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第191話 邪悪の薄闇の向う

 あの時の妖魔族の男が使った剣技、いや、魔法かそれとも別の何かかは分からないが。

 だが、そいつが振るった剣の斬撃に当たると、闇が生じてその内側に収束するような小爆発を起こした。それで、触れた何もかもが闇に吸い込まれてしまう予感がしたのだ。


 対してこの薄闇のひずんだ半透明壁は、魔法でも物理的なものでもあの剣技と同じような収束する小爆発とともに闇の中に吸い込む。

 妖魔族の男の剣技がアクティブな攻撃だとすると、目の前の通路を塞ぐこの薄闇の壁はパッシブな防御のようだ。


 俺はそんな考えをアルさんに話した。



「なるほどのう。このふにょふにょした壁は、ほとんどの物を闇に吸い込んで消滅させ、わしの黒魔法は反発し、おそらく闇の何かが施された物は通過させるのじゃろうて」

「闇の何かが施された?」

よこしまな闇の力じゃな」


「つまり、こちら側にいたアンデッドは、そのよこしまな闇の力が施されていたから、この半透明壁を通過することが出来た、ということかな」

「たぶん、そうですじゃろ」


「それで、そのよこしまな闇の力って何? アルさんは知ってるの?」

「ふーむ。そうじゃの、わしが思い当たるのは、邪神か悪神に関係する力かの」

「邪神、悪神か……。だとすると、この先にいるアンデッドにはそれが影響して」

「そうかもですじゃ。これはちとばかり危険じゃな」


 これは、思っていた以上に大変な事態ですよ。

 幸いにまだお目にかかったことが無いけど、この世界にいるという邪神か悪神かが、どういう訳かこの通路の先の地下墓所にいるアンデッドに何らかの力を及ぼして、それで活動が活発になったということだろうか。

 おまけに、このような通路を塞ぐ壁まで用意している。



「どうしましょうかの」

「とりあえずここは、いったん戻ろう」


「戻りますか。わしが最大出力の黒ブレスで、このふにょふにょ壁を破って、その向うのアンデッドどもを滅しても良いのじゃが」

「えーと、それをすると地上に何が起こるか分からないので、やめといて」

「じゃろか」

「じゃろ、です」


 俺たちは辿って来た通路をまた俊速で移動して、始まりの広間まで戻った。

 さてどうしようか。これはイラリ先生が考えているような、単純に探索をするしないの話ではない。


「どうやら、今直ぐにはアンデッドがまた溢れ出て来る感じは無かったけど、どうするかな」

「そうですの。とりあえずは、この洞窟に出入りが出来ないようにしておくのが、おそらく賢明じゃろな」


「洞窟の入口を土魔法で塞ぐか。でもそうすると、いろいろなところにバレて詮索されそうだなあ」

「その土魔法が、内側から破られる可能性もありますぞい。ここはわしが、この広間に入るところで塞いでおくかの」


「え、物理的に?」

「いやいや、わしが軽く魔法障壁を貼っておきますわい」



 俺たちは始まりの広間を出て、洞窟の入口に向かう狭い通路に出た。


 アルさんは窮屈そうに翼を折り畳みながらも、広間の入口に向かって魔法を放つ。

 黒魔法じゃないんだね。空間魔法なのだと言う。

 先ほどのよこしまな闇の力の壁のように、物や魔法を吸い込んで消滅させたりはしないが、どんな物も力も通過させることは出来ないのだそうだ。


「ただ限界はありますぞ。邪神、悪神級の力じゃと通過してしまいますわい」

「それはなんだか、仕方がなさそうだね」

「まあ、それらには、人族では何人寄ってたかっても勝てませんからの。あともうひとつ」

「何?」


「わしの力による魔法じゃで、わしがここを離れると、徐々に力が減衰していきますのじゃ」

「ああ、そうか。どのぐらい持つかな」

「50日ほどですかの。まあその時は、わしがまた来て貼り直せば良いがの」



 今晩はこれで解散することにした。

 アルさんは、入った時と同じく黒い霧となって岩の裂け目を通り抜けると、そのまま側の開けた場所に移動して、いきなり巨大なブラックドラゴンの姿に戻った。


「(わし、ちょっとニュムペさんを探してみますわい。話も聞きたいし、どこでどうしておるのか)」

「(僕の方は、王宮や王家が何を考えているのか、探ってみることにするよ。まあどっちにしろ、人族とかが直ぐにここを探索するのは難しそうだな。あと、あの壁を破る光系統の強力な魔法か)」


