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第189話 アルさん、学院に現れる

 その翌日、俺は普段通りの学院生活を過ごして、夕食後はちょっと勉強したいからと早めに寮の部屋に引揚げた。


「自室で勉強とか、ザックくん何かたくらんでる?」

「昨日は、学院長に呼び出されてますし、怪しい、です」

「いやいや、自室で勉強するとたくらむって思われるとか、それおかしいでしょ」

「ザックくんの場合は、おかしくない」「です」「よね」


 女の子って、妙に勘が働くのは何でなんだろうね。

 別に魔法を使ってる訳じゃないのに。固有能力かな。

 あ、ライとブルクくんはまだダベってていいよ。



 いったん寮の部屋に戻った俺は、念のため姿隠しの魔法を自分にかけて外に出る。なぜか真っ黒のフル装備ですが、気にしないでください。


 そして学院内を疾走し、森へと向かう。

『学院長の許可無く立ち入りを禁じる』の立て札が立つ辺りで速度を緩めると、クロウちゃんから通信が来た。

 あと少しで到着予定ね。予定の場所で待つ旨を返す。


 地下洞窟への入口の裂け目がある大岩の前に着くと、そこから念のため内部を探査する。

 何も反応は無いようだ。3つの広間にアンデッドがリスポーンはしてないな、って、先日倒したアンデッドは再びスポーンするものだろうか。


 大岩の裏側にある開けた場所に向かいながら、そんなことを考えていると、空から巨大な存在感が近づいて来た。

 雲ひとつない夜空には満天に星が広がり、斜め方向にはこの世界の大きな月、そして反対方向には小さな月と、ふたつの月が輝いているだけだ。


 しかしその夜空に不意に黒雲が湧き出し、やがて空間に溶け込むように目立たず地上へと下りて来る。

 そして地上に下りて霧状になったそれが徐々に晴れてくると、巨大なブラックドラゴンのアルさんの姿が浮かび上がった。

 ところでクロウちゃんは? アルさんの背中に乗ってるのか。



「(アルさん、この前振り。呼び出して悪かったね)」


 アルさんが実際の声で話すとかなりの音量が響くので、ここは念話での会話だ。

 会うのは、このドラゴンが入学式の時にいきなり現れて以来だね。


「(先日会ったばかりではなかったかの。いや、も少し前か。ええぞ、ええぞ、ザックさまが呼べば、わしはいつでも来るて)」

「(あの時は、あまり話が出来なくて悪かったよね。入学式の真っ最中だったからさ)」


 ホント、アルさんというか、ドラゴンが皆そうなのか分からないけど、時間や日にちの感覚が違うんだよね。

 特にこのドラゴン、時間操作の魔法も使うから余計にそうなんだ。



「(いや、今日来て貰ったのは、アルさんに聞きたいことがあって)」

「(ん、なんじゃ。話してみなされ。わしが知ってることなら、何でも教えるぞい)」


 それから俺は、グリフィニアからサンダーソードの面々が訪れたところから、つい昨日のオイリ学院長とイラリ先生のエルフコンビとの話し合いまでを、アルさんに話した。

「(ほいほい)」とか「(ふむふむ)」とか「(ほほう)」とか、軽い相づちを挟みながらも熱心に聞いてくれる。


「(と言うことがあったんだけど、その地下洞窟のことで、アルさんが何か知ってるんじゃないかと思って)」

「(ふーむ、そうじゃのう。ここの地下にアンデッドがのう。地下の墓所とのう)」


 これはやっぱりダメかなあ。アルさんにとって800年なんて、ほんの少し前のことだろうし、引きこもり気味のドラゴンにはあまり関心ないよなー。


「(わし、引きこもりと違うぞ)」


 あ、思念が少し洩れてましたか。すみません。



「(いや、この国の建国戦争だか、その人族の争いは憶えておる。それにその中心にいた、なんとかって者のこともの。なにせその者は、ニュムペさんとこの精霊の娘の息子じゃったし)」


