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第198話 アルさんのお誘い

「では行って来るよ」

「すみません、みなさん」


「はいはい、屋敷のことは気にしないで楽しんでくるのよー」

「行ってらっしゃい、ゆっくり1日楽しんで来てくださいね」


 エステルちゃんの言うお説教保留分の精算ということで、今日は朝からふたりでお散歩デートだ。

 王都の内リンクの外に出ないのならと約束させられて、ようやくジェルさんからお許しが出た。



「ねえジェルさん、過保護過ぎない?」

「万が一ということもありますから、アビゲイル様」

「ザカリー様がエステルさんの護衛だから、大丈夫よー」

「ああ、そういうことか。昔はエステルちゃんが護衛兼見張り役だったのにね」


「見張り役は、今でもエステルさんですよー」

「あのおふたりなら、地の果てまででも行けそうですけどね」

「そういうこと言うと、ホントに行くぞ」

「ははは、あり得るわー」


「じゃ、こっちはわたしの剣術の相手でもして」

「いいですよアビゲイル様。やりましょう」


 アビー姉ちゃんを加えたうちの女子組は、そんな勝手な会話の後、どうやら戦闘訓練でもするようだ。

 まあ今日は野生児が加わったので、頑張ってください。



「お散歩デートですから、わたしもノープランなのですけど、どうしましょうね」

「ちょっと商業街をぶらついてから、学院に行こうと思うんだ」

「学院ですか? 確かに庭園とかもありますけど、ザックさまは毎日いるじゃないですか」

「ちょっと僕に考えがあってね」


 今日はクロウちゃんは、俺たちの上空を付かず離れず飛んでいる。

 あと、影護衛ご苦労様、ティモさん。



 暫く商業街で朝から開いているお店を覗いて廻った後、学院へと向かう。


「ティモさん、ティモさん」


 もう少しで正門というところで、俺は影護衛に付いてくれていたティモさんに声を掛けた。

 俺の呼び掛けに、やれやれ仕方ないという感じでティモさんが音も無く姿を現す。


「やはり気が付かれずにというのは、無理ですね」

「普通なら充分気が付かないと思うよ。でさ、これから学院に入るからもう大丈夫だよ。それに学院には、気配察知に敏感な剣術や魔法の教授なんかもいるから、不審者に間違われると困るし」


