してあげないとだね。


 俺の部屋で、シルフェ様からいただいたドレスの入った大きな包みの袋を無限インベントリから取り出す。


「このドレス、どうやって保管しましょうか」

「え? 普通に衣装ダンスじゃダメなの」

「だって仄かに光ってますよ。甘い香りはいいとして、なんだか風にふわふわしてるみたいで。エディットちゃんとかに見られたら」


 確かに、エステルちゃんが袋から取り出したドレスは、微かに光を放っていた。シルフェ様の甘い香りも漂って来るし、手を離してもそのまま空中に浮いたままになっていそうな気もする。

 さすがは風の精霊からいただいたドレスだ。見るからに普通の物ではない。


 俺はふと気が付いて、ドレスが入っていた袋の中を覗いた。


「なんかまだ入ってるよ。袋の中にまた袋みたいなのと、それから小さな袋。あと、おや、お手紙だね」

「なんですか? ザックさま、読んで」

「いいの? エステルちゃん宛だと思うけど。なになに、

 今日は、わたしのもとにザックさんと来てくれて、ありがとう。このお手紙を書いてるのは、あなたたちが来る前だけど、皆できっと楽しいひとときが過ごせたと思うわ。

 ひとつだけ言っておきますね。あなたは、わたしの子孫であり、わたしの曾孫、わたしの孫、わたしの娘、わたしの妹。そうね、妹がいいわ。あなたには兄弟姉妹がいないものね。では、妹にしましょう。

 あなたに着せて、いまあなたが手にしているドレスは、その証しです。だから色違いのお揃いよ。人族とかの場所では、ちょっと風が起きたり光っちゃったりすると変に思われるだろうから、仕舞う時に上から被せる袋も入れておきました。これなら風も光も洩れないわよ。

 あともうひとつ。小さな袋の中身はおまけ。わたしの魂の欠片で作った霧の石を入れといたわ。いざと言う時にお使いなさい。ではね。

 わたしの妹、エステルへ。シルフェより」



「ふょー、いもうと……」

「ちゃんと仕舞う時のこと、考えてくれたんだね。なかなか気がまわるんだなぁ」

「はふー、おねえちゃん、ですか……」

「あと、あの霧の石か。これって、キ素力で発動して霧が大量に出るのか。迂闊には使えないな」

「あひゃー、わたしは風の精霊さまと姉妹ですぅ……」


 魂が遠くに行ってしまってるエステルちゃんは、おそらく暫くは帰って来ないのでそのままにしておいて、俺は霧の石にほんの微量のキ素力を込めてみた。

 あれ、発動する感じじゃないな、これ。もしかして、エステルちゃんしか発動出来ないようになってるのかもね。


 ファータの里を囲んで隠している霧は、たぶんこれと同じ霧の石から発生しているのだと思うけど。

 里の周囲にはいくつかの霧の石が隠されていて、霧が薄れそうになるとキ素力を込めればまた霧が出るって、エーリッキ爺ちゃんが言ってたな。



「ザックさま、あの、良いのでしょうか。わたしがシルフェさまの妹とか」

「ああ、お帰り。シルフェ様がそうおっしゃってるから、いいんじゃないの」

「もう、ザックさまは軽く言うんだから。これはファータとしては、大変なことなんですよ」


「そうか、だいたい、シルフェ様と会ったとか、ドラゴンの背に乗って妖精の森に行ったとか、ファータの人だけじゃなくて誰にも話せないよね。ましてや、妹になっちゃいました、とか」

