第196話 誕生日予定や王都屋敷版侍女服のことなど
レイヴンの7人での結構長い時間のミーティングを終え、夕ご飯を食べた後の夜の時間。
皆は持ち場や宿舎に引揚げ、俺はラウンジでのんびりしていた。
俺の側ではクロウちゃんが居眠りをしている。キミはちょっと食べ過ぎかもよ。
ただ、食事から栄養を摂取する訳ではないので、決して太ることは無い。食べた分のエネルギーは、どこに行っちゃうんだろうね。
向かいのソファにはエステルちゃんと、食事後の後片付けの手伝いを終えたエディットちゃんがいる。
何かエステルちゃんにお勉強を教わっているのかな。
エディットちゃんは確か10歳だったか。
この世界では8歳から12歳ぐらいまでが初等教育の年齢で、どこの都市や村にも何らかの教育機関があるが、義務教育ということではない。
エディットちゃんは半分の2年間を王都の初等スクールに通って、基本的な読み書き計算を習ったが、家庭の事情で今年から働きに出ることになり、うちに住み込みとなった。
10歳だとすると、グリフィニアの領主屋敷にいるフォルくんとユディちゃんの竜人の双子兄妹と同い年だよな。ふたりは元気にしてるかな。
「エステルさま、わたしも魔法を使えるようになったりしますか?」
「エディットちゃんは、魔法のお勉強はまだしてないのね。ええ、使えるようになるかも知れませんよ。今度、見てあげましょうね」
「あっ、はいっ。でも……。いいんでしょうか」
「いいのよ。ねぇ、ザックさま」
「うん、いいんじゃない。誰にでも可能性はあるからね。エステルちゃんに見て貰って、使えそうだったら教えて貰うといいよ」
「はいっ、ありがとうございます、ザカリー様」
「さあ、そろそろお部屋に下がっていいわよ。今日もご苦労さまでした」
「はい、お疲れさまでした。おやすみなさいませ」
エディットちゃんは満面に笑顔を浮かべ、立ち上がって深く一礼するとパタパタと自分の部屋に去って行った。
素直で働き者のええ子やなー。フォルくんとユディちゃんと3人並べてみたいなー。可愛いだろうなー。
「ザックさまは、何お父さんみたいな顔して、ボーっと見てるですか」
「へ? いや、フォルくんユディちゃんと同い年だよなと思って」
「たしかにそうですけど。ザックさまとふたつしか変わらないですよ」
「あ、そうか。なんだかすみません」
「ところでザックさまは、次のお休みの前に何があるか覚えてますか?」
「次のお休みの前? えーと、なんだっけ」
「もう、ザックさまは」
地下洞窟関係はとりあえず待機だし、各方面の調査はレイヴンの皆にお願いしたし、俺は何かが起きない限り学院生として通常営業だよな。
「学院生としてお勉強と部活?」
「それはそうですけど。んー、もう。5月27日」
「あ、僕の誕生日か」
「そいうこと忘れますかね。わたしの誕生日も、きっと忘れてますよね」
「11月27日」
「あ、ちゃんと覚えてるですか」
そうだった、俺の誕生日でした。
これまでなら、特別にお誕生日パーティということではないけれど、夕食の席で家族みんなが祝ってくれて、恒例のヴィンス父さんからの「ザックは何したい?」の質問があるんだよな。
今年からはそれが無い。俺はあらためて、家族と離れて暮らしていることを実感した。
「それで今年は、その日は学院にいらっしゃいますから、3日後のお休みの日にお誕生日をお祝いしますよ」
「そうなんだ。ありがとう、エステルちゃん」
「それから、その翌日は、えと、保留にしてるお説教の精算です」
「えーっ」
いくつかお説教案件が保留になってるんだよね。
でも、その精算て何するんでしょ。朝から1日正座させられて、お説教とか?
