第195話 なぜかミーティングはお見合い話対策に
ティモさんも加わったレイヴンの皆は、俺が話す長い話を熱心に聞いてくれた。
特に、この国の建国戦争とワイアット・フォルサイス初代王にまつわる伝説には、大きな驚きを隠せなかった。
もちろん、ワイアットくんが水の下級精霊を母に持つという真実は、何となく曖昧にしておいたけどね。
ただ、地下洞窟のアンデッドが、皆殺しにされ怨みを抱いたマルカルサスと一族、戦士や兵士であることは、触れざるを得なかった。
皆が最も驚いたのは、俺とエステルちゃんがブラックドラゴンと知り合いであることだ。
更につい先日、そのドラゴンと俺とクロウちゃんとで再度洞窟内を調査し、通路を塞ぐ薄闇の半透明壁を見つけたこと。
それが邪な何か、具体的には邪神とか悪神に影響されたものであると推測していることには、全員が言葉を失った。
「まあ、あれから情報を得たり実際に調べてみたことは、こんなところだね。驚くようなことばかりを聞かせて、申し訳なかったけど」
「ブラックドラゴンのアルさんのことは、うちのお爺ちゃんやお婆ちゃんとか、ファータの人たちにも内緒です。ティモさんもお願いしますね」
「は、はい」
「アルさんのことを話したのは、今後、もしかしたらみんなの前にも、姿を見せる機会があるかもなので。その時、ちびらないようにと思って」
「ここにいる誰もちびりませんよ、ザックさま」
「いや、もしものこともあるからさ」
「だから、大丈夫ですよ。ねぇ」
「だって、エステルちゃんが初めて会った時、ちびりそうだったってアルさんが」
「何言ってるですか、ザックさまは。ちびってませんし、それにあれは8歳の時の話ですぅ」
「あの、おふたりさん。ちびるちびらないは、その、実際にお会いしてみないとだが。前にフェンリル殿にお会いしても、誰もちびらなかったので……」
「おお、そうだね。ジェルさんもライナさんも大丈夫だった」
「だから、ザックさま。大丈夫ですって」
俺とエステルちゃんでつまらない言い合いをしてると、ジェルさんが思わずそう口を挟んだ。
「ジェルさん、フェンリル殿って? もしかして、神獣と言われているフェンリルのことですか?」
「ああ、その神獣フェンリルのことだ。以前に、アラストル大森林の奥でお会いして。あの方も、ザカリー様とエステルさんのお知り合いだったようだが」
「…………」
えーと、オネルさんとティモさんは、フェンリルのルーさんのことは知らないんだよな。
「ザカリー様とエステルさんは、どれだけ世界の不思議存在と知り合いなんですかっ」
「いや、今のところそれぐらいだよ。それにルーさんとはその時を入れて2回だけだし。普段、大森林の相当な奥地に棲んでるみたいだし」
「ルーさん??」
「あ、ルーノラスって名前ね。おっとこれ、言っちゃいけなかったかな」
「名前は誰にも言うなって、おっしゃってましたよ。きっと怒られますぅ」
「そうだった。今のは聞かなかったということで」
「…………」
話が長くなってしまったので続きは午後ということにして、ランチをいただきに食堂へと向かう。
「なんじゃ、今日は嬢ちゃんたちは静かじゃな」とか、アルポさんもエルノさんも皆の様子を見てそう言ったが、彼らはそそくさと交替で昼食を終えて配置に戻って行った。
みんな、午前の話もお腹に入れた食べ物も、ちゃんと消化できるだろうか。
「と言うことで、アルさんが魔法障壁を張ってくれたおかげで、あと50日足らずは安全だし、またこちらからも地下洞窟には入れなくなった訳なんだ」
ランチを終えて、再び俺の部屋でレイヴンミーティングです。
「つまり、待機ということですかな」
「うん、待機は待機なんだけど、僕としては出来る限りは情報を集めておきたい」
「自分とティモさんの仕事でやすな」
「何でもご命令ください」
「ブルーノさんとティモさんには、王宮やできれば王家がどう考えているか、探ってほしいんだ。でも、具体的な探索方法が思いつかないんだけど」
「王宮や王家の考えでやすか。何か手はあるかな、ティモさん」
「王都にあるファータの情報源から探ってみましょう。こちらの手の内はもちろん明かしませんが、地下洞窟関係であることは、ある程度は話しませんと。よろしいでしょうか」
ティモさんや前にミルカさんから聞いた話では、ファータの探索者は受託先が異なっていても共有して使える情報源を持っており、この王都にもいくつかあるそうだ。
