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第193話 ある方が貼った魔法障壁

「先日、僕は学院内で、ある存在と言うか、ある方と待ち合わせて会いました。とても強い力を持っている方とだけ、言っておきましょうか」

「もしかして、人ではない?」

「お答えは出来ません」


「それで、この前のアンデッド大掃除の話をして、別れの広間から続く通路の先が分からない、という話をすると、では見に行こうということになりました」

「あの先に行ったのか」

「ええ、行ってみました。その方は、僕よりも強いので」

「ザックより強い存在、か」



「途中、スケルトンやレヴァナントのむくろは、きれいに無くなっていました。それはともかく、僕たちは別れの広間から続く3本のうち、真ん中の通路に足を踏み入れてみた訳です」

「…………」


 先生たちは言葉を挟まず黙っている。その先が早く聞きたいのだろう。


「暫く進んで行くと、途中で通路を塞ぐように、魔法的な何かの壁があったのです。これには魔法も効かず、僕が土魔法でジャベリンを作って放ってみると、小さな爆発とともに、ジャベリンは飲み込まれてしまいました」

「飲み込まれたとな」

「つまり、剣でも通用しないってことか」


「その方が言うには、魔法も剣も、そればかりか人が触れても、その壁に飲み込まれてしまうだろうと。だから、直接触れたりはしていません」


「そして、その方が調べましたが、この通路を塞ぐ壁には、よこしまな何かが関わっているそうです。おそらくアンデッドは、そのよこしまな何かに影響を受けているので、この壁を通り抜けて来られるのだと想像出来ます。またアンデッドの活動が活発になったのも、それが理由ではないかと」


 皆、言葉を失っていた。思いもよらぬ話だったのだろう。



「僕たちは、それ以上の調査を諦め、戻りました。ただ、想像以上にとても危険である可能性があるので、その方が始まりの広間の入口に魔法障壁を張ったのです。先生方がご覧になったのはそれです」

「ふーっ」


 誰かの大きなため息が聞こえた。暫く、この場を沈黙が支配する。


「付け加えて言いますと、あの魔法障壁は学院生を想像以上の危険から護るためであり、また不用意に、誰かが洞窟内に入らないようにするためのものです」


 俺はイラリ先生と学院長の顔を見た。

 ふたりは俺の視線を受けて、少し俯くようにしている。



「ザカリー、少し聞いてもいいかの」

「はい、どうぞ」

「通路を塞いでいるその壁のことは後で聞くとして、あの魔法障壁は永久的なものではないのじゃろ」

「ええ、その方が言うには、効力があるのは50日ほどだそうです」


「50日、か。効力があるうちは、アンデッドは破れんのじゃな」

「はいアンデッドも、それから人も、破れません。破れるとしたら、神に近いほどの存在以上だそうです」

「ほぉー」


「つまり、50日は護られているが、こっちからも手が出せないってことだよな」

「そうなりますね。でも、それほど危険だと、その方と僕の意見は一致しました」


「そのよこしまな何かっていうのは、ザックも、そのお方もわかんねえのか?」

「はっきりと確証を持っては、分かりません。それについては、その方も調べてくれるそうです。ですが、ある予測はあります」

「その予測は、話せないのよね」


「ええ、間違っていると大きな問題に発展してしまいそうですので、あまり言いたくはありません。けれど」

「けれど?」


 高速に考えを巡らす中で、どうしようか、いちばん悩んでいたところだ。

 でも、これを言わないと、危機感の大きさを共有出来そうもないんだよね。



「けれど、この5人で同じ危機感を共有するためには、憶測でもひと言、言っておかなければなりませんね。現状、これこそが最大の秘匿事項です」


 フィランダー先生はごくっと唾を飲み込み、ウィルフレッド先生は必要以上に口を閉じてへの字に曲げる。エルフコンビはじっと耳を澄ませていた。



「邪神、または悪神」


 部屋の内部の温度が一段階下がり、音がまるで周囲の壁に吸い込まれたような気がした。

 4人の大人たちが、俺の言った単語を咀嚼しようと、目をぎょろぎょろさせたり首を振ったりしている。



「ザックくん、それは」

「この王都の真ん中で、その、それの影響を受けていると言いおるのか」

「ですから、これは僕とその方の推測です。ただ、その通路を塞ぐ壁には、そんな力が感じられたとだけ言っておきます」


「なるほど、ザカリー君はそんなことも予め想定して、あの洞窟の過去にまつわる話をお調べになっていたのですね」

「な、なんじゃ、その過去にまつわる話と言うのは」

「それは、つまり、この国の建国伝説かよ」


 暫く口を閉ざしていたイラリ先生が、そんな言葉を口に出した。

 まあ、予め想定をしていた訳じゃないんですけどね。何かがあるとは思っていましたけど。



 イラリ先生はオイリ学院長と目で言葉を交わすと、800年前の建国戦争でワイアット・フォルサイス初代国王が部族王マルカルサスとその一族、彼らに従っていた戦士やその係累まで、すべて皆殺しにしたという話をあらためて繰り返し、じつはそれが事実であるとエルフには伝わっていると付け加えた。