「ほひょー」


「まあ、とりあえず僕らだけの秘密だしね。クロウちゃんもね」

「カァ」


 エステルちゃんは、また魂がお出かけしたみたいなので、暫くは放っておきますか。




 一夜明けて、今日からは春学期最後の10日間。

 3月1日の入学式から気が付いたら3ヶ月が過ぎ、もう6月だ。

 この世界の1ヶ月は27日間しか無いとは言え、あっと言う間だったよね。

 10日間は通常通りの講義があり、11日目の6月15日にホームルームだけがあって、それからは夏休みとなる。


 俺とエステルちゃん、そしてアビー姉ちゃんの予定としては、20日には王都屋敷を出発してグリフィニアへと帰る。

 馬車で2泊3日の行程だから22日中には帰着。そして26、27日は夏至祭だ。

 姉ちゃん、ちゃんと19日までには屋敷に戻って帰省の準備をしてくれよな。



 この夏休み帰省にあたって、俺にはまだ決めていない事柄がいくつかある。

 ひとつは俺と言うか、エステルちゃんの帰省中に王都屋敷の管理をどうするかということだ。

 現在はファータの里から来て貰っている、門番兼屋敷の護衛のアルポさんとエルノさんもいるので、彼らの予定も決めなければならないね。


 もうひとつの大きな課題は、ブラックドラゴンのアルさんが貼った例の魔法障壁の件だ。

 その効力はだいたい50日というから、7月の5日頃には障壁の力が切れる筈だ。

 俺はグリフィニアに帰っちゃってるし、どうするかな。アルさんに貼り直して貰うか。

 でも、俺の王都出発前に貼り直しても、また8月の半ばには効力切れが来ちゃうよね。


 あとは、総合武術部の夏休み中の方針かな。

 課外部によっては、部員の帰省を遅らせた夏休み初めの期間とか、また秋学期前の休み終わりの時期を使って、集中的な部活動を行うところもあるそうだ。


 だけど、領主貴族の息子の俺としては領都挙げての夏至祭までには帰らないとだし、部員の皆も事情は同じようなものじゃないかな。

 ちなみにアビー姉ちゃんや、ヴァニー姉さんが在学中の時は、王都に戻る時期を少し早めて秋学期前の部活動に参加してたね。



 と言うことで、今日は通常の訓練をお休みして総合武術部のミーティングです。

 6人の部員全員が放課後の部室に集合する。


「本日はお集りいただき、ありがとうございます。ただいまより総合武術部ミーティングを開始いたします。本日の議題は、夏休みはどうするの? であります」


「ねえねえ、ザックくんて、何か悪い物でも食べた?」

「ああ、ザックって、ときどきあんな感じになる」

「主に、ミーティングの司会とかの場合、です」


「はいそこ、静かに。ミーティングに集中するように」

「ザックよ。いつもの感じに戻してくれないか」

「逆に集中しずらいですよ、ザックくん」


「僕は建設的な討議を進めるために、敢えて行っているのありますが、ライとブルクからこちらの意図を理解しない建議もありましたので」

「もういいから。夏休みのみんなの予定と、部活をどうするかよね」

「ちゃっちゃと始めましょうよ」

「です」



「それじゃ、まずわたし」

「はい、ヴィオくん。発言を許可します」

「まだそれ続けるか。もう相手にしないわ。みんなもそうだけど、初めての王都暮らしだったし、やっぱり夏至祭もあるから、家からはなるべく早く帰って来いって言われてるのよ。だから部活をするなら、夏休みの終盤かな」


 ヴィオちゃんは伯爵家のご令嬢だし、初めて親元から離れて寮生活をしたのだから、それはそうだよな。

 続いて発言したルアちゃん、ライくん、ブルクくんも、貴族家の子息子女として皆同様だった。カロちゃんも大商会のお嬢さんだから同じだね。

 5人とも、夏休みが始まったら直ぐに帰省の準備をして、それぞれの地元に戻る予定だそうだ。


「じゃ、夏休みの集中訓練は、夏休み終盤に行うでいいかな」

「賛成っ!」「やっと普通に戻ったみたいね」「です」



 それから6人の予定を調整して、8月の15日に集合して集中訓練の予定を立てることになった。

 集合場所は、なぜか俺の王都屋敷なんですけど、なぜ?


「だって、エステルさんとかジェルさんたちに会いたいしさ」

「そうだよ、2ヶ月も間が空いちゃうんだよ」

「です」

「さいですか」


 ライくんとブルクくんはそれでいいのね? なに? 「いいから、逆らうなって」

 はい、分かりました。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

よろしかったら、この物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

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