プロローグその2 〜過去転生に送られて
長い長ぁい夢から目が覚めた。いや、今度は別の夢の中か?
眠くはないが、ひどい疲労と虚脱感。それでもゆっくりと目を開く。
「おはよー、起きたぁ? お帰りー、おひさー」
「ただいま」
徐々に思考がはっきりしていく。若い女性が俺を覗き込むように顔を出す。10代の細面の美女。いや美少女か。
「久しぶり、ってサクヤかよ」
「そうよー、サクヤよー。永遠の18歳、不朽の可愛さ、絶対美少女、サクヤちゃん」
「おまえ、自分で永遠とか不朽とか絶対とか……まぁ神サマだからそうなのか」
そうなんだ。ニコニコ満面の笑みを咲かせながら、俺の顔を覗き込んでいるこの女性は神サマ、つまり女神サマ。
俺の二度目の短い人生はすべてコイツのせい。
つまりどういうことかというと、俺は21世紀の世界に生まれ、儚く29歳で死んだ。
死因は、道路沿いのカフェの屋外テラス席で、コーヒーを飲みながら集中してノートパソコンのキーボードを叩いている最中に、暴走したクルマが突っ込んで来て俺に体当たり、わけもわからず事前の自覚もなしに吹っ飛んでの即死。
ノマド生活で、気持ちよくカフェの屋外席で仕事をいていたのに。
ふつう死後どうなるのかは、生きている人間には誰もわからない。
だが俺の場合、暴走車に正面から跳ね飛ばされ、ビルの外壁に打ちあたりバウンドして道路に投げ出された俺の無惨な身体を、なぜか上空からぼやっと見ていた。
そしてその映像の記憶から暗転し、目を開けたら、いま俺がいるこの場所、薄ぼんやりと淡く白く全体が光っている広い部屋のような空間、ポツンと置かれたベッドに横たわっていた。
その部屋にいたのが、この女神サマ、サクヤだ。
「ということで、あなたは転生してもらいます。それもなんとなんと、過去の日本!!、パチパチパチ。過去てんせいーっ!」
なんだかとても元気な美少女女神だった。声が大きくてちょっとうるさい。俺、さっき死んだばかりなんですけど。寝起き、いや死に起きは、しばらく静かに感慨にふけっていたい。
「過去の日本?……過去転生??」
「そうでーす。時間を遡って過去に再び生まれちゃいまーす。それもそれも、特別にいまのあなたの意識や記憶を保ったままなのでーす。ちょっとだけ特典もつけちゃうよっ」
「特典ってなんだよ、というか、あんた誰?」
「あー、自己紹介が遅くなりましたー。わたしはサクヤ。永遠の18歳、不朽の可愛さ、絶対美少女、サクヤちゃん。今回あなたを担当することになりました女神なのでーす」
コイツ、前回も自己紹介で同じこと言っていたんだ。
「女神なのか……。ふつう、みんな死んだら転生ってするのか?」
「魂は肉体から離れると再利用、げふんげふん、再生される場合がままあります」
こいついま、再利用って言ったな。
「でも、ふつう意識や記憶はだいたいのところクリーニングされて、ほぼ新古品の、げふんげふん、新たに生まれ変わった魂として別の肉体を持つのでーす」
こいついま、ほぼ新古品って言ったな。
「そうなのか。それで俺が特別に意識や記憶を保ったまま転生する訳は? それから過去転生ってのは? ふつう死んだあとの未来に生まれ変わるんじゃないのか?」
「(質問多くてめんどくさいなー)それはー、おいおいわかるのですぅ。それにあなた、残念な死に方したし」
こいついま、面倒くさいって言ったな。心の声が漏れてるぞ。
まあ確かに、残念な人生からの突然襲ってきた残念な死だ。意識と記憶がそのままで転生するのも悪くないかも知れない。
過去というのがちょっと不安だが、基本的に俺はなんとかなる主義だ。なんとかならない場合でも、なんとかする主義でもある。
「んで、過去に遡って転生って、俺が生きていた時間に重なることはできないだろうから、生まれる前の時間軸、昭和の時代とかか? 第二次大戦中とかはちょっといやかな。そもそも過去に転生ってできるのか? 魂は鮭のように時間の川を溯上できるものなのか?」
「(この子、わりと理屈っぽくてめんどくさいなー)このサクヤちゃんならできるのでーす。それに上から要請もあったし……げふんげふん」
また心の声が漏れてるぞ。この子じゃねーし。上からの要請ってなんだ。
「あなたが転生する過去は……だらららららら、じゃじゃーん!!なんとなんと16世紀の日本でーす!!」
「16世紀っ。そんな昔かよ」
そして俺は1536年の日本に再び生まれ、そして同じ29歳で死んだ。俺って1回あたり29年しか生きられないのか? 宿命ってこと?? でも29×2で、いま58歳か。
初投稿作品です。
お読みいただき、ありがとうございます。
よろしかったら、この物語にお付き合いいただき、応援してやってください。