 もちろん、ワイアットくんが精霊を母に持つということは伏せている。


「そ、そうか、エルフにの」

「僕も別の筋からその話を聞いていますし、一緒に洞窟に入ったその方も、そう言っていました」

「そうなのかよ」


 アルさんは、水の精霊の女親分であるニュムペさんから愚痴と一緒に直接聞いてるから、間違いないよね。これは言えないけど。



「ですので、地下洞窟のアンデッドは、元がマルカルサスと一族、戦士や兵士であるのは間違い無いと思われます。そしてこのアンデッドが、王家やこの国に大きな怨みを抱き続けているだろうと言うことも」

「そうか、王家に怨みを持つアンデッドが、この学院の地下にいるってことか」


「でもよ、800年も経って、なぜ今、活動が活発になったんだ?」

「それはまったく分かりません。しかし、ザカリー君が予測するその、それが何らかの影響を及ぼしたとするならば」

「あるいは、長い年月を経て、アンデッドどもがそれを呼んだのかもじゃな」


 ウィルフレッド先生が言ったことは、あながち的外れではないのかも知れない。

 しかし俺は、これまでの見聞や経験から、エンキワナ大陸の妖魔族や北方帝国ノールランドにも関係する、とても大きな動きの中のひとつではないかと想像している。

 しかし、これを今言っても混乱するだけだろうし、自分の実際の体験をつまびらかにする訳にもいかない。


 それにしても、この世界の人は、邪神とか悪神という単語を口に出しずらいみたいだな。

 口に出すと、禍いが降り掛かるとかかな。俺も安易に言わないように気をつけないとだ。



「これ以上は、ザックくんは話せないのよね。その、一緒に洞窟に入った方が誰か、とか」

「残念ですが」

「あの魔法障壁は、何の魔法か教えてくれんかの」


 ウィルフレッド先生は、魔法のことになるとしつこいんだよね。まあいいか。


「空間魔法、だそうです」

「く、空間魔法じゃと」

「そんなに凄い魔法なのか?」

「空間自体をいじる魔法じゃぞ。あそこに込められたキ素力の強大さといい、それに比べたら四元素魔法なんぞ、幼児の遊びみたいなものじゃ」


 空間魔法の魔法障壁で驚いていたら、時間魔法とか黒魔法とか、そのうえ黒ブレスなんか見ちゃうとちびりますよ。



「でも、現状が随分と見えて来たぜ。少なくとも50日は安全なことも。直近の問題は、その魔法障壁とやらがなぜ急に生じて、始まりの広間になぜ誰も入れなくなったのか、王宮騎士団や王家とかからまた聞かれたら、何て答えるかだよな」

「それは、ザカリーの許可が出ない限り、分からんと言うしかないじゃろ」


「それで済むのかよ、学院長」

「うーん、難しい問題よねー。ザックくんに内緒で喋っちゃうと、燃える隕石とまでは行かなくても、なにか凄いことしそうだものね、この子」

「ある日、俺たち4人の首が落ちてるとかか」


「そんなことしませんよ(出来るけど)。先生たちを僕は信頼していますから」

「おいこいつ、今小さな声で、出来るって言わなかったか?」

「…………」



「神様に近い力を持った存在による御業みわざ、とでも言うしかないかなー」

「そんなんで信じるか?」

「でも、真実に結構近いんじゃない? ねー、ザックくん」

「ノーコメント」


「それで押し通すとして、なぜわしらが知ったかじゃな」

「神様の御使いからの知らせ、とか、ご神託があった、とか?」


 そこで皆で俺の顔を見ないでください。


「ウィルフレッド先生の見立てでは、あれはどうやら空間魔法らしく、人族やエルフとかが持つものとは違う力が働いているようだ、ぐらいにしておいたらどうですか」

「おお、なるほどの」

「さすが、ザックくんよねー。ウィルフレッド先生の見立てって言えば、魔法に関してはたいていは信じるわ」



 今日の話し合いは、どうやらこのぐらいだよな。

 さて、どのぐらい時間が経ったか分からないけど、もう屋敷に帰りますよ。

 夕ご飯は屋敷で食べたいからね。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

よろしかったら、この物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

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