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第202話 王宮騎士

「ザカリー君、こんな殺風景な王宮の正門前で、な、何してるのかな? 今日は学院もお休みだけど、でも私は忙しいけど、ちょっとぐらいはお話ししてあげても、いいんだからね。いや、いいですよ、かな」


「(あの方、なに言ってるですか?)」

「(いや、僕の前だといつもあんな感じなんだよ。普段はしっかりしてるんだけど)」


「いえ、フェリシア様はどうやらお忙しいようですし、僕たちも見学に立ち寄っただけで、そろそろ戻らないといけませんので」

「あの、あの、私もじつは王宮の用は済んだし、じつは暇になったし、偶然だけどこんなとこで会ったし、こういうのって運命って言うのかしら。そうよ運命の出会い、よね。そ、そうだわ、その運命を大切にしなければ、よね」


「(ぜんぜん、こちらの言うこと聞いてませんよ)」

「(自分の世界に入ると、出て来ないんだよね。困ったなあ)」



「あ、あ、あー、ザカリー君て、じ、女性連れだったの。気がつかなかったわ。ど、どなたかしら。べ、別に興味があるわけじゃないんだからね。ちょっと聞いただけだからね。でも侍女にしては身なりがいいし、なんだか会ったことある気もするし。デ、デートとか? 違うわよね。ええ、きっと違います」


「(矛先がわたしに来ましたー)」

「(もう、面倒くさいなぁ)」


「ああ、こちらは、わが家の者で、王都屋敷のすべてを任せているエステルです。入学式の時にお会いしているかと」

「エステルと申します。あらためまして」




「あの、少々よろしいでしょうか」


 それまで、フェリさんの後ろで俺の方をじっと見つめていた騎士さんが、そう声を掛けて来た。

 どこで口を挟もうか、タイミングを見ていたようだ。


「あ、はい。なんでしょうか」

「まずは、ご挨拶が遅くなりました。私は王宮騎士団に所属するサディアス・オールストンと申す者でございます。ザカリー・グリフィン様には、偶然にもお目に掛かることができ、フェリシア様ではありませんが、これも運命と言うことでしょうか」

「はあ」


 俺はその言葉で、あらためて騎士さんをちゃんと観察した。

 良く見ると、まだ随分と若い。王宮騎士団の平時の制服だろうか、きらびやかさは抑えてはいるのだろうが、それでもうちの騎士団の騎士よりはずっと派手だ。長めに無造作に垂らした金髪がより一層、その印象を際立たせている。


 だいたいうちの男性騎士は、無骨な脳筋が多いから比べちゃいけないかな。

 でもこの騎士さん、かなり鍛えているよな。闘えば手強そうな予感がする。


「丁寧なご挨拶をいただき、恐縮です。はじめまして、ザカリー・グリフィンです」

「いや、いつかお会いしたかったのですよ。グリフィン子爵家は、とりわけ私どものような騎士にとっては、尊敬すべき貴族家でございますから」

「と、言いますと?」

「グリフィン子爵家騎士団は勇猛とかねてより評判ですし、どうやらこのたび、王都に常駐されたという騎士団の方々は、精鋭でかなりお強いと伺っております」


 王宮騎士団は、うちの騎士団のことをどのぐらい知っているのだろう。

 それにしても、今年から王都屋敷に分隊が常駐していることは掴んでるんだな。



「ちょっと、ちょっと、サディアスはなに横から勝手に話し始めて。あなたは副騎士団長なんだから、私とザカリー君にかまっている暇なんてないでしょ」

「これはこれはフェリシア様、失礼をいたしました。私もザカリー様に偶然にもお目にかかれたものですから、是非ともお言葉を交わせればと。それに、今はフェリシア様をお見送りに出て来た次第ですから、特に忙しい訳では」

「ふん、お見送りはもういいのよ」


 おいおい、このサディアスって騎士、王宮騎士団の副騎士団長なのか。

 随分と若いなあ。それでは、先日に学院に来たっていうのは、この人なのだろうか。

 これは迂闊なことは口に出せないぞ。


「サディアス殿は、王宮騎士団の副騎士団長でしたか。僕の方こそ、今後ともお見知り置きを。それでは、僕たちは屋敷に戻るところでしたから、この辺で」

「えー、ほらサディアスが口を挟むから、ザカリー君が帰っちゃうじゃないの。もう、あなたは余計なんだから」



 その時、「開門、開門」という声が聞こえ、王宮正門の大きな格子扉が左右に開かれた。

 直ぐに中から豪勢な馬車がゆっくりと門を出て、俺たちがいる門前で停まる。

 そして停車すると同時に馬車の扉が開かれ、少し年配の侍女らしき身なりの女性が降りて来た。


「フェリシア様、どうしておひとりで歩いて行かれたのですか? 本日は学院生ではなくて、公爵家令嬢として王宮にいらしたのですよ。その王宮を歩いて出て行かれるなど、論外どころか無謀です。さあお乗りください。人目があります、早く早く」