そのうちの王宮や王家に近い筋を使うと言う。
その情報源がどこの誰なのかは、ファータで共有している分、探索や調査の委託側に伝えることは無い。
「では自分は、王都の冒険者ギルドを当たってみやしょう。まあ、ギルド長とは知り合いでやすから」
「そうだね。そもそも、うちの領のギルドに依頼して来たのは、王都の冒険者ギルド長だった。そのギルド長なら、王宮の上の方や王家とも直接繋がりがあるかも知れないな」
「あとは、直接動いて来たという王宮騎士団の筋ですな。これについては、少々私に考えがあります」
「そうか、王宮騎士団か。ジェルさんの考えって?」
「あの、ちょっと言いにくいのだが」
「え?」
「ジェルちゃんとこに、お見合い話が来てるのよー。王宮騎士団から」
「こらっ、ライナっ」
「だってジェルちゃん、その筋を使うんでしょー」
「お見合い話が来てるんですか? ジェル姉さん」
どうやらオネルさんは、俺たちと同様に初耳だったようだ。
話したがらないジェルさんに代って、事情を良く知っているらしいライナさんが説明してくれた。
それによると、今年の夏にもジェルさんのお父上が引退されて、ジェルさんの騎士爵叙爵がほぼ内定している。これは俺たちも知っている。
だが、叙爵の内定や本人の王都行きが決まる前のこの冬に、お父上の知り合いの王宮騎士団の騎士からお見合い話が届いたのだそうだ。
王宮騎士団のある若い騎士の嫁に、ジェルさんをどうかという話だった。
王家直属の王宮騎士団騎士なら、うちの騎士団の騎士よりも格上ではあるし、本来なら願ってもないお見合いだ。
しかし、ジェルさんのバリエ騎士爵家としては、既に彼女に家を継がせる方向で動いていたし、本人もグリフィン家で騎士となるのが望みだ。
そこに、俺の王都住まいに伴い、王都屋敷分隊長として王都での常駐が決まったものだから、ジェルさんのお父上は、その知り合いの王宮騎士団騎士にお断りを伝えた。
しかしその騎士は諦めず、ジェルさんが王都にいるのなら是非いちど会いに来てほしい、と言って来たのだそうだ。
「ジェルちゃんは、その騎士さんから会いに来てくれって言うのを、ずっと無視してるのよねー」
「だからライナ、私はグリフィニアを離れて嫁ぐ気は一切無いし、うちの騎士団の騎士となって、生涯ザカリー様にお仕えするのが望みなのだ」
「でも、そのお父さんのお知り合いの騎士さんに会って、探ろうって言うんでしょー。そうしたら、お見合いに前向きとか勘違いされちゃうかも」
「そ、それは困る」
「エステルさんもオネルちゃんも、そう思うわよねー」
「そうですねぇ。ジェルさん、自分が嫌な手段で、無理して探ろうとしなくていいんですよ」
「そうよジェル姉さん。もしそのまま、お見合いに引きずり込まれたらどうするの」
「そ、そんなことが、あるかな」
「動いて来た王宮騎士団の動向を、直に探れそうなのは確かにありがたいけど、それは止めとこうよ。ジェルさんが嫌な思いをしてまで、僕は探ってほしくないし」
「ザカリー様……。でも私は、お役に立ちたいのだ」
「では、こうしましょう。わたしがジェルさんと一緒に、その方に会いに行きます」
「え? エステルさんが?」
「そうですね、オネルさんとライナさんもご一緒に。グリフィン子爵家騎士団所属のバリエ家がお世話になっているというその騎士さんに、ご挨拶ということで」
つまりエステルちゃんが俺の代りに、グリフィン子爵家としてご挨拶に行くという考えだ。
バリエ家としての私的なお見合い絡みの話ではないと暗に示し、旗下の騎士爵家がお世話になっているのでという理由の挨拶訪問。
その中で、探れるタイミングがあったら無理はせずに探って来ましょうと、エステルちゃんは皆に自分の考えを述べた。
「さすが、女主人さまの考えは、いいところを突くわよねー。そうすればジェルちゃんがいつまでも無視してる必要はないし、お父さんにも迷惑をかけないわ」
「それで、何か探って来られれば大成功ですよ、ジェル姉さん」
「そ、そうだな。そうか。エステルさん、お願いできるかな」
「もちろんですよ、ジェルさん」
それからレイヴン女子組の4人は、何やら頭を寄せて作戦会議を始めた。
仕方ないので、こっちも作戦会議でもしますかね、ブルーノさん、ティモさん。
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