「そうですか。では仰せに従います。学院を出られる時には、念のためクロウちゃんを飛ばしていただけますか?」

「いいよ、わかった」

「ではお気を付けて、エステル嬢さん」

「ありがとう、ティモさん」


 あ、俺の影護衛じゃなかったのね。



 正門の門番さんに声を掛け学院内に入ると、人目の無いところで俺はエステルちゃんに「ふたりで姿隠しの魔法を」とお願いした。


「え、どうしてですか?」

「ちょっと、誰にも見られちゃいけないところに行くからさ」

「あそこですか?」

「そう、あそこら辺」


 それで俺たちは、それぞれ自分にアルさんに教わった姿隠しの魔法をかける。

 エステルちゃんも随分と上達したよね。


「(こっちのルートから行くよ)」

「(はい)」


 休日とは言え、学院内に残っている学院生もいるし、教授と職員や学院内のいろいろな仕事に携わる人たちもいる。

 そんな人たちと時々擦れ違いながら、誰にも気が付かれること無くふたりは学院内の森へと入った。



「そろそろいいかな。(おーい、来てるー?)」

「(上空で待ってますぞー)」

「(え? アルさん?)」

「(おおー、エステルちゃん、久しぶりですじゃ)」


 森の奥の、学院生立ち入り禁止のエリア。

 地下洞窟への入口がある大きな岩の近くの開けた場所に着いた俺たちは、姿隠しの魔法を解いて上空を見上げる。

 クロウちゃんも空から下りて来た。


 今日は白い雲が広がる空に、ひとつだけ黒い雲が他の雲の間からゆっくりと下りて来る。

 それは地上まで下りると黒雲がかき消され、巨大なアルさんの姿が現れた。



「もう、びっくりですぅ。アルさんが来るってひと言も言わないんだから、ザックさまは」

「ほっほっほ、吃驚したか、エステルちゃんは」

「つい先日、エステルちゃんと一緒に会いたいって、アルさんから連絡が来たからさ」


「エステルちゃんとは、いつぶりじゃったか。ふーむ、ますます美人になったの」

「いやですよ。前に会った時と変わりませんよぅ。それよりアルさんは、ついこの間、ザックさまとクロウちゃんと、わたしに内緒で地下洞窟に入ったですよね」


「いや、すまん。わしが入ろうと言ったでな。ザックさまを叱らないでくれんかの」

「この人、ちゃんと正直に白状しましたから、それはいいです。でも不思議なのは、おっきなアルさんが、あの狭い入口からどうやって入れたですか?」


「ああ、そのことかいな。ほれっ」


 アルさんはいきなり姿縮みの黒魔法を発動して、黒い霧に包まれたかと思うと人が3人分ぐらいの大きさに小さくなった。


「ほぉー。小さくなりましたぁ。でもまだ、あの裂け目よりはおっきいですよね」

「アルさんのは、二段階魔法なんだよ」

「はいなっ」


 再び黒い霧に包まれたかと思うと、その霧が細くなって風に流れるように移動し、流れた先の場所で小さなアルさんとして出現した。


「ふぇー。凄いですぅ」

「じゃろじゃろ」



「ところでアルさん。今日、僕たちに会いたかったのは、どうして?」

「おお、そのことじゃ。今日はこれから、おふたりをあるお方のところにご案内したくての」

「あるお方? 誰ですか?」


「それはお会いしてからのお楽しみじゃ、ええかの?」

「いいけど、遠いところ?」

「そうじゃな。ちと遠いので、わしに乗ってくだされ」

「カァカァ」

「もちろんクロウちゃんも一緒じゃ、ザックさまの分身じゃからの」



 再び元の大きさに戻ったアルさんの背中に飛び乗る。

 クロウちゃんを片手で俺が抱えて背中に跨がり、もう一方の手はアルさんの背びれ? に掴まる。

 エステルちゃんは俺の後ろで、背中にぴったりと抱きついた。

 今日はお散歩デートということで、鎧装備ではなく貴族娘の装いなので、背中におっきくて柔らかいのが押し付けられますぅ。


「ええかの。では行きますじゃ」


 どこからともなく黒い霧が大量に現れて、俺たちを含めたアルさんの全身を包み込む。

 それで外部への視界がまったく無くなった。

 やがて、ふわりと浮き上がり上昇して行く感覚が伝わって来る。

 何も見えない黒い霧の中で、その感覚が暫く続いた。



「(そろそろええかの。眩しくなりますぞい)」


 黒い霧が徐々に晴れて、眩しい陽光が現れる。どうやら雲の上に出ているようだ。

 薄い酸素と強い気流に曝されている筈だが、そこは魔法障壁を貼って調整してくれているみたいだ。


「(雲が下にありますよ、ザックさま)」

「(久しぶりにアルさんに乗せて貰ったけど、気持ちいいなー)」

「(そうですねー。お空のお散歩ですぅ)」


 王都のお散歩デートを勝手に変更しちゃって、機嫌が悪くなると困るなと思ったけど、アルさんのおかげでそういうことは無いようだ。良かった。

 気分は空のタンデムツーリングかな。乗っているのはバイクではなくて、巨大なブラックドラゴンだけどね。




「(そろそろ着くで、下りますぞ。誰にも見られんとこじゃで、姿隠しはしませんぞ)」

「(そうなんだ、わかった)」


 雲の切れ目を選んで、地上に向かって下降して行く。おお、森が広がってるね。

 でも平地の森ではなくて傾斜面に広がる森だから、アラストル大森林ではないみたいだな。

 それに気温が徐々に上がって行くようだ。


 アルさんは、この森の上空2、300メートルぐらいのところで、大きくゆっくりと旋回し、やがて深い木々に囲まれた開けた草地へと着地した。

 俺たちはアルさんの背中からその草地へと飛び降りる。


「さあ、着きましたぞ。ここですじゃ」

「ここなんだ。でもここは、どこなのだろ」

「まあ、少しばかり南の地ですわな」


 そう言えば、この開けた場所を囲む森の樹木は、アラストル大森林とはちょっと異なるように思える。照葉樹林という感じなのかな。



「(着きましたぞー)」


 アルさんが周囲に向けて強い念話を放つ。

 すると少し間を置いて、「(はーい、今行きますよー)」という念話が響いて来た。

 女性の念話だよね。誰が来るのだろう。

 俺とエステルちゃんは顔を見合わせて首を傾げるのだった。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

よろしかったら、この物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

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