「だってぇ、あー、でもー」


 フェリさんは、その侍女さんと歩いて付いて来ていた侍女さんのふたりに、抱えられるように馬車の中に押し込まれて行った。慣れている感じで、なかなかの早業だ。

 そして、彼女を収納し終わると同時に、馬車はあっと言う間に走り去る。



「ふー(良かった)、では僕たちも行こうか、エステルちゃん」

「はい、そうですね」

「ではサディアス殿、またお目に掛かることがありましたら」


「はい。しかしフェリシア様ではありませんが、ザカリー様も護衛も無く女性を連れたおふたりだけでとは、なかなか物騒です。いくらお強いとは言え。どうです、王宮騎士団でお屋敷までお送りいたしましょうか」


「いや、それには及ばない。お迎えに来ましたぞ、ザカリー様、エステル様」


 俺とエステルちゃんの前に、サディアスさんとの間を塞ぐようにいつの間にか現れたジェルさんが立ち、その少し後ろにティモさんが地に片膝を付けて控えた。

 彼女らふたりが接近し、直ぐ側の木の陰で気配を消して控えていたのには気が付いてたよ。たぶんエステルちゃんも、驚いてないから同じだろう。



「これはこれは、いつの間にやら。さすがの私も驚きました。グリフィン子爵家騎士団の方ですね」

「少しも驚いてはおられないようだがな。私はグリフィン子爵家騎士団従騎士、ジェルメール・バリエだ。王都屋敷分隊を預かっている」

「なるほど。あなたがジェルメール・バリエ従騎士ですか。そうですか。いやこれは失礼しました。王宮騎士団副騎士団長、サディアス・オールストンです」


 ジェルさんは何を感じているのか、何かあれば直ぐにも斬り掛からんばかりに用心深く対峙して、受け答えをしている。

 距離を置いて向かい合う、長身のサディアス王宮騎士とこちらも女性にしては背の高いジェルメール従騎士。なんだか絵になるね。

 でもこれは本当に引揚げ時だな。


「ジェルさん、お迎えご苦労さま。さあ行こうか」

「はい」

「サディアス殿、それでは」


 俺は返事も待たずに踵を返すと、王宮前広場の方へと歩き出した。

 ティモさんが素早く何歩か先にまわり、俺とエステルちゃんを挟んで後ろにジェルさんが付く。

 ジェルさん、ちょっと殺気が出てるよ。抑えよう。

 でも後方からサディアスさんの視線が、まだ刺さって来ているようだな。



 俺たちは王宮前広場を抜けて、商業街へと出た。

 ようやくジェルさんの緊張が溶ける。


「ジェルさん、ティモさん、ありがとう。面倒くさかったから助かったよ」

「いや、クロウちゃんが伝言を届けてくれたので、直ぐに迎えに出たのだ。そうしたら広場から遠目に、なにやらザカリー様とエステルさんが絡まれているように見えたのでな。それでティモさんに探って貰い、私は気配を消して近づき様子を伺っていたのだ」


「いや、絡まれていた訳じゃないんだけどね」

「いいえ、あれはどう見ても絡まれてましたよ。少なくとも、公爵さまのお嬢さまには。何がおっしゃりたいのかは、良く分かりませんでしたけど」

「僕も良く分からなかったよ、エステルちゃん」


「ジェルさんは、今にも斬り掛かりそうで、ヒヤヒヤしましたよぅ」

「それが私にも不思議なんだが、なんだかあの騎士、気に食わなくてな」

「随分とお若い副騎士団長さんでしたよねぇ。それに、スマートでモテモテのイケメンって言うんですか」

「そうだな。あの若さで王宮騎士団の副騎士団長とは、いささか驚きだ。きっと優秀ではあるのだろうが」


 そんなエステルちゃんとジェルさんの会話を聞きながら、学院に来て地下洞窟に入りアルさんの魔法障壁を見たというのは、きっとあの人だろうなと俺は考えていた。

 王宮騎士団は、いやあの副騎士団長は何をどこまで知っているのだろうか。



「お、ザカリー様とエステル嬢さんのお帰りだ。開門、開門。ティモは皆さんに報せに走るのじゃ」

「はいっ」


 アルポさんの声にティモさんが反応し、直ぐにオネルさんとライナさんがやって来た。

 アビー姉ちゃんはもう寮に帰ったのかな。


「ジェルちゃん、手紙が届いてるわよー。きっと、例の騎士さんからよー」

「訪問の日程が決まったかもですよ。ジェル姉さん」

「えっ!」


 ジェルさんのお見合いお断り&王宮騎士団調査プロジェクトが、動き出しますか。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

よろしかったら、この物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

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― 新着の感想 ―
[一言] 先日から読み始めました。 主人公の名って、『ザカライアス』とか『ザカライア』ではなく、始めから短縮系の『ザカリー』なんですね。 まあ、最近は米でも最初から短縮系が正式名な人も多いようなので、…
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