「どうやって精算すればよろしいんで?」
「えと、ザックさまとわたしで、王都をお散歩デートですぅ」
「…………」
「いや、ですか?」
「いやじゃないです。嬉しいです。楽しみです。ほっとしてます」
「もう。でも、約束よ」
「はい」
翌日の休日2日目のお昼前。
「お嬢様方が、またお越しになられましたぞ」と、エルノさんが報せに来てくれた。
今日はすんなり入れたんだね。
「こんにちはー」「こんにちは、です」「お邪魔しまーす」
うちの総合武術部の三人娘だ。
「いらっしゃい。キミたち毎回休日に来るんだね」
「別にザックくんに会いに来てる訳じゃないのよ」
「エステルさん、こんにちは、です」
「あたしたちは、エステルさんやジェルさんたちに会いに来たの」
「それに訓練よね」
「さいですか」
レイヴンの女子組も交えて、女性ばかりの賑やかなランチだよな。
ブルーノさんたちは? 別室でもう食べ終えました。そうですか。逃げたな。
ラウンジでの食後の女子会の隅でクロウちゃんと大人しくしていると、「届け物が来ましたじゃ」と声がする。
アルポさんがエディットちゃんに何か大きな荷物を渡して、そそくさと戻って行ったのが見えた。
「エステルさま、ソルディーニ商会からです」
「あら、もう来たのね」
「うちから、ですか?」
「そうですよ。頼んでいた物が来たの。ちょうどいいわ、エディットちゃん、いらっしゃい」
ソルディーニ商会と言えば、カロちゃんちのグエルリーノさんの商会だ。何を頼んでたのかな。
エステルちゃんはその荷物を抱えるエディットちゃんを連れて、2階のどうやら自分の部屋に行ったようだね。
暫くすると、ふたりで階段を下りて来た。お揃いの衣装を着ている。
おお、うちの領主館屋敷の侍女服と同じ、アン母さん発案のディアンドル風のメイド服ではないですか。
ウエストをキュッと絞ったボディス。その下には広めに襟が開かれた白いブラウスを身に着け、エステルちゃんの立派なお胸がことさら強調される。
スカート丈は、領主館屋敷のものより少々短めかな。
エディットちゃんは強調されるものはたぶんまだ無いが、彼女は彼女でとても愛らしい。
それにしても、エステルちゃんの侍女服姿は久しぶりだなー。
「きゃー、なになに、カワイイんですけど」
「カワイイカワイイ、あたしも着たい」
おそらくこんな侍女服を初めて見るヴィオちゃんとルアちゃんが、騒がしい。
カロちゃんやうちの女子組は見慣れてるから、比較的落ち着いてるけど。
「えへへ、エディットちゃんに着せたいから注文したのですけど、わたしの分も作っちゃいましたぁ」
「エステルさんは貴族服もいいが、侍女服も着慣れてるからか、良く似合うな」
「エディットちゃんも可愛いわよー」
「なになに、それ侍女服なの? グリフィン子爵家の?」
「うん、そうだよ。うちの母さんが発案したという逸品。エステルちゃんはグリフィニアで、普段はこれを着ていた」
「へぇー、さすがアナスタシア様ね」
何がさすがかは分からないけど。でも、アン母さん本人も自分の分を何着も持っていて、屋敷では良く身につけている。
「今回、王都屋敷用に新調するにあたって、防御機能も少し付けましたぁ」
「例の擬装鎧装備みたいなものかしらー」
「え? 何ですか、その擬装鎧装備って」
「こらっ、口が軽いぞ、ライナ」
「てへへ」
「えーと、エステルちゃんや俺が旅に出る時の、普段着に見える軽装鎧みたいなものだよ。いつも、鎧装備のままでいる訳にはいかないからね。特に女性の場合」
「ふーん、やはりグリフィン子爵家と言うか、何と言うかよね」
「そのカワイイ服も、鎧装備なんですか?」
「鎧装備までは頑丈ではないですけどね。グリフィニアで作って貰った特殊なもので、少しは防御力があります」
「ねえねえヴィオ。防御力はともかくとしても、このお衣装、総合武術部の制服とかどうかな? カロちゃん、どう?」
「ルア、それいいわね。女子の制服ね。学院の制服はちょっとお固いし、こっちの方がずっとカワイイわ」
「防御機能付きの注文は、たぶん子爵家じゃないと無理、です。でも同じデザインなら、もちろん作れます。わたしも、前から着たかった、です」
この前はファータの腰鉈で、今度はうちの侍女服ですか。
この衣装を着て、腰鉈をぶら下げる三人娘の姿を想像してしまった。
キミたちはいったい、どこを目指してるんでしょうか。
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