「(そうですの。じゃが人族では、光魔法は難しいかの。ザックさまは出来ませんのか?)」

「(うーん、出来ると思うけど、やったことないんだよね。ちょっと誰かに教えて貰えば)」


 光魔法自体を見たことが無いし、使える人も知らない。


「(アルさんは黒系統だから正反対か。ドラゴン族とかに誰かいないの?)」

「(光系統が使えると言うと、わしらのおさの金竜様じゃが。まあ、五色ドラゴンなら別に光魔法を使わんでも、あの程度なら強めのブレスでフゥーっと)」


「(あとは、ドラゴンではないが、あのフェンリルが使えるか。あいつ、仮にも神獣じゃしの)」

「(ああ、ルーさんか)」



 五色四元素ドラゴンの上に立つ、ドラゴン族のおさが金竜様だ。

 アルさんは、四元素ドラゴンよりも上位の五色ドラゴンの中でも高位らしいが、それでも金竜様には滅多に会わないということだ。

 ほとんど神様に近い存在だね。


 それから、こちらも神獣のフェンリルのルーノラス、つまりルーさん。

 俺は2回会っているが、アラストル大森林の奥に棲んでいるし、なにせ気難しそうだ。

 それにアルさんとは、なにやらあまり仲がよろしくないみたい。


「(まあそれも、ちょっと考えてみるよ)」

「(そうですの。ザックさまなら、何かきっかけがありさえすれば、光魔法なぞ直ぐにでも使えそうじゃが)」

「(さいですかね)」



 アルさんを巨体を黒い霧に包むと、夜空に上昇した。星空にひとつだけ黒雲が浮かぶ。


「(そうじゃ、少し時間をいじっときましたで、それほど時間は経ってませんからの)」

「(そうなんだ。ありがとう、アルさん)」

「(では、また。エステルちゃんによろしくですじゃ)」

「(わかった、バイバイ)」「(カァ)」


 上空に静止していた黒雲は、風に流れるように動いて消えた。

 大きな月と小さな月の、ふたつの月の位置がそれほど変化していないので、だいぶ俺たちの時間をいじったみたいだな。

 でもこれなら、充分に睡眠が取れる。ありがとねアルさん。


「カァカァ」

「エステルちゃんへの報告のお手紙を書かないとダメだよって、ちゃんと書きますよ。さあ僕たちも帰ろ」


 俺は念のために姿隠しの魔法を自分にかけて、寮へと走って戻る。

 クロウちゃんは羽ばたき音も無く、夜に紛れて飛んだ。



 自分の部屋に戻ると、アルさんから聞いた話、それからアルさんと別れの部屋の先を覗きに地下洞窟に入ったことを手紙に正直に書いた。

 下手なウソをついても、エステルちゃんには直ぐにバレちゃうからさ。どうしてだろ。


 こちらから通れない半透明の壁で、通路が塞がれていたことまでは書いたが、よこしまな闇の力や、邪神、悪神のせいかもといったことまでは書かないでおいた。

 これは確証が無いし、必要以上にエステルちゃんが心配するからね。


 最後に、次の休日にまた詳しく話をするよと書いて、クロウちゃんの袋に入れる。

 ご苦労だけど、届けてください。カァカァ。ああ、甘露のチカラ水ね。


 とりあえず俺が保管して、休日に屋敷で出せばいいでしょ。カァ。え? 今少し飲むのね。

 インベントリから出した革袋の口をこぼさないように慎重に開け、クロウちゃん用の深皿に入れてあげると、それを美味しそうに飲んでからクロウちゃんは帰って行った。



 それにしても、知れば知るほど、調べれば調べるほど、だんだん難しい事態であることが分かって来るよね。

 学院長たちには何を話すべきか、俺やレイヴンはこれからどうすべきか、いろいろ整理すべきことがある。

 そんなことを考えながらベッドに入った俺は、少々疲れたせいかぐっすりと眠りに入った。



 翌朝、いつものように朝の早駈けの支度をしていると、今朝もクロウちゃんがエステルちゃん朝食弁当を届けに来てくれた。


「カァカァ」

「ああ、お手紙もあるんだね。どれどれ」


 お弁当に添えられていたエステルちゃんからの手紙には、「案の定です。これは充分にお説教案件ですが、アルさんが一緒なら危険はなかったでしょう。とても大きなアルさんが、どうやってあの中に入れたかは不思議ですけど。事情や様子は分かりましたし、正直にお話しされたので、お説教は保留にしておきます。でも、保留のお説教、増えて行きますよね。どこかで精算しないとね」と、書いてあった。


 どこかで精算って、ちょっと怖いんですけど。カァ。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

よろしかったら、この物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

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