 お、それ知ってますか。さすがアルさんです。やはり年長者には敵わない。


「(そうですそうです、それです。やはりそうか。この国の王家は、水の精霊の血を引いているんだ)」

「(そうなるの。尤も素性も分からぬ、おそらく当時の冒険者のような生業なりわいの人族の男と、下級精霊とのハーフじゃが)」

「(そこまで知ってるんだね)」

「(後で、ニュムペさんに聞いたからの。主に、あの人の愚痴じゃったが)」


「(愚痴?)」

「(そうじゃ、愚痴。おお、憶い出したですぞ。その時、ニュムペさんが言うには、なんでもその下級精霊の息子が無茶をして、敵対する人族の一族を皆殺しにしてしまって、その大量のむくろを葬るために急ぎ大きな墓所を造ったのじゃが、急いで造りたいと母の精霊に頼み込んで、大勢の下級精霊を巻き込んだそうなんじゃよ)」


「(それでニュムペさんがとても困っていたのは、自分に黙って精霊たちが直接、地上の大量の死者に関わったことで、精霊どもの清浄さが損なわれて、自分が治める妖精の森が維持出来なくなりそうとか、そんなことじゃったな)」

「(やっぱり、そうだったんだ)」


 アルさんが言うニュムペさんとは、この地、正確には現在のフォレスト公爵家の領地にあったとされる妖精の森のあるじ、水の精霊のニュムペ様だ。

 アルさんは知り合いだったんだね。



「(やはりそれで、この地の妖精の森は無くなったって訳か)」

「(お、ニュムペさんとこの森、なくなったのかの、ザックさま)」

「(どうやら、そうみたいだよ。いつ無くなったかまでは知らないけど、僕がエステルちゃんの家の言い伝えで聞いた話も、そんな理由だった)」

「(シルフェーダ家の伝承かの。エステルちゃんとこはシルフェさんの直系じゃから、たぶん正しいじゃろ)」


「(アルさんは、シルフェ様とも知り合い?)」

「(おお、随分と会ってないがの。あの人はいいお方じゃ。そうじゃの、そう言えばシルフェさん、見た目はエステルちゃんにそっくりじゃのう)」

「(へぇー、そうなんだね)」


「(エステルちゃんと仲良くさせてもろうておるから、シルフェさんと久し振りに会って、お礼を言っとかんといかんな)」

「(僕もシルフェ様と会えるかな?)」

「(そりゃ、ザックさまなら問題なかろう。と言うか、ザックさまに会いに行けと、シルフェさんにわしから言っておくわい)」


 いや、そんな恐れ多い。会えるなら、こちらから行きますよ、エステルちゃんとふたりで。



「(それで話を戻すけど、地下洞窟と言うか、その地下墓所については、アルさんは何か憶い出さないかな。どんな造りになってるとか、スケルトンやレヴァナントが出るんだけど、強いやつがいるのかとか)」


「(むー、そうじゃなあ。わしはその地下墓所だかの話を、ニュムペさんから聞いただけじゃから。じゃがザックさまは、その、人族が言うレヴァナントナイトまでは倒したんじゃろ?)」

「(うん、この前はナイトは1体だけだったけど)」


「(ナイトにせよジェネラルにせよ、所詮、元が人族のアンデッドじゃから、ザックさまの相手にはならんじゃろ。量が多いのなら、一発どデカい爆発魔法とかをぶちこめばエエんじゃないかの? メテオを何発も撃ち込んで、燃やしながら埋めてしまうでも良いかも)」

「(いやいやいや)」


 いちおうこの学院の地下ですから。何かの拍子で地盤が崩れるとか、爆発が地上に吹き出すとかすると、俺、学院を退学になりますから。

 それにおそらくヴィンス父さんに、当面グリフィニアを出るなって言われることになりますから。



「(僕としては、なぜ今、アンデッドの活動が活発になったのか。それから、800年前に殺されたマルカルサスって部族王が親玉でいると思うのだけど、こいつがどんなアンデッドになってるのか、確かめたいんだよね。それに先日行った先の様子が探索出来なくて、何かに邪魔されているってのも気になるんだ)」


「(なるほどのう。アンデッドの親玉かの。アンデッドの活動が急に活発になるには、よからぬ力が影響している場合があるからの。それにザックさまの探索を邪魔しておるのか……。よし、分かりましたぞ)」


「(え、何が?)」

「(今から見に行きましょうぞ)」


「(えーっ)」「(カァ)」



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

よろしかったら、この物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

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